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L'épilogue 4
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デジレ目線に戻ります。前のお話(L'épilogue 3)の翌朝です
⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*
ソスクレア宮殿に落ち着いてひと月も経った頃。
珍しくバートラフが朝の食卓に現れた。
「仕事が一段落したものですから」
そういう彼の目は、痛々しい隈で縁取られていた。
「ゆうべは寝れなかったの?」
問いかけると、ぎょっとしたような顔になった。
「な、え? 違います。いいえ」
一人できょどっている。寝ていなくて、頭がぼうっとしているのだろう。
「でも、眼の下に隈が」
「あ、あの、仕事のせいです。それで、眠れなくて」
気の毒なバートラフ。仕事がきつくて、徹夜状態だったんだわ。
突如彼は、バンとテーブルを叩き、背筋をしゃんとさせた。
「でも仕事は終わりました。もう大丈夫。僕は毎朝だって、ここへ来ます。止めたって無駄です。誰も、僕が貴女のところへ来るのを、止めることなんてできないんだ」
なんだか妙に力を入れて決意表明をしている。嬉しいけど、ちょっと不穏な雰囲気だ。なぜだろう。目の下の隈のせいかな。
その朝、張り切って給仕をしたのは、マティルドだった。
「わたしが」
パンをカットしようとするマティルドに、申し出る。仕事を取り上げたくはないけど、片腕の彼には、パンのような柔らかいものを切るのは難しいだろうと思ったのだ。
しかし、彼は首を横に振った。
「いえいえ。お2人の給仕は、私の楽しみですから」
言いながら、器用にパンを切り分ける。
「ところで、」
執事は、蕩けるような微笑を浮かべた。
「使用人たちとも話し合ったのですが、温泉へ行かれたら如何です? この宮殿の従者たちは、顔見知りばかりですものね。特にバートラフ様には、ご幼少時代をよく知っている者たちばかりです。なれば、宮殿を離れ、ゆっくり休暇を取られたらどうでしょう? ここからほんの数里離れたところに、静かな秘湯がございます」
「いいね、それ!」
わたしがまだ何も言わないうちに、バートラフが食いついた。
◇
深い山のさらにその奥に、小さな可愛いコテージがあった。湿気を避けるために、床は高く上げられていて、金気を嫌い、木材を組み合わせて造られているという。
「用があったら呼びに行くから」
コテージに着くと、バートラフは、ついてきた使用人たちを追い返してしまった。
「いい天気だね。空が青くてきれいだ。僕も散歩に行こうかな。ははは……」
いっそ不審に見えるような笑いを浮かべて、彼も出かけてしまった。
静かなコテージに、わたしは一人で取り残された。
これは、つまり、新婚旅行的なものよね。それなのに、一人きりで置いていかれるなんて。わたしは恨めしく思った。バートラフはいったい、何を考えているのだろう。
でもまあ、これから、人の常識では測りきれないほどの長い時間を、わたしは彼と過ごすのだ。その幸せを思うと、わずかな時間、彼と離れ離れになったって平気だ。本当は全然平気じゃないけど、平気だって思いたい。
その時だった。
開け放した窓から、一陣の風が吹き込んできた。
「やあ、デジレ嬢。久しぶり!」
聖女の魔術師だった。名前は確か、……テルア。
「それとも、マダムと呼んだ方がいい?」
「マドモワゼルで結構よ」
それは、わたしには大きな不満の種だった。
戦いが終わってすぐ、レゼルネ村で抱きしめられて以来、バートラフはわたしに、触れようとしない。キスに至っては、氷の城での一度きりだ。
ソスクレア宮殿に呼んでくれたときは嬉しかったけど、寝室は別。最近まで、めったに顔を合わせることもなかった。今も、せっかく連れてきてくれた「秘湯」なのに、着いた途端に、そそくさと出かけてしまうなんて。
やっぱり、わたしに魅力がないせいだろうか。父子揃って放置されるなんて、いったい、どうしたらいいのだ?
「なら、お祝いもいらないね。実は手元不如意でね」
魔術師は言って、持っていた木箱を、どさりとテーブルの上に下ろした。
「これ、バートラフに頼まれた物。何種類か入っている。間に合ってよかったよ」
間に合って? 何に?
「まったく、バートラフのやつ。仮にも俺は、聖女の魔術師だぞ。聖騎士団所属の。それなのに、こんな……」
箱を忌々し気にこつんと小突き、魔術師はぼやいた。
「でもまあ、それだけ、愛が深いというわけなんだな。聖女はそう言っていた。まったく、妬けるぜ。あ、バートラフには内緒な。俺が妬いていたなんて言うなよ」
「はあ」
わけがわからない。
「じゃ、俺はもう行く。あいつと顔を合わせたくないからな。幸せいっぱいの若い男ほど、見苦しいものはない」
言い終わるなり、マントを翻し、来た時と同じく、風になって外へ飛び出していく。
狐につままれたような気持ちで、わたしは木箱を眺めた。いったいこれ、なにかしら。
でも、バートラフ宛の荷物を開けてみるわけにはいかない。
他にすることもないので、先に温泉に入ることにした。さっき魔術師は、来た時にコテージの裏側に温泉の溜まりが見えたと言っていた。
外へ出ると、確かに、細い道が通っていた。けれど、人が通るには細すぎるような、いわゆるけもの道だ。きっと管理が行き届いていないのだろう。戦争があったのだもの、仕方ないわ。
温泉のお湯は、岩と岩の間に溜まっていた。一人で入るのにちょうどいいくらいのコンパクトサイズ。でも、野趣あふれる感じで、とても気持ちがいい。温度も、ぬるめが好みのわたしには心地よかった。
少し濁った感じのお湯だけど、これは、何に効くのかな? 匂いはしないようだ。
うっとりとお湯に浸っている時だった。
「デジレ!」
驚愕したような叫び声が聞こえた。
⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*
ソスクレア宮殿に落ち着いてひと月も経った頃。
珍しくバートラフが朝の食卓に現れた。
「仕事が一段落したものですから」
そういう彼の目は、痛々しい隈で縁取られていた。
「ゆうべは寝れなかったの?」
問いかけると、ぎょっとしたような顔になった。
「な、え? 違います。いいえ」
一人できょどっている。寝ていなくて、頭がぼうっとしているのだろう。
「でも、眼の下に隈が」
「あ、あの、仕事のせいです。それで、眠れなくて」
気の毒なバートラフ。仕事がきつくて、徹夜状態だったんだわ。
突如彼は、バンとテーブルを叩き、背筋をしゃんとさせた。
「でも仕事は終わりました。もう大丈夫。僕は毎朝だって、ここへ来ます。止めたって無駄です。誰も、僕が貴女のところへ来るのを、止めることなんてできないんだ」
なんだか妙に力を入れて決意表明をしている。嬉しいけど、ちょっと不穏な雰囲気だ。なぜだろう。目の下の隈のせいかな。
その朝、張り切って給仕をしたのは、マティルドだった。
「わたしが」
パンをカットしようとするマティルドに、申し出る。仕事を取り上げたくはないけど、片腕の彼には、パンのような柔らかいものを切るのは難しいだろうと思ったのだ。
しかし、彼は首を横に振った。
「いえいえ。お2人の給仕は、私の楽しみですから」
言いながら、器用にパンを切り分ける。
「ところで、」
執事は、蕩けるような微笑を浮かべた。
「使用人たちとも話し合ったのですが、温泉へ行かれたら如何です? この宮殿の従者たちは、顔見知りばかりですものね。特にバートラフ様には、ご幼少時代をよく知っている者たちばかりです。なれば、宮殿を離れ、ゆっくり休暇を取られたらどうでしょう? ここからほんの数里離れたところに、静かな秘湯がございます」
「いいね、それ!」
わたしがまだ何も言わないうちに、バートラフが食いついた。
◇
深い山のさらにその奥に、小さな可愛いコテージがあった。湿気を避けるために、床は高く上げられていて、金気を嫌い、木材を組み合わせて造られているという。
「用があったら呼びに行くから」
コテージに着くと、バートラフは、ついてきた使用人たちを追い返してしまった。
「いい天気だね。空が青くてきれいだ。僕も散歩に行こうかな。ははは……」
いっそ不審に見えるような笑いを浮かべて、彼も出かけてしまった。
静かなコテージに、わたしは一人で取り残された。
これは、つまり、新婚旅行的なものよね。それなのに、一人きりで置いていかれるなんて。わたしは恨めしく思った。バートラフはいったい、何を考えているのだろう。
でもまあ、これから、人の常識では測りきれないほどの長い時間を、わたしは彼と過ごすのだ。その幸せを思うと、わずかな時間、彼と離れ離れになったって平気だ。本当は全然平気じゃないけど、平気だって思いたい。
その時だった。
開け放した窓から、一陣の風が吹き込んできた。
「やあ、デジレ嬢。久しぶり!」
聖女の魔術師だった。名前は確か、……テルア。
「それとも、マダムと呼んだ方がいい?」
「マドモワゼルで結構よ」
それは、わたしには大きな不満の種だった。
戦いが終わってすぐ、レゼルネ村で抱きしめられて以来、バートラフはわたしに、触れようとしない。キスに至っては、氷の城での一度きりだ。
ソスクレア宮殿に呼んでくれたときは嬉しかったけど、寝室は別。最近まで、めったに顔を合わせることもなかった。今も、せっかく連れてきてくれた「秘湯」なのに、着いた途端に、そそくさと出かけてしまうなんて。
やっぱり、わたしに魅力がないせいだろうか。父子揃って放置されるなんて、いったい、どうしたらいいのだ?
「なら、お祝いもいらないね。実は手元不如意でね」
魔術師は言って、持っていた木箱を、どさりとテーブルの上に下ろした。
「これ、バートラフに頼まれた物。何種類か入っている。間に合ってよかったよ」
間に合って? 何に?
「まったく、バートラフのやつ。仮にも俺は、聖女の魔術師だぞ。聖騎士団所属の。それなのに、こんな……」
箱を忌々し気にこつんと小突き、魔術師はぼやいた。
「でもまあ、それだけ、愛が深いというわけなんだな。聖女はそう言っていた。まったく、妬けるぜ。あ、バートラフには内緒な。俺が妬いていたなんて言うなよ」
「はあ」
わけがわからない。
「じゃ、俺はもう行く。あいつと顔を合わせたくないからな。幸せいっぱいの若い男ほど、見苦しいものはない」
言い終わるなり、マントを翻し、来た時と同じく、風になって外へ飛び出していく。
狐につままれたような気持ちで、わたしは木箱を眺めた。いったいこれ、なにかしら。
でも、バートラフ宛の荷物を開けてみるわけにはいかない。
他にすることもないので、先に温泉に入ることにした。さっき魔術師は、来た時にコテージの裏側に温泉の溜まりが見えたと言っていた。
外へ出ると、確かに、細い道が通っていた。けれど、人が通るには細すぎるような、いわゆるけもの道だ。きっと管理が行き届いていないのだろう。戦争があったのだもの、仕方ないわ。
温泉のお湯は、岩と岩の間に溜まっていた。一人で入るのにちょうどいいくらいのコンパクトサイズ。でも、野趣あふれる感じで、とても気持ちがいい。温度も、ぬるめが好みのわたしには心地よかった。
少し濁った感じのお湯だけど、これは、何に効くのかな? 匂いはしないようだ。
うっとりとお湯に浸っている時だった。
「デジレ!」
驚愕したような叫び声が聞こえた。
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