【完結】竜王に嫁いだら、推しの半竜皇子の継母になりました〜冷酷な夫には興味ありませんが、闇落ち予定の皇子は私が全力で幸せにします!〜

せりもも

文字の大きさ
38 / 70

38 要人の訪問

しおりを挟む
 日々は穏やかに過ぎて行った。

 アーヤは献身的にわたしの世話をしてくれ、わたしは、心静かに過ごすことができた。
 城で、意地悪な王妃や異母妹達と過ごすよりは、ずっと幸せだ。

 こうして死んでいくのも悪くないと思っていたある日。立派な身なりの二人の外国人が、乳母の里を訪れた。

「私は、プロセシア王国の宰相です。国王陛下の名代で参りました」

「そして私は、ブリテール王国の外務大臣です。女王陛下の命を受けて参上しました」

 今のわたしには、あまりに不釣り合いな要人たちの訪れだ。

「お二人とも、ご訪問先を間違っておられますよ。父は、王都にいます。この里を訪れることはありません」

「いいえ、王女様。私たちは、貴女を訪ねて参ったのです」

 そう言われても、首を傾げるばかりだ。
 死に際のわたしに、一体何の用があるというのだろう。
 いきなり、二人の要人は姿勢を正し、それから、深々と頭を下げた。

「まずは、デジレ王女。あなたのご苦労に感謝申し上げます」
「へ?」

口がぽかんと開いた。

「貴女の貴い犠牲のおかげで、貴女の祖国メレンクールは破滅を免れました。そして、我々には同盟を結成する時間が生まれたのです」

 対ロシュフォイユ同盟のことだ。


 メレンクールとロシュフォイユは、リーニャ河を挟んで隣国同士だ。メレンクールの周囲には、たくさんの国や公国がある。

 わたしがワッツァと結婚し、メレンクールはロシュフォイユと縁続きになった。石頭の父が、あくまで結婚の典礼プロトコルにこだわったせいで複雑な手続きが行われ、戦争は一時、棚上げとなった。

 この間に、他の国々は、ロシュフォイユに対抗する同盟を結ぶ余裕ができたというのだ。


 「そんな。わたしは何もしていない」

言いかけたわたしを、プロセシアの宰相が制した。

「我々の国は、今、竜たちから恐ろしい攻撃を受けています。兵士だけでなく、市民たちも大勢死傷している。大地には瘴気が流れ、このままでは、遠からず人類は滅びてしまうでしょう」

「竜は気まぐれです。メレンクールとて、安泰とは言えませんぞ」
口ひげを捻りながらブリテール外務大臣が口を出す。


 今のところ、メレンクールは、竜の攻撃を免れている。父は、ロシュフォイユと友好状態を保っているが、その傍ら、敵国であるはずの人間の国々との同盟を視野に入れている。

 いわば、完全な二股外交だ。


 プロセシア宰相が頷いた。
「デジレ王女。どうかご教示下さい。竜の国にお住まいになった貴女ならご存知の筈です。竜の弱点は何ですか?」

 竜の弱点。確かにわたしは知っている。

 でも、この人たちに教えたら、バートラフの信頼を裏切ることになりはしないか? 彼はわたしを信じたから教えてくれたのに。それに、ロシュフォイユにおける彼の立場も、最悪のものになるだろう。

 一方で今、大勢の人々が、竜の攻撃を受けて死の恐怖に襲われているという。弱点さえわかれば、同盟軍は竜を倒すことができる。

 竜の弱点さえわかれば、彼らは救われるのだ。
 ここにいる要人たちに、わたしが教えさえすれば……。




 その晩。
 メレンクールの騎士団長、フリート叔父が訪ねて来た。

「君をここに閉じ込めた父王たちの処遇には腹を据えかねているのだろうけれど……」

直截に切り出した叔父を、わたしは遮った。

「叔父上。わたしが話したと、向こうに絶対に露見させないという自信がおありですか?」
「向こうとは?」
「ワッツァです」

 竜の弱点を教えたのがわたしだとわかれば、その情報の出所がどこか、ワッツァにはすぐにわかるだろう。

 すでにバートラフは、ワッツァの不興を買っている。通過儀礼のあの日、命じられた通りに即座戦いに赴かずに、まず第一に、わたしを逃がした。

 当り前だけど、ワッツァは人ではない。情や優しさなどまるでない、恐ろしい竜だ。この上、竜の秘密を洩らしたなどと露見すれば、彼がバートラフをどうするか、心配でならない。

 竜の帝国のことなど知ったことではない。わたしが守りたいのは、バートラフだけだ。


 フリート叔父は、力強く頷いた。
「案ずることはない。決して口外はしない。竜への攻撃は重層的に、また、各地で同時多発的に行われる。弱点を漏らしたのが誰か、彼らには絶対にわからない」

「勝つ自信がおありですか?」

「正直に言うと、五分五分だ。竜の戦闘力は強大だからな。弱点を狙ったところで、どこまで戦えるか……。ただ、このままでは、人間は滅びる。それは確かだ」

 わたしは頷いた。
 五分五分なら、バートラフは生き延びるだろう。彼には能力がある。そして、彼の半分は人間だ。

 どっちに転んでも、彼は無事であるはずだ。




しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

婚約破棄された元聖女、魔王の息子に攫われて溺愛されています

百合川八千花
恋愛
魔王を討伐し、十年にわたる戦いを終えた聖女アルティア。 帰還した王国で待っていたのは、王太子からの婚約破棄と――その子供だった。 絶望の中、現れたのはかつて共に戦った魔王の息子、ヴェルグ。 「君はもう自由だ。だったら僕が攫うよ」 突然の求婚(という名の略奪)と共に、アルティアは隣国・アシュフォード帝国へ連れ去られる。 辺境伯となったヴェルグの領地で始まるのは、 「君のために用意してた」 と語られる豪華すぎる“同棲部屋”、 壁一面に飾られた聖女の肖像画コレクション、 そして、「僕のもの」発言が止まらない溺愛×執着ラブ生活! しかしその頃、聖女を失った王国では、魔王の呪いによる異変が始まっていて―― これは、運命に選ばれ続けた聖女と、ただ彼女だけを愛した元魔王の息子の、 甘くて狂おしい、世界と愛の再構築ラブファンタジー。

【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

天咲リンネ
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。 しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。 契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。 亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。 たとえ問題が起きても解決します! だって私、四大精霊を従える大聖女なので! 気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。 そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

氷の魔術師(引きこもり)のはずなのに、溺愛されても困ります。

入海月子
恋愛
「もう、なんですぐ石になるのよ〜!」 没落貴族のサナリは突然、天才だけど人嫌いの魔術師シーファから世話係に指名された。面識もないのにと疑問に思うが、騙し取られた領地を取り戻すために引き受けることにする。 シーファは美形。でも、笑顔を見たことがないと言われるほどクール……なはずなのに、なぜかサナリには蕩ける笑みを見せる。 そのくせ、演習に出てくださいとお願いすると「やだ」と石(リアル)になって動かない。 なんでよ!?

3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」 最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!? ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...