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『花火大会のお知らせでーす』
丸岡からのメッセージが届いた瞬間、女子たちが競うように既読をつけて返信している。
グループチャットはあっという間に、参加表明のメッセージで埋め尽くされていった。
その中から、自然と〝海翔〟の名前を凛は探していた。
けれど、クラゲのアイコンは現れない。
「今日はバイトかなぁ」
明日はクラスの何人かで集まって、小さな花火大会をやる予定だ。
大げさなものじゃない。コンビニで手に入る花火を持ち寄って、ちょっと遊ぶだけ。
でも、海翔が一緒にいるだけで、日本の三大花火大会よりずっと特別感がある。
クラゲのアイコンに触れながら、凛は海翔のことを考えた。
水族館の帰り、偶然、丸岡に会ったときの海翔の表情。
それから、この間の海で見た色んな顔や日焼けを気にしてくれた優しさ。
『溺れたかと思った』と言って、焦りを含んだような声。
それから、別れ際のペットボトル。
「あれ、すごく冷たかった。一ノ瀬くん、わざわざ買いに行ってくれたのかな……」
いや、だめだ。勘違いするな。
「白すぎる俺の肌を見るに見かねて……だよ、たぶん」
必死で言い聞かせても、思い出すたびに胸の奥がじんわり熱くなる。考えるだけで胸が苦しい。
でも、この気持ちは隠さなきゃ……。
そうやって自分をなだめていると、今度は、丸岡のことが頭をよぎった。
この間の海、李仁もちょっと、変だったな。
あんな丸岡を見たのは初めてだった。
やっぱり、炎天下で毎日走り回っていたら、元気印の丸岡でも夏バテするのかもしれない。
それでもさっき届いたメッセージからは、丸岡らしさがあって凛は安心できた。
きっともう大丈夫だよね。
凛はスマホをもう一度チラ見する。
まだ、海翔の返事はない。
意味もなく画面をスクロールしては、ため息をこぼす。
もし、海翔が不参加だったら。
それはきっと、切ない夏の終わりを味わうことになる。
凛の独りよがりな思い出に、勝手に海翔を巻き込んで、勝手に落ち込んでしまう。
「一ノ瀬くんには、一ノ瀬くんの理由があるのに」
そもそも、バイトが休めないかもしれないし。何より、深月ちゃんに泣かれたら海翔はきっと来ない。
「まだ、参加しないって決まってないのに、落ち込むな。俺」
凛は夕食の準備をしながら、海翔と交わした会話をよぎらせた。
真夜中に届いたメッセージや、水族館で一緒に笑ったこと。
イルカショーを観てはしゃぐ姿は格別で、できるならあの笑顔をガラスの瓶に閉じ込めておきたい。
宝物だと言って、深月がシーグラスを瓶に入れたみたいに。
「ふふ、この写真いいな。それに、このアイコン……」
クラゲの前で撮った写真をそっと撫でた。
水族館へ行った夜、余韻が冷めなかった凛は、つい、『今日は楽しかった』と送っていた。
すると、返信されてきた海翔のアイコンが変わっていたのだ。前はアルファベットだけだったのに。
「なんか、嬉しいな……」
初めて一緒に出かけたあの日が、海翔の中でも特別だったら──なんてバカなことを考えた。
油断すると、すぐ自分勝手な妄想が暴走し出す。
せっかく海に沈めたのに、自分で引き上げるなんて元の木阿弥だ。
包丁とまな板を用意し、きゅうりを半分までスライスしていると、急に明日の服が気になってきた。
「そうだ。明日、なに着て行こうかな」
秘めた気持ちに蓋をし、切りかけのきゅうりを置くと、凛は足早に階段を上って部屋のクローゼットを全開にした。
ハンガーをスライドさせていると、去年買った浴衣が目に留まる。
浴衣か……。
手に取って眺めてはみたけれど、あることに気付いて棚に戻した。
ダメだ、下駄が砂まみれになる。
諦めて服を物色していると、着信音がポケットの中で鳴った。
何気なく画面を開いた瞬間、手にしていたシャツが床に滑り落ちる。
画面には、クラゲのアイコンが燦然と輝いていた。
『明日、一緒に行こうぜ』
予想もしていなかった、海翔からのメール。
それも、一緒に行こうって……。
「行くに決まってる! こんなの嬉しすぎるよっ」
相変わらずの短い文。それでも、凛にとってはどんな有名小説よりも感動をくれる。
一文字、一文字、丁寧にタップしていく。
喜びを噛みしめながら。
『行く! どこで待ち合わせする?』
返信を送った。けれど既読がついても返事がこない。
不安になっていると、『そっちに迎えに行く』の文字。
え、迎えにって……俺の家に?
凛の頭の中で、突如、笛や太鼓の祭囃子が鳴り響く。
それに合わせて、心臓が踊り出した。
ど、どうしよう。一ノ瀬くんがここに来る……。
好きな人が自分の家に来る。
経験したことのないシチュエーションを想像したら、急に緊張してきた。
そのあと、海翔から位置情報を送ってと言われたけれど、浮かれた頭でちゃんと送信できたか謎だ。
丸岡からのメッセージが届いた瞬間、女子たちが競うように既読をつけて返信している。
グループチャットはあっという間に、参加表明のメッセージで埋め尽くされていった。
その中から、自然と〝海翔〟の名前を凛は探していた。
けれど、クラゲのアイコンは現れない。
「今日はバイトかなぁ」
明日はクラスの何人かで集まって、小さな花火大会をやる予定だ。
大げさなものじゃない。コンビニで手に入る花火を持ち寄って、ちょっと遊ぶだけ。
でも、海翔が一緒にいるだけで、日本の三大花火大会よりずっと特別感がある。
クラゲのアイコンに触れながら、凛は海翔のことを考えた。
水族館の帰り、偶然、丸岡に会ったときの海翔の表情。
それから、この間の海で見た色んな顔や日焼けを気にしてくれた優しさ。
『溺れたかと思った』と言って、焦りを含んだような声。
それから、別れ際のペットボトル。
「あれ、すごく冷たかった。一ノ瀬くん、わざわざ買いに行ってくれたのかな……」
いや、だめだ。勘違いするな。
「白すぎる俺の肌を見るに見かねて……だよ、たぶん」
必死で言い聞かせても、思い出すたびに胸の奥がじんわり熱くなる。考えるだけで胸が苦しい。
でも、この気持ちは隠さなきゃ……。
そうやって自分をなだめていると、今度は、丸岡のことが頭をよぎった。
この間の海、李仁もちょっと、変だったな。
あんな丸岡を見たのは初めてだった。
やっぱり、炎天下で毎日走り回っていたら、元気印の丸岡でも夏バテするのかもしれない。
それでもさっき届いたメッセージからは、丸岡らしさがあって凛は安心できた。
きっともう大丈夫だよね。
凛はスマホをもう一度チラ見する。
まだ、海翔の返事はない。
意味もなく画面をスクロールしては、ため息をこぼす。
もし、海翔が不参加だったら。
それはきっと、切ない夏の終わりを味わうことになる。
凛の独りよがりな思い出に、勝手に海翔を巻き込んで、勝手に落ち込んでしまう。
「一ノ瀬くんには、一ノ瀬くんの理由があるのに」
そもそも、バイトが休めないかもしれないし。何より、深月ちゃんに泣かれたら海翔はきっと来ない。
「まだ、参加しないって決まってないのに、落ち込むな。俺」
凛は夕食の準備をしながら、海翔と交わした会話をよぎらせた。
真夜中に届いたメッセージや、水族館で一緒に笑ったこと。
イルカショーを観てはしゃぐ姿は格別で、できるならあの笑顔をガラスの瓶に閉じ込めておきたい。
宝物だと言って、深月がシーグラスを瓶に入れたみたいに。
「ふふ、この写真いいな。それに、このアイコン……」
クラゲの前で撮った写真をそっと撫でた。
水族館へ行った夜、余韻が冷めなかった凛は、つい、『今日は楽しかった』と送っていた。
すると、返信されてきた海翔のアイコンが変わっていたのだ。前はアルファベットだけだったのに。
「なんか、嬉しいな……」
初めて一緒に出かけたあの日が、海翔の中でも特別だったら──なんてバカなことを考えた。
油断すると、すぐ自分勝手な妄想が暴走し出す。
せっかく海に沈めたのに、自分で引き上げるなんて元の木阿弥だ。
包丁とまな板を用意し、きゅうりを半分までスライスしていると、急に明日の服が気になってきた。
「そうだ。明日、なに着て行こうかな」
秘めた気持ちに蓋をし、切りかけのきゅうりを置くと、凛は足早に階段を上って部屋のクローゼットを全開にした。
ハンガーをスライドさせていると、去年買った浴衣が目に留まる。
浴衣か……。
手に取って眺めてはみたけれど、あることに気付いて棚に戻した。
ダメだ、下駄が砂まみれになる。
諦めて服を物色していると、着信音がポケットの中で鳴った。
何気なく画面を開いた瞬間、手にしていたシャツが床に滑り落ちる。
画面には、クラゲのアイコンが燦然と輝いていた。
『明日、一緒に行こうぜ』
予想もしていなかった、海翔からのメール。
それも、一緒に行こうって……。
「行くに決まってる! こんなの嬉しすぎるよっ」
相変わらずの短い文。それでも、凛にとってはどんな有名小説よりも感動をくれる。
一文字、一文字、丁寧にタップしていく。
喜びを噛みしめながら。
『行く! どこで待ち合わせする?』
返信を送った。けれど既読がついても返事がこない。
不安になっていると、『そっちに迎えに行く』の文字。
え、迎えにって……俺の家に?
凛の頭の中で、突如、笛や太鼓の祭囃子が鳴り響く。
それに合わせて、心臓が踊り出した。
ど、どうしよう。一ノ瀬くんがここに来る……。
好きな人が自分の家に来る。
経験したことのないシチュエーションを想像したら、急に緊張してきた。
そのあと、海翔から位置情報を送ってと言われたけれど、浮かれた頭でちゃんと送信できたか謎だ。
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