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お出汁の効いたトロトロの卵はスプーンを入れると真っ白いご飯間をとろりと滑り落ちる。テラテラと輝く卵は柔らかな鶏肉と甘~い玉ねぎを包み込み、お出汁の染みたご飯と共に、今か今かと待つ口の中へ・・・。鶏肉から出る肉汁と、醤油と砂糖で甘しょっぱい卵とご飯の蒸気で熱くなる口をはふはふさせて味わうと、口の中は至福に満ち溢れる。
「・・・はふぅ~。」
「アプルは美味そうに食うな。」
「・・・初めて言われました。」
今まで食事を一緒に食べる人なんていなかったので、まじまじと食べる様子を見られていたことにアプルは顔を赤くした。
今日のAランチはなんと!びっくりの親子丼だ。
こんな頻度で出てきたのは初めてだ!!
「この間、小鉢に入れた親子丼をあんなに美味しそうに食べてたからね。ついついあんたの顔思い出して親子丼にしちゃったよ。」
ロワンナ食堂のメニューの前で、心の中で狂喜乱舞していたアプルに女将がそんな風に言って、カラカラ笑った。
自分は表情の変わらない糸目なのに、それでもわかるなんてどれだけ食い意地が張っているのか。
その上、オーリーにまで言われるとは・・・。
「親子丼が好物?」
「はい。こういう食べ物は働くようになって初めて食べたので。」
同じAセットを頼んだオーリー親子丼はみるみるうちに食べ終わり、今は追加したサンドイッチを食べはじめた。食べるはすごく早いのにガサツさは感じない。
やっぱり顔がいいと所作もよく見えるのかな。
「オーリーは食べるの早いですね。」
「そうか?士官学校だと食う時間が10分とか当たり前だからな。」
「10分・・・パンだけってわけじゃないですよね。」
「パンもスープも肉もサラダもぜーんぶその時間内に食べ終わらないと、食いそびれちゃうからな。」
「そうですね、食べるのが早ければ色々食べられたのよね。」
思い起こすのは学園時代。
自分の課題と妹の課題のため食事時間を削ることもよくあった。そんなときは携帯食のパンと水で乗り切った。淑女たるもの早食いなどしてはいけないのだ。
そんな食生活だったのに痩せないこの体が恨めしい。
「貴族のお嬢様でも、急いで食べるなんてことあるんだ。」
「え?」
「あれ?違うの?アプルは所作も綺麗だし、王宮の施設で女性が働けるなんて貴族だろうなって思っていたんだけど。ごめん!」
ナイショの話だったのかな、と申し訳なさそうな顔で頭を下げるので、アプルはブンブンと顔を横に振る。
「いえ、大丈夫!!ただ私はもう貴族ではないので。」
詳しく聞かれたらどうしようかと思ったが、オーリーはアプルの『訳あり』と言う態度を察したのか、それともそれほど興味があった話題ではないのか、それ以上は聞いてこなかったので、アプルは内心でホッと息を吐く。
王立図書館での仕事が、婚約破棄に対する慰謝料だとは説明したくない。
「そういえば、最近図書館で変わったことはない?」
「・・変わったことですか?」
「そう、いつもと違う感じの利用者が来るとか。」
「ああ、オーリーが来るので若い女の子の利用者が増えましたよ。オーリーは何時ごろ来るのか聞かれることもありますし。」
「ごめん。」
この王子様のような容貌の騎士様目当ての女の子たちだが、最近は本を借りて行くようになったので、図書館としてはまあ結果オーライだ。
だが、オーリーとしては変な罪悪感を持ってしまったようだ。
「あとは最近やたらと人相の悪い人も多いです。」
「やっぱり!!」
しおしおと俯いていたオーリーが、ガバリと顔を上げ、顔を輝かせる。
「え?あの人たちもオーリーの追っかけですか?」
「い?違う違う!!」
「冗談です・・・ただうちの館長もちょっと心配はしてました。」
「そっか、何かあったらすぐ警ら隊の詰所でも近衛の詰所でも連絡して。アプルも気をつけてね。」
と言っても利用者としての彼らは大人しいものだ。どちらかと言えばオーリーの追っかけの女の子たちの方が何かしでかしそうだが、オーリーのその真剣な表情にアプルはただ静かに頷いた。
「・・・はふぅ~。」
「アプルは美味そうに食うな。」
「・・・初めて言われました。」
今まで食事を一緒に食べる人なんていなかったので、まじまじと食べる様子を見られていたことにアプルは顔を赤くした。
今日のAランチはなんと!びっくりの親子丼だ。
こんな頻度で出てきたのは初めてだ!!
「この間、小鉢に入れた親子丼をあんなに美味しそうに食べてたからね。ついついあんたの顔思い出して親子丼にしちゃったよ。」
ロワンナ食堂のメニューの前で、心の中で狂喜乱舞していたアプルに女将がそんな風に言って、カラカラ笑った。
自分は表情の変わらない糸目なのに、それでもわかるなんてどれだけ食い意地が張っているのか。
その上、オーリーにまで言われるとは・・・。
「親子丼が好物?」
「はい。こういう食べ物は働くようになって初めて食べたので。」
同じAセットを頼んだオーリー親子丼はみるみるうちに食べ終わり、今は追加したサンドイッチを食べはじめた。食べるはすごく早いのにガサツさは感じない。
やっぱり顔がいいと所作もよく見えるのかな。
「オーリーは食べるの早いですね。」
「そうか?士官学校だと食う時間が10分とか当たり前だからな。」
「10分・・・パンだけってわけじゃないですよね。」
「パンもスープも肉もサラダもぜーんぶその時間内に食べ終わらないと、食いそびれちゃうからな。」
「そうですね、食べるのが早ければ色々食べられたのよね。」
思い起こすのは学園時代。
自分の課題と妹の課題のため食事時間を削ることもよくあった。そんなときは携帯食のパンと水で乗り切った。淑女たるもの早食いなどしてはいけないのだ。
そんな食生活だったのに痩せないこの体が恨めしい。
「貴族のお嬢様でも、急いで食べるなんてことあるんだ。」
「え?」
「あれ?違うの?アプルは所作も綺麗だし、王宮の施設で女性が働けるなんて貴族だろうなって思っていたんだけど。ごめん!」
ナイショの話だったのかな、と申し訳なさそうな顔で頭を下げるので、アプルはブンブンと顔を横に振る。
「いえ、大丈夫!!ただ私はもう貴族ではないので。」
詳しく聞かれたらどうしようかと思ったが、オーリーはアプルの『訳あり』と言う態度を察したのか、それともそれほど興味があった話題ではないのか、それ以上は聞いてこなかったので、アプルは内心でホッと息を吐く。
王立図書館での仕事が、婚約破棄に対する慰謝料だとは説明したくない。
「そういえば、最近図書館で変わったことはない?」
「・・変わったことですか?」
「そう、いつもと違う感じの利用者が来るとか。」
「ああ、オーリーが来るので若い女の子の利用者が増えましたよ。オーリーは何時ごろ来るのか聞かれることもありますし。」
「ごめん。」
この王子様のような容貌の騎士様目当ての女の子たちだが、最近は本を借りて行くようになったので、図書館としてはまあ結果オーライだ。
だが、オーリーとしては変な罪悪感を持ってしまったようだ。
「あとは最近やたらと人相の悪い人も多いです。」
「やっぱり!!」
しおしおと俯いていたオーリーが、ガバリと顔を上げ、顔を輝かせる。
「え?あの人たちもオーリーの追っかけですか?」
「い?違う違う!!」
「冗談です・・・ただうちの館長もちょっと心配はしてました。」
「そっか、何かあったらすぐ警ら隊の詰所でも近衛の詰所でも連絡して。アプルも気をつけてね。」
と言っても利用者としての彼らは大人しいものだ。どちらかと言えばオーリーの追っかけの女の子たちの方が何かしでかしそうだが、オーリーのその真剣な表情にアプルはただ静かに頷いた。
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