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鎌鼬
美琴の引越し
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次の日は朝イチでレンタカーに乗り東京へ向かい、美琴の引越しを手伝った。
美琴はバイクに跨り、悠弥の車を追うようにしてアパートまでの道のりを走った。
この分なら日暮れまでには一通りの作業が終了するだろうと踏んでいたが、荷下ろしには思いのほか時間がかかっていた。
それもそのはず、積み込みは美琴の後輩たちと総勢四人がかりだったが、引越し先の人員は悠弥と美琴の二人だけである。それに加え、美琴の部屋は2階。大型家具は少ないが、段ボール箱はゆうに20箱はある。そのほとんどが音楽関係の本やCD、レコードの類だ。
テーブルや棚などの家具を運び終え、二人とも休憩を挟むことにした。
「いやー、やっぱりきっついね。二人で引越しって」
「まあまあ荷物多いな……」
「うーん、どうしても捨てられなくてさ。人に譲ったりもしたんだけど」
「まあ、とりあえず昼メシでも食って、後半戦で一気に片付けようか」
コンビニにでも行こうと話をしつつ、車に乗り込もうとしたところで、聞き慣れた安っぽいエンジン音が聞こえてきた。
「おつかれさまです、悠弥さん! 柏木さん!」
「遥さん! どうして……」
朝霧不動産のロゴのついた軽自動車から遥が降りてくる。
ふふふ、と少しもったいぶりながら、遥は手にした風呂敷包みを掲げた。
「差し入れですよ。お昼ごはん、まだですよね」
「ナイスタイミングです! 今ちょうど買い出しに行こうとしてたところですよ」
包みを開けると、彩りの良いサンドイッチが姿を現す。
「うわー、おいしそー!」
「こら美琴、手を洗いなさい、手を」
「はーい。あれ、ハンドソープどこに入ってるかなー……」
車に積まれたままのダンボール箱を横目に、悠弥は苦笑した。
「ああ……うちの水道使えよ。102号室、鍵空いてるから」
「あ、そーじゃーん! 悠弥んちがあるじゃん!」
美琴は小走りで悠弥の部屋へ向かう。
「おじゃましまーす」
言ってドアを開けようとした瞬間。
二軒隣のドアが内側から空いた。
「あ……」
美琴がその姿を見て立ち止まる。
105号室から現れた颯太は、美琴と目があってそのまま固まった。
口を真一文字に結び、緊張した面持ちで、美琴のことをじっと見つめている。
悠弥は二人の様子を静観することにした。
「こんにちは。今日、206号室に越してきた柏木美琴っていいます。どうぞよろしく」
美琴が朗らかに挨拶し、ぺこりと頭をさげる。
「あ……えっと……雲居……颯太、です」
小さくお辞儀した颯太は、挨拶が終わっても美琴から目を離さない。
見つめられたままの美琴は困惑したのか、ちらりと悠弥を見やる。
悠弥は小首を傾げ、肩をひょいと上げた。
「あの、どこかでお会い……しましたっけ」
颯太につられたのか、たどたどしい口調で美琴が問う。
「歌……歌ってたの見たから。ピアノ弾いて……」
それを聞いた美琴はパッと晴れやかな表情になる。
「なぁんだ! こないだのライブに来てくれてたんだ! ありがと!」
悠弥も得心した。確かに颯太はショッピングモールの、あのステージを見ていた。
「ところで、君もあやかし……なんだよね。なんの妖怪なの?」
美琴のストレートすぎる質問に、颯太のみならず、その場にいた全員が目を丸くした。
颯太は戸惑いながらも、
「鎌鼬……です」
思わず、といった様相で正直に返事をした。
「かまいたち? イタチの仲間かぁ! なんか親近感わいちゃうなぁ。昔フェレット飼ってたんだよ、私。かわいいよね、イタチ。改めてよろしくね。颯太くん!」
颯太は差し出された美琴の右手をそっと握り、少し頬を赤らめている。
「柏木さんすごいですね。颯太くんと一瞬で仲良くなっちゃいましたよ」
悠弥と同じく二人のやりとりを静観していた遥が微笑んで言う。
「このぶんだと、ご近所付き合いは問題なさそうですね」
「颯太に嫌われてるのは俺だけか……」
ぽつりと漏らす悠弥に、遥はクスクスと笑う。
「大丈夫ですよ、きっと」
そして何事か話している美琴たちの元へ歩み寄る。
「颯太くんも、一緒に食事しませんか。たくさん作ってきましたから」
美琴も賛成し、三人で盛り上がりはじめる。
「悠弥さん、みんな一緒に休憩しましょう」
いよいよ取り残された感が出た悠弥への気遣いを忘れない遥。
少しばかり口をとがらせつつも、悠弥もその輪に加わった。
美琴はバイクに跨り、悠弥の車を追うようにしてアパートまでの道のりを走った。
この分なら日暮れまでには一通りの作業が終了するだろうと踏んでいたが、荷下ろしには思いのほか時間がかかっていた。
それもそのはず、積み込みは美琴の後輩たちと総勢四人がかりだったが、引越し先の人員は悠弥と美琴の二人だけである。それに加え、美琴の部屋は2階。大型家具は少ないが、段ボール箱はゆうに20箱はある。そのほとんどが音楽関係の本やCD、レコードの類だ。
テーブルや棚などの家具を運び終え、二人とも休憩を挟むことにした。
「いやー、やっぱりきっついね。二人で引越しって」
「まあまあ荷物多いな……」
「うーん、どうしても捨てられなくてさ。人に譲ったりもしたんだけど」
「まあ、とりあえず昼メシでも食って、後半戦で一気に片付けようか」
コンビニにでも行こうと話をしつつ、車に乗り込もうとしたところで、聞き慣れた安っぽいエンジン音が聞こえてきた。
「おつかれさまです、悠弥さん! 柏木さん!」
「遥さん! どうして……」
朝霧不動産のロゴのついた軽自動車から遥が降りてくる。
ふふふ、と少しもったいぶりながら、遥は手にした風呂敷包みを掲げた。
「差し入れですよ。お昼ごはん、まだですよね」
「ナイスタイミングです! 今ちょうど買い出しに行こうとしてたところですよ」
包みを開けると、彩りの良いサンドイッチが姿を現す。
「うわー、おいしそー!」
「こら美琴、手を洗いなさい、手を」
「はーい。あれ、ハンドソープどこに入ってるかなー……」
車に積まれたままのダンボール箱を横目に、悠弥は苦笑した。
「ああ……うちの水道使えよ。102号室、鍵空いてるから」
「あ、そーじゃーん! 悠弥んちがあるじゃん!」
美琴は小走りで悠弥の部屋へ向かう。
「おじゃましまーす」
言ってドアを開けようとした瞬間。
二軒隣のドアが内側から空いた。
「あ……」
美琴がその姿を見て立ち止まる。
105号室から現れた颯太は、美琴と目があってそのまま固まった。
口を真一文字に結び、緊張した面持ちで、美琴のことをじっと見つめている。
悠弥は二人の様子を静観することにした。
「こんにちは。今日、206号室に越してきた柏木美琴っていいます。どうぞよろしく」
美琴が朗らかに挨拶し、ぺこりと頭をさげる。
「あ……えっと……雲居……颯太、です」
小さくお辞儀した颯太は、挨拶が終わっても美琴から目を離さない。
見つめられたままの美琴は困惑したのか、ちらりと悠弥を見やる。
悠弥は小首を傾げ、肩をひょいと上げた。
「あの、どこかでお会い……しましたっけ」
颯太につられたのか、たどたどしい口調で美琴が問う。
「歌……歌ってたの見たから。ピアノ弾いて……」
それを聞いた美琴はパッと晴れやかな表情になる。
「なぁんだ! こないだのライブに来てくれてたんだ! ありがと!」
悠弥も得心した。確かに颯太はショッピングモールの、あのステージを見ていた。
「ところで、君もあやかし……なんだよね。なんの妖怪なの?」
美琴のストレートすぎる質問に、颯太のみならず、その場にいた全員が目を丸くした。
颯太は戸惑いながらも、
「鎌鼬……です」
思わず、といった様相で正直に返事をした。
「かまいたち? イタチの仲間かぁ! なんか親近感わいちゃうなぁ。昔フェレット飼ってたんだよ、私。かわいいよね、イタチ。改めてよろしくね。颯太くん!」
颯太は差し出された美琴の右手をそっと握り、少し頬を赤らめている。
「柏木さんすごいですね。颯太くんと一瞬で仲良くなっちゃいましたよ」
悠弥と同じく二人のやりとりを静観していた遥が微笑んで言う。
「このぶんだと、ご近所付き合いは問題なさそうですね」
「颯太に嫌われてるのは俺だけか……」
ぽつりと漏らす悠弥に、遥はクスクスと笑う。
「大丈夫ですよ、きっと」
そして何事か話している美琴たちの元へ歩み寄る。
「颯太くんも、一緒に食事しませんか。たくさん作ってきましたから」
美琴も賛成し、三人で盛り上がりはじめる。
「悠弥さん、みんな一緒に休憩しましょう」
いよいよ取り残された感が出た悠弥への気遣いを忘れない遥。
少しばかり口をとがらせつつも、悠弥もその輪に加わった。
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