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第参柱
第二十七伝 『神力』
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護符を渡す為の条件。使用するには何か必要な物があるという事だろうか。それとも交換条件という事?
朔は考えを巡らせ、ゴクリと唾を飲む。そして双葉は真剣な眼差しを朔へと向けた。
「本当に自分の身が危ない時にだけ使う事。」
「!」
無闇矢鱈に使うなという事か。神の従者が使用する護符は、普通に生活していれば出逢う事のない代物。人知れず妖かし達と対峙してきた神の従者にだけ許される特権。それを一般人が易々と使用して良いはずがない。使用しているところを他者に見られたりするのも問題だ。そういったリスクも避けたいはず。
双葉の一言だけで納得する朔だったが、次に双葉はちゃんと理由も提示してくれる。だがその理由は朔が考えていたものとは違っていた。
「護符は使用する際にも少なからず“神力”を消費するから。」
「…ダメじゃん。俺、神力なんてないし。」
死んだ魚のような目になる朔。
だが双葉は真剣な表情のまま朔を見据える。
「須煌君なら大丈夫だと思う。」
「?」
稲荷神社で光を放つ事が出来たから、という事だろうか。そういえば、先日師走と水無も朔の神力について話していた。朔の神力はまだ目覚めていない、とか何とか。才能がまだ開花されていないという事か?それにしたって稲荷神社の光はまぐれみたいなもの。正しい護符や神力の使い方は分からない。
朔が眉根を寄せているのを横目に、双葉は説明を続ける。
「厳密に言えば、誰しもに少なからず神力は宿ってるものなの。“神力”とは、その名のとおり“神の力”。神様の加護の力。日々の神様への祈りが蓄積されたものだから。」
「!」
双葉の説明に、ハッとなるように目を見開く朔。だが少ししてから怪訝な表情へと変えて小首を傾げた。
「…つまり?」
「・・・・・。」
何だったんだ、今の閃いたような表情は。これには双葉も呆れ顔だ。双葉はハァと溜息を零す。
「平たく言えば、神社や神棚に参る事で蓄積される力って事。」
「!」
双葉の補足説明で理解する朔。今度は本当に納得して小さく『あぁ。』と漏らす。その姿勢を見た双葉は頷きながら別の視点からの説明も加えた。
「逆に言えば、家に神棚もなくて神社に一度も行った事がない人には携わらない力ね。ちなみに、神社でお願い事を叶えるのにも神力を使ってるのよ。」
「そうなの!?」
衝撃の事実発覚だ。
「まぁ大抵の人は神力が足りなくて叶えるに値しないのだけど。」
「どういう事?」
ここでまたもや朔は首を捻る。そして双葉は順を追って丁寧な説明を始めた。
「神力は、ゲームで言うMPみたいなものね。神力の事は…仮にSPとでも言いましょうか?」
「あ、いや。普通に神力でいいです。」
双葉お得意の日常に置き換える説明だ。双葉の口から“ゲーム”という文言が零れたのは少々意外だったが、ファンタジックな世界観である妖かしとの抗争を思い浮かべると、この説明でしっくりとくるものがあった。
ちなみにSPという表現はセキュリティーポリスを連想してしまいそうな上、ゲーム感が溢れすぎて またもや緊張感が薄れそうだった為、やめてもらう事にした。
「人が神社や神棚に祈り、参る事で神力は蓄積される。そしてその蓄積された神力を使って願い事は叶えられるの。けれど願い事の大きさによって使用する神力の量は異なる。願い事のスケールが大きければ大きい程、神力の消費量は膨大に。逆に小さな願い事は少量の消費で事足りるから叶いやすい。」
「ふむ。」
大きな願い事を叶えるのは、ゲームでいう奥義や秘奥義を使用するに値する行為らしい。(ゲージが貯まらないと発動できない、など。)小さな願い事は雑魚とのバトルでも頻繁に使用する技程度。
朔は理解を示し、真面目な顔でうんうんと頷く。
「ただ、願い事を叶えるにしても、それは己の身があってこそ。仮に受験合格、結婚良縁なんかを願うにしても、その身が無ければ叶わないでしょ?だから願いを叶える為に、神様はその身をまず護るだけの力や健康、安全を授けてくれているの。」
祈る回数が多ければ多い程、また、祈りの力が強ければ強い程、神力は蓄積されていき、その力によって人の願いは叶う。
逆に言えば初詣にしか参拝していなければ、願い事を叶えられる程の神力は蓄積されず、願い事を叶えるに値しない。その一年の健康、安全祈願のみになってしまうという事だ。
あまり参拝していないにも関わらず願い事が叶う事があるのは、それまでの蓄積された神力量であったり、本人の努力であったり。あと、日頃の行ないによっては神力が多く貯まったりする事もあるそうだ。
「同じ願い事を二人が同じタイミングで願った時、神力が合わさって願いが叶う、なんて事もあるみたいね。」
「そんな奇跡的な事ある?」
「カップルが二人で一緒に神社に参って、たまたま二人の願いが“彼氏・彼女と結婚出来ますように”って願うとか。」
「ああ~なるほど。」
「これは聞いた話だけど、別れたカップルが同じタイミングで“よりを戻したい”って願って、復縁した事もあるそうよ。」
「…それは奇跡だね。」
俗に言う“運命”というやつなのだろう。切っても切れない縁、“腐れ縁”という場合もあるかもしれない。
朔はいまだそんな体験をした事どころか、そこまで想う人物に出逢った事はないが、理解出来なくはなかった。
「そして護符の使用にも神力を使う。けれど神力は無尽蔵じゃない。ここで注意して欲しいのは、願い事を叶える為には最低限の健康・安全祈願に必要な神力を残して叶えてくれるのに対して、護符を使用する場合の神力消費は、そういった身の保証を残す事なく使うという事。」
「それって…。」
「そう。今まで神様に捧げ、貯めてきた神力を全て消費しきってしまう可能性がある。すなわち、身を護る為の神様のご加護が無くなってしまうって事よ。」
「!」
熊那神社で話を聞いた翌日、双葉は準備をする為に学校を欠席していた。それは護符の準備もそうだったかもしれないが、神力を貯めるという行為そのものが必要だったのかもしれない。朔はその質問を挟もうとするが、その隙なく双葉は説明を続ける。
「勿論、神力が無くなったからと言ってHP、生命力がゼロになるわけじゃない。身の安全や健康が完全に損なわれるわけではないけど、ご加護が薄れるという事だから。須煌君の場合、その分、妖かしからの危険を高めてしまう可能性がある。だから念の為、本当に身の危険が迫った時にだけ使用して欲しいの。」
「…なんかそれ聞いて不安になってきたんだけど。使って大丈夫かな…。」
青ざめた顔で引きつり笑いを浮かべる朔。だが双葉は微笑を浮かべて首を横に振った。
「須煌君、辻川沼で正しい手順で社にお参りしてたでしょう?年に何度かは神社に参拝してるんじゃない?」
「!」
「定期的に参拝してるなら、それなりに神力は蓄積されてるから大丈夫。」
実際に護符を作り、使用している双葉が言うのだ。大丈夫だと確信する。朔は双葉の言葉を信じて頷いた。
そしてここで朔の中にふと思いついた事があった。
「じゃあもしかして、参拝する回数が多かったら俺も護符作れたりする?」
その質問には双葉は少し眉根を寄せて考えるような素振りを見せる。だがやがて静かに首を横に振った。
「・・・・護符を作る為には日々蓄積された神力だけじゃなく、その神力を護符に留める技が必要になる。」
「そっか。技を会得してない俺には無理か。」
「・・・・・。」
再び考え込むように俯く双葉。その様子を見て朔は双葉の顔を覗き込む。
「どうかした?」
「あ、いえ、なんでも。護符は使用するだけなら、ある程度の神力があれば大丈夫。年に何度か参拝してるなら、それだけ神力は貯まっているから。」
「分かった。ありがとう。」
それから双葉は護符の使い方について説明してくれた。
ひととおり護符や神力についての話を終えて二人は校舎裏を後にする。
誰にも目撃される事なく平穏無事に、話し終えたと思っていた朔。だが二人の姿を一人の女生徒が目撃していた。
朔は考えを巡らせ、ゴクリと唾を飲む。そして双葉は真剣な眼差しを朔へと向けた。
「本当に自分の身が危ない時にだけ使う事。」
「!」
無闇矢鱈に使うなという事か。神の従者が使用する護符は、普通に生活していれば出逢う事のない代物。人知れず妖かし達と対峙してきた神の従者にだけ許される特権。それを一般人が易々と使用して良いはずがない。使用しているところを他者に見られたりするのも問題だ。そういったリスクも避けたいはず。
双葉の一言だけで納得する朔だったが、次に双葉はちゃんと理由も提示してくれる。だがその理由は朔が考えていたものとは違っていた。
「護符は使用する際にも少なからず“神力”を消費するから。」
「…ダメじゃん。俺、神力なんてないし。」
死んだ魚のような目になる朔。
だが双葉は真剣な表情のまま朔を見据える。
「須煌君なら大丈夫だと思う。」
「?」
稲荷神社で光を放つ事が出来たから、という事だろうか。そういえば、先日師走と水無も朔の神力について話していた。朔の神力はまだ目覚めていない、とか何とか。才能がまだ開花されていないという事か?それにしたって稲荷神社の光はまぐれみたいなもの。正しい護符や神力の使い方は分からない。
朔が眉根を寄せているのを横目に、双葉は説明を続ける。
「厳密に言えば、誰しもに少なからず神力は宿ってるものなの。“神力”とは、その名のとおり“神の力”。神様の加護の力。日々の神様への祈りが蓄積されたものだから。」
「!」
双葉の説明に、ハッとなるように目を見開く朔。だが少ししてから怪訝な表情へと変えて小首を傾げた。
「…つまり?」
「・・・・・。」
何だったんだ、今の閃いたような表情は。これには双葉も呆れ顔だ。双葉はハァと溜息を零す。
「平たく言えば、神社や神棚に参る事で蓄積される力って事。」
「!」
双葉の補足説明で理解する朔。今度は本当に納得して小さく『あぁ。』と漏らす。その姿勢を見た双葉は頷きながら別の視点からの説明も加えた。
「逆に言えば、家に神棚もなくて神社に一度も行った事がない人には携わらない力ね。ちなみに、神社でお願い事を叶えるのにも神力を使ってるのよ。」
「そうなの!?」
衝撃の事実発覚だ。
「まぁ大抵の人は神力が足りなくて叶えるに値しないのだけど。」
「どういう事?」
ここでまたもや朔は首を捻る。そして双葉は順を追って丁寧な説明を始めた。
「神力は、ゲームで言うMPみたいなものね。神力の事は…仮にSPとでも言いましょうか?」
「あ、いや。普通に神力でいいです。」
双葉お得意の日常に置き換える説明だ。双葉の口から“ゲーム”という文言が零れたのは少々意外だったが、ファンタジックな世界観である妖かしとの抗争を思い浮かべると、この説明でしっくりとくるものがあった。
ちなみにSPという表現はセキュリティーポリスを連想してしまいそうな上、ゲーム感が溢れすぎて またもや緊張感が薄れそうだった為、やめてもらう事にした。
「人が神社や神棚に祈り、参る事で神力は蓄積される。そしてその蓄積された神力を使って願い事は叶えられるの。けれど願い事の大きさによって使用する神力の量は異なる。願い事のスケールが大きければ大きい程、神力の消費量は膨大に。逆に小さな願い事は少量の消費で事足りるから叶いやすい。」
「ふむ。」
大きな願い事を叶えるのは、ゲームでいう奥義や秘奥義を使用するに値する行為らしい。(ゲージが貯まらないと発動できない、など。)小さな願い事は雑魚とのバトルでも頻繁に使用する技程度。
朔は理解を示し、真面目な顔でうんうんと頷く。
「ただ、願い事を叶えるにしても、それは己の身があってこそ。仮に受験合格、結婚良縁なんかを願うにしても、その身が無ければ叶わないでしょ?だから願いを叶える為に、神様はその身をまず護るだけの力や健康、安全を授けてくれているの。」
祈る回数が多ければ多い程、また、祈りの力が強ければ強い程、神力は蓄積されていき、その力によって人の願いは叶う。
逆に言えば初詣にしか参拝していなければ、願い事を叶えられる程の神力は蓄積されず、願い事を叶えるに値しない。その一年の健康、安全祈願のみになってしまうという事だ。
あまり参拝していないにも関わらず願い事が叶う事があるのは、それまでの蓄積された神力量であったり、本人の努力であったり。あと、日頃の行ないによっては神力が多く貯まったりする事もあるそうだ。
「同じ願い事を二人が同じタイミングで願った時、神力が合わさって願いが叶う、なんて事もあるみたいね。」
「そんな奇跡的な事ある?」
「カップルが二人で一緒に神社に参って、たまたま二人の願いが“彼氏・彼女と結婚出来ますように”って願うとか。」
「ああ~なるほど。」
「これは聞いた話だけど、別れたカップルが同じタイミングで“よりを戻したい”って願って、復縁した事もあるそうよ。」
「…それは奇跡だね。」
俗に言う“運命”というやつなのだろう。切っても切れない縁、“腐れ縁”という場合もあるかもしれない。
朔はいまだそんな体験をした事どころか、そこまで想う人物に出逢った事はないが、理解出来なくはなかった。
「そして護符の使用にも神力を使う。けれど神力は無尽蔵じゃない。ここで注意して欲しいのは、願い事を叶える為には最低限の健康・安全祈願に必要な神力を残して叶えてくれるのに対して、護符を使用する場合の神力消費は、そういった身の保証を残す事なく使うという事。」
「それって…。」
「そう。今まで神様に捧げ、貯めてきた神力を全て消費しきってしまう可能性がある。すなわち、身を護る為の神様のご加護が無くなってしまうって事よ。」
「!」
熊那神社で話を聞いた翌日、双葉は準備をする為に学校を欠席していた。それは護符の準備もそうだったかもしれないが、神力を貯めるという行為そのものが必要だったのかもしれない。朔はその質問を挟もうとするが、その隙なく双葉は説明を続ける。
「勿論、神力が無くなったからと言ってHP、生命力がゼロになるわけじゃない。身の安全や健康が完全に損なわれるわけではないけど、ご加護が薄れるという事だから。須煌君の場合、その分、妖かしからの危険を高めてしまう可能性がある。だから念の為、本当に身の危険が迫った時にだけ使用して欲しいの。」
「…なんかそれ聞いて不安になってきたんだけど。使って大丈夫かな…。」
青ざめた顔で引きつり笑いを浮かべる朔。だが双葉は微笑を浮かべて首を横に振った。
「須煌君、辻川沼で正しい手順で社にお参りしてたでしょう?年に何度かは神社に参拝してるんじゃない?」
「!」
「定期的に参拝してるなら、それなりに神力は蓄積されてるから大丈夫。」
実際に護符を作り、使用している双葉が言うのだ。大丈夫だと確信する。朔は双葉の言葉を信じて頷いた。
そしてここで朔の中にふと思いついた事があった。
「じゃあもしかして、参拝する回数が多かったら俺も護符作れたりする?」
その質問には双葉は少し眉根を寄せて考えるような素振りを見せる。だがやがて静かに首を横に振った。
「・・・・護符を作る為には日々蓄積された神力だけじゃなく、その神力を護符に留める技が必要になる。」
「そっか。技を会得してない俺には無理か。」
「・・・・・。」
再び考え込むように俯く双葉。その様子を見て朔は双葉の顔を覗き込む。
「どうかした?」
「あ、いえ、なんでも。護符は使用するだけなら、ある程度の神力があれば大丈夫。年に何度か参拝してるなら、それだけ神力は貯まっているから。」
「分かった。ありがとう。」
それから双葉は護符の使い方について説明してくれた。
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