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34 通過儀礼1
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検定は、山々に囲まれた盆地で行われた。
大勢の竜人たちが集まり、山の上から見物している。今回は、竜の姿での見物は禁止されている。
バートラフが是非にと頼んだという。
わたしとヨハンナの為に。
わたしたちには、山の上の塔に、観覧席が設けられていた。
皇帝ワッツァは同席していない。彼は、雲の上に設けられた玉座に座っている。
息詰まるような緊張感の中、バートラフの魔力判定が始まった。
もちろん、なんの心配もいらなかった。
彼は見事に大風を起こし、辺りの木々を薙ぎ払った。
そしてまた、滝のような雨を降らせて、野原全体を沼と化してみせた。
次いで、湖に大波を立たせ、湖岸を水浸しにした。おかげで、湖の水は空になってしまったくらいだ。
最後に、鮮やかに、彼は竜の姿に変化し、青い空を飛翔し、玉座の皇帝に礼を捧げた。
審議官は軒並み、最高点を掲げた。
盆地全体に、拍手が湧いた。
バートラフは、竜人として迎え入れられたのだ。
わたしの目に涙が浮かんだ。
どんなに彼が誇らしかったことか。
静かに大地に降り立ち、バートラフは人の姿に戻った。
金の袍を掲げた女官が、しずしずと彼に近づいていく。
その時だった。
「先に通過儀礼をした方がよくはないですか? 龍袍を汚すのは好ましくありません」
審議官の一人が声を上げた。
通過儀礼?
初めて聞いた。わたしとヨハンナは顔を見合わせた。
それは、下にいるバートラフも同じようだった。怪訝そうな顔をしているのが見て取れた。
「そうだ。通過儀礼だ」
「皇子には、通過儀礼が必要だ。」
集まった竜人たちが姦しく騒ぎ始めた。
「必要ないだろう。あれは、古い習慣だ」
雲の上からワッツァの声が降ってきた。
「お言葉ですが皇帝陛下」
審議官が、上を見上げ、抗議する。
「ここに集まった竜人たちは、バートラフ殿下の通過儀礼を楽しみにしております。彼らは何度も、この楽しみを奪われてきましたから」
過去何回も、バートラフが検定にパスしなかったことを指しているのだ。
「その通り!」
「殿下には、そのくらいの義侠心があるはずだ。彼は、帝王の息子なんだからな」
「龍孫たる者、臣下をもてなさずしていかにすべきか」
地上の竜たちが口々に言い募る。
「よろしいですね、陛下」
再び、審議官が問う。
ワッツァは答えなかった。
実際、彼が許可しなければ、集まった竜人たちは、暴動を起こしかねない勢いだった。集まった竜達は、よほど「通過儀礼」を楽しみにしているらしい。
審議官の声に迷いはなかった。
「竜王の無言は肯定の証。では、これよりバートラフ殿下の成竜への通過儀礼をおこないます」
しゃっと空を裂く音がして、空中に、青紫の竜が舞い上がった。
「審議官殿。会場での竜への変化は禁止されているはずです!」
地上からバートラフが抗議する。
「いいえ、殿下。魔力測定は終わりました。これより始まる通過儀礼は、むしろ余興の時間」
泰然として審議官が受け流す。何か言おうとしたバートラフを抑え、大音声をあげた。
「姿をお見せなさい。殿下が成竜になる手伝いをした人間よ。飛び降りて、その血を殿下の上に降り注ぐのだ」
わたしとヨハンナは顔を見合わせた。
二人とも、蒼白になっていた。
バートラフが成竜になる手伝いをした人間? それは、わたしだ。わたしはワッツァから、彼の子守りに雇われたのだから。
飛び降りて? この高い塔の上から?
バートラフの上に血を降り注ぐ?
つまりこれが、竜の通過儀礼なのだ。竜を一人前に育てあげる手伝いをした人間。自分を養育した人間を殺し、全身にその血を浴びることが。
そしてそれがそのまま、見物客をもてなす余興となっている。
大勢の竜人たちが集まり、山の上から見物している。今回は、竜の姿での見物は禁止されている。
バートラフが是非にと頼んだという。
わたしとヨハンナの為に。
わたしたちには、山の上の塔に、観覧席が設けられていた。
皇帝ワッツァは同席していない。彼は、雲の上に設けられた玉座に座っている。
息詰まるような緊張感の中、バートラフの魔力判定が始まった。
もちろん、なんの心配もいらなかった。
彼は見事に大風を起こし、辺りの木々を薙ぎ払った。
そしてまた、滝のような雨を降らせて、野原全体を沼と化してみせた。
次いで、湖に大波を立たせ、湖岸を水浸しにした。おかげで、湖の水は空になってしまったくらいだ。
最後に、鮮やかに、彼は竜の姿に変化し、青い空を飛翔し、玉座の皇帝に礼を捧げた。
審議官は軒並み、最高点を掲げた。
盆地全体に、拍手が湧いた。
バートラフは、竜人として迎え入れられたのだ。
わたしの目に涙が浮かんだ。
どんなに彼が誇らしかったことか。
静かに大地に降り立ち、バートラフは人の姿に戻った。
金の袍を掲げた女官が、しずしずと彼に近づいていく。
その時だった。
「先に通過儀礼をした方がよくはないですか? 龍袍を汚すのは好ましくありません」
審議官の一人が声を上げた。
通過儀礼?
初めて聞いた。わたしとヨハンナは顔を見合わせた。
それは、下にいるバートラフも同じようだった。怪訝そうな顔をしているのが見て取れた。
「そうだ。通過儀礼だ」
「皇子には、通過儀礼が必要だ。」
集まった竜人たちが姦しく騒ぎ始めた。
「必要ないだろう。あれは、古い習慣だ」
雲の上からワッツァの声が降ってきた。
「お言葉ですが皇帝陛下」
審議官が、上を見上げ、抗議する。
「ここに集まった竜人たちは、バートラフ殿下の通過儀礼を楽しみにしております。彼らは何度も、この楽しみを奪われてきましたから」
過去何回も、バートラフが検定にパスしなかったことを指しているのだ。
「その通り!」
「殿下には、そのくらいの義侠心があるはずだ。彼は、帝王の息子なんだからな」
「龍孫たる者、臣下をもてなさずしていかにすべきか」
地上の竜たちが口々に言い募る。
「よろしいですね、陛下」
再び、審議官が問う。
ワッツァは答えなかった。
実際、彼が許可しなければ、集まった竜人たちは、暴動を起こしかねない勢いだった。集まった竜達は、よほど「通過儀礼」を楽しみにしているらしい。
審議官の声に迷いはなかった。
「竜王の無言は肯定の証。では、これよりバートラフ殿下の成竜への通過儀礼をおこないます」
しゃっと空を裂く音がして、空中に、青紫の竜が舞い上がった。
「審議官殿。会場での竜への変化は禁止されているはずです!」
地上からバートラフが抗議する。
「いいえ、殿下。魔力測定は終わりました。これより始まる通過儀礼は、むしろ余興の時間」
泰然として審議官が受け流す。何か言おうとしたバートラフを抑え、大音声をあげた。
「姿をお見せなさい。殿下が成竜になる手伝いをした人間よ。飛び降りて、その血を殿下の上に降り注ぐのだ」
わたしとヨハンナは顔を見合わせた。
二人とも、蒼白になっていた。
バートラフが成竜になる手伝いをした人間? それは、わたしだ。わたしはワッツァから、彼の子守りに雇われたのだから。
飛び降りて? この高い塔の上から?
バートラフの上に血を降り注ぐ?
つまりこれが、竜の通過儀礼なのだ。竜を一人前に育てあげる手伝いをした人間。自分を養育した人間を殺し、全身にその血を浴びることが。
そしてそれがそのまま、見物客をもてなす余興となっている。
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