2 / 153
第1章「ロンリーカナリア」
第2話 「おれの妹に、恋している女」
しおりを挟む(Khusen RustamovによるPixabayからの画像 )
清春の気配に気づいた佐江は、くっきりした二重まぶたの目線を上げ、たちまちいつものきれいな顔を取り戻した。
秀《ひい》でた額、つんとした鼻、くっきりした二重《ふたえ》まぶたの瞳。貴族的な高い頬骨の上にだけ、かすかに涙のあとが残っていた。
佐江は百七十センチ近い長身をすっきりと伸ばして立ち上がり、それから目の前に親友の兄の姿をみとめて驚いたようだった。
「キヨさん。ご無沙汰しています」
「久しぶりだね、佐江ちゃん」
そう言う清春の声はわずかにかすれている。
軽く頭を下げた岡本佐江の顔からは、もうあの途方《とほう》に暮れた少女はどこにも見つからない。
清春はゆっくりと佐江に近づいた。
「さっき、あそこで真乃《まの》と話していただろ? おれもいろいろ気になるんだ。ちょっと話を聞かせてくれる?」
清春はさりげなく続けた。
「十分後に、ここで会おう。おれの仕事はもう終わりなんだ。真乃(まの)についての話だから、きみ、逃げないだろう?」
ふっと、佐江はきれいに描いた眉をひそめた。
「逃げる? 人聞きが悪い言い方ですね」
「なんとでも言うといい。先に消えるのは、礼儀知らずだぜ?」
清春はそういいながら、さりげなく佐江の後ろに立ち、退路を断《た》った。
こういう時は、女に何もいわせないほうが話が早い。清春は、話の本題に入る前にグダグダとしゃべりたがる女が苦手だった。
その点、岡本佐江は余計なことを言わない女だ。それどころか、清春が知りたいと思う事もろくに話さない。
清春は岡本佐江の口の堅さに敬服している。
★★★
佐江を連れてコルヌイエホテルを出ると、清春は大通りをへだてたカフェに連れて行った。小さなカフェに座ると、単刀直入に知りたかったことをたずねる。
「真乃《まの》は、きゅうにアメリカから帰国した理由をきみに言った?」
佐江はきらりと目を光らせて、あからさまに警戒している様子を見せた。
「キヨさん、真乃からは聞いていないんですか?」
佐江は清春の質問に対して質問で答えた。
人が、こんなふうに質問に質問で答えるときは何かを隠している時だ。岡本佐江は確実に清春の知りたいことを知っている。
コーヒーを飲みながら、清春は佐江を見た。
至近距離から見ると、岡本佐江は非の打ちどころのない美人だった。
清春の妹の真乃も美しいと言われるが、真乃にはどこか気安《きやす》い雰囲気がある。
いっぽう岡本佐江の美貌は貴族的な整然とした美しさだった。あまりにも完璧すぎて、見ているほうが気おくれするほどだ。
「きみは真乃の親友だろ。さっきも二人で顔を突き合わせて、仲良くしゃべってたじゃないか」
清春が一歩踏み込んで尋ねると、佐江はひらりと身をかわして
「ただの話ですよ。三か月ぶりに友人が日本に戻ってきたら、近況報告をするのは当たり前でしょう」
と切り返して来た。
そうだね、と音もたてずに清春はカップを受け皿にもどした。佐江はどうあっても真乃との会話の内容を話すつもりがないらしい。
真乃を守るためだろう、と清春は思った。
清春の異母妹は、腹立たしいほどに、岡本佐江のすべてを支配している。
佐江は。
真乃に恋しているのだ。もう11年も――。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
