「何もない、静かな部屋」 キスを待つ頬骨シリーズ2.5

水ぎわ

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第13章「姫の逆襲」

第113話「落ちちまえ」

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 環の一重《ひとえ》の目がくっきりと見ひらかれた。

「御稲《みしね》先生の、恋人? 亡くなられた鹿島《かしま》幹事長の弟さんが、ですか?」
「もう30年以上前の話だけれどもね。かなりだったみたいだぜ。
 その証拠に、鹿島史郎さんが亡くなったあと、北方さんは、いま住んでいる覚王山の土地と軽井沢の別荘をもらっている。
 一種の手切れ金だな。それだけのものを渡すほど、鹿島家にとっては大きな存在だったんだろう」
「そんな……」

 環は両目にうっすらと涙を浮かべた。今野は環に軽くのしかかったまま、大きな手でゆっくりとその目じりをぬぐってやる。
それからアンティークのロレックスをしめして、

「この時計も、けっこう高額なんだ。状態の良いアンティークものは数千万円クラスになる。最低でも400万くらいで売れる。
 鹿島家からの形見分《かたみわ》け、だとしてもおかしくない」
「かたみ」

 環は呆然と今野の言葉を繰り返している。よほどショックだったのだろう。
 今野は、環をあらためて、しっかりと抱きしめた。

「気になるなら、北方さんに聞くといいよ。一人が不安なら、俺が一緒について行く」


 今野の腕の中で小さくなっていた環は、ふと顔を上げて今野を見た。

「いっしょに? ほんとうに?」
「ああ」

 今野はにやりとした。

「俺は君のナイトだから。連れていきなよ、けっこう役に立つぜ?」

 今野のふざけた言い方に、環はふわっと笑った。
 それだけでもう、今野は嬉しくてたまらない。もう一度ディープなキスをしようと、顔を寄せる。

 ゆっくりと手を伸ばして環の身体にふれた。
 ほんの数時間前、今野の熱によってロストヴァージンしたばかりの環は、ふんわりした身体をびくりとふるわせた。
 そのふるえが、恐怖や嫌悪から来たものではないことくらい、今野にもわかる。
 若い男の欲情が、ひそかに舌なめずりをする。

「……してえ。たまきちゃん」

 今野が指先に意識を凝《こ》らして、環を撫で上げたとき、ブン! とデニムのポケットでスマホが鳴った。
 そしらぬふりで、撫で続ける。。
 じんわりと、環の中から快楽がにじみはじめるのが、わかった。

 今野の指がなめらかに動くようになり、スピードをゆるめたまま、縦横に肌の上をすべる。

「や……あ……っ。今野さん、でんわが」
「いいよ。どうせあれは、メッセージの着信だから」
「でも、お仕事かも……あっ……んんっ」
「仕事なんかより、こっちのほうが大事だよ」

 目の前の環が甘くもだえるのと、身体の奥からためらいがちな潤いが満ちてくるのが、たまらないほどに悩ましい。
 男を狂わせる、少女の媚態だ。

「これ、すき? 環ちゃん」
「そういうことは……言いたくありません……っ」
「言ってよ。言ってくれたほうが、男は興奮するんだよ。言わなきゃ、ここでおしまいにするよ」

 すっと今野は指を引いた。
 突然、愛撫をとめられて、環の吐息が宙に浮く。

「は……」

今野はそっと、ささやきこんだ。

「欲しいだろ、俺の指が。わかるんだぜ環ちゃん、きみがおれを欲しがっているのは、分かるんだ」

 ひた、と今野はもう一度、環の中心に指をあてた。
 男の指でそそられ、欲情をあらわにされかけた少女の熱が、今野をなぎ倒すほどに艶《つや》めかしい。

「ほら。落ちちまえ。君はもう、俺のものなんだ」
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