真のヒロインはおっさんだから興味ないでしょ?

七瀬なしの

文字の大きさ
22 / 32
1章

ポーズをもう一つ<イオリス視点>

しおりを挟む
 そうだ、自発的には到底できない、巧斗をお姫様だっこする機会。動揺している場合じゃない。ありがたく燃料を頂戴した方が得策だ。
 俺は開き直って巧斗を抱え上げた。

「わわっ!? で、殿下……!」

 慣れない体勢に慌てた彼が、俺の胸にしがみつく。それだけで柄にもなくときめいてしまう。

「あー、いいわぁ~。そのまま動かないでね」
「う、動かないでって……。うわ、すみません殿下、重いですよね……?」
「……いや、全然平気だ」

 それどころか、想像したよりずっと軽い。そして心の燃料ががんがん補充されて力が湧いてくる。
 まつげの一本まで見えるくらい近くに巧斗の顔があって、ついそれにばかり気を取られてしまう。
 それに、この今まで以上に良い匂い……。

「……巧斗、何だか匂いが変わったか?」
「あ、はい。ちょっと能力が解放されて匂いが強化されたみたいで……。殿下はこの匂い、大丈夫ですか?」
「大丈夫、とは?」

 どういう意味かと訊ねると、巧斗は何故か僅かに頬を染めて、困ったように視線を逸らした。

「え、えーと……。その、俺の匂いのせいで変な気分になったり、しませんか? だからさっきは、殿下と俺でモデルなんてするのはまずいかなあと思ってたんですけど……。ああもう、ここまで密着すると分かってたら、もうちょっと考えたのに」

 また眉をハの字にして、そういう可愛い顔をするから困る。
 しかしその前に、俺は巧斗の言葉に反応した。

「……お前、俺が『女神の加護』のフェロモンの影響を受けてること、知ってたのか」

 鈍感で、今まで俺の好意にまったく気付いていなかったはずの男が、彼を相手にそういう気分になる俺を知っている。それに驚いた。

「ええ。前回のこともあるし、ジョゼやギース様、それに美由も言ってたし……。だからその、匂いに惑わされて殿下の身体が反応しちゃうのは、申し訳ないなあと」

 ああ、でも肝心なところが通じていないのかもしれない。俺はその匂いだけに反応しているわけじゃないのだ。離れたところにいたって、巧斗のことを考えるだけで心拍数が上がる。

 もう、正直に言ってしまうべきだろうか。
 舞子は絵を描くのに夢中だし、ミュリカは手元の腕輪を見ている。これだけ接近していれば、気付かれずに巧斗に告げることができるかもしれない。

 俺は心持ち巧斗の耳元に顔を近付けて、他には聞こえぬように囁いた。

「……申し訳なくなんて思う必要はない。巧斗、俺はお前が好」
「はい! ありがとうございます! このポーズはざっくり描けたんで、王子様もう師匠さんのこと下ろしていいですよ~」
「あ、良かった。殿下、もう俺のこと下ろしていいそうですよ」

 ……は? ……いやいやいや、待て待て。

「おい……ちょっと早くないか……」
「あたりを取ってざざっとデッサンするだけなんで、一枚はこんなものです。まあ、結構速筆とは言われますけど」

 ふざけんなこのやろう。
 何もこの絶妙のタイミングで終わらなくてもいいだろう。このせっかくの決心をどうしてくれる。

 ……しかし今更続きを告げられるはずもなく、俺はしぶしぶ巧斗を腕から下ろした。

「はい、じゃあ、次のポーズお願いしていいですか?」

 するとすぐに舞子が紙を新しいものに差し替えてにこりと笑う。
 そういえばさっき、いくつかのポーズを頼みたいと言っていたっけ。それを聞いた巧斗が目を瞬いた。

「え、まだあるのか?」
「もちろんです! こんな美味しい機会なかなかありませんから! 次はどうしようかな、あごクイもいいし、壁ドン、床ドン、もしくはオーソドックスに抱擁か……」
「……舞ちゃん、もう目的は達成したから、終わっていいよ」

 一人テンションの上がっている舞子に、横からミュリカが冷静に終了を促した。俺の燃料ゲージがかなり回復したことが分かっているのだろう。相変わらずきっちりしている。
 けれど舞子は、そのミュリカの終了宣言にあからさまに不服そうな顔をした。

「ええ~!? 今のはウォーミングアップみたいなものじゃない。一枚で終わると分かってたらもっと突っ込んだポーズお願いしたのに~。せめてもう一枚くらい描かせてよ!」
「最初から一枚って言ったらとんでもないポーズ取らせそうだから言わなかったのよ。……まあ、モデルの二人がいいって言うなら、もう一枚くらいは大目に見るけど」

 舞子に譲歩をしたミュリカがちらりと俺を見る。これは、もしかして俺にもう一度告白するチャンスをくれようとしているんだろうか。
 だとしたら乗らない手はない。

「俺は、相手が巧斗ならもう一枚くらい構わない」
「へっ!? で、殿下……?」
「わあ、ありがとうございます! 師匠さんもいいですよねっ?」
「え、あ、はい……」

 俺が承諾をしてしまうと、巧斗は舞子にあっさりと押し切られた。
 彼女はうらやましいくらい自分の欲望に忠実に猛進するぶれない強者だ。ある意味尊敬する。

「さて、一ポーズだけとなると、何にしようかな~。せっかくベッドもあるし、いっそ」
「舞ちゃん。ポーズの内容によっては即座に中止させるからね」
「……美由ちゃん、先回り早いなあ~……仕方ない、じゃあ王子様、軽~く師匠さんを押し倒してもらえます?」
「……押し……?」

 さっきのお姫様だっこもそうだが、そもそも彼女は一体何を描くつもりなんだろう。怪訝な顔をすると、舞子はとてもいい笑顔で望むポーズの説明をしてくれた。

「まず師匠さんのことをベッドに仰向けに押し倒して! すかさずそこに乗り上げて! 両手首を掴んでベッドに押さえつけて逃がさないようにしてくれればいいんですよ~! 簡単ですよね!」

 ……全然軽~い押し倒しじゃないんですけど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

処理中です...