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41 イリヤ公国の隻眼の青年
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セティを牢から出したバートラフの意図が何だったのか、なぜ、父が捕らえた囚人を脱獄させたのか。それは、聖女にもわからない。
その後、セティは聖女と出会い、レムリカ大陸を救うために、行動を共にしている。
なおもセティが、休養を勧めている。
「幸いこのすぐ近くに、俺の故郷があります。母はまだ健在だから、きっとなにくれとなく世話を焼いてくれるでしょう」
しかし聖女は、首を横に振る。苦しんでいる人がいるのに、呑気に休んでなどいられない。
「救わなければならない人々は、まだ大勢います」
「今ここで、貴女が倒れてしまったら、元も子もありません」
「でも……」
「そうですとも、聖女。少し、休まれるべきです」
傍らから魔術師が口を出す。セティが大きく頷いた。
「我々はもっと、大局に目を向けなければ。貴女には、作戦がおありなんでしょう? それを実現するためには、よく休んで頭をクリアにしておかなければなりません。俺の村へおいで下さい。よろしいですね、聖女」
強引だが、魅力的な申し出だった。随分長いこと、休みを取っていない。それに、中に泥を詰め込んだようなこの頭では、複雑な思考や立案は不可能だ。
わずかに微笑みを浮かべ、聖女は頷いた。
レゼルネ村は、活気に満ちていた。
長らく村を出ていた青年、セティが帰ってきたのだ。
しかも彼は、聖女の一行と一緒だった。セティは、騎士の一人として、聖女に付き従っていた。
白魔法の使い手である聖女アンジェリカは、清らかであるばかりか、輝くような美しさだった。彼女に従う騎士、魔術師、そして公子たちもまた美々しく、そして闊達で朗らかだった。
聖女一行は、セティの母アーヤの家に宿泊することになった。この人数を収容できる場所は、そこしかなかったからだ。王女デジレの乳母だったアーヤの家は、そこそこの大きさがあった。
「おや? あの青年は?」
一番後ろから庭に入ってきた、まだ少年のような騎士を見て、アーヤは首を傾げた。彼は、隻眼だった。右目に黒い眼帯をしている。
似ていると思った。この家に霊薬ロンウェイユを持ってきたあの青年に。
あの子も隻眼だった。貴重な薬を持ってきたのに、代価を受け取ることもせず、気がついたら姿を消していた。
「ちょっと、」
アーヤは彼を呼び止めた。
……やっぱり違う。
同じくらいの背の高さだけど、あの子は水色の髪に灰色の瞳だった。けれど、この青年は、眼も髪も、漆黒だ。あの子は、優しく内気そうで、必死の表情していたけれど、こちらは頬がこけ、どこかふてぶてしい。
青年は怪訝そうに左の眉を上げた。
「何か?」
「いいえ。人違いのようだわ」
「そうですか」
「あなた、名前はなんて?」
「おおい、バーサプロン!」
向こうからセティが名を呼ぶ。
「バーサプロンっていうのかい、あんたは」
アーヤは問うた。
そういえば、薬売りのあの子の名は聞いていなかったと、今更ながらに思い当たった。
「ジョス・バーサプロンです。イリヤ公国から参りました」
「イリヤ……海があるあの国かい?」
「ええ」
イリヤは、半島の公国だ。基本、メレンクールから出たことがないアーヤは、海を見たことがない。
「それはまた、遠くから」
そこへ、しびれを切らしたセティがやってきた。
「母さん、ダメじゃないか。いくらイケメンだからって、彼を通せんぼしたら」
「通せんぼなんか!」
アーヤは憤った。
「それよりセティ、全く音沙汰ないと思っていたら、連絡もなしに、いきなりこんなに高貴な方々をお連れして! おかげで村中、大騒ぎで、」
「突然の来訪、申し訳ありません。コンディエンヌへ向かう途中、どうしてもここで夜を明かさねばならなかったものですから」
聖女がやってきて丁寧に頭を下げる。アーヤは恐縮した。
「いいえ、そんな。お迎え出来て恐縮です。何もない村ですが、どうかごゆっくりおくつろぎください」
「母さん、俺に対するのとは、えらい違いだな」
サティが揶揄すると、聖女がくすりと笑った。
アーヤは息子には相変わらず不機嫌だ。
「だって、お前! デジレ様がどんなにお前に会いたがっていたことか!」
「デジレ様!?」
ジョスと呼ばれた青年の黒い瞳が光った。
「ご病気は全快されたと聞きました。あの方は、今……?」
アーヤは、がっくりと頽れた。
「さらわれちまったんだよ。ワッツァのくそ野郎に!」
その後、セティは聖女と出会い、レムリカ大陸を救うために、行動を共にしている。
なおもセティが、休養を勧めている。
「幸いこのすぐ近くに、俺の故郷があります。母はまだ健在だから、きっとなにくれとなく世話を焼いてくれるでしょう」
しかし聖女は、首を横に振る。苦しんでいる人がいるのに、呑気に休んでなどいられない。
「救わなければならない人々は、まだ大勢います」
「今ここで、貴女が倒れてしまったら、元も子もありません」
「でも……」
「そうですとも、聖女。少し、休まれるべきです」
傍らから魔術師が口を出す。セティが大きく頷いた。
「我々はもっと、大局に目を向けなければ。貴女には、作戦がおありなんでしょう? それを実現するためには、よく休んで頭をクリアにしておかなければなりません。俺の村へおいで下さい。よろしいですね、聖女」
強引だが、魅力的な申し出だった。随分長いこと、休みを取っていない。それに、中に泥を詰め込んだようなこの頭では、複雑な思考や立案は不可能だ。
わずかに微笑みを浮かべ、聖女は頷いた。
レゼルネ村は、活気に満ちていた。
長らく村を出ていた青年、セティが帰ってきたのだ。
しかも彼は、聖女の一行と一緒だった。セティは、騎士の一人として、聖女に付き従っていた。
白魔法の使い手である聖女アンジェリカは、清らかであるばかりか、輝くような美しさだった。彼女に従う騎士、魔術師、そして公子たちもまた美々しく、そして闊達で朗らかだった。
聖女一行は、セティの母アーヤの家に宿泊することになった。この人数を収容できる場所は、そこしかなかったからだ。王女デジレの乳母だったアーヤの家は、そこそこの大きさがあった。
「おや? あの青年は?」
一番後ろから庭に入ってきた、まだ少年のような騎士を見て、アーヤは首を傾げた。彼は、隻眼だった。右目に黒い眼帯をしている。
似ていると思った。この家に霊薬ロンウェイユを持ってきたあの青年に。
あの子も隻眼だった。貴重な薬を持ってきたのに、代価を受け取ることもせず、気がついたら姿を消していた。
「ちょっと、」
アーヤは彼を呼び止めた。
……やっぱり違う。
同じくらいの背の高さだけど、あの子は水色の髪に灰色の瞳だった。けれど、この青年は、眼も髪も、漆黒だ。あの子は、優しく内気そうで、必死の表情していたけれど、こちらは頬がこけ、どこかふてぶてしい。
青年は怪訝そうに左の眉を上げた。
「何か?」
「いいえ。人違いのようだわ」
「そうですか」
「あなた、名前はなんて?」
「おおい、バーサプロン!」
向こうからセティが名を呼ぶ。
「バーサプロンっていうのかい、あんたは」
アーヤは問うた。
そういえば、薬売りのあの子の名は聞いていなかったと、今更ながらに思い当たった。
「ジョス・バーサプロンです。イリヤ公国から参りました」
「イリヤ……海があるあの国かい?」
「ええ」
イリヤは、半島の公国だ。基本、メレンクールから出たことがないアーヤは、海を見たことがない。
「それはまた、遠くから」
そこへ、しびれを切らしたセティがやってきた。
「母さん、ダメじゃないか。いくらイケメンだからって、彼を通せんぼしたら」
「通せんぼなんか!」
アーヤは憤った。
「それよりセティ、全く音沙汰ないと思っていたら、連絡もなしに、いきなりこんなに高貴な方々をお連れして! おかげで村中、大騒ぎで、」
「突然の来訪、申し訳ありません。コンディエンヌへ向かう途中、どうしてもここで夜を明かさねばならなかったものですから」
聖女がやってきて丁寧に頭を下げる。アーヤは恐縮した。
「いいえ、そんな。お迎え出来て恐縮です。何もない村ですが、どうかごゆっくりおくつろぎください」
「母さん、俺に対するのとは、えらい違いだな」
サティが揶揄すると、聖女がくすりと笑った。
アーヤは息子には相変わらず不機嫌だ。
「だって、お前! デジレ様がどんなにお前に会いたがっていたことか!」
「デジレ様!?」
ジョスと呼ばれた青年の黒い瞳が光った。
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