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第2章「白日の影のごとく」
第19話「唯一無二の切り札」
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(UnsplashのLukas Eggersが撮影)
ふと、聡は音也から同じような冷たい目つきで見られたことを思い出す。
票のために肉も骨も売れ、と音也に言われた時だ。
そして音也にさげすまれるように見られながら、自分の身体が否定しようもないほどに反応したことを聡は思い出す。
ぞくっと、ふたたび暗い歓びの影が落ちた。
そのとき、聡に見られていると気がついていない音也が厳しい声で今野にいった。
「コン、おまえ紀沙さんが亡くなったのをいいことに、環ちゃんに、手を出すなよ」
「……へ? かわいい女の子を見たら興味を示すって、たんなる礼儀でしょ」
音也が、もう慮もなく今野の後頭部をひっぱたいた。
隣にいる環は目を丸くして音也を見ている。
今野が大仰に頭を抱えて叫んだ。
「痛ってぇ! ああ、じゃあもうなんにも言いません、言いませんよ! まったく、音也さんだって環ちゃんの兄貴でもないくせに」
「ここにいるのが聡なら、おまえは何されても文句は言えないぞ」
「わかってますよ。ちぇっ、他の人が見たら音也さんが環ちゃんに惚れてんのかと思いますよ」
「ばーか」
と言い捨てて、音也は車の鍵を今野に放り投げた。
「車を裏にしまって来い。すんだら事務所で打合せだぞ」
「ちぇっ。パシリだな」
今野の言葉に、音也は両手をパンツのポケットに突っ込んだまま笑った。
あたりが輝くような笑いだった。
それから表情をあらためて今野に向かい
「他のやつじゃない、松ヶ峰聡のパシリだ。光栄に思え」
今野が、にぎやかにぶつぶつ言いながら屋敷裏のガレージへ消えると、音也は環を見た。
環が不思議そうに、
「……なにか、音也さん?」
「いや、何でもない。だけど環ちゃん、できるだけコンとは二人きりにならないで欲しい」
環はだ。光栄に思え」一重《ひとえ》まぶたのポッテリした目で、音也を見つめ返した。
「……サト兄さんが怒るからですか」
「いいや。きみが俺にとって、唯一無二の切り札だからだ。替えのきかない切り札だからだよ」
そう言うと、楠音也は端正な口元をわずかに曲げた。
口の中ににがい味がしたように、音也の顔がゆがむのを聡は遠くから見ていた。
……気に入らない。
音也のあの顔つきは、聡の気に入らない。
あの顔は、音也が凶悪なことを考えている時の顔つきだ。
そして、楠音也は本気になったら、どんなひどいことでもやる。
音也とはもう十年の付き合いになる親友の聡が、一番よく知っている。
ふと、聡は音也から同じような冷たい目つきで見られたことを思い出す。
票のために肉も骨も売れ、と音也に言われた時だ。
そして音也にさげすまれるように見られながら、自分の身体が否定しようもないほどに反応したことを聡は思い出す。
ぞくっと、ふたたび暗い歓びの影が落ちた。
そのとき、聡に見られていると気がついていない音也が厳しい声で今野にいった。
「コン、おまえ紀沙さんが亡くなったのをいいことに、環ちゃんに、手を出すなよ」
「……へ? かわいい女の子を見たら興味を示すって、たんなる礼儀でしょ」
音也が、もう慮もなく今野の後頭部をひっぱたいた。
隣にいる環は目を丸くして音也を見ている。
今野が大仰に頭を抱えて叫んだ。
「痛ってぇ! ああ、じゃあもうなんにも言いません、言いませんよ! まったく、音也さんだって環ちゃんの兄貴でもないくせに」
「ここにいるのが聡なら、おまえは何されても文句は言えないぞ」
「わかってますよ。ちぇっ、他の人が見たら音也さんが環ちゃんに惚れてんのかと思いますよ」
「ばーか」
と言い捨てて、音也は車の鍵を今野に放り投げた。
「車を裏にしまって来い。すんだら事務所で打合せだぞ」
「ちぇっ。パシリだな」
今野の言葉に、音也は両手をパンツのポケットに突っ込んだまま笑った。
あたりが輝くような笑いだった。
それから表情をあらためて今野に向かい
「他のやつじゃない、松ヶ峰聡のパシリだ。光栄に思え」
今野が、にぎやかにぶつぶつ言いながら屋敷裏のガレージへ消えると、音也は環を見た。
環が不思議そうに、
「……なにか、音也さん?」
「いや、何でもない。だけど環ちゃん、できるだけコンとは二人きりにならないで欲しい」
環はだ。光栄に思え」一重《ひとえ》まぶたのポッテリした目で、音也を見つめ返した。
「……サト兄さんが怒るからですか」
「いいや。きみが俺にとって、唯一無二の切り札だからだ。替えのきかない切り札だからだよ」
そう言うと、楠音也は端正な口元をわずかに曲げた。
口の中ににがい味がしたように、音也の顔がゆがむのを聡は遠くから見ていた。
……気に入らない。
音也のあの顔つきは、聡の気に入らない。
あの顔は、音也が凶悪なことを考えている時の顔つきだ。
そして、楠音也は本気になったら、どんなひどいことでもやる。
音也とはもう十年の付き合いになる親友の聡が、一番よく知っている。
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