竜王に嫁いだら、推しの半竜皇子の継母になりました〜冷酷な夫には興味ありませんが、闇落ち予定の皇子は私が全力で幸せにします!〜

せりもも

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19 迎えに来た乳母子

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 セティがなぜ、こんなに怒り狂うのか、わたしにはわけがわからない。

「だって、それがわたしの務めでしょ。メレンクールが国としての存続を許され、ロシュフォイユに占領されない為に、わたしはこの国に嫁いできたんだから」
「だから、君はどうなるって聞いてるんだ。自分を犠牲にして満足なのか?」
「そんな言い方ってないでしょ。国に尽くすのは、王女として当然の務めだもん」

「本当にそう思っているのか?」
改まった口調だった。
「あんな王室の為に……」

 父と、若い義母と、異母妹。

「メレンクールの王室を悪く言うことは許さないわ」
 きっぱりとわたしは言い放った。家族としては問題があっても、彼らはメレンクールを守る立場だ。国を守る者を悪く言ったらいけない。

「悪かった。謝るよ」
意外と素直にセティが頭を下げたので、驚いた。
「セティ。貴方、成長したのね。昔は、頑として自分の言いたいことを曲げなかったじゃない」
「俺をいったい何歳だと思ってるんだ? 君より年上だぞ?」
「数ヶ月ね」

「これだから幼馴染は!」
 口の中でなにやらぶつぶつつぶやいた後、改めてセティは口を開いた。
「本当はもっと早く潜入したかった。けど、年老いた竜が守っていて、どうしても中に入れなかったんだ。今朝、やっと結界の一部が綻びて、城内に入れた」

 ワッツァを迎えに皇都コンディエンヌ城へ向かった際、わたしの勢いに恐れをなして、マティルドは慌てていたのだろう。それで、結界をひっかけてしまったに違いない。

「今、ロシュフォイユに対抗するために、周辺の国々が同盟を結びつつある」
セティは言った。改まった口調だった。
「同盟ですって?」
「プロセシア王国とブリテール王国が中心となって。この二ヶ国は、先の大戦で、竜達に叩かれていないからな。まだ十分な戦力がある。他に、ツェルニー公国やバーデル公国、北の大国キエルーシ帝国も加盟した」

 驚いた。
 ほぼ大陸全ての国々が、竜の帝国ロシュフォイユに対抗して同盟を結んだといっていい。

「だから、今のうちに、君もこの国を抜け出すんだ」
「人間の国が同盟を結んで、ロシュフォイユに対抗する? そんなにうまくいくかしら」

 だって、竜の攻撃に対し、メレンクールはなす術もなかった。

「やってみなくちゃわからないだろ。同盟国はロシュフォイユに対し、本土攻撃を行う構えだ。その前に、ここから君を逃がす」
「ダメよ。だってバートラフがいる」
 熱で赤くなった顔が思い出された。
「大変。早くお白湯を貰って、バートラフのところへ戻らなくちゃ。あなたもロシュフォイユから外へ出るのよ、セティ」
 セティの目が暗く光った。
「バートラフ? 皇帝ワッツァの息子だな。出来損ないと評判の」

 出来損ない? 父や義母の悪口を言うのはまだ許せるけど、これはダメだ。

「ちょっと、セティ。いくらあなたでも、彼のことを悪く言ったら殺すわよ」
 渾身の抗議を、セティはまるっと無視した。
「あの年寄りは、周到な竜だ。綻びた結界はじきに自動で修復されるだろう。時間がない。行くぞ」
「行くって、どこへ?」
「メレンクールへ帰るんだよ。言ったろ」
当然のことのように、セティは言い放った。

 つまり、セティはわたしを迎えに来たってこと?

「もしかして、」
 一抹の希望が湧いた。
「もしかして、お父様があなたを寄越したの?」
「違うよ。馬鹿だな」
 あっさりセティは否定した。
「あの王が、君のことを気に掛けるわけがないだろ。後妻と彼女が産んだ娘にメロメロなんだから。メレンクールはもうダメだ。王のアタマには、自分たちの生活を維持することしかない」
「なにもそこまで言わなくてもいいでしょ。父上もお辛いのよ。わかった。アーヤに頼まれたのね」

 母が死んで、宮廷で冷遇されていたわたしに、乳母のアーヤだけが優しかった。
 優しいだけではなく、いたずらをすると、厳しく罰せられたものだ。彼女は、まるで本当の母親のように、わたしに接してくれた。
 セティは昔から、母親に頭が上がらない。彼は、母親に命じられて、わたしを迎えに来たに違いない。

 図星を刺されたからだろう、セティは地団駄踏んだ。
「どうだっていいだろ、そんなことは! 一刻を争うんだ。年寄り竜が返ってくる前に、ここから出なければ」

「ダメよ。バートラフはどうなるの?」
 高熱を発し、たったひとりで苦しんでいるバートラフ。
 父親は薄情だし、叔父は諸悪の根源だ。宮殿のメイドたちも、親身になってくれない。
「彼を一人にはできないわ!」

「バカか君は!」
セティは激昂した。
「出来損ないの半竜の為に、自分を犠牲にするっていうのか? あれは、皇帝ワッツァの息子じゃないか。君が心配しなくても、死にゃしないさ。竜は頑丈だからな。いずれ凶悪な父親のように、野放図な暴れ竜になるに決まってる。だから俺と一緒に……」

「ほほう。凶悪な暴れ竜ね」
冷酷な声が響いた。

「!」

 そこには、まさにその、皇帝ワッツァが立っていた。



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