【完結】竜王に嫁いだら、推しの半竜皇子の継母になりました〜冷酷な夫には興味ありませんが、闇落ち予定の皇子は私が全力で幸せにします!〜

せりもも

文字の大きさ
41 / 70

41 イリヤ公国の隻眼の青年

しおりを挟む
 セティを牢から出したバートラフの意図が何だったのか、なぜ、父が捕らえた囚人を脱獄させたのか。それは、聖女にもわからない。

 その後、セティは聖女と出会い、レムリカ大陸を救うために、行動を共にしている。


 なおもセティが、休養を勧めている。
「幸いこのすぐ近くに、俺の故郷があります。母はまだ健在だから、きっとなにくれとなく世話を焼いてくれるでしょう」

 しかし聖女は、首を横に振る。苦しんでいる人がいるのに、呑気に休んでなどいられない。

「救わなければならない人々は、まだ大勢います」
「今ここで、貴女が倒れてしまったら、元も子もありません」
「でも……」
「そうですとも、聖女。少し、休まれるべきです」

 傍らから魔術師が口を出す。セティが大きく頷いた。

「我々はもっと、大局に目を向けなければ。貴女には、作戦がおありなんでしょう? それを実現するためには、よく休んで頭をクリアにしておかなければなりません。俺の村へおいで下さい。よろしいですね、聖女」

 強引だが、魅力的な申し出だった。随分長いこと、休みを取っていない。それに、中に泥を詰め込んだようなこの頭では、複雑な思考や立案は不可能だ。

 わずかに微笑みを浮かべ、聖女は頷いた。




 レゼルネ村は、活気に満ちていた。
 長らく村を出ていた青年、セティが帰ってきたのだ。

 しかも彼は、聖女の一行と一緒だった。セティは、騎士の一人として、聖女に付き従っていた。

 白魔法の使い手である聖女アンジェリカは、清らかであるばかりか、輝くような美しさだった。彼女に従う騎士、魔術師、そして公子たちもまた美々しく、そして闊達で朗らかだった。

 聖女一行は、セティの母アーヤの家に宿泊することになった。この人数を収容できる場所は、そこしかなかったからだ。王女デジレの乳母だったアーヤの家は、そこそこの大きさがあった。

 「おや? あの青年は?」

 一番後ろから庭に入ってきた、まだ少年のような騎士を見て、アーヤは首を傾げた。彼は、隻眼だった。右目に黒い眼帯をしている。

 似ていると思った。この家に霊薬ロンウェイユを持ってきたあの青年に。
 あの子も隻眼だった。貴重な薬を持ってきたのに、代価を受け取ることもせず、気がついたら姿を消していた。

「ちょっと、」
アーヤは彼を呼び止めた。

 ……やっぱり違う。

 同じくらいの背の高さだけど、あの子は水色の髪に灰色の瞳だった。けれど、この青年は、眼も髪も、漆黒だ。あの子は、優しく内気そうで、必死の表情していたけれど、こちらは頬がこけ、どこかふてぶてしい。

 青年は怪訝そうに左の眉を上げた。

「何か?」
「いいえ。人違いのようだわ」
「そうですか」
「あなた、名前はなんて?」

「おおい、バーサプロン!」
向こうからセティが名を呼ぶ。

「バーサプロンっていうのかい、あんたは」

 アーヤは問うた。
 そういえば、薬売りのあの子の名は聞いていなかったと、今更ながらに思い当たった。

「ジョス・バーサプロンです。イリヤ公国から参りました」
「イリヤ……海があるあの国かい?」
「ええ」

 イリヤは、半島の公国だ。基本、メレンクールから出たことがないアーヤは、海を見たことがない。
「それはまた、遠くから」

 そこへ、しびれを切らしたセティがやってきた。

「母さん、ダメじゃないか。いくらイケメンだからって、彼を通せんぼしたら」

「通せんぼなんか!」
アーヤは憤った。
「それよりセティ、全く音沙汰ないと思っていたら、連絡もなしに、いきなりこんなに高貴な方々をお連れして! おかげで村中、大騒ぎで、」

「突然の来訪、申し訳ありません。コンディエンヌへ向かう途中、どうしてもここで夜を明かさねばならなかったものですから」

 聖女がやってきて丁寧に頭を下げる。アーヤは恐縮した。

「いいえ、そんな。お迎え出来て恐縮です。何もない村ですが、どうかごゆっくりおくつろぎください」

「母さん、俺に対するのとは、えらい違いだな」

 サティが揶揄すると、聖女がくすりと笑った。
 アーヤは息子には相変わらず不機嫌だ。

「だって、お前! デジレ様がどんなにお前に会いたがっていたことか!」

「デジレ様!?」
 ジョスと呼ばれた青年の黒い瞳が光った。
「ご病気は全快されたと聞きました。あの方は、今……?」

 アーヤは、がっくりと頽れた。
「さらわれちまったんだよ。ワッツァのくそ野郎に!」




しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

婚約破棄された元聖女、魔王の息子に攫われて溺愛されています

百合川八千花
恋愛
魔王を討伐し、十年にわたる戦いを終えた聖女アルティア。 帰還した王国で待っていたのは、王太子からの婚約破棄と――その子供だった。 絶望の中、現れたのはかつて共に戦った魔王の息子、ヴェルグ。 「君はもう自由だ。だったら僕が攫うよ」 突然の求婚(という名の略奪)と共に、アルティアは隣国・アシュフォード帝国へ連れ去られる。 辺境伯となったヴェルグの領地で始まるのは、 「君のために用意してた」 と語られる豪華すぎる“同棲部屋”、 壁一面に飾られた聖女の肖像画コレクション、 そして、「僕のもの」発言が止まらない溺愛×執着ラブ生活! しかしその頃、聖女を失った王国では、魔王の呪いによる異変が始まっていて―― これは、運命に選ばれ続けた聖女と、ただ彼女だけを愛した元魔王の息子の、 甘くて狂おしい、世界と愛の再構築ラブファンタジー。

【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

天咲リンネ
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。 しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。 契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。 亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。 たとえ問題が起きても解決します! だって私、四大精霊を従える大聖女なので! 気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。 そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

氷の魔術師(引きこもり)のはずなのに、溺愛されても困ります。

入海月子
恋愛
「もう、なんですぐ石になるのよ〜!」 没落貴族のサナリは突然、天才だけど人嫌いの魔術師シーファから世話係に指名された。面識もないのにと疑問に思うが、騙し取られた領地を取り戻すために引き受けることにする。 シーファは美形。でも、笑顔を見たことがないと言われるほどクール……なはずなのに、なぜかサナリには蕩ける笑みを見せる。 そのくせ、演習に出てくださいとお願いすると「やだ」と石(リアル)になって動かない。 なんでよ!?

3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」 最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!? ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...