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深月を探し始めて一時間弱。
三人は再び砂浜に戻って顔を合わせた。
「いないな……。どこ行っちゃったんだろ」
「早く探さないと、もう九時を過ぎてる」
凛がスマホを見て呟く。
堤防から砂浜を見下ろすと、みんなは既に帰ったのか、人影はない。
「もう、遅くなるし……二人は帰ってくれ。こっからは、俺一人で──」
「帰んないよ。さっきも言ったけど、人数多い方がいいんだから」
「ほんとだぞ。それ以上言ったら、殴るからな、海翔」
凛と丸岡の言葉に、海翔の顔がふいにくしゃりとゆがむ。
今にも泣き出しそうな表情だった。
大切な妹がいなくなったんだ。心配で、怖くて、悲しくて当然だ。
絶対に見つけなきゃ。深月ちゃんに何かあったら──海翔は、きっと壊れてしまう。
「なあ、警察には届けたんだよな、そっちはまだ何も?」
眉をひそめた丸岡が、海翔のスマホを指差す。
「まだ……何も──あっ」
そのとき、再び着信音が鳴り響いた。
「電話! お母さんから?」
凛は反射的に海翔の隣に駆け寄って、スマホの画面を覗き込む。
海翔は無言で頷き、そのまま電話に出た。
「もしもし、母さん!」
『海翔ー、ごめん! 深月いたの!』
「いた!? どこにっ」
その声に、凛と丸岡は顔を見合わせた。
『それがね──』
電話口の声を聞きながら、海翔は「うん、うん」と何度も頷く。
その表情が、少しずつ安堵に変わっていくのが、見ているだけでわかった。
やがて、海翔がこちらを振り返り、親指を立てながら微笑んでくれる。
「よかったぁ……ね、李仁」
「だなっ。マジ、よかったわ」
凛が丸岡とハイタッチしていると、電話を終えた海翔が深々と頭を下げてくる。
「二人とも、ありがとう。……深月、いた」
「よかったな。けど、どこにいたんだ?」
丸岡の問いかけに、海翔の顔がふっと歪む。
笑い出す寸前のような、でも泣きそうにも見える、複雑な表情だ。
「──それがさ、深月……家にいたんだ、ずっと」
「……え?」
凛と丸岡は、顔を見合わせたまま、固まった。
まるで狐につままれたみたいな気分で、ぽかんと海翔を見つめる。
「えっと……海翔、それってどういう──」
「あいつ、俺の部屋のクローゼットに隠れたまま寝てたんだよ。……ほんっとにごめんっ」
「クローゼット……クロ──ブッ、ブワッハッハ! マジか、それ、ウケるって!」
丸岡が前屈みなり、腹を抱えて爆笑している。つられて、凛も笑い出してしまった。
「マジで、ごめんっ! ったく、深月のやつ、心配かけさせやがって」
海翔が眉をしかめて言うので、凛は「ダメだよ」と、海翔を手で制止した。
「深月ちゃんを怒ったらダメだからね、一ノ瀬くん」
「何でだよ、佐伯。二人に迷惑かけたんだぞ? 叱って当然だろ」
「絶対だめ。深月ちゃんは一ノ瀬くんが花火に行って寂しくなっちゃったんだよ。だから拗ねて隠れちゃったんだと思う。叱ったらもっと傷ついちゃう」
凛の言葉に、海翔は口を閉ざし、何かを思い出すように黙りこくる。
「なるほどな。兄ちゃんだけ楽しく夏を満喫してたから、妹ちゃんはすねたってことか。モテモテだな、海翔。妹にも。な!」
丸岡が茶化すように笑う。凛も「たしかに」と頷いた。
初めて病院で見た二人はとても仲のいい兄妹で、一人っ子の凛には、それがちょっぴり羨ましかった。
「……そっか。俺だけ、楽しんじゃったんだな……」
「うん。だから今度は、深月ちゃんと花火してあげて」
そう言った凛の顔は、自然とほころんでいた。
子どもの頃に出会った、優しいカイトのままだ……。
嬉しくて胸の奥が、ほわっと温かくなる。
「……だな。でも、二人にはホントに迷惑かけた。今度、メシでも奢らせてくれよ」
海翔がまた頭を下げようとするので、凛はあわててその体を止めた。
「もう謝んないで。無事に見つかっただけで、充分だよ。ね、李仁」
「……あ、うん……」
気が抜けたような返事が返ってきた。丸岡が何だか、ぼーっとしている。
「とりあえず、飲み物買ってくる。探し回ってくれたし、喉乾いてるだろ」
「あ、それなら俺も──」
「いい。佐伯とまるは、ここで待ってろ」
そう言って、海翔はコンビニの方へ走っていった。
小さくなっていく後ろ姿を見送っていると、熱を帯びたような気配が背中に感じた。
振り返ると、丸岡がすぐそばまで来ていて、凛を真っ直ぐ見下ろしている。
「李仁……どうかした? あ、もしかしてお腹減ったとか? だったら、俺、コンビニに行って何か買って──」
「凛っ、行くな──あ、いや。その……ここで待ってよう。海翔も言ってただろ」
踵を返そうとしたら、丸岡に腕を掴まれた。
「でも、走ったら、一ノ瀬くんに追いつくし……」
「行かなくていい。腹、減ってないし……。あ、それより、砂浜に降りないか。あいつら、ちゃんと後片付けしたか気になる」
丸岡の視線が砂浜に移ると、反射的に凛も同じ方向を見た。
水面に月が映り、それが波でゆらゆら揺れている。
神秘的な景色を近くで見たくて、一緒に砂浜へ降り立った。
誰もいない夜の海でも、等間隔で街路灯が灯っているから、足元は何とか見える。
さくさくと軽い音を奏でながら歩くと、花火の残骸を見つけた。
「ちょっとだけあるね。きっと、暗くて見えなかったんだ」
凛がしゃがんでそれを集めていると、丸岡のスニーカーが横に止まった。
「あいつら、適当に片しやがって……」
頭上から聞こえたその声に、凛は笑いながら答えた。
「決めつけはだめだよ」
でも、丸岡からの反応はない。
あ、俺、偉そうに言ったかな……李仁、怒ってる?
そっと顔を上げると、丸岡は口を噤んだまま海を見つめていた。
「……李仁?」
名前を呼ぶと、丸岡の瞳がゆっくり降り、凛を捉える。
何となく、いたたまれない空気を感じた。
凛が腰を上げ、距離を取ろうとすると──手首を掴まれ、さっきより距離が縮まった。
三人は再び砂浜に戻って顔を合わせた。
「いないな……。どこ行っちゃったんだろ」
「早く探さないと、もう九時を過ぎてる」
凛がスマホを見て呟く。
堤防から砂浜を見下ろすと、みんなは既に帰ったのか、人影はない。
「もう、遅くなるし……二人は帰ってくれ。こっからは、俺一人で──」
「帰んないよ。さっきも言ったけど、人数多い方がいいんだから」
「ほんとだぞ。それ以上言ったら、殴るからな、海翔」
凛と丸岡の言葉に、海翔の顔がふいにくしゃりとゆがむ。
今にも泣き出しそうな表情だった。
大切な妹がいなくなったんだ。心配で、怖くて、悲しくて当然だ。
絶対に見つけなきゃ。深月ちゃんに何かあったら──海翔は、きっと壊れてしまう。
「なあ、警察には届けたんだよな、そっちはまだ何も?」
眉をひそめた丸岡が、海翔のスマホを指差す。
「まだ……何も──あっ」
そのとき、再び着信音が鳴り響いた。
「電話! お母さんから?」
凛は反射的に海翔の隣に駆け寄って、スマホの画面を覗き込む。
海翔は無言で頷き、そのまま電話に出た。
「もしもし、母さん!」
『海翔ー、ごめん! 深月いたの!』
「いた!? どこにっ」
その声に、凛と丸岡は顔を見合わせた。
『それがね──』
電話口の声を聞きながら、海翔は「うん、うん」と何度も頷く。
その表情が、少しずつ安堵に変わっていくのが、見ているだけでわかった。
やがて、海翔がこちらを振り返り、親指を立てながら微笑んでくれる。
「よかったぁ……ね、李仁」
「だなっ。マジ、よかったわ」
凛が丸岡とハイタッチしていると、電話を終えた海翔が深々と頭を下げてくる。
「二人とも、ありがとう。……深月、いた」
「よかったな。けど、どこにいたんだ?」
丸岡の問いかけに、海翔の顔がふっと歪む。
笑い出す寸前のような、でも泣きそうにも見える、複雑な表情だ。
「──それがさ、深月……家にいたんだ、ずっと」
「……え?」
凛と丸岡は、顔を見合わせたまま、固まった。
まるで狐につままれたみたいな気分で、ぽかんと海翔を見つめる。
「えっと……海翔、それってどういう──」
「あいつ、俺の部屋のクローゼットに隠れたまま寝てたんだよ。……ほんっとにごめんっ」
「クローゼット……クロ──ブッ、ブワッハッハ! マジか、それ、ウケるって!」
丸岡が前屈みなり、腹を抱えて爆笑している。つられて、凛も笑い出してしまった。
「マジで、ごめんっ! ったく、深月のやつ、心配かけさせやがって」
海翔が眉をしかめて言うので、凛は「ダメだよ」と、海翔を手で制止した。
「深月ちゃんを怒ったらダメだからね、一ノ瀬くん」
「何でだよ、佐伯。二人に迷惑かけたんだぞ? 叱って当然だろ」
「絶対だめ。深月ちゃんは一ノ瀬くんが花火に行って寂しくなっちゃったんだよ。だから拗ねて隠れちゃったんだと思う。叱ったらもっと傷ついちゃう」
凛の言葉に、海翔は口を閉ざし、何かを思い出すように黙りこくる。
「なるほどな。兄ちゃんだけ楽しく夏を満喫してたから、妹ちゃんはすねたってことか。モテモテだな、海翔。妹にも。な!」
丸岡が茶化すように笑う。凛も「たしかに」と頷いた。
初めて病院で見た二人はとても仲のいい兄妹で、一人っ子の凛には、それがちょっぴり羨ましかった。
「……そっか。俺だけ、楽しんじゃったんだな……」
「うん。だから今度は、深月ちゃんと花火してあげて」
そう言った凛の顔は、自然とほころんでいた。
子どもの頃に出会った、優しいカイトのままだ……。
嬉しくて胸の奥が、ほわっと温かくなる。
「……だな。でも、二人にはホントに迷惑かけた。今度、メシでも奢らせてくれよ」
海翔がまた頭を下げようとするので、凛はあわててその体を止めた。
「もう謝んないで。無事に見つかっただけで、充分だよ。ね、李仁」
「……あ、うん……」
気が抜けたような返事が返ってきた。丸岡が何だか、ぼーっとしている。
「とりあえず、飲み物買ってくる。探し回ってくれたし、喉乾いてるだろ」
「あ、それなら俺も──」
「いい。佐伯とまるは、ここで待ってろ」
そう言って、海翔はコンビニの方へ走っていった。
小さくなっていく後ろ姿を見送っていると、熱を帯びたような気配が背中に感じた。
振り返ると、丸岡がすぐそばまで来ていて、凛を真っ直ぐ見下ろしている。
「李仁……どうかした? あ、もしかしてお腹減ったとか? だったら、俺、コンビニに行って何か買って──」
「凛っ、行くな──あ、いや。その……ここで待ってよう。海翔も言ってただろ」
踵を返そうとしたら、丸岡に腕を掴まれた。
「でも、走ったら、一ノ瀬くんに追いつくし……」
「行かなくていい。腹、減ってないし……。あ、それより、砂浜に降りないか。あいつら、ちゃんと後片付けしたか気になる」
丸岡の視線が砂浜に移ると、反射的に凛も同じ方向を見た。
水面に月が映り、それが波でゆらゆら揺れている。
神秘的な景色を近くで見たくて、一緒に砂浜へ降り立った。
誰もいない夜の海でも、等間隔で街路灯が灯っているから、足元は何とか見える。
さくさくと軽い音を奏でながら歩くと、花火の残骸を見つけた。
「ちょっとだけあるね。きっと、暗くて見えなかったんだ」
凛がしゃがんでそれを集めていると、丸岡のスニーカーが横に止まった。
「あいつら、適当に片しやがって……」
頭上から聞こえたその声に、凛は笑いながら答えた。
「決めつけはだめだよ」
でも、丸岡からの反応はない。
あ、俺、偉そうに言ったかな……李仁、怒ってる?
そっと顔を上げると、丸岡は口を噤んだまま海を見つめていた。
「……李仁?」
名前を呼ぶと、丸岡の瞳がゆっくり降り、凛を捉える。
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