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第1章「まず、キスから始めよう 」~佐江×清春 編
第14話「逃がしたくない。どこへも。」
しおりを挟む清春は、ぐいっと身体を自宅リビングのバーカウンターの上に乗せて、妹の親友・佐江の高雅な美貌に顔を寄せた。
甘い、花の香りが清春の鼻腔をくすぐる。
かぎなれた匂い。
わかった。これは真乃が普段つかっているトワレだと思った瞬間、清春は岡本佐江の小さなあごを掴みあげていた。
佐江は、恋しい人の香りを身につけている。
永遠にかなわない片恋に、せめて鼻先だけでも夢を見させてやるためだろう。
「真乃《まの》のこと、一晩でいいから忘れてみろよ。きっと楽になるぜ」
清春はバーカウンターに百八十五センチの長身を乗せたまま、長い指で佐江の唇に乗った口紅をぬぐい取った。
「男は——女にキスをするときには唇に紅が残っていないほうがいいと思っている。
柔らかい唇を存分に味わいたいからだ」
じっと佐江を見つめながら、清春は紅がついた指先をそのまま自分の唇にあてた。低い音を立てて、指先にキスをする。
男の長い指を、岡本佐江は呆然と見つめていた。
清春はにやりと口角を引き上げ、
「そうか、きみ、男とキスもしたことがないな」
「あるわ」
佐江が食い気味に答えるのを聞いて、清春は低い声で笑った。
かわいらしい。
この少女のような女が、本気でかわいらしい、と思ったからだ。
「ちがうよ。真乃とのキスは、数に入れるな。あれはきみだけのもので、きみの人生で一番だいじなキスだろう。そうじゃなくて――」
清春は言葉を切り、佐江の顎をしっかりとつかみなおした。
佐江が、どこにも逃げられないように。
逃がしたくない。どこへも。
「欲情で、するキスだ。お互いをそそるためにするキスのことだよ」
こくり、と佐江が唾をのむ音が聞こえた。大きな二重《ふたえ》の目が見開かれ、まるで何かに供される生贄(いけにえ)のようにおびえている。
清春の目は、もう佐江の唇から離れられない。ひたと視線を据えて、じりじりと距離を詰めていく。
「佐江ちゃん。キス、してみるか」
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