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1章
ポーズをもう一つ<イオリス視点>
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そうだ、自発的には到底できない、巧斗をお姫様だっこする機会。動揺している場合じゃない。ありがたく燃料を頂戴した方が得策だ。
俺は開き直って巧斗を抱え上げた。
「わわっ!? で、殿下……!」
慣れない体勢に慌てた彼が、俺の胸にしがみつく。それだけで柄にもなくときめいてしまう。
「あー、いいわぁ~。そのまま動かないでね」
「う、動かないでって……。うわ、すみません殿下、重いですよね……?」
「……いや、全然平気だ」
それどころか、想像したよりずっと軽い。そして心の燃料ががんがん補充されて力が湧いてくる。
まつげの一本まで見えるくらい近くに巧斗の顔があって、ついそれにばかり気を取られてしまう。
それに、この今まで以上に良い匂い……。
「……巧斗、何だか匂いが変わったか?」
「あ、はい。ちょっと能力が解放されて匂いが強化されたみたいで……。殿下はこの匂い、大丈夫ですか?」
「大丈夫、とは?」
どういう意味かと訊ねると、巧斗は何故か僅かに頬を染めて、困ったように視線を逸らした。
「え、えーと……。その、俺の匂いのせいで変な気分になったり、しませんか? だからさっきは、殿下と俺でモデルなんてするのはまずいかなあと思ってたんですけど……。ああもう、ここまで密着すると分かってたら、もうちょっと考えたのに」
また眉をハの字にして、そういう可愛い顔をするから困る。
しかしその前に、俺は巧斗の言葉に反応した。
「……お前、俺が『女神の加護』のフェロモンの影響を受けてること、知ってたのか」
鈍感で、今まで俺の好意にまったく気付いていなかったはずの男が、彼を相手にそういう気分になる俺を知っている。それに驚いた。
「ええ。前回のこともあるし、ジョゼやギース様、それに美由も言ってたし……。だからその、匂いに惑わされて殿下の身体が反応しちゃうのは、申し訳ないなあと」
ああ、でも肝心なところが通じていないのかもしれない。俺はその匂いだけに反応しているわけじゃないのだ。離れたところにいたって、巧斗のことを考えるだけで心拍数が上がる。
もう、正直に言ってしまうべきだろうか。
舞子は絵を描くのに夢中だし、ミュリカは手元の腕輪を見ている。これだけ接近していれば、気付かれずに巧斗に告げることができるかもしれない。
俺は心持ち巧斗の耳元に顔を近付けて、他には聞こえぬように囁いた。
「……申し訳なくなんて思う必要はない。巧斗、俺はお前が好」
「はい! ありがとうございます! このポーズはざっくり描けたんで、王子様もう師匠さんのこと下ろしていいですよ~」
「あ、良かった。殿下、もう俺のこと下ろしていいそうですよ」
……は? ……いやいやいや、待て待て。
「おい……ちょっと早くないか……」
「あたりを取ってざざっとデッサンするだけなんで、一枚はこんなものです。まあ、結構速筆とは言われますけど」
ふざけんなこのやろう。
何もこの絶妙のタイミングで終わらなくてもいいだろう。このせっかくの決心をどうしてくれる。
……しかし今更続きを告げられるはずもなく、俺はしぶしぶ巧斗を腕から下ろした。
「はい、じゃあ、次のポーズお願いしていいですか?」
するとすぐに舞子が紙を新しいものに差し替えてにこりと笑う。
そういえばさっき、いくつかのポーズを頼みたいと言っていたっけ。それを聞いた巧斗が目を瞬いた。
「え、まだあるのか?」
「もちろんです! こんな美味しい機会なかなかありませんから! 次はどうしようかな、あごクイもいいし、壁ドン、床ドン、もしくはオーソドックスに抱擁か……」
「……舞ちゃん、もう目的は達成したから、終わっていいよ」
一人テンションの上がっている舞子に、横からミュリカが冷静に終了を促した。俺の燃料ゲージがかなり回復したことが分かっているのだろう。相変わらずきっちりしている。
けれど舞子は、そのミュリカの終了宣言にあからさまに不服そうな顔をした。
「ええ~!? 今のはウォーミングアップみたいなものじゃない。一枚で終わると分かってたらもっと突っ込んだポーズお願いしたのに~。せめてもう一枚くらい描かせてよ!」
「最初から一枚って言ったらとんでもないポーズ取らせそうだから言わなかったのよ。……まあ、モデルの二人がいいって言うなら、もう一枚くらいは大目に見るけど」
舞子に譲歩をしたミュリカがちらりと俺を見る。これは、もしかして俺にもう一度告白するチャンスをくれようとしているんだろうか。
だとしたら乗らない手はない。
「俺は、相手が巧斗ならもう一枚くらい構わない」
「へっ!? で、殿下……?」
「わあ、ありがとうございます! 師匠さんもいいですよねっ?」
「え、あ、はい……」
俺が承諾をしてしまうと、巧斗は舞子にあっさりと押し切られた。
彼女はうらやましいくらい自分の欲望に忠実に猛進するぶれない強者だ。ある意味尊敬する。
「さて、一ポーズだけとなると、何にしようかな~。せっかくベッドもあるし、いっそ」
「舞ちゃん。ポーズの内容によっては即座に中止させるからね」
「……美由ちゃん、先回り早いなあ~……仕方ない、じゃあ王子様、軽~く師匠さんを押し倒してもらえます?」
「……押し……?」
さっきのお姫様だっこもそうだが、そもそも彼女は一体何を描くつもりなんだろう。怪訝な顔をすると、舞子はとてもいい笑顔で望むポーズの説明をしてくれた。
「まず師匠さんのことをベッドに仰向けに押し倒して! すかさずそこに乗り上げて! 両手首を掴んでベッドに押さえつけて逃がさないようにしてくれればいいんですよ~! 簡単ですよね!」
……全然軽~い押し倒しじゃないんですけど。
俺は開き直って巧斗を抱え上げた。
「わわっ!? で、殿下……!」
慣れない体勢に慌てた彼が、俺の胸にしがみつく。それだけで柄にもなくときめいてしまう。
「あー、いいわぁ~。そのまま動かないでね」
「う、動かないでって……。うわ、すみません殿下、重いですよね……?」
「……いや、全然平気だ」
それどころか、想像したよりずっと軽い。そして心の燃料ががんがん補充されて力が湧いてくる。
まつげの一本まで見えるくらい近くに巧斗の顔があって、ついそれにばかり気を取られてしまう。
それに、この今まで以上に良い匂い……。
「……巧斗、何だか匂いが変わったか?」
「あ、はい。ちょっと能力が解放されて匂いが強化されたみたいで……。殿下はこの匂い、大丈夫ですか?」
「大丈夫、とは?」
どういう意味かと訊ねると、巧斗は何故か僅かに頬を染めて、困ったように視線を逸らした。
「え、えーと……。その、俺の匂いのせいで変な気分になったり、しませんか? だからさっきは、殿下と俺でモデルなんてするのはまずいかなあと思ってたんですけど……。ああもう、ここまで密着すると分かってたら、もうちょっと考えたのに」
また眉をハの字にして、そういう可愛い顔をするから困る。
しかしその前に、俺は巧斗の言葉に反応した。
「……お前、俺が『女神の加護』のフェロモンの影響を受けてること、知ってたのか」
鈍感で、今まで俺の好意にまったく気付いていなかったはずの男が、彼を相手にそういう気分になる俺を知っている。それに驚いた。
「ええ。前回のこともあるし、ジョゼやギース様、それに美由も言ってたし……。だからその、匂いに惑わされて殿下の身体が反応しちゃうのは、申し訳ないなあと」
ああ、でも肝心なところが通じていないのかもしれない。俺はその匂いだけに反応しているわけじゃないのだ。離れたところにいたって、巧斗のことを考えるだけで心拍数が上がる。
もう、正直に言ってしまうべきだろうか。
舞子は絵を描くのに夢中だし、ミュリカは手元の腕輪を見ている。これだけ接近していれば、気付かれずに巧斗に告げることができるかもしれない。
俺は心持ち巧斗の耳元に顔を近付けて、他には聞こえぬように囁いた。
「……申し訳なくなんて思う必要はない。巧斗、俺はお前が好」
「はい! ありがとうございます! このポーズはざっくり描けたんで、王子様もう師匠さんのこと下ろしていいですよ~」
「あ、良かった。殿下、もう俺のこと下ろしていいそうですよ」
……は? ……いやいやいや、待て待て。
「おい……ちょっと早くないか……」
「あたりを取ってざざっとデッサンするだけなんで、一枚はこんなものです。まあ、結構速筆とは言われますけど」
ふざけんなこのやろう。
何もこの絶妙のタイミングで終わらなくてもいいだろう。このせっかくの決心をどうしてくれる。
……しかし今更続きを告げられるはずもなく、俺はしぶしぶ巧斗を腕から下ろした。
「はい、じゃあ、次のポーズお願いしていいですか?」
するとすぐに舞子が紙を新しいものに差し替えてにこりと笑う。
そういえばさっき、いくつかのポーズを頼みたいと言っていたっけ。それを聞いた巧斗が目を瞬いた。
「え、まだあるのか?」
「もちろんです! こんな美味しい機会なかなかありませんから! 次はどうしようかな、あごクイもいいし、壁ドン、床ドン、もしくはオーソドックスに抱擁か……」
「……舞ちゃん、もう目的は達成したから、終わっていいよ」
一人テンションの上がっている舞子に、横からミュリカが冷静に終了を促した。俺の燃料ゲージがかなり回復したことが分かっているのだろう。相変わらずきっちりしている。
けれど舞子は、そのミュリカの終了宣言にあからさまに不服そうな顔をした。
「ええ~!? 今のはウォーミングアップみたいなものじゃない。一枚で終わると分かってたらもっと突っ込んだポーズお願いしたのに~。せめてもう一枚くらい描かせてよ!」
「最初から一枚って言ったらとんでもないポーズ取らせそうだから言わなかったのよ。……まあ、モデルの二人がいいって言うなら、もう一枚くらいは大目に見るけど」
舞子に譲歩をしたミュリカがちらりと俺を見る。これは、もしかして俺にもう一度告白するチャンスをくれようとしているんだろうか。
だとしたら乗らない手はない。
「俺は、相手が巧斗ならもう一枚くらい構わない」
「へっ!? で、殿下……?」
「わあ、ありがとうございます! 師匠さんもいいですよねっ?」
「え、あ、はい……」
俺が承諾をしてしまうと、巧斗は舞子にあっさりと押し切られた。
彼女はうらやましいくらい自分の欲望に忠実に猛進するぶれない強者だ。ある意味尊敬する。
「さて、一ポーズだけとなると、何にしようかな~。せっかくベッドもあるし、いっそ」
「舞ちゃん。ポーズの内容によっては即座に中止させるからね」
「……美由ちゃん、先回り早いなあ~……仕方ない、じゃあ王子様、軽~く師匠さんを押し倒してもらえます?」
「……押し……?」
さっきのお姫様だっこもそうだが、そもそも彼女は一体何を描くつもりなんだろう。怪訝な顔をすると、舞子はとてもいい笑顔で望むポーズの説明をしてくれた。
「まず師匠さんのことをベッドに仰向けに押し倒して! すかさずそこに乗り上げて! 両手首を掴んでベッドに押さえつけて逃がさないようにしてくれればいいんですよ~! 簡単ですよね!」
……全然軽~い押し倒しじゃないんですけど。
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