【完結】竜王に嫁いだら、推しの半竜皇子の継母になりました〜冷酷な夫には興味ありませんが、闇落ち予定の皇子は私が全力で幸せにします!〜

せりもも

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L'épilogue 5

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 「知らなかったのよ! 温泉だっていうから、てっきり」
 慌てふためいて衣類をかき集めながら、わたしは弁解する。
「だってわたしの故郷では、温泉はお風呂のことで、浸かって楽しむものだと」
 それは、前世の話だけどね。

「いやいやいや。温泉は、お湯を飲むものなんです。コップに受けて、少しずつ。そうやって、緊張を解いたり、病を治したりするんですよ」

 間に厚い岩を隔てて、バートラフが言い返す。二人を隔てる岩に、彼はなお、背を向けている。

「コテージにはすぐに飲めるように、源泉からお湯が引いてあります。わざわざこんな、岩場の湧き湯まで来なくとも」

 よかった。少なくともわたしは、飲用のお湯を汚してしまったわけではないみたい。

 ぶつぶつとバートラフがつぶやいている。

「貴女と言い、マティルドや使用人たちといい……お願いだから、これ以上、僕の忍耐力を試すようなことはなさらないでください」

 あんまりな言い方だと思った。わたしは、岩の向こうからひょいと顔を出し、バートラフを睨んだ。

「わたしがいつ、貴方の忍耐力を試すようなことをしました?」

「デ、あ、し、」

「きゃっ! ごめんなさい」

 バートラフのまんまるくなった目の向く先を追って、慌てては岩の陰に引っ込む。わたしは、下着姿だった。

 大急ぎで、ドレスを拾い上げ羽織ろうとした。ところが、背中の紐が締められない。

 閉めなくてもいいか、とも思ったけど、このドレスは、肩紐のないビスチェタイプなので、ずるずると落ちてきてしまう。だめだ。背中をしっかり閉じないと、歩けやしない。

 困ったな。使用人たちはみんな、帰ってしまったし。

 ここにいるのは、バートラフだけだ。

「あの、お願いが」
岩の陰から、再び顔を出す。

「なんです?」
しゃがみ込み、両手で頭を抱えこんでいたバートラフが顔を上げた。

「背中のこれ……」

くるりと後ろを向けて、髪をかき上げる。うなじを風がすうーっと撫でた。

「もう限界だ」

 奇妙な叫び声が聞こえた。
 彼はわたしの手をひっつかみ、ぐいぐいとけもの道をコテージめがけて歩き始めた。

「ちょっと! ドレスが!」
 わたしには、今にも落ちそうなドレスの胸元を抑えることしかできない。

 逃がすまいとするかのように、わたしの腕を、大きな両手でしっかりと握り締めたまま、彼はコテージに足を踏み入れた。

 慌ただしく客間を通り抜けた時、バートラフはテーブルに躓き、上に乗せられていた箱が横倒しになった。

「なんだ、これは?」

 ぶつけた足が相当痛かったろうに、気にする様子もなく、箱に気を取られているので教えてあげた。

「さっき魔術師さんが持ってきてくれたのよ」

 バートラフの瞳が輝いた。

「ありがたい。テルアが間に合わせてくれたんだ」

 横倒しになった箱からは、透明な水の詰まった小瓶や、わたしには使い方のわからない細々とした品物が零れだしていた。

「ジョディスのことは信じてないわけじゃないけど、あくまで確率論だから、不安なんだ」

 バートラフが何を言っているのか、さっぱりわからない。ジョディス? ヨハンナの娘さんは、頼りになるメイドだけど……。

「それ、何?」

「避妊薬」

「え……」

 つまり彼は、魔術師に、避妊薬を調合させたってこと? しかも、聖騎士団の魔術師に?

 それに、確か魔術師は、それだけ愛が深いとかなんとか、聖女が言ってたって……。つまり、このことは、聖女も知ってるんだ!

 前世で、職場の先輩が時々口にしていた「はずかしぬ」という言葉の本当の使い方が、今頃わかった気がした。

「僕はぎりぎりまで我慢した! 僕は君が大事だ。傷つけたくない。それなのに君は、いつだって僕を……だから、」

 薬瓶をひっつかみ、栓をこじ開けようとする。

 ようやくは、バートラフが何を悩み、どうしてわたしと距離を置こうとしていたのか理解した。

 ジュリアさんが亡くなったのは、お産のせいじゃない。竜に身を任せたからでもない。ワッツァの、彼が敬愛する父親の、暴力のせいだ。二人の間では、それは、愛だったのかもしれないが。

 そんなこと、マティルドあたりがとっくに話して聞かせたと思っていたのに。

 使用人たちは、どうしても言えなかったに違いない。未だにバートラフは、父への敬意を失わずにいるから。彼が父を殺さずに、氷の宮殿の地下深くに埋めるに留めたのが、そのなによりの証左だ。

 でも、バートラフはワッツァとは違う。彼は、ワッツァを否定する強さを持っている。

「要らないわ」
静かにわたしは彼の手を抑えた。
「忘れたの? わたしはあなたのロンウェイユに守られているもの」

 低い唸り声が聞こえた。



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