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8月13日 その2
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僕は昔から祖母の家が、殊にお盆の時期のが苦手だった。
天井近くの壁に掛けられている、ご先祖様達の白黒写真。それが何枚も並んでいるのが、酷く恐ろしくて仕方がない。それに加えてその時期は、仏壇にロウソクが立てられている。その灯が写真を照らすことで、それに写る人々の顔がより一層不気味に見えたからだ。
「どおしておぼんだと、ろーそくをたてるの?」
幼い頃、僕は一度だけ祖母に尋ねた。その時祖母は、マッチを手に笑顔で答えた。
「ここら辺でしかやらないことなんだけどね、こうやってロウソクに火をつけて並べて、ご先祖様のいる世界とこの世界を繋ぐ道を作るためなんだよ。」
そう言いながら、祖母は火のついたロウソクを二列に並べていた。幼い僕はその話を真に受けて、おばけが怖いと泣きだしてしまった。
今思えば、本当にご先祖様が帰ってくるわけない。それでも、二列に並べられたロウソクの火は "ご先祖様のいる世界とこの世界を繋ぐ道" のように見えなくもなかった。
「そういえば、今年はツトムちゃんも来てるのよ」
祖母の声に、僕は現実に引き戻された。
「努さんが?」
僕がそういうや否や、客間の戸が開いて背の高い青年が現れた。
「ばあちゃん、台所火つけっぱだったけど…」
青年は言いかけて言葉を切り、僕の方を見て笑った。
「やぁ、タケルくん。五年ぶりくらい…かな?」
その青年こそが、努という僕の六歳年上の従兄弟だった。大学に進学して今は東京で一人暮らしをしているらしい彼は、六年前とは比べ物にならないほど大人びて見えた。
努に言われて祖母が台所に行くと、彼は僕の方に向き直っていった。
「本当に大きくなったなぁタケちゃん。……ところでなんだけど、ばあちゃんの前で去年の話はしないでくれよ。その話すると…」
そう言い切らないうちに、麦茶を乗せたお盆を持って、祖母が台所から現れた。
「ほら、熱い中歩いて来たんだから、水分補給をしなきゃだめだよ。去年のわたしみたいになっちゃうよ。」
その祖母の言葉で、僕は去年のことを思い出す。
去年の夏、祖母は熱中症で入院した。幸いにも、郵便配達員が見つけてくれたおかげで事なきを得たが、そのことが原因で去年の帰省はなくなったのだった。
「あの時は、本当に死ぬかと思ったよ」
祖母は話を続ける。
「お盆だったからかねぇ、お父さんの幽霊が見えたよ。でも "まだくるな" って言われたようなきがしてねぇ、気がついたら病院にいたのさ。」
渡された麦茶を飲みながら、僕は祖母の話を聞いていた。努さんは聞き飽きているらしく、またかというような顔をしていた。
「お盆に死んだ人が帰ってくるっていうのは本当だって、そう思うようになったよ。二人はどう思うかい?」
なるほどと、僕は思った。こんな話を何度もされるのは、あまり気分が良くないかもしれない。
「信じられない…よな?」
祖母に聞こえないように努さんは言ったのだった。
その時努が感じていたことが、"信じられない" ではなく "信じたくない" だったことなど、僕は知る由もなかった。
天井近くの壁に掛けられている、ご先祖様達の白黒写真。それが何枚も並んでいるのが、酷く恐ろしくて仕方がない。それに加えてその時期は、仏壇にロウソクが立てられている。その灯が写真を照らすことで、それに写る人々の顔がより一層不気味に見えたからだ。
「どおしておぼんだと、ろーそくをたてるの?」
幼い頃、僕は一度だけ祖母に尋ねた。その時祖母は、マッチを手に笑顔で答えた。
「ここら辺でしかやらないことなんだけどね、こうやってロウソクに火をつけて並べて、ご先祖様のいる世界とこの世界を繋ぐ道を作るためなんだよ。」
そう言いながら、祖母は火のついたロウソクを二列に並べていた。幼い僕はその話を真に受けて、おばけが怖いと泣きだしてしまった。
今思えば、本当にご先祖様が帰ってくるわけない。それでも、二列に並べられたロウソクの火は "ご先祖様のいる世界とこの世界を繋ぐ道" のように見えなくもなかった。
「そういえば、今年はツトムちゃんも来てるのよ」
祖母の声に、僕は現実に引き戻された。
「努さんが?」
僕がそういうや否や、客間の戸が開いて背の高い青年が現れた。
「ばあちゃん、台所火つけっぱだったけど…」
青年は言いかけて言葉を切り、僕の方を見て笑った。
「やぁ、タケルくん。五年ぶりくらい…かな?」
その青年こそが、努という僕の六歳年上の従兄弟だった。大学に進学して今は東京で一人暮らしをしているらしい彼は、六年前とは比べ物にならないほど大人びて見えた。
努に言われて祖母が台所に行くと、彼は僕の方に向き直っていった。
「本当に大きくなったなぁタケちゃん。……ところでなんだけど、ばあちゃんの前で去年の話はしないでくれよ。その話すると…」
そう言い切らないうちに、麦茶を乗せたお盆を持って、祖母が台所から現れた。
「ほら、熱い中歩いて来たんだから、水分補給をしなきゃだめだよ。去年のわたしみたいになっちゃうよ。」
その祖母の言葉で、僕は去年のことを思い出す。
去年の夏、祖母は熱中症で入院した。幸いにも、郵便配達員が見つけてくれたおかげで事なきを得たが、そのことが原因で去年の帰省はなくなったのだった。
「あの時は、本当に死ぬかと思ったよ」
祖母は話を続ける。
「お盆だったからかねぇ、お父さんの幽霊が見えたよ。でも "まだくるな" って言われたようなきがしてねぇ、気がついたら病院にいたのさ。」
渡された麦茶を飲みながら、僕は祖母の話を聞いていた。努さんは聞き飽きているらしく、またかというような顔をしていた。
「お盆に死んだ人が帰ってくるっていうのは本当だって、そう思うようになったよ。二人はどう思うかい?」
なるほどと、僕は思った。こんな話を何度もされるのは、あまり気分が良くないかもしれない。
「信じられない…よな?」
祖母に聞こえないように努さんは言ったのだった。
その時努が感じていたことが、"信じられない" ではなく "信じたくない" だったことなど、僕は知る由もなかった。
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