糸目令嬢はなんにも見たくない

ぽよよん

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「マックス第二王子殿下!!!」

 地を這うような低い美声の正体は、近衛隊の服を着た男だ。

「な、なんだ!急に大きな声を出すな!ダリル隊長!」

「婦女子にそのような暴言を吐かれるものではありません。ましてや、そのご婦人の言う通り、このような所で、王家の者が口にされる話題ではございません。」

「ふん、こんな糸目が婦女子だと?大体何を言ったってその表情一つ変えないじゃないか。」

 いえ。糸目でも性別は女ですよ。婦女子です。
 表情を変えないのは慣れたからです。
 あー、もう第二王子殿下こんな人見ないふりして帰りたい。いつもみたいに、ごめんなさいすれば帰れるかな。
 そう思ったアプルの目の前に、剣だこのある大きな手が差し出された。

「図書館にお戻りでしたら、ぜひ送らせてください。」

「ぅえっ?」

 隊長と呼ばれたダリルに手を差し出され、アプルはびっくりして、大きく目を見開いてしまった。
 アプルのびっくり顔にダリルもびっくりしたようだ。

「よ、ろしくお願いします。」

 まるで犬がお手をするように手を乗せてしまったが、ダリルは破顔して力強くエスコートする。

「殿下、御前失礼致します。」
「マックス第二王子殿下、ご機嫌よう。」

 まだ喚き足りないマックスをダリルはひと睨みで黙らせると、図書館へと歩き出した。



「ダリル隊長閣下。」

「閣下はいりません。アプル嬢、とお呼びしても?」

「アプルで結構です。ただの平民ですので。
 もう、図書館は目と鼻の先ですので、こちらで大丈夫です。お仕事の途中ですよね。」

 マックスから離れたので、もうエスコートは必要ないと思ったのだが、何故かそのまま図書館まで手を取られたまま歩いてきてしまった。
 ちなみにもう一人の近衛隊士の方は、部署に戻っている。

「せっかくなので最後までエスコートさせてください。」

 と言って周りに視線をやるダリルは、二人を見て驚く周囲の人々の反応を楽しんでいるようだ。
 がっちり筋肉質で大柄なダリルはまさに近衛隊隊長の風格をもっているが、意外とお茶目なのかもしれない。体格差から顔を思い切り上げなければ見えない表情をみて、アプルはホッとした。
 迷惑ではなさそうだ。


「あれ!ダリル隊長じゃないですか。え?どうしてアプルと?」

 図書館の入り口を入った所でばったりオーリーに出会した。アプルは慌てて手を離すので、ダリルは苦笑して持っていた本を渡した。

「あ、あの、王宮に行っていて、ダリル隊長に送っていただいたのです。」

 図書館に近衛隊士が二人もいるので目立ってしまったのか、館長まで出てきてしまったので、アプルは王宮でマックスに絡まれたことをさらりと話した。
 暴言の内容までは言わなかったが、館長が大きくため息を吐く。

「アプルすまなかった。」

「いえ、私も第二王子殿下に会うとは思っていなかったので、館長のせいじゃないですよ。それに図書館ここで働く以上、顔を合わせることもあると思うので。」

「じゃあ王宮に用事があるときは!俺のこと呼んでよ。護衛でついていくよ。」

 しかめ面で聞いていたオーリーが笑顔になると、アプルの手を取ってそんなことを言い出した。

「お前の仕事じゃないだろう。大体何で図書館にいるんだ。」

「民間人を守るのもお仕事の一つです。」

「図書館にいるのは?」

「アプルとお話しするのが楽しくて。」

「・・・まったくお前は・・」

 悪びれないオーリーにダリルは頭を抱える。
 そんな様子にアプルは自然と笑顔になるのだった。

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