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花瓶の穴
19 長治親分の下心
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数日後、長治親分が尋ねてきた。
「間違って、お前さんを掴まえちまった件だけどよ」
差し出した薄い番茶を啜り、口ごもる。
「詫びといっちゃ、なんだが、独歩のこと、知らべさせてもらえねえか?」
「独歩のこと?」
「ああ。江戸に来るまで、独歩が、どこかの地下牢に監禁されていたことは知っている。それは、出島近辺だと、俺は思うんだが」
いきなり出て来た出島と言う地名に、俺は呆気にとられた。いったい何の話だ?
「出島?」
「お前さん、ほんとうにわかってねえのかい?」
不審気に、いっそ、疑い深い目で俺を眺めまわし、長治が尋ねた。
もちろん俺には、全く、心当たりがない。
あるわけないだろう? 出島っつったら、海を越えた外国だ。
深いため息を、長治は吐いた。
「鎖国」
「はあ?」
「今、この日の本の国は鎖されている。それなのに陶磁器に金を取りつけるなんてことを知ることができたのは、なぜなんだ?」
「えと、」
「鎖国といっても、外国と全く接触がないわけじゃない。幕府、対馬藩、薩摩藩、松前藩が、海外との貿易を行っている。この中で、ヨーロッパを相手にしているのは、江戸幕府だけだ。幕府は、長崎の出島を通して、中国の他にも、オランダと交易している」
「オランダ?」
「ヨーロッパの国だ」
「なるほど」
そういや、殺された三助がそんな話をしていたような……。
「モノは壊れ物だ。外国に輸出する陶磁器は、佐賀の有田はじめ、比較的出島に近いところで作られているとみるのが妥当だろう」
「じゃ、独歩が元いたのは、九州……?」
彼が閉じ込められていた地下牢は、九州にあったのだろうか?
長治は頷いた。
「そう考えれば辻褄が合う。欧州向け陶磁器へ金の加工を施すとよく売れるということは、窯元の他にも、輸出を取り仕切っていた役人や藩士なら知っているだろう。江戸に現れた時、薄汚れてはいたが、独歩の着ていた着物は上物だった。独歩は、欧州への輸出品を作っている藩の藩士か、それ以上の家の子に違えねえ」
それがなんで、地下牢なんかに?
「陰謀か!」俺は叫んだ。「独歩は、やっぱりさらわれたんだな。陰謀に巻き込まれて!」
ちろりと長治が俺を見た。
「そこを、俺に調べさせてくんな」
「親分さんに?」
「お前さんに、疑いをかけた詫びだ。それでチャラだ」
おれはじっくりと長治親分を眺めた。長身、がっしりとした肩幅、口元が上にきゅっと上がっている。苦み走ったいい男だ。
危険だ。こんな男に手柄を立てさせたら、危険極まりない。
如信尼様が危ない!
「俺も手伝う」
「ああ? だから言ったろ。これは詫びだと」
そんなこと言って、こいつの腹の中はまるわかりだ。
「親分さん、まさか如信尼様に取り入ろうとしてるんじゃあるまいね」
「ななな、なんてことを言う!」
ドンピシャだ。
「おれも手伝うから」
きっぱりと俺は言い渡した。
「間違って、お前さんを掴まえちまった件だけどよ」
差し出した薄い番茶を啜り、口ごもる。
「詫びといっちゃ、なんだが、独歩のこと、知らべさせてもらえねえか?」
「独歩のこと?」
「ああ。江戸に来るまで、独歩が、どこかの地下牢に監禁されていたことは知っている。それは、出島近辺だと、俺は思うんだが」
いきなり出て来た出島と言う地名に、俺は呆気にとられた。いったい何の話だ?
「出島?」
「お前さん、ほんとうにわかってねえのかい?」
不審気に、いっそ、疑い深い目で俺を眺めまわし、長治が尋ねた。
もちろん俺には、全く、心当たりがない。
あるわけないだろう? 出島っつったら、海を越えた外国だ。
深いため息を、長治は吐いた。
「鎖国」
「はあ?」
「今、この日の本の国は鎖されている。それなのに陶磁器に金を取りつけるなんてことを知ることができたのは、なぜなんだ?」
「えと、」
「鎖国といっても、外国と全く接触がないわけじゃない。幕府、対馬藩、薩摩藩、松前藩が、海外との貿易を行っている。この中で、ヨーロッパを相手にしているのは、江戸幕府だけだ。幕府は、長崎の出島を通して、中国の他にも、オランダと交易している」
「オランダ?」
「ヨーロッパの国だ」
「なるほど」
そういや、殺された三助がそんな話をしていたような……。
「モノは壊れ物だ。外国に輸出する陶磁器は、佐賀の有田はじめ、比較的出島に近いところで作られているとみるのが妥当だろう」
「じゃ、独歩が元いたのは、九州……?」
彼が閉じ込められていた地下牢は、九州にあったのだろうか?
長治は頷いた。
「そう考えれば辻褄が合う。欧州向け陶磁器へ金の加工を施すとよく売れるということは、窯元の他にも、輸出を取り仕切っていた役人や藩士なら知っているだろう。江戸に現れた時、薄汚れてはいたが、独歩の着ていた着物は上物だった。独歩は、欧州への輸出品を作っている藩の藩士か、それ以上の家の子に違えねえ」
それがなんで、地下牢なんかに?
「陰謀か!」俺は叫んだ。「独歩は、やっぱりさらわれたんだな。陰謀に巻き込まれて!」
ちろりと長治が俺を見た。
「そこを、俺に調べさせてくんな」
「親分さんに?」
「お前さんに、疑いをかけた詫びだ。それでチャラだ」
おれはじっくりと長治親分を眺めた。長身、がっしりとした肩幅、口元が上にきゅっと上がっている。苦み走ったいい男だ。
危険だ。こんな男に手柄を立てさせたら、危険極まりない。
如信尼様が危ない!
「俺も手伝う」
「ああ? だから言ったろ。これは詫びだと」
そんなこと言って、こいつの腹の中はまるわかりだ。
「親分さん、まさか如信尼様に取り入ろうとしてるんじゃあるまいね」
「ななな、なんてことを言う!」
ドンピシャだ。
「おれも手伝うから」
きっぱりと俺は言い渡した。
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