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「なあ、アイス食おうか」
花火を入れたカゴを手に、海翔が冷凍庫をのぞいている。
「食べたいっ! やったー、さっきからアイスの気分だったんだ」
凛は鼻歌まじりに、どれにしようかとアイスを眺める。
その様子に、ふっと笑い声が返ってきた。
「そんな嬉しそうな顔して。よっぽど食いたかったんだな」
「だ、だってめっちゃ暑かったし。それに、新作食べたかったんだ」
そう言って、凛は迷うことなくチョコレートのアイスを手に取った。
「へえ、濃厚チョコか。佐伯、甘いもん好きなんだな」
「うん、好き。一ノ瀬くんは、甘いの苦手だよね」
海翔がソーダバーを手に取り、「正解」と笑った。
「でも俺、そんなこと言ったっけ?」
心臓をガシッと掴まれた気分になる。
一緒に遊んだあの頃から、海翔は甘いものをあまり食べいのを知っていたからだ。
スーパーのお菓子コーナーでも、珍味みたいな渋いお菓子をいつも選んでいた。
「う、うん。前に誰かと話してたの、聞いたことあって……」
心の中でごめんと呟きながら、嘘をついた。
そんな凛の気持ちも知らず、アイスのCMの真似してポーズをとっている。
イケメンは何をしてもサマになるから、なんかずるい。
コンビニを出ると、夜の匂いを含んだ潮風が、海翔の髪を軽く揺らした。
広い肩幅、すっとした背。身長は聞いたことないけれど、たぶん百八十以上ある。
あの頃は、同じくらいの背だったのにな……。
白いシャツが風にふわりと膨らみ、背中越しの姿に見惚れていると、ふいに海翔が振り返った。
「それ、よこせ」
伸ばされた手の先は、凛が持つアイスの棒だった。
「あ、ありが……とう」
食べ終わったこと、いつ気づいたんだろ。
さりげない仕草まで、ちゃんと見てくれてる気がして──いや、違う。
一ノ瀬くんは俺だけじゃなく、誰にでも優しいんだ。
さりげない気配り、気安さ。こういうところがモテる理由なんだろうな、と思う。
堤防沿いを肩を並べて歩いていると、潮の香りが夜風に混ざって流れてきた。
街灯がゆらめく波に反射して揺れている。
波音に紛れて、隣を歩く海翔の笑い声が、今夜はやけに近く感じる。
肩がふと触れそうになって、慌てて半歩ずらした。
けれどまた、自然と並んで歩いてしまう。
欲張りだなって、反省しながら。
「花火、足りるかな。もっと買った方がよかった?」
普通を装って話題を振った。
「いや、これで充分だろ。あいつら、あったらあるだけやるからな。際限がな──」
他愛ない会話をしていたそのとき、着信音が夜の静けさを破った。
凛は自分のポケットに手をやったが、スマホは静かだ。
前を見ると、海翔がスマホを取り出している。
「もしもし。母さん、どうし──え、ちょ、ちょっと落ち着いて。ゆっくり話して」
海翔の声音と、急に引き締まった表情で、何かあったのはわかった。
思わず駆け寄ると、海翔が眉を寄せたまま、瞳を震わせて凛を見てきた。
「──わかった。俺が探すから。母さんは家にいて。深月が帰ってきたとき困るだろ」
数度の相槌を打って電話を切った海翔の顔は、明らかな動揺が残っている。
「もしかして……深月ちゃん、いないの?」
凛がおそるおそる問いかけると、海翔は無言で、ゆっくり頷いた。
「悪い、佐伯。これ、持ってみんなのとこ戻ってくれ。俺は深月を探──」
「俺も探すっ!」
即答した凛の言葉に、海翔の目が見開く。
はっきり言わないと、きっと海翔は遠慮する。
案の定、「でも……」と言い淀んでいるから、手首を掴んで凛は走った。
「これ、届けて早く探そうっ。一人より、二人の方が早く見つかるよ」
自分より体の大きな海翔をぐいぐい引っぱりながら走る。
一度は海翔を引っ張っていた凛だったが、やがて順序が逆転し、今はその背中を凛が追いかける番になっていた。
堤防に登ろうとしたら、ちょうど丸岡がこっちへ歩いてくるところだった。
「まるっ! これっ!」
海翔が花火の袋を差し出す。鬼気迫る表情に、丸岡もただならぬ気配を察した顔つきになった。
「ど、どうしたんだよ、二人とも?」
言葉を探す海翔の代わりに、凛が息をのみながら答える。
「ごめん、李仁。一ノ瀬くんの妹がいなくなっちゃって。俺たち探すから、抜けるね」
凛が海翔の背を押すと、丸岡はすぐに理解した顔をする。
「俺も探すよ。人数は多い方がいい。──海翔。妹の写メ、送ってくれ」
「いや、でも……」
「いいから送れって。大丈夫、曽谷に終わったら、ちゃんと女子を家まで送らせるよう言っとく」
そう言うと、丸岡はぴょんと堤防に飛び上がり、曽谷の名前を叫んだ。
「まる……悪い……」
「気にすんな。俺はお前ん家から学校の方向を探すな」
「──わかった。俺は家から海のほうへ向かってみる」
海翔は、凛と丸岡の顔を交互に見て、深く頭を下げた。
「頼む……」
「いいから、早く行けって。凛はどうす──」
「俺はバス停の方、あと、一ノ瀬くんのバイト先も回る」
三人は軽く頷き合い、それぞれの方向へ走り出した。
花火を入れたカゴを手に、海翔が冷凍庫をのぞいている。
「食べたいっ! やったー、さっきからアイスの気分だったんだ」
凛は鼻歌まじりに、どれにしようかとアイスを眺める。
その様子に、ふっと笑い声が返ってきた。
「そんな嬉しそうな顔して。よっぽど食いたかったんだな」
「だ、だってめっちゃ暑かったし。それに、新作食べたかったんだ」
そう言って、凛は迷うことなくチョコレートのアイスを手に取った。
「へえ、濃厚チョコか。佐伯、甘いもん好きなんだな」
「うん、好き。一ノ瀬くんは、甘いの苦手だよね」
海翔がソーダバーを手に取り、「正解」と笑った。
「でも俺、そんなこと言ったっけ?」
心臓をガシッと掴まれた気分になる。
一緒に遊んだあの頃から、海翔は甘いものをあまり食べいのを知っていたからだ。
スーパーのお菓子コーナーでも、珍味みたいな渋いお菓子をいつも選んでいた。
「う、うん。前に誰かと話してたの、聞いたことあって……」
心の中でごめんと呟きながら、嘘をついた。
そんな凛の気持ちも知らず、アイスのCMの真似してポーズをとっている。
イケメンは何をしてもサマになるから、なんかずるい。
コンビニを出ると、夜の匂いを含んだ潮風が、海翔の髪を軽く揺らした。
広い肩幅、すっとした背。身長は聞いたことないけれど、たぶん百八十以上ある。
あの頃は、同じくらいの背だったのにな……。
白いシャツが風にふわりと膨らみ、背中越しの姿に見惚れていると、ふいに海翔が振り返った。
「それ、よこせ」
伸ばされた手の先は、凛が持つアイスの棒だった。
「あ、ありが……とう」
食べ終わったこと、いつ気づいたんだろ。
さりげない仕草まで、ちゃんと見てくれてる気がして──いや、違う。
一ノ瀬くんは俺だけじゃなく、誰にでも優しいんだ。
さりげない気配り、気安さ。こういうところがモテる理由なんだろうな、と思う。
堤防沿いを肩を並べて歩いていると、潮の香りが夜風に混ざって流れてきた。
街灯がゆらめく波に反射して揺れている。
波音に紛れて、隣を歩く海翔の笑い声が、今夜はやけに近く感じる。
肩がふと触れそうになって、慌てて半歩ずらした。
けれどまた、自然と並んで歩いてしまう。
欲張りだなって、反省しながら。
「花火、足りるかな。もっと買った方がよかった?」
普通を装って話題を振った。
「いや、これで充分だろ。あいつら、あったらあるだけやるからな。際限がな──」
他愛ない会話をしていたそのとき、着信音が夜の静けさを破った。
凛は自分のポケットに手をやったが、スマホは静かだ。
前を見ると、海翔がスマホを取り出している。
「もしもし。母さん、どうし──え、ちょ、ちょっと落ち着いて。ゆっくり話して」
海翔の声音と、急に引き締まった表情で、何かあったのはわかった。
思わず駆け寄ると、海翔が眉を寄せたまま、瞳を震わせて凛を見てきた。
「──わかった。俺が探すから。母さんは家にいて。深月が帰ってきたとき困るだろ」
数度の相槌を打って電話を切った海翔の顔は、明らかな動揺が残っている。
「もしかして……深月ちゃん、いないの?」
凛がおそるおそる問いかけると、海翔は無言で、ゆっくり頷いた。
「悪い、佐伯。これ、持ってみんなのとこ戻ってくれ。俺は深月を探──」
「俺も探すっ!」
即答した凛の言葉に、海翔の目が見開く。
はっきり言わないと、きっと海翔は遠慮する。
案の定、「でも……」と言い淀んでいるから、手首を掴んで凛は走った。
「これ、届けて早く探そうっ。一人より、二人の方が早く見つかるよ」
自分より体の大きな海翔をぐいぐい引っぱりながら走る。
一度は海翔を引っ張っていた凛だったが、やがて順序が逆転し、今はその背中を凛が追いかける番になっていた。
堤防に登ろうとしたら、ちょうど丸岡がこっちへ歩いてくるところだった。
「まるっ! これっ!」
海翔が花火の袋を差し出す。鬼気迫る表情に、丸岡もただならぬ気配を察した顔つきになった。
「ど、どうしたんだよ、二人とも?」
言葉を探す海翔の代わりに、凛が息をのみながら答える。
「ごめん、李仁。一ノ瀬くんの妹がいなくなっちゃって。俺たち探すから、抜けるね」
凛が海翔の背を押すと、丸岡はすぐに理解した顔をする。
「俺も探すよ。人数は多い方がいい。──海翔。妹の写メ、送ってくれ」
「いや、でも……」
「いいから送れって。大丈夫、曽谷に終わったら、ちゃんと女子を家まで送らせるよう言っとく」
そう言うと、丸岡はぴょんと堤防に飛び上がり、曽谷の名前を叫んだ。
「まる……悪い……」
「気にすんな。俺はお前ん家から学校の方向を探すな」
「──わかった。俺は家から海のほうへ向かってみる」
海翔は、凛と丸岡の顔を交互に見て、深く頭を下げた。
「頼む……」
「いいから、早く行けって。凛はどうす──」
「俺はバス停の方、あと、一ノ瀬くんのバイト先も回る」
三人は軽く頷き合い、それぞれの方向へ走り出した。
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