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魔族の少女リリス
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「ここがリロックか……予想はしていたが、かなり賑わっているのだな」
「長年の苦しみから解放されたんだ。そりゃバカ騒ぎしたくもなるだろうさ」
晴れ渡る空。石畳で舗装された道。中央広場に配置された荘厳な大樹。そしてレンガ造りの街並みを騒がしく彩る民の数々…。この国は武器防具の生産が盛んで、一年前に行われた魔王軍と人間軍との戦争による特需の影響で大いに活気づいていた。
そんなリロックの玄関口でもあるこの街ラウルの、上述した中央広場にそびえる大樹の下にて…一人の小柄な青髪の少女リリスと、全身が茶色の体毛で覆われ2メートルはあろう巨大な体躯を持った、人型のオオカミのような男ヴェルは横並びに屹立していた。
「それにしてもよ…お嬢。その格好は明らかに怪しすぎるんじゃねぇか?全身真っ黒のローブに杖って……完全にカタギじゃないわ…」
「貴様もそんな鋼の鎧でガチガチに固めて、十分怪しいではないか!そもそも人間ですらないし……一発でアウトだアウト!!」
「そ、そんなムキになるなって!!この街にも獣人族割といるからセーフだよ!!………それで、情報は確かなのか?ラウルの領主が人装器使いだってやつ…」
「あぁ。…というか、あまりに危険な為 本来平民達による売買が禁じられているクラッドが、この街の中だけは領主の公認の下、当然のように売られているのがそもそもおかしい」
「そんな事認めた上で街の管理が出来るのは、クラッドを誰よりも詳しく知っている人間、若しくは”実際に所持している”人間…って訳か」
ヴィルはそう言うと腕を組んで唸った。
いつしか街行く人々の視線は、明らかに見慣れない風貌の二人に熱く注がれ始めていた。
「ヴィル。そろそろ怪しまれ具合が尋常ではないぞ…先を急ごう」
「え~?絶対お嬢が怪しまれてるんだって!!だって俺の他にも獣人族が…」
「いいや、貴様が獣過ぎるのが悪い!!ほら行くぞ!」
声を荒らげてヴィルを叱咤すると、リリスは彼の右手を掴み早歩きで進行を始めたのだった。
◇◆◇
「さあさあさあ!!どんどん見て買ってくれよぉ!質の良い武器揃ってるよぉ!!」
街を北に進んでいくと、武器防具屋が夥しいほどに立ち並ぶ通りに入った。
中央の石畳を挟み込んで遥か彼方まで軒を連ねている…恐ろしい競争率である。
そんな店を訪ねる人々は、見る限り屈強な男達ばかり…。中には明らかに蛮族のような風貌の者や、荘厳な鋼の鎧を身に纏った騎士など……そんな多種多様な者達で通りは溢れかえっていたのだった。
「すっげぇな……何か”本場”って感じがするな…!!お、そうだお嬢。何か武器一つぐらい買っていったら?」
「フフフ……ぬかせ。武器などなくとも、私の磨きぬかれた魔術と体術を以てすれば…この世の森羅万象全てを蹂躙することも可能なのだ」
「はいはい最強最強。ちょっと良い感じの武器探してくるわ!その辺で待っててくれ」
「軽くあしらうのは禁忌の所業だぞ馬鹿者!!」
ヴィルは笑いながらリリスの下を離れて武器を物色しに向かった。他人の波に押されて思うように進めていないようだが…。
一人取り残された彼女はブツブツと文句を羅列しながら、キョロキョロと辺りを見渡していた。
「くっ……あそこまで愚弄されるとは……!屈辱の極みだ全く…」
すると突然、左方から野太い男の声が飛んできた。
「おー!!この通りに娘さんとは珍しいなぁ!…杖持ってるって事は…魔術師かい?ウチは杖も結構扱ってるから、ちょっと見てったらどうだい?」
振り向くと、そこには上半身裸にスキンヘッドという恐ろしく暑苦しい店主が満面の笑みで手招きしていた。
「……………そう…だな」
このままここに立ち往生していては通行の妨げになる。それにこの街で売られている武器がどのようなものか…多少の興味もあった。数秒の葛藤を経てリリスは人の合間を縫って、その声の主の下へと移動した。
「杖だけじゃなく、勿論大剣や弓なんかもある。店の前列に並んでる武器はどれも良質で扱いやすいもんばっかりだ!じっくり吟味するといいよ」
「ほお……では見させて貰おう」
横に伸びた膝丈程の台の上に、赤い布が被さった展示スペース。その上には、店主が言うとおり洗練された美しい刃を持った剣や見るからに丈夫そうな弓が数多く並んでいた。しかし己の杖に絶対的な自信と誇りを持つリリスには杖を買い換えるという選択肢など毛頭無かった。ただの物色である。
「…並べ方は雑だが、確かに素人目からしても良い品ばかりだな」
「だろ!?ちょっと値は張るが、それ以上の価値はあるぜ!」
「…ん?」
ふと、何かを感じた。夥しい程の負の感情が入り混じったような……一言で言うなら、”殺気”。
そんな違和感をリリスは感じ取ったのだ。
そしてその発生源は、どうやら店の奥の床に乱雑に置かれている……ボロボロの鞘に入ったダガーからであった。
「すまない店主。あの武器は…何だ?」
「え?……あぁ、あのダガーは売り物にすらならないガラクタだよ。知り合いの武器屋からたまたま貰ったんだが、刃こぼれも酷いし造りも雑で…」
「あれを貰おう」
「……へ?」
「あのダガー、いくらだ?」
リリスは迷うことなく、懐から金銭の入った小袋を取り出した。
店主は動揺を隠しきれず、身振り手振りで言葉を重ねた。
「ほ、本当にあんなんでいいのかい!?杖じゃなくて…」
「杖なら間に合っている。とにかくあれを譲ってくれ」
「………はぁ……なら、別にタダでいいよ。あんなもん置いといても何の得にもならないしな」
「そうか。では遠慮なく頂こう…邪魔したな」
店主は渋々ダガーを手に取り リリスに渡した。
彼女は静かに鞘から本体を抜き取り……空から降り注ぐ陽光に翳した。
「………一刻も早く…救ってやらなければな」
そのダガーからの殺気は、先程よりも強く流れていた。
「長年の苦しみから解放されたんだ。そりゃバカ騒ぎしたくもなるだろうさ」
晴れ渡る空。石畳で舗装された道。中央広場に配置された荘厳な大樹。そしてレンガ造りの街並みを騒がしく彩る民の数々…。この国は武器防具の生産が盛んで、一年前に行われた魔王軍と人間軍との戦争による特需の影響で大いに活気づいていた。
そんなリロックの玄関口でもあるこの街ラウルの、上述した中央広場にそびえる大樹の下にて…一人の小柄な青髪の少女リリスと、全身が茶色の体毛で覆われ2メートルはあろう巨大な体躯を持った、人型のオオカミのような男ヴェルは横並びに屹立していた。
「それにしてもよ…お嬢。その格好は明らかに怪しすぎるんじゃねぇか?全身真っ黒のローブに杖って……完全にカタギじゃないわ…」
「貴様もそんな鋼の鎧でガチガチに固めて、十分怪しいではないか!そもそも人間ですらないし……一発でアウトだアウト!!」
「そ、そんなムキになるなって!!この街にも獣人族割といるからセーフだよ!!………それで、情報は確かなのか?ラウルの領主が人装器使いだってやつ…」
「あぁ。…というか、あまりに危険な為 本来平民達による売買が禁じられているクラッドが、この街の中だけは領主の公認の下、当然のように売られているのがそもそもおかしい」
「そんな事認めた上で街の管理が出来るのは、クラッドを誰よりも詳しく知っている人間、若しくは”実際に所持している”人間…って訳か」
ヴィルはそう言うと腕を組んで唸った。
いつしか街行く人々の視線は、明らかに見慣れない風貌の二人に熱く注がれ始めていた。
「ヴィル。そろそろ怪しまれ具合が尋常ではないぞ…先を急ごう」
「え~?絶対お嬢が怪しまれてるんだって!!だって俺の他にも獣人族が…」
「いいや、貴様が獣過ぎるのが悪い!!ほら行くぞ!」
声を荒らげてヴィルを叱咤すると、リリスは彼の右手を掴み早歩きで進行を始めたのだった。
◇◆◇
「さあさあさあ!!どんどん見て買ってくれよぉ!質の良い武器揃ってるよぉ!!」
街を北に進んでいくと、武器防具屋が夥しいほどに立ち並ぶ通りに入った。
中央の石畳を挟み込んで遥か彼方まで軒を連ねている…恐ろしい競争率である。
そんな店を訪ねる人々は、見る限り屈強な男達ばかり…。中には明らかに蛮族のような風貌の者や、荘厳な鋼の鎧を身に纏った騎士など……そんな多種多様な者達で通りは溢れかえっていたのだった。
「すっげぇな……何か”本場”って感じがするな…!!お、そうだお嬢。何か武器一つぐらい買っていったら?」
「フフフ……ぬかせ。武器などなくとも、私の磨きぬかれた魔術と体術を以てすれば…この世の森羅万象全てを蹂躙することも可能なのだ」
「はいはい最強最強。ちょっと良い感じの武器探してくるわ!その辺で待っててくれ」
「軽くあしらうのは禁忌の所業だぞ馬鹿者!!」
ヴィルは笑いながらリリスの下を離れて武器を物色しに向かった。他人の波に押されて思うように進めていないようだが…。
一人取り残された彼女はブツブツと文句を羅列しながら、キョロキョロと辺りを見渡していた。
「くっ……あそこまで愚弄されるとは……!屈辱の極みだ全く…」
すると突然、左方から野太い男の声が飛んできた。
「おー!!この通りに娘さんとは珍しいなぁ!…杖持ってるって事は…魔術師かい?ウチは杖も結構扱ってるから、ちょっと見てったらどうだい?」
振り向くと、そこには上半身裸にスキンヘッドという恐ろしく暑苦しい店主が満面の笑みで手招きしていた。
「……………そう…だな」
このままここに立ち往生していては通行の妨げになる。それにこの街で売られている武器がどのようなものか…多少の興味もあった。数秒の葛藤を経てリリスは人の合間を縫って、その声の主の下へと移動した。
「杖だけじゃなく、勿論大剣や弓なんかもある。店の前列に並んでる武器はどれも良質で扱いやすいもんばっかりだ!じっくり吟味するといいよ」
「ほお……では見させて貰おう」
横に伸びた膝丈程の台の上に、赤い布が被さった展示スペース。その上には、店主が言うとおり洗練された美しい刃を持った剣や見るからに丈夫そうな弓が数多く並んでいた。しかし己の杖に絶対的な自信と誇りを持つリリスには杖を買い換えるという選択肢など毛頭無かった。ただの物色である。
「…並べ方は雑だが、確かに素人目からしても良い品ばかりだな」
「だろ!?ちょっと値は張るが、それ以上の価値はあるぜ!」
「…ん?」
ふと、何かを感じた。夥しい程の負の感情が入り混じったような……一言で言うなら、”殺気”。
そんな違和感をリリスは感じ取ったのだ。
そしてその発生源は、どうやら店の奥の床に乱雑に置かれている……ボロボロの鞘に入ったダガーからであった。
「すまない店主。あの武器は…何だ?」
「え?……あぁ、あのダガーは売り物にすらならないガラクタだよ。知り合いの武器屋からたまたま貰ったんだが、刃こぼれも酷いし造りも雑で…」
「あれを貰おう」
「……へ?」
「あのダガー、いくらだ?」
リリスは迷うことなく、懐から金銭の入った小袋を取り出した。
店主は動揺を隠しきれず、身振り手振りで言葉を重ねた。
「ほ、本当にあんなんでいいのかい!?杖じゃなくて…」
「杖なら間に合っている。とにかくあれを譲ってくれ」
「………はぁ……なら、別にタダでいいよ。あんなもん置いといても何の得にもならないしな」
「そうか。では遠慮なく頂こう…邪魔したな」
店主は渋々ダガーを手に取り リリスに渡した。
彼女は静かに鞘から本体を抜き取り……空から降り注ぐ陽光に翳した。
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そのダガーからの殺気は、先程よりも強く流れていた。
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