異世界”憑依”したけどラスボス倒してたんで派遣勇者になりました

オットセイ芳沢

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プロローグ

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女神が俺の命を狙って全速力で追いかけて来る。いや、アレは女神なのか!?死神ではないのか!?



『大人しくこの女神のハンマーに殴られてください!!柳さん!!!』
「な、何で俺…女神に殺されなきゃならないんだよおおおおぉおおおぉおおおぉぉ!!!!!!!」






《数十分前》



 「腰痛い…肩痛い…足痛い…もう全身痛い…」

柳柳太朗。現在大学三年生である21歳の俺は、休日のバイトを終え、体に刻まれた労働の証を噛み締めていた。


「今月も全然 金集まらなかったな…全く、世知辛いにも程があるぜ畜生!!!」


パソコンやらフィギュアやらその他アニメグッズやらを買い漁りたいのだが…中々甘くないのが現実である。
 俺は、時刻は夕方といえどまだまだ燦々と日光が照らす繁華街を俯き気味で歩いていた。
勉強にバイト…三年目だが一向に両立できている気がしない。このままで大丈夫かよ…


『あ、いたいた!えっと…柳…柳太朗?えっ、名字と名前で漢字被ってる…ちょっと待って吹き出しそうなんですけど…!くっ…堪えろ…堪えろ私…!!』


「…え?」
突如、背後…いや違う。空?いや、もはや脳内に直で響いているような、気味の悪い感覚と共に…女性の声が聞こえてきた。しかもその声の主は一人ではない。俺は歩みを止め、周囲を見渡した。だが…直接脳を轟かすその声を辿る事など出来るハズもなかった。



『姉さんはいつも失礼極まりないです。…今回の招致は私が担当しますから、姉さんは帰ってお父様と戯れていて下さい』
『えー!?最近ずっとアンタばっか仕事して私全然給料もらえてないんですけど!!』
『姉さんが交渉してもお客さんは怒るだけです。いいから黙ってて下さい』
『ちぇー、いいですよー。私は大好きな妹のペットのケンタウ郎君と遊んでますからー』
『あの子に何かしたらミクロ単位で切り刻みますよ…』



「え、え!?ちょっとこれ…どうなってんの!?」


耳を塞いでも、頭をガンガンと叩いてもその会話は止まない。周囲の人間たちは俺の奇妙な行動を見て怪訝な表情を顕にし、視線を集中させた。




『何かあの男すっごい頭叩いてるんですけど…もしかしてこの会話聞かれてない?』
『えっ!!?そ、そんなハズは……っあああぁぁ!!!ミュート設定し忘れてる!!!』
『あーあ、本当ドジなんだから…まぁでも…や…柳君だっけ?これから死んじゃうんだし別に聞かれてもいいんじゃない?』


し、死ぬ!?え…俺が!?ていうか何故俺の名前を…


『そういう問題ではありません!!し、しかしこうなったら…』



そこで二人の女性の会話は終了した。耳に当てていた両手をそっと取り除き、混乱する脳内を整理する。


「な、何だったんだ…今の声…」


自問自答しても答えなど出るはずもなく、依然、周囲の怪しい視線はこちらへと流れ続けていた。
 どうすることも出来ない俺は、ただ歩みを進めることしかなかった。
でも…さっき”これから死ぬ”って言ってたよな…聞き間違えな訳はない。信じられない事だが、確かに女性の声が二人分聞こえ、俺がこれから死ぬという発言をしていた。神の啓示か何かか!?ただでさえ混乱しているというのに、自分の死の宣告を耳にして正気でいられるわけがない…!!!



「し、死にたくない…!死にたくない…!!」



まるで取り憑かれたかのように、俺は地面を踏み出し、走り始めた。
あの発言が真実か嘘かなんて事を考える余裕もなく、ただこれから襲い来るであろう死に繋がる事象から逃げる為、本能のままに走った。




『あ…何か走り出したぞ?』
『まずい…!このままでは柳さんは無事に家に帰宅してしまう…!!』

「別に無事でいいだろおおおぉおおお!!!死にたくなああぁぁぁあい!!!」


再び聞こえだした声にツッコミを入れながら、目と鼻から多量の涙と鼻水とまき散らして街を駆ける。あの妹っぽい奴の反応からするに、少なくともこのまま走れば…家に帰れるんだな!?
 すると突然、俺が走り抜けた背後で爆音が轟いた、振り返ると、建設中のビルから落下したであろう巨大な円柱状の建材が、えぐるように地面に突き刺さっていた。巻き上がる風と人々の悲鳴が俺の鼓膜を刺激し、恐怖が膨れ上がる。


『あ、もしかしてあれで死ぬ予定だったの?』
『ちっ…避けられたか…』


「舌打ちしてんじゃねぇぇぇええええぇぇ!!!!」


だが、今の事故が過ぎ去ったのなら…もう俺を死に追いやる事象は消え去ったのか…?
徐々に走るスピードを抑え、荒れ狂う鼓動と呼吸を整えながら足を止めていく。十数メートル後方をまた振り返ると、周囲には突然の事故に驚き腰を抜かす者や、面白がって携帯で写真を撮る者、恐怖で泣き散らす者で溢れかえっていた。幸い、あの建材の餌食になった人間はいないようだ…俺が餌食になる予定だったらしいが。



『こりゃ失敗だね。じゃ、後は頑張ってねー』
『……こ、この私が…失敗など…有り得ない…有り得ない…!!!』


刹那、建材の傍から、小さな丸い金色の光の塊が現れた。宙に浮遊するその塊は徐々に広がりを増していき…ほんの数秒で人間が通れる程の大きな楕円へと形成された。


「おいおい…今度は何だよ!!?」


あまりに異常というかファンタジーすぎる光景だが、どうやら今度の出来事は他の人間たちには見えていないのか、視線は未だ建材へと注がれている。…女神の悍ましい会話が聞こえるというファンタジーを経験した今現在としては、これもまた一つのファンタジーなのかと妙に納得がいってしまった。


『私の名はフェミル…誇り高き女神族が一人…。万象の理に背く貴方を、正しき運命へと導かせて頂きます……!』



目が眩む程の閃光を放つ円の中から、白い天衣の様なものを纏う青髪の少女が何かヌルヌル出てきた。
背中にはわざとらしくも思える大きな羽をこさえており、円と共に浮遊している。そして左手には……


「ハ、ハンマー……?」
『そう!!女神族に伝わりし滅殺…いや、必殺アイテムその1…”トランス・ハンマー”!!!これで貴方を向かうべき場所へと導きます!!!』
「要するに”殺す”って事だろ!!?」
『いいえ、”導き”ます!!!』
「うるせぇ!!こ、こんな訳わからん奴に…殺されてたまるかぁ!!!」



再び、今度は初速で体感的にはマッハで駆け出した俺。恐らくあの少女が先ほどの会話の中の”妹”だろう……本来死ぬはずだったその要因を避けた俺を、むりやり葬り去るつもりだ!!!


『待ってください柳さん!!!大丈夫です!!!死んでも大丈夫ですから!!!』
「何を根拠に言ってんだ!!!やめろ!!追いかけてくるなぁ!!!!」


女神は恐ろしくデカイ鉄槌を構えながら、女神らしくホバリング移動で追跡してくる。
あれは女神なのか!?質の悪い死神ではないのか!!?


『大人しくこの女神のハンマーに殴られてください柳さん!!!』
「な、何で俺…女神に殺されなきゃならないんだよおおおおぉおおおぉおおおぉぉ!!!!!!!」




……繁華街を抜け、俺は横断歩道を突っ切る。その際、信号が赤になっている事など一切気に留めていなかった。



「あ………」



時が止まるような感覚が訪れる。…横から猛スピードで走行するトラックが視界に映った。何てベタな展開だろう…俺があと数歩踏み込めば、恐らくそのまま轢かれてしまうだろう。だが気づいた時にはもう遅い。この全速力中に急に止まれる程のテクニックを、俺が持ち合わせている筈もなかった。




『や……柳さん!!!』



次の瞬間、俺の体は潰れるような痛みに飲み込まれた。
嗚呼…どのみち運命には逆らえないのか。建材でも車でも女神でも、結局殺されてしまうんだ…
自分の体がどうなったかは分からない。ただ己の運命を呪いながら、俺の意識は途切れたのだった。






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