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第18章「コルヌイエホテルにて」
第160話「君は、ただの女の子じゃない」
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(UnsplashのLiane Metzlerが撮影)
城見は記憶を確かめるように、
「13年前、君が『藤娘《ふじむすめ》』をおどっている動画を、俺は何百回も見た。舞台上での君のしぐさを完璧に記憶した。その動きが『ゴーレディ』を撮影したとき、頭に残っていたんだろう。
あの映画の子役アクションには『日舞《にちぶ》のような優雅さがある』と評価された。
あちこちの映画祭で好意的に取り上げられたね、『日本と香港《ホンコン》アクションの融合』と言われたよ」
環の手に乗った白い玉を見て、城見の目じりのしわが一層深くなる。吸い込まれそうな、目元だ。
「この玉《ぎょく》はね、君が生まれたときに香港で買ったものだ。
玉《ぎょく》には『持ち主の身代わりになるという言いつたえがある。持ち主に危険がせまると、玉がかわりに割れて災難をかぶってくれるそうだよ。
君が生まれたとき、俺はこの玉を買った。君に渡したいと思っていたが、連絡を取ることはできなかった。
かわりに、俺はこの玉《ぎょく》を身につけた女の子たちを映画に出した。
端役《はやく》のこともあったが、10秒でもいいから、彼女たちを画面に出しつづけた。
『白玉環の少女』は君と同じ年齢の、君に面差《おもざ》しが似ている女の子たちだ。
紀沙が映画を見てくれれば、あの子たちを通じて、俺が娘を愛していることが伝わると思ったんだ」
ほろっと、環の目から涙がこぼれた。それを城見の指がぬぐいとっていく。
環はつぶやいた。
「ずっと、私のことをおぼえていてくださったんですか」
「当たり前だ、一瞬だって君と紀沙のことを忘れたことはない。
君は俺の、たった一人のこどもだ。
この世でただひとり愛した女の血を継ぐひとだ。
ただの女の子じゃない、俺の、むすめなんだ」
環は白玉環の入っているケースを胸に押し当て、ぽろぽろと泣いていた。
その涙を、城見はさっき環から受け取ったばかりの紀沙の白いハンカチでやさしくぬぐっていた。
3歳の環がころんで泣いていた時に、してやりたかったように。
5歳の環が初めての幼稚園で泣きだした時に駆けつけたかったように。
7歳の、10歳の、15歳の環にしてやりたかったすべてのことを、城見は白いリネンのハンカチにこめて、24歳になった娘の涙をぬぐい続けていた。
それからふと日本庭園の向こう側を眺めてつぶやいた。
「環、君、ひょっとして連《つ》れがいる?」
城見は記憶を確かめるように、
「13年前、君が『藤娘《ふじむすめ》』をおどっている動画を、俺は何百回も見た。舞台上での君のしぐさを完璧に記憶した。その動きが『ゴーレディ』を撮影したとき、頭に残っていたんだろう。
あの映画の子役アクションには『日舞《にちぶ》のような優雅さがある』と評価された。
あちこちの映画祭で好意的に取り上げられたね、『日本と香港《ホンコン》アクションの融合』と言われたよ」
環の手に乗った白い玉を見て、城見の目じりのしわが一層深くなる。吸い込まれそうな、目元だ。
「この玉《ぎょく》はね、君が生まれたときに香港で買ったものだ。
玉《ぎょく》には『持ち主の身代わりになるという言いつたえがある。持ち主に危険がせまると、玉がかわりに割れて災難をかぶってくれるそうだよ。
君が生まれたとき、俺はこの玉を買った。君に渡したいと思っていたが、連絡を取ることはできなかった。
かわりに、俺はこの玉《ぎょく》を身につけた女の子たちを映画に出した。
端役《はやく》のこともあったが、10秒でもいいから、彼女たちを画面に出しつづけた。
『白玉環の少女』は君と同じ年齢の、君に面差《おもざ》しが似ている女の子たちだ。
紀沙が映画を見てくれれば、あの子たちを通じて、俺が娘を愛していることが伝わると思ったんだ」
ほろっと、環の目から涙がこぼれた。それを城見の指がぬぐいとっていく。
環はつぶやいた。
「ずっと、私のことをおぼえていてくださったんですか」
「当たり前だ、一瞬だって君と紀沙のことを忘れたことはない。
君は俺の、たった一人のこどもだ。
この世でただひとり愛した女の血を継ぐひとだ。
ただの女の子じゃない、俺の、むすめなんだ」
環は白玉環の入っているケースを胸に押し当て、ぽろぽろと泣いていた。
その涙を、城見はさっき環から受け取ったばかりの紀沙の白いハンカチでやさしくぬぐっていた。
3歳の環がころんで泣いていた時に、してやりたかったように。
5歳の環が初めての幼稚園で泣きだした時に駆けつけたかったように。
7歳の、10歳の、15歳の環にしてやりたかったすべてのことを、城見は白いリネンのハンカチにこめて、24歳になった娘の涙をぬぐい続けていた。
それからふと日本庭園の向こう側を眺めてつぶやいた。
「環、君、ひょっとして連《つ》れがいる?」
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