夏の怪異 夜の峠

池田よしひと

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8月14日

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 僕が祖母の家に着いた翌日。努さんと僕は祖母に頼まれて、地域の集会に参加することになった。
 地域の集会と言っても特になにかを決めるわけではなく、実質宴会のようなものならしい。ただ、祖母は去年からそのようなものに参加しなくなっており、"お盆の時期のだけは特別だから" と、二人が代理で出席することとなった。

 「なんで、お盆の時期の集会だけ特別なんですか?」
集会が行われる麓の町へ、努さんの車で向かう途中、僕は彼に尋ねた。
「なんか色々理由はあるらしいけど、お盆の風習が強く残ってるのが一番大きいらしいぞ?」
風習が強く残っている…なんだか、納得できるようなできないような理由だと、僕は思った。
「まぁ、羽目を外してみんなが騒げる日なんだろうな。」
そう言いながら努さんがハンドルを切ると、木々が無くなり麓の町が見えてきた。道の両脇に灯っていた街灯は、何かを彷彿させるようだった。

 集会、いや、宴会は夜の七時に始まった。確かに特別なのだろう、地域一帯の住人やその親戚達が主催者の町長の家に集まると、とても数え切れなかった。その大人数が騒ぐのだから、賑やかさと熱気が凄まじかった。努さんも大人達に混ざって騒いでいるため、僕は話し相手も無しに一人で部屋の隅にいることが多くなった。
 …奇妙な話を聞いたのは、そんな風に暇を持て余していた時だった。
 ちょうど町長さんの後ろあたりに座っていると、顔を真っ赤にした男があらわれた。
「タツさん、今年はアリタの奴ぁこねぇのかい?」
男が町長に話かけると、町長は残念そうな顔をその人に向けた。
「そうなんだよ。アリタさんラジオの収録があるらしくて、今年は参加できないそうなんだよ。」
町長の返答に、
「ラジオぉ?そりゃまたどうして?」
と男は言う。返事を言う前に周りを見渡してから、町長は小声で答えた。
「そりゃあ、峠の道であんなことが起きてから三年になるからさ。」
それを聞くと、男の顔は急に真面目になった。
「そいつぁ悪かった。若い子にあんなことが起きたんだ、俺も忘れてたわけじゃないんだが、ちと酔い過ぎたな…。」
それから二人は別の話をし始めたので、僕は聞き耳をたてるのをやめた。
 三年前、若い人に何かが起きた。その話はとても気になるものだったが、わざわざそれ以上聞く勇気は僕には無かった。
  気が着くと、時計は十一時を指していた。努さんに "帰ろう" と言われたのは、それから更に少し後のことだった。

 …あんな話を聞かなければ良かったと、後になって僕は悔やむことになる。
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