真のヒロインはおっさんだから興味ないでしょ?

七瀬なしの

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2章

ヴィアラントの筆頭魔道士

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 ジョゼはおもむろに引き出しの中から一枚の手紙を取り出した。それがヘルマンからの手紙だということはすぐに察する。
 彼はそれを俺たちに示して見せた。

「さっきご報告頂いた動物憑依で偵察があるかもという話ですが、実はミカゲの側近から連絡を受けてます。捕らえられたら謀反の疑いを掛けられないように、ミカゲの持つ術式は全部王城に提供すると」
「やっぱり、王城はミカゲ様の術式を使ってるのか……。ミカゲ様の組んだ術式って、全部でどのくらいあるんだろ」
「30程度あるそうですが、そのうちのほとんどは街の治安や農作物の育成、畜産の補助に関するものです。他は鎧に掛ける防護術式やアクセサリーの付呪で、アイネルに実害がありそうなのは5個くらいですね」

「ミカゲ様ってアクセサリーの付呪もできるのね。ってことは、腕輪を奪おうとしてるのも、それを使って付呪をするため?」
「……いや、そっちは別でしょう。オリハルコンの加工には特殊な術式と加工技術が必要で、ミカゲにその知識はない。腕輪を手に入れたがっているのは、おそらくヴィアラントの筆頭魔道士です。私の特殊術式が欲しいのでしょうね。だとすれば、フクロウに憑依して操っているのも彼に違いありません」

 そう言うとジョゼは羊皮紙を取り出し、無言で新たな術式を書き出した。
 黙ってしまった彼の代わりに、今まで話を聞いていただけのギースが説明を始める。

「ヴィアラントの筆頭魔道士はディタルという男なんだ。ジョゼ魔道士にすごい対抗意識を燃やしててね。多分腕輪を奪って術式を研究して、ジョゼ魔道士にアンチマジックで挑みたいんだと思うよ」
「アンチマジックって……ジョゼの魔法術式を無効にする封印術式を組むって事よね? あれって確か、ものすごい難易度だったはずだけど……」
「そうだね。相手の術式の癖やパターンを読み解いて、それを打ち消す綿密な設定記述が必要になる。それを簡潔に一つの術式に組み込むのは、相当な知識とセンスがなければ無理だ」
「そのディタルって奴は、それをやってのけるくらい優秀なのか?」

 俺が訊ねると、術式を描きながらジョゼが答えた。

「あのアホにそんな芸当はできませんよ」
「アホって……え? もしかしてジョゼ、そいつと知り合い?」
「ディタルは元々アイネルの出身なんだ」

 ギースが苦笑いを浮かべて肩を竦める。その答えに、俺たちは目を丸くした。

「アイネル出身……!? それが何でヴィアラントに?」
「まあ、僕も話を聞いて知ってるだけだから詳細は語らないけど。若い頃ジョゼ魔道士と一悶着あったらしいよ」
「……一悶着?」

 ジョゼがアホ呼ばわりしたけれど、ヴィアラントで筆頭魔道士をしているほどの男だ、相応の魔力の持ち主だろう。昔、流れの魔道士として活動していたジョゼと対立していたのかもしれない。

「今そんな話は必要ないでしょう。……さて、できました」

 俺たちが少し会話をしている間に、ジョゼは術式を書き上げた。見た感じそれほど複雑なものではない。美由が興味深げにそれをのぞき込む。

「それは何の術式なの?」
「フクロウホイホイですよ」
「……それって、フクロウをおびき寄せる術式ってことか? どういう原理なんだ?」
「どういうも何も、動物憑依の術式は私の呼び出しに逆らえないようにできてますからね。簡単なことですよ」
「はあ? ミカゲ様が作った術式が、何であんたに従うようにできて……」

 美由が怪訝な顔をすると、ジョゼはにやりと笑った。
 それにはたと思い出す。

「そういやジョゼ、あの術式の手直ししてたよな。もしかして……」
「私がただの善意で術式の書き直しなんかするわけないでしょう。もしものことを考えて、一見では分からないようにあの中に隷属術式を組み込んでおいたんです。外でこの術を発動させれば、あの術式で動いている動物が呼び寄せられるはずですよ」
「術を直してあげるなんて珍しく親切だと思ったら、そんな裏があったのね……。抜け目がないって言うか……いっそ感心するわ」
「万が一を想定するのは危機管理の基本ですからね」

 美由が半ば呆れたように言うけれど、ジョゼは全く意に介していないようだった。そのまま舞子に向き直る。

「さて、この術式を発動するにあたって、舞子殿に力を貸して頂きたいのですが」
「私? もちろん、できることならいいけど」

 突然の指名に、舞子は目を瞬かせた。

「あなたなら適役です。大型モンスターの具象化をできるほどの強力な想像力を持つ者はそういない。この術式は特定の思考を周囲に波動として送り、向こうの術式をその念波で引き寄せるようになっています。だから思念が強ければ強いほど、効果範囲も効力も上がるんです」

「ん? 私は具体的にどうすればいいの?」
「外に出てこの術式を地面に置いて、その上に乗って下さい。それだけであなたの思念に特別な信号が乗ります。それを周囲に向かって発信してくれればいいのです。念波で大声を出すような感覚ですかね」
「声を出して叫ぶんじゃなくて、『寄ってこい!』って脳内で強く念じる感じ? イメージとかは必要ないの?」
「信号はどんな思念にも乗るので、外に向かって強く念じることができる内容なら何を考えてもいいですよ」
「そっかあ、ふむふむ。じゃあ簡単だね!」

 舞子は自分の妄想力にだいぶ自信があるようだ。ジョゼから術式を描いた羊皮紙を受け取ると、それを紙束が入った大きな鞄に入れた。

「すぐに始める?」
「そうですね、フクロウがヴィアラントに戻る前に捕まえる必要があります。もうすぐ夜になりますし、彼が移動し始める前に引き寄せましょうか」

 ジョゼも立ち上がる。さっきより少しは元気になったみたいだ。
 俺のヒーリングがいくらか効いているみたいで良かった。

 俺たちは5人で部屋を出ると、そのままオルタの城門の外まで移動した。そして森の手前の小高い丘で周囲を見回す。

「木が邪魔をしなくて見晴らしも良いし、ここで発信したらどうかな」
「街から近すぎず離れすぎず、いいと思うわ」

 ギースの言葉に美由が賛同した。確かにフクロウの他にも、どんな動物が何匹来るかも分からない。オルタに影響のない程度の距離は必要だろう。

 しかし、ジョゼはそんな心配はしていないようだった。

「それほど慎重にならなくても大丈夫ですよ。私の予想では、おそらくフクロウしか来ません」
「え、何で? こんな有効な術式による偵察手段、王城でチームを組んでやらせるだろ普通」
「普通はそうですね。でもまあ、見てて下さい」

 ジョゼが舞子に指示を出して術式の紙を地面に敷き、その上に立たせる。
 するとそこを中心にふわりと風が起こり、発動した術式で彼女の身体がぼんやりとした光に包まれた。

「これで準備OKです。では舞子殿、何でも構いませんので外側に向けて思念を発してみて下さい」
「任せて! ……ふふふ、ディタルさんとやらとジョゼさんの関係性が非常に興味深いので、はりきっちゃおうかな。ケンカップル属性とかだったら美味しいぞ! ディタルさん早く寄ってこーい!」
「あー……これなら舞ちゃんの強大な妄想力が働きそうだわ……」

 舞子の妄想に合わせて光が強くなる。
 その直後、美由のつぶやきとともに、彼女が纏っていた光が無数の粒となって周囲に散っていった。
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