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第1章
7.レジオンのイヴォルブ
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「タタルド様。ギャドリ警備隊が全員やられました」
窓から様子を見ていた執事が、隣で見ていたタタル度にわざわざそう口にした。
「100万シェルを4つ出しなさい! フォールブで踏み潰すのです! プレちゃんの無念を晴らすのです!!」
「仰せのままに!」
肝心のオオトカゲは、特に何も考えずに餌を食べていた。
「警備隊はこれで全部か?」
「呆気なかったね」
「まだ終わっていないぞ貧乏人どもぉ!」屋敷の窓から、タタルドが叫ぶ。
直後、屋敷の横にあった倉庫から、四つの白く巨大な球体が転がり、住民達の前に並ぶ。
「フォ、フォールブか?」
白い玉は亀裂を光らせると、人型のフォールブに変形した。短い手足に、アリクイのような尖った口。胸の球体の部分には、レバーを握る使用人たちが見えた。
「クズボシの研究用に使われてたフォールブだ! 400万シェルは痛かったが、お前達には過ぎたおもちゃだ!」
「俺達の金で買ったもんだろうが!」
「また出番だよカディ」
カディがヴァリエスを取り出そうとすると、レジオンが待てよと槍を向けた。
「何度も美味しいところはやらせねぇ。俺にやらせろ。ジュラウド」
レジオンはそれだけ言うと、懐からヴァリエスを取り出した。
「この人もイヴォルブを?」ルルカの問いに答える者はいなかった。
レジオンは住民達の前に立ち、ヴァリエスを掲げた。
「お前らは下がってろ。後は俺がやる」
ヴァリエスが変形し、レジオンの腕を覆う。
「具現しろ――『ラデュアロス』近くの地面や、屋敷の一部が削り取られ、レジオンの周囲を回りだす。
「まずいです! 近くに居てはフォールブが具現に飲み込まれます!」
「問題ない。GEコーティング済みだ」言葉通り、近くのフォールブが巻き込まれることはなかった。
ガードイヴォルブ(Guard Evolve)コーティング。
ヴァリエスの具現に飲み込まれぬよう、特殊な金属を混ぜ込んだメッキでフォールブを覆う技術だ。これにより、具現の被害からフォールブを守る。
様々な物質が集まり、球体を形作る。五個目の球体から現れたのは、緑色のイヴォルブだった。
力強さを感じる手足に重厚な緑色の装甲に、橙色の目。特徴的なのは、腕の下から手のひらの先にまで伸びた二本の突起。レジオンが背負っていたものと良く似たランスが二本、両腕の下に着いていたのだ。
レジオンが駆る緑色のイヴォルブの名は『ラデュアロス』
「いくらイヴォルブだろうがなぁ!!」
使用人の一人がそう口にした瞬間、ラデュアロスは手を伸ばし、腕に着いていた槍を突き刺した。
「ビリヤードは無理か。腐れボールが」
一機目が爆発したのを見て、レジオンは槍を握り、構えた。
フォールブは爪でラデュアロスを引っ掻いたが、自分の爪が欠けただけ。
「やっぱりフォールブじゃどうにもならないな」
純粋な性能差を見て、そう口にするカディ。
数百年前、イヴォルブの性能に追いつくため、特定の人間……適合者にしか操れないイヴォルブの代わりに『フォローイヴォルブ』が作られた。名前が削れフォールブと呼ばれるようになり、いつの間にか、イヴォルブ以外の機動兵器や作業用ロボットなどを指す言葉になってしまったが、その研究や開発は今も続けられている。
「遊び相手にもならねぇなら、鉄くずに帰りな」
一本のランスを握り、構えを取る。レジオンの宣言通り、残り三体のフォールブは、300万もした機動兵器は爆発し、ただの鉄くずとなった。
「いい動きだね。この前の黄色いのとは大違いだ」
性能差はもちろんあるが、その上でスレッドはそう言った。カディは何も言わなかったが、心の中で同意した。生身の喧嘩はともかく、イヴォルブの操縦技術は本物だ。
「ご、合計400万シェルが……」
イヴォルブ越しに、腰が抜けたタタルドと目が合う。このまま屋敷を貫いて、あの金持ちを追い払うのは簡単だ。それで、一宿一飯の恩は返せる。
レジオンは屋敷を貫こうとしたが、少し考えた後、具現を解いた。
カディは気に入らないが、住民が恐怖を抑え、勇気を持って立ち上がったのは事実だ。これ以上は、その決意に、戦いで負った傷に水を差す。
「グラサンはそいつが、フォールブは俺が追い払った。あとはお前達で決めろ」
レジオンの言葉を聞いた住民達は、屋敷へとなだれ込んだ。
「面倒で、回りくどい。俺が片付けりゃもっと早く、楽に終わってた」
レジオンが睨むのはカディ。こいつが事態をややこしくした。だが……
「うぅ……」
「終わりだタタルド!」
屋敷の中では、タタルドを縛り上げた者達が、喜びの声を挙げていた。自分達で立ち上がり、勝ち取った勝利だ。痛みは伴ったが、その分喜びも多いのだろう。
レジオンは思う。俺のやり方で、怪我人を出したことはない。だが……あそこまで喜んでいる住民も、また見たことはなかった。
「馬鹿力で二度もぶん殴りやがって」
レジオンは腹を押さえながら言う。こいつのことは今でも気に入らない。
「おかげで上手く動けなかったろうが。あの金持ちを追い払いそこねた」
だが、そのやり方は有りなのかも知れない。住民達の喜びを見て、レジオンは少しだけそう思った。
「そいつは悪かった」
全部片付けるつもりでいたレジオンが自重したことに気付いたカディは、少しだけ笑った。
窓から様子を見ていた執事が、隣で見ていたタタル度にわざわざそう口にした。
「100万シェルを4つ出しなさい! フォールブで踏み潰すのです! プレちゃんの無念を晴らすのです!!」
「仰せのままに!」
肝心のオオトカゲは、特に何も考えずに餌を食べていた。
「警備隊はこれで全部か?」
「呆気なかったね」
「まだ終わっていないぞ貧乏人どもぉ!」屋敷の窓から、タタルドが叫ぶ。
直後、屋敷の横にあった倉庫から、四つの白く巨大な球体が転がり、住民達の前に並ぶ。
「フォ、フォールブか?」
白い玉は亀裂を光らせると、人型のフォールブに変形した。短い手足に、アリクイのような尖った口。胸の球体の部分には、レバーを握る使用人たちが見えた。
「クズボシの研究用に使われてたフォールブだ! 400万シェルは痛かったが、お前達には過ぎたおもちゃだ!」
「俺達の金で買ったもんだろうが!」
「また出番だよカディ」
カディがヴァリエスを取り出そうとすると、レジオンが待てよと槍を向けた。
「何度も美味しいところはやらせねぇ。俺にやらせろ。ジュラウド」
レジオンはそれだけ言うと、懐からヴァリエスを取り出した。
「この人もイヴォルブを?」ルルカの問いに答える者はいなかった。
レジオンは住民達の前に立ち、ヴァリエスを掲げた。
「お前らは下がってろ。後は俺がやる」
ヴァリエスが変形し、レジオンの腕を覆う。
「具現しろ――『ラデュアロス』近くの地面や、屋敷の一部が削り取られ、レジオンの周囲を回りだす。
「まずいです! 近くに居てはフォールブが具現に飲み込まれます!」
「問題ない。GEコーティング済みだ」言葉通り、近くのフォールブが巻き込まれることはなかった。
ガードイヴォルブ(Guard Evolve)コーティング。
ヴァリエスの具現に飲み込まれぬよう、特殊な金属を混ぜ込んだメッキでフォールブを覆う技術だ。これにより、具現の被害からフォールブを守る。
様々な物質が集まり、球体を形作る。五個目の球体から現れたのは、緑色のイヴォルブだった。
力強さを感じる手足に重厚な緑色の装甲に、橙色の目。特徴的なのは、腕の下から手のひらの先にまで伸びた二本の突起。レジオンが背負っていたものと良く似たランスが二本、両腕の下に着いていたのだ。
レジオンが駆る緑色のイヴォルブの名は『ラデュアロス』
「いくらイヴォルブだろうがなぁ!!」
使用人の一人がそう口にした瞬間、ラデュアロスは手を伸ばし、腕に着いていた槍を突き刺した。
「ビリヤードは無理か。腐れボールが」
一機目が爆発したのを見て、レジオンは槍を握り、構えた。
フォールブは爪でラデュアロスを引っ掻いたが、自分の爪が欠けただけ。
「やっぱりフォールブじゃどうにもならないな」
純粋な性能差を見て、そう口にするカディ。
数百年前、イヴォルブの性能に追いつくため、特定の人間……適合者にしか操れないイヴォルブの代わりに『フォローイヴォルブ』が作られた。名前が削れフォールブと呼ばれるようになり、いつの間にか、イヴォルブ以外の機動兵器や作業用ロボットなどを指す言葉になってしまったが、その研究や開発は今も続けられている。
「遊び相手にもならねぇなら、鉄くずに帰りな」
一本のランスを握り、構えを取る。レジオンの宣言通り、残り三体のフォールブは、300万もした機動兵器は爆発し、ただの鉄くずとなった。
「いい動きだね。この前の黄色いのとは大違いだ」
性能差はもちろんあるが、その上でスレッドはそう言った。カディは何も言わなかったが、心の中で同意した。生身の喧嘩はともかく、イヴォルブの操縦技術は本物だ。
「ご、合計400万シェルが……」
イヴォルブ越しに、腰が抜けたタタルドと目が合う。このまま屋敷を貫いて、あの金持ちを追い払うのは簡単だ。それで、一宿一飯の恩は返せる。
レジオンは屋敷を貫こうとしたが、少し考えた後、具現を解いた。
カディは気に入らないが、住民が恐怖を抑え、勇気を持って立ち上がったのは事実だ。これ以上は、その決意に、戦いで負った傷に水を差す。
「グラサンはそいつが、フォールブは俺が追い払った。あとはお前達で決めろ」
レジオンの言葉を聞いた住民達は、屋敷へとなだれ込んだ。
「面倒で、回りくどい。俺が片付けりゃもっと早く、楽に終わってた」
レジオンが睨むのはカディ。こいつが事態をややこしくした。だが……
「うぅ……」
「終わりだタタルド!」
屋敷の中では、タタルドを縛り上げた者達が、喜びの声を挙げていた。自分達で立ち上がり、勝ち取った勝利だ。痛みは伴ったが、その分喜びも多いのだろう。
レジオンは思う。俺のやり方で、怪我人を出したことはない。だが……あそこまで喜んでいる住民も、また見たことはなかった。
「馬鹿力で二度もぶん殴りやがって」
レジオンは腹を押さえながら言う。こいつのことは今でも気に入らない。
「おかげで上手く動けなかったろうが。あの金持ちを追い払いそこねた」
だが、そのやり方は有りなのかも知れない。住民達の喜びを見て、レジオンは少しだけそう思った。
「そいつは悪かった」
全部片付けるつもりでいたレジオンが自重したことに気付いたカディは、少しだけ笑った。
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