梅川学院の自習室ー片山 律の自習室防衛戦闘記ー

ゆりゆりは

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―自習室はアツクルシイー

事件と可能性

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息吹先生の白熱セミナーの後の、自習室の士気の上がり方は尋常ではなかった。特に、長谷川野球部員をはじめとする運動部メンバーのモチベーションアップは顕著であった。そして、休憩中には、盗難事件についての話でもちきりになった。ただでさえ、テストに対して、敏感に反応するこの時期に、テスト対策に必要なものを盗むという悪質な行為は、皆憤りを隠せなかった。ただ一人、隣に座っていた、残念イケメン君以外は。

「きょーや先生、もう犯人の目星ついてんのかなあ?」

誰に尋ねるわけでもなく、宙に向けて質問を投げる楓。左手で、天井に向けて消しゴムを投げている。消しゴムは従順に、彼の手の平の中へと帰っていく。規則正しい機械の様にその様は繰り返されていた。

「息吹先生でしょっ!!さぁ、どうかしらね。まあ、どうせ特進の赤点ギリギリのおバカたち数名じゃないの??」

川音さんはぶっきらぼうに答えた。

「何人かいるわよ、先生にいつも勉強する様に注意されてるのにも関わらず、しょっちゅうMABORISHI☆に入り浸ってるの。そいつらが、テストの赤点回避のためにやってるに違いないわっ。完全に、道を誤った入山の慣れの果てよね~」

実は楓はMABORISHI☆に入り浸っている生徒と親交がある。おそらく川音さんの発言はそれを知ってのことだろう。いつもならここで「ふざけるな!!」っと噛みついてくるはずの彼は、神妙な面持ちで考え込んでいた。いつの間にか、消しゴムを宙に投げるのも止め、机に左肘をつき、親指と人差し指で軽くした唇を掴んでいる。

「…違う気がする。」

彼女の発言は理解はできるのだが、不可解な点がいくつかある。

「今回主に狙われているのは、主にS自習室使用者。つまり、僕達の行動をよく把握している者の可能性が高い。おそらくゼロでは無いとは思うけど、S特進でコースも違う、かつ成績も思うように振るわない子達が、S自習室使用者の何人と、接点を持って仲良くする事ってかなり可能性は低いと思う。」

「梅川の選ばれし者達」と呼ばれるエリートが過半数以上在籍している集団に、成績下位者はコンプレックスを抱き、近づきさえしない者がほとんどだ。稀に楓のように選抜コースの生徒から近づき、友情が生まれることはあるらしいが。

「確かに…私もS自習室使用者だから、接点があるけど、自習室使用者じゃなかったら、そもそも接点を持つ機会がないわ。」

納得の川音さんの表情は、まるで解けない問題が解けた時の様にスッキリしていた。

「それに、来週行われる国語テスト、英語テストはS自習室使用権を獲得するためには、大変重要なテストではある。だけど中間テスト・期末テストと違って、どれだけ悪い点数になろうが、補習なったり、成績に影響したりはしない。普段赤点ギリギリを彷徨う生徒達が、そんな補習や成績に影響しないテストのために、他人の物を盗んでまで点数を取ろうとするリスクは無いはず。」

にも関わらず、事件は収まっていない。すると考えられるのは…

「犯人はこの中に、確実にいる。」

楓はガラにもなく、鋭い眼光でつぶやいた。

次の日、学校中が大騒ぎになる事件が起こった。S選抜コース内で行われた英語テスト模試において、不動と言われている順位ピラミッドが動いたからである。なんと、楓が「梅川の至宝」の座から退いてしまった。いくら今回だけとはいえ、平均点を大きく下回り、、同じテストが行われていれば、下手をすればS特進にも抜かされてしまいそうなその点数に、一同驚愕である。

「え…噓でしょ?」

「あの『至宝』が…?」

「何かの間違いじゃない?」

順位表の前でありえないとばかりにざわつく生徒たち。例外なくポカンと口を開けていると、肩にバチンッと衝撃が走った。

「りっっっっっっちゃ~~~~~~ん!!どしたどしたああ!!!!!」

...痛い。こっちからしたら、壁に貼り付けてある事実とそのおかしいテンションどちらについても聞きたい。事の次第に気付き始めた周りの好奇な視線を感じながら、声を絞り出す。

「…い。」

稲妻が走った右肩をさすりながらつぶやく。

「え、何??」

イケメンが首をかしげる。騒動渦中の本人は本当に何もこの状況を理解していないらしい。

「順位だよ、何かあったのか?」

声のトーンが自然と低くなる。さっきまであっけらかんとしていた彼の表情が明らかに曇った。…ほんの一瞬。

「実は昨日お腹の調子がウルトラスーパー悪くてさ~~~~、正直英語のテストどころじゃなかったんだよね~~~。答案用紙にぜーーーーーーーんぶTOILETって書きたかったよぉ…」

そう言って笑い飛ばす彼の声は場の雰囲気にそぐわなかった。

「…本当か?何かあったんじゃないか??」

にわかには信じがたい話である。校内でも絶対的な優秀さを誇っている『至宝』がいくら本人の体調不良とはいえ、こんなにもガクッと順位を落とすことは、現実として受け入れがたかった。

「楓、前の理科の学内合同テストも風邪からの病み上がりって言ってたけど、全体順位3位だっただろ。おんなじ日にやってた数学のテストも満点だったし…お前に体調不良なんて他の生徒と比べたら正直ハンデにもなってない。」
そうだ、明らかにおかしい。腑に落ちなかった。ちなみに学内合同テストとは大学入試試験を模した梅川学院オリジナルテストである。4月、10月と年に2回行われ、10月開催の第2回学内合同テストはなぜか「試験祭」と呼ばれている。詳しく説明は聞いていないが、現実的にテストというものはお祭りになりうるのだろうか…

「あの時はたまたま問題が当たりだったの~~~!!それに俺理系の方が得意だし!」

「試験祭」について思い出していた僕は楓のハイテンションボイスで現実に引き戻された。いつもと変わらない様子で楓は続けたが、正直、薄い言い訳を並べているようにしか聞こえなかった。

「でもーーー」

「あ、俺りさたんに呼ばれてたんだった!!わりい、ちょっと職員室行ってくるわ~~~~」

「おい、かえで!!」

楓は目を合わせることなく、半ば強引に話を終わらせ足早に立ち去ってしまった。彼の態度が僕のモヤモヤを大きくしていく。

「単語帳ぬすまれたんじゃない?誰かに」

そのはっきりとした声音は核心を突くには的確過ぎた。

「川音さん。」

後ろを振り返ると、楓の後ろ姿を見つめる川音さんの姿があった。

「さっき楠八重(やばえ)先生のところに行ってきたんだけど、見事に単語の小問題が全滅だったらしいわ。長文、英作文も進出単語をしっかり理解していないと解けないものばかりだったらしいし。先生ももちろん最近の騒動を知ってるから、『もしかしたら…」ってとても心配してたわ。」

そう淡々と話す川音さんの表情は不安げだった。心の奥底にあったかすかな予想は、確実に現実味を帯びていた。

7月から夏休みまでの自習室利用権の獲得に重要な英語テストと国語のテストまであと5日間。川音さんと同じように、いつにない勢いで職員室に入っていく楓をただ見つめる事しか出来なかった。
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