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ラスボス

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 「なぜ? なぜ、いつも俺?」
誰かが文句を言っている。

「いいからさっさと治療しろ!」
別の誰かの命じる声。強い焦燥を感じる。

「こんなのかすり傷だ。とっくに治ってるよ!」
 最初の誰かが蹴飛ばした。

「何をする!」
激しい怒声。
「俺に何をするのも自由だ。今までだって、好きにやらせてきた。俺のゾンビ兵を操ることさえ黙認してきた。だか、シグに手を出すことだけは許さない」
「許すも何も、シグモントは完全に元通りだ。わかってるだろ」

 ヴァーツァのゾンビ兵を操った者がいる?
 そしてヴァーツァはそのことを知っていた?
 知っていて、唯々諾々と背中を切らせたというのか? 

 呻き、俺は目を開いた。

「シグ!」

 豪華な金色の髪が覆いかぶさってきた。ヴァーツァだ。ヴァーツァが俺を抱きしめていた。

「馬鹿だな、シグ。俺を庇って……君が死んだら、俺は生きていけないんだ。そこのところを、君はちっともわかってない」

「ちが、……。あなた……の、方が……だいじ」

 うまく口がきけない。
 途切れ途切れになんとか伝えると、ヴァーツァは号泣した。


「いい加減、見せつけるの、やめてくれる?」
 ずけずけと言ってくるやつがいる。
「もう君は治ってるよ。傷は完璧に治癒させておいてやった。恩に着るがいいよ」

「何を言うか! シグに万が一のことがあったら、お前といえど、決して許さない!」

 ヴァーツァの怒りの波動が伝わる。ダメだよ、ヴァーツァ。そんなに怒ったら。

「あれは、事故だっていったろ! 誰がこんな魅力のないのをわざわざ……。僕が狙ったのは、兄さんだ!」

 やっぱり……。
 妙に納得した。

 召喚されたゾンビ兵は、最初、何の気配も漂わせていなかった。気配……エクソシストが感じる、負の怨念だ。彼は全くの死骸、ただのゾンビだった。

 それなのに、最後の一瞬、凄まじい瘴気が立ち昇った。それは、よく知る人の気配だった。俺はこの「気」を良く知っている……。

「バタイユ……やっぱり君だったのか」

「ああ、シグ。良かった。気がついたか」
 俺を抱きしめたヴァーツァの腕の力が強くなる。

「そだよ。僕だよ」
バタイユが笑った。何も知らなければ、天使のような少年の笑顔だ。
「僕の白魔法は完璧だからね。もうすっかり元通りのはずだ。それどころか、前より調子がいいんじゃないか? いつまでも僕の兄さんに、甘えてるんじゃない」

 強引にヴァーツァから引き離そうとする。
 けれどヴァーツァがそれを許さなかった。俺に触れたバタイユの手を叩き落とす。

 俺は自分でヴァーツァの腕をほどき、起き直った。
 本当だ。肩の激痛が消えている。

「シグ……」
 言いかけたヴァーツァを留め、バタイユに向き直った。

「傷を治してくれてありがとう」
「うん。あれは結構な致命傷だったね」

 その傷を負わせた黒幕は誰だと言いたい。けれど、バタイユに常識は通用しない。だったらこちらも、聞きたいことを聞くまでだ。

「なぜ君は、ヴァーツァを殺そうとしたんだ? しかも、二度も」
 戦闘の時と。
 そして、ついさっき。

 バタイユの瞳が赤く輝いた。

「決まってるだろ。どちらも同じさ。移り気な兄さんを、これ以上、人目にさらさない為だ。まったく、君は番犬として失格だな、シグモント。兄さんがアンリ陛下と接触することを、妨害できなかったなんて」






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