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幽霊
情報交換
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妙な沈黙が居たたまれなく、悠弥は早々に次の話題を切り出す。
「玲子さんのこと、あれから何か新しい情報はありますか?」
「それが全然。彼女自身も過去を思い出せないのが、もどかしいみたいです。ここ数日外出が多いのも、何か手がかりを探しているみたいですね」
「なるほど……」
「そちらは、何かわかりましたか?」
はじめてこの部屋で玲子と出会った日からおよそ1週間。悠弥もただぼんやりと過ごしていたわけではなかった。まず太助の部屋の履歴を調べた。太助の住むマンションは分譲賃貸物件。分譲マンションをオーナーが賃貸に出している状態だ。
「登記簿をあげて、所有者の履歴を辿ってみたんですが……」
所有者は1年ほど前に変わっていて、現在の所有者が賃貸契約上の貸主と一致していた。物件を売買する場合は、事故発生から何年経っていても告知義務はなくならない。貸主に連絡を取れば、もしこの部屋が事故物件だったとしたなら、何かしらの情報は持っているはずである。
太助が紹介を受けた不動産屋には、遥の友人が事務員として働いているらしい。状況を説明して、貸主に聞いてもらえるよう手配済みで、夕方からその友人と落ち合っているはずである。
「貸主の方は、遥さんが調査しています。それと……このマンション名でネット検索をかけてみたんですが、事件事故の記事にはヒットしませんでした」
事故物件の情報を専門に掲載しているインターネットサイトもあるが、このマンションは検索にかからなかった。
「玲子さんが亡くなったのが、かなり昔で情報が残っていないのか、亡くなった場所がこの部屋ではないのか。そもそも事件事故の類ではないという可能性もあるかもしれないですね」
あとは周囲への聞き込みや古新聞をあたるくらいしか考えられる方法はないが、玲子の記憶が定かではなく、亡くなった年月はおろかフルネームすらわかっていない。
「このマンション全員に聞き込みをすれば、誰か一人くらい覚えている人がいるかもしれませんよね。聞いてまわってみましょうか」
太助の提案に、悠弥は渋い返事を返す。
「いや……それはあまりに怪しすぎますよ。太助さんが不審者扱いされちゃ困りますし」
「でも、他にいい方法がありますかね……」
悠弥にも他に思い当たる手段はないのだが、先ほどの隣人とのやりとりを鑑みても、下手をすれば不審人物としてこちらが通報されかねない。太助はようやく一般の賃貸へ引っ越し、人間社会で独り立ちしたのだ。迷惑行為をする人物としてマークされるのは得策ではない。
「正直なところ、今の状況だと遥さんの情報如何によってはお手上げです。でも、聞き込みは最終手段として取っておくことにしましょう。そうなったら、俺がやりますから」
一番良いのは、玲子自身が自分のことを思い出してくれることなのだが、それを期待して待つだけというわけにもいかない。
「そういえば、太助さんには玲子さんの姿が見えているんですよね。玲子さんってどんな感じの人ですか? 年齢とか、服装の雰囲気とか……」
「ううーん、そうですね……服装は……つなぎの服を着ています」
「つなぎ? ワンピースかな……」
「あ、そういうんですか。上下繋がってるタイプですね。髪は長くて薄い色……白に近いです。年齢は……よくわかりませんけど、幼くも老けてもいないですよ。朝霧さんと同じ感じです」
あやかしである太助には、人間の微妙な年齢はまだ判断できないのかもしれない。
悠弥が抱いていた玲子のイメージは、おとなしく、どちらかというと家にこもりがちなタイプの女性だったのだが、どうやら少し違ったようだ。
「金髪なのかな。ちょっと派手なタイプみたいだ」
「そうですね、僕の周りではあんまり見かけない感じです。ワンピースも夏っぽい薄着で寒そうな感じなんですよね」
玲子が20代前半くらいだと仮定して、そんな髪型ができるとしたら、学生か、何かしらのアルバイト勤務の可能性もあるだろうか。
「あんまり堅い仕事に就いていた感じではなさそうだけど……絞りこむには情報が少なすぎるなぁ」
職場、学校、とにかくなんでも良いから玲子が所属していた場所の情報がほしい。
「仕事……そういえば玲子さん、夕方になると出かけなきゃって思う、といっていたことがあります。もしかしたら夜勤の仕事かも。僕も前の仕事は夜勤でしたから、夕方になると行かなきゃって思ったものです」
「ああ、なるほど。朝起きたら仕事に行かなきゃ、と思うのと一緒ですね」
夜勤のある仕事に絞り込めそうだが、やはりそれだけでは動きようがないのも事実だ。
太助にもそれ以上は情報がないようで、お互いにそれ以上の推測はできそうになかった。
「もう少し、玲子さんとコミュニケーションをとってみます。いろいろ話しているうちに、思い出すこともあるかもしれないし」
太助がそう言ったと同時に、インターホンが鳴った。
太助が応答し、オートロックの解鍵ボタンを押す。
「朝霧さんが来ました」
部屋に入ってきたのは遥だけではなかった。
「入口でばったり会いまして……」
「あ……おかえりなさい。どこに行っていたんですか、こんな時間まで」
どうやら、玲子も一緒のようだ。
面倒なことに、悠弥にはその姿も見えなければ、声もはっきりとは聞こえない。何か言ったようだ、とか相槌を打っているようだ、くらいの感覚しかないのだ。
「東雲さん、玲子さんも一緒に戻ってきました。これで全員揃いましたね」
二人を部屋に招き入れ、律儀に二人分のコーヒーを新たに用意してきた太助が席に着く。
「玲子さんがいらっしゃるところでこういう話をするのもなんですけれど……、玲子さんの記憶が戻る手がかりになるかもしれませんし、お話しますね」
遥が話の口火を切る。
「単刀直入にいうと、やはりこの部屋で玲子さんは亡くなっていました」
「玲子さんのこと、あれから何か新しい情報はありますか?」
「それが全然。彼女自身も過去を思い出せないのが、もどかしいみたいです。ここ数日外出が多いのも、何か手がかりを探しているみたいですね」
「なるほど……」
「そちらは、何かわかりましたか?」
はじめてこの部屋で玲子と出会った日からおよそ1週間。悠弥もただぼんやりと過ごしていたわけではなかった。まず太助の部屋の履歴を調べた。太助の住むマンションは分譲賃貸物件。分譲マンションをオーナーが賃貸に出している状態だ。
「登記簿をあげて、所有者の履歴を辿ってみたんですが……」
所有者は1年ほど前に変わっていて、現在の所有者が賃貸契約上の貸主と一致していた。物件を売買する場合は、事故発生から何年経っていても告知義務はなくならない。貸主に連絡を取れば、もしこの部屋が事故物件だったとしたなら、何かしらの情報は持っているはずである。
太助が紹介を受けた不動産屋には、遥の友人が事務員として働いているらしい。状況を説明して、貸主に聞いてもらえるよう手配済みで、夕方からその友人と落ち合っているはずである。
「貸主の方は、遥さんが調査しています。それと……このマンション名でネット検索をかけてみたんですが、事件事故の記事にはヒットしませんでした」
事故物件の情報を専門に掲載しているインターネットサイトもあるが、このマンションは検索にかからなかった。
「玲子さんが亡くなったのが、かなり昔で情報が残っていないのか、亡くなった場所がこの部屋ではないのか。そもそも事件事故の類ではないという可能性もあるかもしれないですね」
あとは周囲への聞き込みや古新聞をあたるくらいしか考えられる方法はないが、玲子の記憶が定かではなく、亡くなった年月はおろかフルネームすらわかっていない。
「このマンション全員に聞き込みをすれば、誰か一人くらい覚えている人がいるかもしれませんよね。聞いてまわってみましょうか」
太助の提案に、悠弥は渋い返事を返す。
「いや……それはあまりに怪しすぎますよ。太助さんが不審者扱いされちゃ困りますし」
「でも、他にいい方法がありますかね……」
悠弥にも他に思い当たる手段はないのだが、先ほどの隣人とのやりとりを鑑みても、下手をすれば不審人物としてこちらが通報されかねない。太助はようやく一般の賃貸へ引っ越し、人間社会で独り立ちしたのだ。迷惑行為をする人物としてマークされるのは得策ではない。
「正直なところ、今の状況だと遥さんの情報如何によってはお手上げです。でも、聞き込みは最終手段として取っておくことにしましょう。そうなったら、俺がやりますから」
一番良いのは、玲子自身が自分のことを思い出してくれることなのだが、それを期待して待つだけというわけにもいかない。
「そういえば、太助さんには玲子さんの姿が見えているんですよね。玲子さんってどんな感じの人ですか? 年齢とか、服装の雰囲気とか……」
「ううーん、そうですね……服装は……つなぎの服を着ています」
「つなぎ? ワンピースかな……」
「あ、そういうんですか。上下繋がってるタイプですね。髪は長くて薄い色……白に近いです。年齢は……よくわかりませんけど、幼くも老けてもいないですよ。朝霧さんと同じ感じです」
あやかしである太助には、人間の微妙な年齢はまだ判断できないのかもしれない。
悠弥が抱いていた玲子のイメージは、おとなしく、どちらかというと家にこもりがちなタイプの女性だったのだが、どうやら少し違ったようだ。
「金髪なのかな。ちょっと派手なタイプみたいだ」
「そうですね、僕の周りではあんまり見かけない感じです。ワンピースも夏っぽい薄着で寒そうな感じなんですよね」
玲子が20代前半くらいだと仮定して、そんな髪型ができるとしたら、学生か、何かしらのアルバイト勤務の可能性もあるだろうか。
「あんまり堅い仕事に就いていた感じではなさそうだけど……絞りこむには情報が少なすぎるなぁ」
職場、学校、とにかくなんでも良いから玲子が所属していた場所の情報がほしい。
「仕事……そういえば玲子さん、夕方になると出かけなきゃって思う、といっていたことがあります。もしかしたら夜勤の仕事かも。僕も前の仕事は夜勤でしたから、夕方になると行かなきゃって思ったものです」
「ああ、なるほど。朝起きたら仕事に行かなきゃ、と思うのと一緒ですね」
夜勤のある仕事に絞り込めそうだが、やはりそれだけでは動きようがないのも事実だ。
太助にもそれ以上は情報がないようで、お互いにそれ以上の推測はできそうになかった。
「もう少し、玲子さんとコミュニケーションをとってみます。いろいろ話しているうちに、思い出すこともあるかもしれないし」
太助がそう言ったと同時に、インターホンが鳴った。
太助が応答し、オートロックの解鍵ボタンを押す。
「朝霧さんが来ました」
部屋に入ってきたのは遥だけではなかった。
「入口でばったり会いまして……」
「あ……おかえりなさい。どこに行っていたんですか、こんな時間まで」
どうやら、玲子も一緒のようだ。
面倒なことに、悠弥にはその姿も見えなければ、声もはっきりとは聞こえない。何か言ったようだ、とか相槌を打っているようだ、くらいの感覚しかないのだ。
「東雲さん、玲子さんも一緒に戻ってきました。これで全員揃いましたね」
二人を部屋に招き入れ、律儀に二人分のコーヒーを新たに用意してきた太助が席に着く。
「玲子さんがいらっしゃるところでこういう話をするのもなんですけれど……、玲子さんの記憶が戻る手がかりになるかもしれませんし、お話しますね」
遥が話の口火を切る。
「単刀直入にいうと、やはりこの部屋で玲子さんは亡くなっていました」
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