夜明けのカディ

蒼セツ

文字の大きさ
13 / 36
第1章

7.レジオンのイヴォルブ

しおりを挟む
「タタルド様。ギャドリ警備隊が全員やられました」

 窓から様子を見ていた執事が、隣で見ていたタタル度にわざわざそう口にした。

「100万シェルを4つ出しなさい! フォールブで踏み潰すのです! プレちゃんの無念を晴らすのです!!」

「仰せのままに!」

 肝心のオオトカゲは、特に何も考えずに餌を食べていた。

「警備隊はこれで全部か?」

「呆気なかったね」

「まだ終わっていないぞ貧乏人どもぉ!」屋敷の窓から、タタルドが叫ぶ。

 直後、屋敷の横にあった倉庫から、四つの白く巨大な球体が転がり、住民達の前に並ぶ。

「フォ、フォールブか?」

 白い玉は亀裂を光らせると、人型のフォールブに変形した。短い手足に、アリクイのような尖った口。胸の球体の部分には、レバーを握る使用人たちが見えた。

「クズボシの研究用に使われてたフォールブだ! 400万シェルは痛かったが、お前達には過ぎたおもちゃだ!」

「俺達の金で買ったもんだろうが!」

「また出番だよカディ」

 カディがヴァリエスを取り出そうとすると、レジオンが待てよと槍を向けた。

「何度も美味しいところはやらせねぇ。俺にやらせろ。ジュラウド」

 レジオンはそれだけ言うと、懐からヴァリエスを取り出した。

「この人もイヴォルブを?」ルルカの問いに答える者はいなかった。

 レジオンは住民達の前に立ち、ヴァリエスを掲げた。

「お前らは下がってろ。後は俺がやる」

 ヴァリエスが変形し、レジオンの腕を覆う。

「具現しろ――『ラデュアロス』近くの地面や、屋敷の一部が削り取られ、レジオンの周囲を回りだす。

「まずいです! 近くに居てはフォールブが具現に飲み込まれます!」

「問題ない。GEコーティング済みだ」言葉通り、近くのフォールブが巻き込まれることはなかった。

 ガードイヴォルブ(Guard Evolve)コーティング。

 ヴァリエスの具現に飲み込まれぬよう、特殊な金属を混ぜ込んだメッキでフォールブを覆う技術だ。これにより、具現の被害からフォールブを守る。

 様々な物質が集まり、球体を形作る。五個目の球体から現れたのは、緑色のイヴォルブだった。

 力強さを感じる手足に重厚な緑色の装甲に、橙色の目。特徴的なのは、腕の下から手のひらの先にまで伸びた二本の突起。レジオンが背負っていたものと良く似たランスが二本、両腕の下に着いていたのだ。

 レジオンが駆る緑色のイヴォルブの名は『ラデュアロス』

「いくらイヴォルブだろうがなぁ!!」

 使用人の一人がそう口にした瞬間、ラデュアロスは手を伸ばし、腕に着いていた槍を突き刺した。

「ビリヤードは無理か。腐れボールが」

 一機目が爆発したのを見て、レジオンは槍を握り、構えた。

 フォールブは爪でラデュアロスを引っ掻いたが、自分の爪が欠けただけ。

「やっぱりフォールブじゃどうにもならないな」
 純粋な性能差を見て、そう口にするカディ。

 数百年前、イヴォルブの性能に追いつくため、特定の人間……適合者にしか操れないイヴォルブの代わりに『フォローイヴォルブ』が作られた。名前が削れフォールブと呼ばれるようになり、いつの間にか、イヴォルブ以外の機動兵器や作業用ロボットなどを指す言葉になってしまったが、その研究や開発は今も続けられている。

「遊び相手にもならねぇなら、鉄くずに帰りな」

 一本のランスを握り、構えを取る。レジオンの宣言通り、残り三体のフォールブは、300万もした機動兵器は爆発し、ただの鉄くずとなった。

「いい動きだね。この前の黄色いのとは大違いだ」

 性能差はもちろんあるが、その上でスレッドはそう言った。カディは何も言わなかったが、心の中で同意した。生身の喧嘩はともかく、イヴォルブの操縦技術は本物だ。

「ご、合計400万シェルが……」

 イヴォルブ越しに、腰が抜けたタタルドと目が合う。このまま屋敷を貫いて、あの金持ちを追い払うのは簡単だ。それで、一宿一飯の恩は返せる。

 レジオンは屋敷を貫こうとしたが、少し考えた後、具現を解いた。

 カディは気に入らないが、住民が恐怖を抑え、勇気を持って立ち上がったのは事実だ。これ以上は、その決意に、戦いで負った傷に水を差す。

「グラサンはそいつが、フォールブは俺が追い払った。あとはお前達で決めろ」

 レジオンの言葉を聞いた住民達は、屋敷へとなだれ込んだ。

「面倒で、回りくどい。俺が片付けりゃもっと早く、楽に終わってた」

 レジオンが睨むのはカディ。こいつが事態をややこしくした。だが……

「うぅ……」

「終わりだタタルド!」

 屋敷の中では、タタルドを縛り上げた者達が、喜びの声を挙げていた。自分達で立ち上がり、勝ち取った勝利だ。痛みは伴ったが、その分喜びも多いのだろう。

 レジオンは思う。俺のやり方で、怪我人を出したことはない。だが……あそこまで喜んでいる住民も、また見たことはなかった。

「馬鹿力で二度もぶん殴りやがって」

 レジオンは腹を押さえながら言う。こいつのことは今でも気に入らない。

「おかげで上手く動けなかったろうが。あの金持ちを追い払いそこねた」

 だが、そのやり方は有りなのかも知れない。住民達の喜びを見て、レジオンは少しだけそう思った。

「そいつは悪かった」

 全部片付けるつもりでいたレジオンが自重したことに気付いたカディは、少しだけ笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。 ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの? 昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに! どうしてこうなったのか、誰か教えて! ※アルファポリスのみの公開です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...