【完結】竜王に嫁いだら、推しの半竜皇子の継母になりました〜冷酷な夫には興味ありませんが、闇落ち予定の皇子は私が全力で幸せにします!〜

せりもも

文字の大きさ
39 / 70

39 ロンウェイユ

しおりを挟む


 メレンクール王国の山間の里、レゼルネ村の簡素な館の前に、大勢の物売りが集まっていた。
 ここは、王女デジレがその生涯の最期の日々を送っているといわれる屋敷だ。

 メレンクールにおいて、デジレ王女は、さほど重要な人物ではなかった。むしろ、王や王妃に疎まれた偏屈な姫だという噂だった。だから、隣国へ嫁がされたのだ。

 けれど、その彼女の元に、プロセシアやブリテールなど、諸外国の要人が次々と訪れるのを見て、人々の認識は変わった。

 なんと王女デジレは、竜人の横暴にずたずたにされたこのレムリカ大陸を救うべく、ロシュフォイユ帝国に身を捧げたのだという。

 そのデジレ王女は今、死にかけていた。ロシュフォイユで竜の瘴気を浴びすぎたのが原因だという。彼女が、身を挺して、メレンクールはじめ、大陸の人間の国々を守ろうとした証左だ。

 レゼルネ村は、貧しい村だ。その寒村で、王女は、病の身を養っている。大陸の恩人デジレ王女が。


 大勢の人が集まってきた。高名な薬師から怪しい商人まで、屋敷の前には連日、王女が健康を取り戻すのに役立つという薬草や獣の骨を持った人たちが、引きも切らずにやってきた。


 差し出されるたくさんの「薬」を巧みにかわしつつ、乳母アーヤは、館の入口へ向かっていた。

 はじめは、彼らが持ち込む薬を、無理してでも王女に飲ませていた。けれど、どれも全く効果がなかった。それどころか、彼女を苦しめる結果になったものも多かった。それで今では、門前に集まった人々と、彼らが持ち込む「薬」を、極力、取り合わないようにしている。

 「これは、ツェルニー公国に伝わる、とある果実の炭焼きです。少し苦いですが、肺の病にはとりわけ効果があります」

差し出された包みを、アーヤは巧みに避けた。

「そんなもの!」
逆方向から、日に焼けた商人が躍り出た。
「ブリテール産のこの妙薬は、水妖の呪文を百回かけた淡水真珠です。細かく砕いて粉末状にしてあるから、咳がひどくても、容易に喉を通ります」

「王女様には、バーデル公国の温泉水を! 温めて飲めば、必ず体力が蘇ります!」

 どれも外国の薬ばかりじゃないか。メレンクールの商人は何をしているのかと、アーヤは憤った。

 それにしても、外出するたびにこれでは、うんざりしてしまう。この大騒ぎが、奥の部屋で休んでいる王女の元にまで届いたら、彼女の心はさぞかし搔き乱されることだろう。

 デジレをゆっくりと休ませたかった。けれど、中には真剣に彼女の身を案じている者もいるので、無碍にもできない。ただ、今となっては、どんな薬も、彼女には効かないというだけだ。

 せめて、セティがいたらいいのに。大柄で押しが強いセティなら、門前に集まった有象無象を一瞬で蹴散らし、彼らの存在が王女デジレにとっていかに迷惑かをわからせることができたろうに。

 ふいと家を出たきり、一向に返ってこない息子を案じながら、集まってきた薬売り達をかき分けているアーヤの前に、ふい、と白い陶製の器が差し出された。

「……?」

 驚いて目を上げると、隻眼の青年が立っていた。セティよりもう少し幼い印象で、背が高く、水色の髪をしていえる。一つしかない灰色の瞳は、本来なら内気そうに見えたかもしれないが、この時は、まるで銀色に光り輝く硬玉のように強い意志を宿して見えた。

「これは、ロンウェイユと言います。王女様の肺の病に最適です」

 言いながら、蓋の閉まった冷たい容器を押し付けてくる。是が非でも、受け取らせたいようだ。

「王女様に。デジレ様の為に」

「ごめんなさいね。でも、もう、どんなお薬も彼女を苦しめるだけだから」

 言ってしまってから、アーヤは泣きそうになった。

 今日も、王都から来た役人と、墓所の相談に行ってきたところだ。王都から来た役人は、王と王妃は、彼女を王家の墓には入れたくないのだと、明確に言い切った。

「この薬は大丈夫です。絶対に効きます。保証します」

 ぐいぐいと押し付けてくる。是が非でも受け取らせようという、強い意志を感じる。冷たい容器の中で、液体がチャポンと揺れた。

「飲みやすいの?」

 水薬なら、デジレの喉を通るだろうか。もう3日も、彼女は何も口にしていない。

「もちろんですとも。絞って唇の上に垂らすだけでいいのです」
「絞って?」
「ロンウェイユは秘薬です。必ず効きます。どうか、是非」

 アーヤはためらった。
 飲まず食わずでは、死を待つのみだ。ならば、どんな「薬」であっても、体に取り込んでくれるさえすれば、それでいいではないか?

「お願いです。デジレ様のお命が、何より大切です」

 たった一つの灰色の瞳は真摯だった。ただひたすら、デジレの身を案じているように見えた。

 乳母の心は決まった。
 彼女は、隻眼の青年から、冷たい器を受け取った。




しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

婚約破棄された元聖女、魔王の息子に攫われて溺愛されています

百合川八千花
恋愛
魔王を討伐し、十年にわたる戦いを終えた聖女アルティア。 帰還した王国で待っていたのは、王太子からの婚約破棄と――その子供だった。 絶望の中、現れたのはかつて共に戦った魔王の息子、ヴェルグ。 「君はもう自由だ。だったら僕が攫うよ」 突然の求婚(という名の略奪)と共に、アルティアは隣国・アシュフォード帝国へ連れ去られる。 辺境伯となったヴェルグの領地で始まるのは、 「君のために用意してた」 と語られる豪華すぎる“同棲部屋”、 壁一面に飾られた聖女の肖像画コレクション、 そして、「僕のもの」発言が止まらない溺愛×執着ラブ生活! しかしその頃、聖女を失った王国では、魔王の呪いによる異変が始まっていて―― これは、運命に選ばれ続けた聖女と、ただ彼女だけを愛した元魔王の息子の、 甘くて狂おしい、世界と愛の再構築ラブファンタジー。

【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

天咲リンネ
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。 しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。 契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。 亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。 たとえ問題が起きても解決します! だって私、四大精霊を従える大聖女なので! 気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。 そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

氷の魔術師(引きこもり)のはずなのに、溺愛されても困ります。

入海月子
恋愛
「もう、なんですぐ石になるのよ〜!」 没落貴族のサナリは突然、天才だけど人嫌いの魔術師シーファから世話係に指名された。面識もないのにと疑問に思うが、騙し取られた領地を取り戻すために引き受けることにする。 シーファは美形。でも、笑顔を見たことがないと言われるほどクール……なはずなのに、なぜかサナリには蕩ける笑みを見せる。 そのくせ、演習に出てくださいとお願いすると「やだ」と石(リアル)になって動かない。 なんでよ!?

3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」 最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!? ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...