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蟻の自覚
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しおりを挟む『アンス。 じゃあ私は戻るわね。 何かあればすぐに呼ぶのよ?』
俺に肉団子を渡したアリアンナが部屋を後にしようとしていた。
「あ、お待ちくださいアリアンナお姉さま」
それを俺は引き止めた。
俺は一つ試したいことがあったのだ。
魔物とは、魔力により知恵と力を得た生物のことである。
発生条件に差はあれど、共通することは、魔力が関係しているということ。
魔力量の多い魔物の子はそれを受け継ぎ、強大な魔力を持って産まれる。そして強大な魔力はより強い力と高度な知恵を生物に与える。
魔力に当てられ自然と魔物に変貌した魔物も同じだ。強い魔力の発生元の近くに居れば、また強力な魔物となる。
俺が試したいこととは、
――俺が強引に蟻共に魔力を供給すればどうなるのか?
ということだ。
まず魔力とは万能の一言に尽きる。人間で言うならば通貨であり食糧でもあり空気でもある。
魔法を詠唱するのにも対価として魔力を支払い、その支払った魔力に応じて威力・規模などが増減する。
魔力の含有量の多い魔物は強く巨大に成長したりするし、寿命も延びたりする。
魔力の密度の濃い空間では空腹感も薄まり、全身に力がみなぎり疲労感を感じなくなる。
魔力量が減った魔物は顕著に弱体化したりするし、生命活動の危機に瀕したりもする。そういう者に対し――少しコツはいるが――魔力を分け与えたりもできるのだ。
そこで俺は、
――では、たいして魔力量の減ってない魔物に、魔力を注ぎ込めばどうなるのか?
そう思ったわけだ。
俺は、俺を殺したベリス含め、元配下である魔物共に復讐を誓った。
この蟻共は確かに良い駒にはなるはずだ。しかし相手は魔王クラスの実力を持つベリス。そしてそれと同等の力を持った側近衆、更に無数の配下の魔物共。まだ少し頼りない。
だからこそ蟻共には更に強くなって貰わねば困るのだ。
今現在、この巣は俺の魔力により魔力濃度の濃い状態にある。時間をかければいつしかのベリス同様、一匹一匹が魔人クラスの強力な蟻の群れになるやもしれん。
しかしそれでは遅すぎる。何年かかるか解らない。
では強引に――魔力の減った者に魔力を受け渡す要領で――魔力を注ぎ込めばいいのではないか。
しかしリスクは必ず生じる。
魔物以外の生物に魔力を注ぎ込んだ場合の結果を俺は知っていた。
答えは魔力に体がついてこれず融解し、言葉では説明のし難い『物体』に慣れ果てた。
女王に食われると思った時に、俺が魔力を全力で練り込んだ理由がそれだ。
もしそうなった場合、蟻共に何をされるかわかったものじゃない。
まあ魔物である以上、魔力による影響はプラスに働くとは思うのだが・・・。
だが、これは絶対にクリアしておかないといけない課題なのだ。
復讐を果たすために。
『なあにアンス? もしかして寂しいの?』
「いえアリアンナお姉さま。 私はアリアンナお姉さまにお礼がしたいのです」
『まあ! どんなことをしてくれるの!? もしかしてほっぺにキスかしら?』
この鋭利な顎でどうやってキスをするというのだ。全く。
「いえ・・・。 少しお傍にいらして下さい」
『んもう。 なにかしらねー』
念話ではあるが嬉々とした口調でアリアンナは俺の傍へとやってきた。
俺は近寄るアリアンナの頭部に額を近づける。
『あら、ほっぺじゃなくておでこにキスなのね』
馬鹿め。
失敗すればお前は魔力を延々と吐き続ける泥にでも成り下がるぞ。
せめて失敗しないことを祈るがいい。
いや待てよ、今から何をするかも伝えてないわけだから祈るもクソもないな。ククク・・・。
貴様はただの実験台だ。
俺は腹の底に力を入れて、魔力を全身に行き渡らせる。
全身を仄かな熱が循環するのを感じ、次に意識を頭部に集中させた。
体に廻りだした魔力は、淡い紫色の光を帯びて頭部に流れていく。
全ての魔力を注ぎ込むか?いや、それでは失敗する確率の方が高い。そして何かあった時の保険である程度は残しておかないといけない。
半分?どうだろうか?それでも多いか?あまり他人は気にせん質だからこんな行為はしたことがない。力加減を間違い注ぎ込む量が増えてもかなわん。
では、十分の一程度。それでも蟻共にすれば膨大な魔力量だ。
しかしこれは実験。上限を超えて魔力を供給されればどうなるのか、適応したとしてもどんな変化が訪れるのか。それが知りたい。
「プレゼントです。 アリアンナお姉さま」
下卑た口調で俺は言う。
そして頭部に集めた魔力を、アリアンナに注ぎ込んだ。
紫色の淡い光が、アリアンナに吸い込まれていく。
紫の光は一度収束すると、眩い白い光となってアリアンナを中心に輝き、洞窟を明るく照らした。
その光はすさまじく、俺の視界が真っ白に塗りつぶされるほどであった。
「きゃあ!」
――声!?
どうなった!?真っ白で何も見えん!
確かに今声が聞こえた。女性の声、若い女の声だ。
アリアンナは他のお姉さまらと同様念話でしか意志の疎通はできん。ではいったい誰の声だ!?
しかし今は実験の成功の行方だ。
急激な発光。やはり多量な魔力を注ぎ込まれ体が融解し炎上したか?
「ど、どうなったの、今の光はいったい?」
声が聞こえる。
視界は徐々に回復してきた。
前方にアリアンナは――いない。
先ほどまでアリアンナがいたところには、もはや何もなかった。
視線を少し落とすが、地面にも何も痕跡はなかった。
やはり失敗――。供給量が多すぎたのだ。
小さなコップに、大量に水を注げば溢れるのと一緒。アリアンナの体は、膨大な魔力に耐え切れず、あふれかえってしまったのだ。
「――アンス!? アンスはどこなの!?」
しかし誰だこの声の主は。
アンスという名前を呼んでるということは、お母様か。
しかし少し声が違うような気もする。
「・・・アンスはここにございますー」
気だるく返答をする。
何もなかったかのように、アリアンナが消えてしまったことを悟られることが無いようにだ。
しかし痕跡も残さず消し飛んでくれたのはありがたい。アリだけに。
ではなく。
「え、アンス!? あなたなの!? なんでそんなに小さく!?」
なんだなんだ。何を言っているんだ?
頭上から声がする。
俺は声の方向に視線を持って行った。
「――うお! え、アリアンナかお前!?」
「何を言ってるのアンス、私以外にだれが居ると言うの。 それよりもあなた、なんて言葉使いをしているの! しかもお姉さまに向かってお前とも言いましたね!」
「ああっ! いえ、違うのです! だって、お姉さまが、大きくなっているものだから!」
「え、私が、大きく? そういえば、部屋も小さく――こんな窮屈だったかしら・・・。 アンスも小さくなっているし・・・」
そう。そこにはお母様に匹敵するほどの巨大な蟻がいた。
お母様の方が少しだけ大きいくらいではあるが、30メートル近くもある巨大蟻である。
そしてその蟻は、自らの声で自分をアリアンナと言った。
つまり、実験は成功である。
膨大な魔力は、アリアンナに強靭な体と声を与えたのである。
「そうです! お姉さまが大きくなったのです。 そして喋られるようにも――」
「あ・・・、そういえば私、声。 アンス・・・、もしかしてこれがプレゼントなの・・・?」
ふっふっふ。喜んでいるようだな。
まさか成功するとはな。失敗すると思っていた。と、いうよりも実際失敗したと思った。
だがこの変化、なんと素晴らしいものか。
たった一割程度の魔力を注ぎ込むだけで体躯は五倍以上、そして声を出すという進化。
もし更に魔力を与えればどうなっていたのだろうか!
クソ、惜しいことをしたな、二割、いや四割ほど与えてもよかったかもしれん。
もしかしたら蟻という種さえも脱し、魔人へと昇華していたかもしれんではないか。
ぐぬぬ。
見てみたい。
「そうですよアリアンナお姉さま! 私からお姉さまへの恩返しとして魔力を贈らせていただきました! 凄いです! お母様のように強くお美しい!」
ハッハッハ、もっと喜べアリアンナ。
今や貴様はこの巣の中でも最強の兵士となったぞ。
いや、貴様はドラゴンよりも強力でドラゴンよりも知恵のある生物だ!
「なんて愚かなことをしたのですアンス!!!!」
えーなんで怒られるのですか。
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