【完結】竜王に嫁いだら、推しの半竜皇子の継母になりました〜冷酷な夫には興味ありませんが、闇落ち予定の皇子は私が全力で幸せにします!〜

せりもも

文字の大きさ
40 / 70

40 聖女アンジェリカ

しおりを挟む
 人間が暮らす大地の上には、テリトワル・デュ・ドラゴンと呼ばれる巨大な島が浮いている。

 引力の違いで大地とは違った速度で動くその島は、数百年に一度、レムリカ大陸の上空に現れると言われている。今回も、もう間もなく大陸の上空に到達しようとしていた。

 空に浮かぶこの島が、竜たちの発祥の地だ。

 遥か昔、竜は、テリトワルの中でおとなしく暮らしていた。たまに人間の居住区近くまで飛んできたとしても、決して地上に着地することはなかった。

 ところが200年ほど前、皇帝ワッツァに率いられた竜が、次々とレムリカ大陸に舞い降りた。当時メレンクール王国の西には険しい山脈があったが、彼らは次々と山々に体当たりし、切り崩した。

 こうしてできた台地に建国されたのが、ロシュフォイユ帝国だ。




 「もう大丈夫」
 横たわった老人の手を放し、聖女アンジェリカは額の汗をぬぐった。

「聖女! こちらへ!」

 呼ばれた先には、瀕死の女の子がぐったりと横たわっていた。呼吸が浅い。
 走り寄り、全力で気を送る。

 無言の時が流れた。
 女の子の右指がぴくりと動いた。

「よかった! ありがとうございます、聖女様!」
 傍らで泣いていた母親が叫び、娘の体を抱きしめた。



 人間と竜の戦争は、悲惨な結末を迎えようとしていた。

 首筋の鱗を、同盟軍は狙った。集中して狙い、矢を放ち、槍で突いた。

 ところが、鱗に触れられた竜は怒り狂い、一層凶暴になった。怒りは、個体の限界を超えた魔力を発動させた。
 各国連合軍は、壊滅寸前に追い込まれた。

 ……嘘を教えたのは誰だ?

 竜の国と親しく付き合いのあるのは(陰でロシュフォイユを裏切り人間の国々と同盟を結んでいたが)、メレンクールだけだ。なにしろ、国王の娘がロシュフォイユの皇帝に嫁いでいるのだから。それに、メレンクールの騎士団は、積極的に鱗を狙って戦線を展開してきた。

 ロシュフォイユ帝国に嫁いだデジレ王女は、死にかけているという。彼女には、わが身を犠牲に暴君に嫁ぎ、大陸の国々を護った功績がある。

 裏切りの罪が問われたのは、メレンクールの国王夫妻と一人残っていたロゼッタ王女だった。ロシュフォイユとの縁を完全に切らずに、どっちつかずの蝙蝠状態だったのも、悪い印象を与えた。王族3人は捕らえられ、戦争裁判にかけられることになった。

 今現在、メレンクールには統治する王族がいない。

 地上の被害は甚大だった。レムリカ大陸の大部分、特に都市部は竜の瘴気に満ち、レゼルネ村のような高地にある寒村だけが、かろうじて瘴気から免れていた。

 ロシュフォイユ皇帝ワッツァは、勝利を目前にしていた。



 「聖女、お願いです。妹が!」
 向こうでアンジェリカを呼ぶ声がする。

 魔力には膨大な体力が必要だ。目がかすみ、足がもつれる。それでも、泣きそうな声に応え、ふらつきつつも聖女アンジェリカは、瀕死の患者の元へ向かう。


 「聖女。少し休みを取られたらどうですか?」
瘴気を吸い込んだ村の人々の治療がようやくひと段落した頃、聖騎士団の騎士、セティが提案した。

 セティ、セティウス・バーモント。メレンクールの王女デジレと同じ乳で育った彼は、彼女とは兄妹ともいえる間柄だという。デジレがロシュフォイユ皇帝ワッツァの妻に選定されると、身の危険も顧みず、彼女の救出に向かった。

 しかし無謀な計画はすぐに破綻し、彼は離宮の地下牢に囚われてしまった。

 彼がどうやって、地下牢から脱獄できたのか、誰も知らない。それが、セティの存在を一層、神秘的にしていた。

 でも、聖女は知っている。セティ自ら打ち明けてくれたのだ。彼を牢から解放したのは、バートラフ。皇帝ワッツァの王子だ。




しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

婚約破棄された元聖女、魔王の息子に攫われて溺愛されています

百合川八千花
恋愛
魔王を討伐し、十年にわたる戦いを終えた聖女アルティア。 帰還した王国で待っていたのは、王太子からの婚約破棄と――その子供だった。 絶望の中、現れたのはかつて共に戦った魔王の息子、ヴェルグ。 「君はもう自由だ。だったら僕が攫うよ」 突然の求婚(という名の略奪)と共に、アルティアは隣国・アシュフォード帝国へ連れ去られる。 辺境伯となったヴェルグの領地で始まるのは、 「君のために用意してた」 と語られる豪華すぎる“同棲部屋”、 壁一面に飾られた聖女の肖像画コレクション、 そして、「僕のもの」発言が止まらない溺愛×執着ラブ生活! しかしその頃、聖女を失った王国では、魔王の呪いによる異変が始まっていて―― これは、運命に選ばれ続けた聖女と、ただ彼女だけを愛した元魔王の息子の、 甘くて狂おしい、世界と愛の再構築ラブファンタジー。

【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

天咲リンネ
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。 しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。 契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。 亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。 たとえ問題が起きても解決します! だって私、四大精霊を従える大聖女なので! 気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。 そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

氷の魔術師(引きこもり)のはずなのに、溺愛されても困ります。

入海月子
恋愛
「もう、なんですぐ石になるのよ〜!」 没落貴族のサナリは突然、天才だけど人嫌いの魔術師シーファから世話係に指名された。面識もないのにと疑問に思うが、騙し取られた領地を取り戻すために引き受けることにする。 シーファは美形。でも、笑顔を見たことがないと言われるほどクール……なはずなのに、なぜかサナリには蕩ける笑みを見せる。 そのくせ、演習に出てくださいとお願いすると「やだ」と石(リアル)になって動かない。 なんでよ!?

3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」 最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!? ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...