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L'épilogue 3
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※バートラフ目線です
⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*
しばらくの間、目まぐるしい日々が続いた。バートラフは長い間城を留守にしていた上、戦争があったので、やるべきことはたくさんあった。書類仕事だけでも、1日2日では終わりそうもない。
以前は、どんなに忙しくても朝食だけは、デジレと共に摂ることにしていた。夜、居住区に帰ると、真っ先に彼女にただいまのあいさつをしに行った。
けれど、今回は違う。
バートラフがデジレの部屋を訪れることはなかった。
仕事が忙しいから。彼はそうつぶやき、執務室に野戦用の簡易ベッドを運び込ませた。デジレの部屋は、ますます遠くなった。
「お夜食をお持ちしました」
深夜の執務室に、ワゴンを押してメイドが入ってきた。
「頼んでない」
「ですが、お夕食もまだでしょう? デジレ様が心配されています」
忌々しい書類から、バートラフは目を上げた。中年のメイドが佇んでいる。成竜検定の時、通過儀礼として殺されたヨハンナの、娘ジョディスだった。
「わかった。そこに置いておいて」
「はい」
執務室の隅の小卓に、メイドは皿を並べ始めた。スープやパン、甘く煮た果物など、消化の良いものばかりだ。
「お肉は明日の朝お届けします、との、デジレ様からのご伝言です」
喉を鳴らし、バートラフはスプーンを手に取る。
客観的にいえば、微妙な味といえるだろう。でも彼にとっては、心と体に染み込む優しい味だ。
寒い厨房に立って、野菜や果物と格闘しているデジレの姿が目に浮かぶ。
「彼女は……、」
バートラフはためらった。
「なんでもない」
「口ではおっしゃいませんが、デジレ様は、貴方様にお会いになりたがっておられます」
そんなこともわからないのかという風にメイドが言い放つ。
バートラフは肩を竦めた。
「見ての通り、僕は大変忙しく……、」
「バートラフ様」
メイドは遮った。
「あなたが何を心配なさっているか、よくわかります。けれど、あなたの半分は人間です。デジレ様は、貴方のお母様と同じ運命を辿るわけではありません」
きっぱりと言い切る。
バートラフは眉を顰めた。
「何を言いたい?」
「このまま寝所を別にし、どっちつかずの状態を続けることは、彼女にとって、そして貴方様にとっても、決して幸せではないということです」
「けど……。けど僕は、彼女を傷つけたくないんだ」
竜と人とのまぐわいは、人間の女性にとって、命の危険を意味するのだから。
ジョディスはヨハンナの娘だ。彼女もまた、バートラフが幼いころから、めんどうをみてくれている。深夜の時間ということも相俟って、気がついたらバートラフは、自分の胸の裡をさらしていた。
ジュディスの目が柔らかく瞬いた。
「大丈夫ですよ、貴方様なら。貴方の半分は、人間です。人間としての優しさと思いやりがあれば、相手の身に危険が及ぶことは、万が一にもあり得ません」
「やさしくって……どうやって?」
「そうですね。まず、その時に竜体に変化されてはいけません」
「わかってるよ、そんなこと。他には?」
「どんなに愛していても、情熱のまま、突っ走ってはなりません。まずは、お外を散歩でもなさって、心を落ち着けることです」
「……散歩」
「はい。事前に竜の姿で、大空を駆け巡られたら如何でしょう。余計な霊力が発散されて、心が落ち着かれることと存じます」
「なるほど」
「相手の体調を慮り、決して無理はさせないこと。嫌がることを無理強いしてはなりませぬ」
そんなに難しいことではない、とバートラフは思った。だって自分は、誰よりデジレを愛している。彼女が嫌がることをするわけがない。
「ああ、でも!」
不意に彼は頭をかきむしった。
「でも、お産をすれば、彼女は死んでしまうんだ!」
バートラフの母ジュリアは、子を産む代償として、命を落とした。
ヨハンナの娘はワゴンから離れ、バートラフの前までやってきた。彼は椅子に座っていたので、高い位置から見下ろす格好になる。
「人間同士であっても、お産で死ぬことは、割とよくあります。それを受け容れてでも、女性は、愛する人の子を、この世に残したいと願うものなのです」
「僕は嫌だ。デジレが死ぬなんて! 彼女を死なせてしまうなんて!」
ジョディスは、首を横に振った。
「もしそれが、あなたの心の支えになるのなら申し上げておきますが、人間の女性は、必ず妊娠するというわけではありません」
バートラフの目が輝いた。
「本当に?」
「ええ。デジレ様のご体調については、ある程度は、わたしにもわかります」
「体調って?」
「いつ、ご妊娠の確率が高いか。いつなら妊娠しづらいか、ということです」
心の箍が軋む音がした。
……。
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しばらくの間、目まぐるしい日々が続いた。バートラフは長い間城を留守にしていた上、戦争があったので、やるべきことはたくさんあった。書類仕事だけでも、1日2日では終わりそうもない。
以前は、どんなに忙しくても朝食だけは、デジレと共に摂ることにしていた。夜、居住区に帰ると、真っ先に彼女にただいまのあいさつをしに行った。
けれど、今回は違う。
バートラフがデジレの部屋を訪れることはなかった。
仕事が忙しいから。彼はそうつぶやき、執務室に野戦用の簡易ベッドを運び込ませた。デジレの部屋は、ますます遠くなった。
「お夜食をお持ちしました」
深夜の執務室に、ワゴンを押してメイドが入ってきた。
「頼んでない」
「ですが、お夕食もまだでしょう? デジレ様が心配されています」
忌々しい書類から、バートラフは目を上げた。中年のメイドが佇んでいる。成竜検定の時、通過儀礼として殺されたヨハンナの、娘ジョディスだった。
「わかった。そこに置いておいて」
「はい」
執務室の隅の小卓に、メイドは皿を並べ始めた。スープやパン、甘く煮た果物など、消化の良いものばかりだ。
「お肉は明日の朝お届けします、との、デジレ様からのご伝言です」
喉を鳴らし、バートラフはスプーンを手に取る。
客観的にいえば、微妙な味といえるだろう。でも彼にとっては、心と体に染み込む優しい味だ。
寒い厨房に立って、野菜や果物と格闘しているデジレの姿が目に浮かぶ。
「彼女は……、」
バートラフはためらった。
「なんでもない」
「口ではおっしゃいませんが、デジレ様は、貴方様にお会いになりたがっておられます」
そんなこともわからないのかという風にメイドが言い放つ。
バートラフは肩を竦めた。
「見ての通り、僕は大変忙しく……、」
「バートラフ様」
メイドは遮った。
「あなたが何を心配なさっているか、よくわかります。けれど、あなたの半分は人間です。デジレ様は、貴方のお母様と同じ運命を辿るわけではありません」
きっぱりと言い切る。
バートラフは眉を顰めた。
「何を言いたい?」
「このまま寝所を別にし、どっちつかずの状態を続けることは、彼女にとって、そして貴方様にとっても、決して幸せではないということです」
「けど……。けど僕は、彼女を傷つけたくないんだ」
竜と人とのまぐわいは、人間の女性にとって、命の危険を意味するのだから。
ジョディスはヨハンナの娘だ。彼女もまた、バートラフが幼いころから、めんどうをみてくれている。深夜の時間ということも相俟って、気がついたらバートラフは、自分の胸の裡をさらしていた。
ジュディスの目が柔らかく瞬いた。
「大丈夫ですよ、貴方様なら。貴方の半分は、人間です。人間としての優しさと思いやりがあれば、相手の身に危険が及ぶことは、万が一にもあり得ません」
「やさしくって……どうやって?」
「そうですね。まず、その時に竜体に変化されてはいけません」
「わかってるよ、そんなこと。他には?」
「どんなに愛していても、情熱のまま、突っ走ってはなりません。まずは、お外を散歩でもなさって、心を落ち着けることです」
「……散歩」
「はい。事前に竜の姿で、大空を駆け巡られたら如何でしょう。余計な霊力が発散されて、心が落ち着かれることと存じます」
「なるほど」
「相手の体調を慮り、決して無理はさせないこと。嫌がることを無理強いしてはなりませぬ」
そんなに難しいことではない、とバートラフは思った。だって自分は、誰よりデジレを愛している。彼女が嫌がることをするわけがない。
「ああ、でも!」
不意に彼は頭をかきむしった。
「でも、お産をすれば、彼女は死んでしまうんだ!」
バートラフの母ジュリアは、子を産む代償として、命を落とした。
ヨハンナの娘はワゴンから離れ、バートラフの前までやってきた。彼は椅子に座っていたので、高い位置から見下ろす格好になる。
「人間同士であっても、お産で死ぬことは、割とよくあります。それを受け容れてでも、女性は、愛する人の子を、この世に残したいと願うものなのです」
「僕は嫌だ。デジレが死ぬなんて! 彼女を死なせてしまうなんて!」
ジョディスは、首を横に振った。
「もしそれが、あなたの心の支えになるのなら申し上げておきますが、人間の女性は、必ず妊娠するというわけではありません」
バートラフの目が輝いた。
「本当に?」
「ええ。デジレ様のご体調については、ある程度は、わたしにもわかります」
「体調って?」
「いつ、ご妊娠の確率が高いか。いつなら妊娠しづらいか、ということです」
心の箍が軋む音がした。
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