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振り返ろうかどうか迷って、ジョナールの声はオーリーにしか向けられてないことに気づく。
オーリーが女性連れなのはマルっと無視することにしたらしい。今日は図書館の公休日、アプルの服装は庶民のものだ。ジョナールにとって庶民の女性など、路傍の石と変わらないのだろう。
なら、振り返らない一択だ。
元々小さな身長だが、背中を丸めて心持ち小さくなる。
「ハミルトン通りに素敵なカフェがありますの。こんなところでは食べられない美味しいスイーツがありますのよ。わたくしが本物のお茶をご一緒して差し上げますわ。」
突然現れた、いかにも貴族の女性。
庶民街に不似合いな派手なドレスと飾り立てるアクセサリー。
姿は美しいが、相手の事情など考慮しない傲慢な台詞に周りの客や、通りがかりの人も興味深そうにこちらを見てる。
「いゃあ、もうすぐ休憩時間が終わりですので、残念ですがご一緒することができなくて、申し訳ない。」
「まあ!こんな所で休憩なんてできないでしょう。大丈夫ですわ、リモワン製ソファの席がありますのよ。ゆっくり休憩できますわ。」
振り返らない事を決めたアプルは、頭上を飛び交う二人の会話に耳を傾けながら、残りのガレットをせっせっと食べ始めた。
いつジョナールがアプルに気がつくかわからないのだ。食べ物を無駄にしたくはない。
それにしてもジョナールは周りの様子に気がつかないのだろうか?
連れのいる男性に声をかけただけでも周りの皆さんはドン引きしてるのに、その上素敵なソファのある店で休憩に誘うなんて。
「・・・貴族のご令嬢なのに、ふしだらね。」
「誘うにしたって、品がないわよねえ。」
「もう少し小粋な誘い方してほしいよなあ。」
周りの皆さん、ニヤニヤ笑っていわゆるそういう休憩所だと思ってます。
ジョナールにはもちろんそんなつもりはない。
アプルも貴族的な誘い方なんてわからないが、ジョナールも似たようなものだ。行きたいとい言えば、マックス第二王子殿下も家族もその望みを叶えてきた。
貴族的な駆け引きにしても、男女の駆け引きにしても、甘やかされなんでも手に入れてきたジョナールには、なにも身に付いていない。
「いえ、私には分不相応なお誘いですので、ご辞退申し上げます。」
アイスティーを飲みながら、にっこり笑うオーリーを鑑賞する。
あの我儘なジョナールが断られても怒らないのは、この王子様スマイルのおかげなのだろう。
「いいのよ、わたくしの連れでしたら不相応なんて問題ありませんわ。オーリー様が」
「ジョナール嬢。近衛騎士団の隊員を名前で呼ぶことはお控えください。」
「あ!いえ、クレメンタイン卿。そうね、貴族令嬢はお名前で呼んではいけなかったわね。規則を守らないと罰せられるなんて大変だわ。」
名前で呼ぶと罰せられる?
オーリーのこと、クレメンタイン卿なんて一度も呼んだことないけど・・・ダリル隊長なんて、お父様のフィークス将軍と間違われるから、名前でいいって初めから言われたし。
そんな規則あるの?と思って顔を上げると、オーリーがニヤリと人の悪い顔で笑ってる。
もしかして冗談?
びっくりして、ガレットの最後の一口を味わわず飲み込んでしまった。
すごく損した気分で、最後のアイスティーを飲み干すと、オーリーの指先が眉間を優しく撫でる。
犬じゃないんですよ!
「ごめんごめん。食べ終わったら行こうか?」
まだ皺を寄せている眉間を、もう一度撫でるとアプルの足元の紙袋を抱える。
中身はオーリーと会う前にアプルの買った日用品だ。
「オーリー、自分で持つからいいよ。」
「大丈夫。これくらい持たせてよ。結局ここも割り勘だったんだし、ちょっとくらいカッコつけさせてよ。」
「ちょっと待ちなさい!そんな庶民の女を優先するなんて、騎士としてあるまじき行為ですわ!」
それとなくその場から離れようとしたが、もちろんジョナールは激昂してアプルに掴みかかった。
「庶民のくせにわたくしの邪魔をしないで!え?」
「ご機嫌ようジョナール。」
ジョナールの手をかわすとクルリと振り向いて、右手を上げたアプルにジョナールの顔が歪む。
「アプル⁉︎なんでクレメンタイン卿とあんたが一緒にいるのよ!」
オーリーが女性連れなのはマルっと無視することにしたらしい。今日は図書館の公休日、アプルの服装は庶民のものだ。ジョナールにとって庶民の女性など、路傍の石と変わらないのだろう。
なら、振り返らない一択だ。
元々小さな身長だが、背中を丸めて心持ち小さくなる。
「ハミルトン通りに素敵なカフェがありますの。こんなところでは食べられない美味しいスイーツがありますのよ。わたくしが本物のお茶をご一緒して差し上げますわ。」
突然現れた、いかにも貴族の女性。
庶民街に不似合いな派手なドレスと飾り立てるアクセサリー。
姿は美しいが、相手の事情など考慮しない傲慢な台詞に周りの客や、通りがかりの人も興味深そうにこちらを見てる。
「いゃあ、もうすぐ休憩時間が終わりですので、残念ですがご一緒することができなくて、申し訳ない。」
「まあ!こんな所で休憩なんてできないでしょう。大丈夫ですわ、リモワン製ソファの席がありますのよ。ゆっくり休憩できますわ。」
振り返らない事を決めたアプルは、頭上を飛び交う二人の会話に耳を傾けながら、残りのガレットをせっせっと食べ始めた。
いつジョナールがアプルに気がつくかわからないのだ。食べ物を無駄にしたくはない。
それにしてもジョナールは周りの様子に気がつかないのだろうか?
連れのいる男性に声をかけただけでも周りの皆さんはドン引きしてるのに、その上素敵なソファのある店で休憩に誘うなんて。
「・・・貴族のご令嬢なのに、ふしだらね。」
「誘うにしたって、品がないわよねえ。」
「もう少し小粋な誘い方してほしいよなあ。」
周りの皆さん、ニヤニヤ笑っていわゆるそういう休憩所だと思ってます。
ジョナールにはもちろんそんなつもりはない。
アプルも貴族的な誘い方なんてわからないが、ジョナールも似たようなものだ。行きたいとい言えば、マックス第二王子殿下も家族もその望みを叶えてきた。
貴族的な駆け引きにしても、男女の駆け引きにしても、甘やかされなんでも手に入れてきたジョナールには、なにも身に付いていない。
「いえ、私には分不相応なお誘いですので、ご辞退申し上げます。」
アイスティーを飲みながら、にっこり笑うオーリーを鑑賞する。
あの我儘なジョナールが断られても怒らないのは、この王子様スマイルのおかげなのだろう。
「いいのよ、わたくしの連れでしたら不相応なんて問題ありませんわ。オーリー様が」
「ジョナール嬢。近衛騎士団の隊員を名前で呼ぶことはお控えください。」
「あ!いえ、クレメンタイン卿。そうね、貴族令嬢はお名前で呼んではいけなかったわね。規則を守らないと罰せられるなんて大変だわ。」
名前で呼ぶと罰せられる?
オーリーのこと、クレメンタイン卿なんて一度も呼んだことないけど・・・ダリル隊長なんて、お父様のフィークス将軍と間違われるから、名前でいいって初めから言われたし。
そんな規則あるの?と思って顔を上げると、オーリーがニヤリと人の悪い顔で笑ってる。
もしかして冗談?
びっくりして、ガレットの最後の一口を味わわず飲み込んでしまった。
すごく損した気分で、最後のアイスティーを飲み干すと、オーリーの指先が眉間を優しく撫でる。
犬じゃないんですよ!
「ごめんごめん。食べ終わったら行こうか?」
まだ皺を寄せている眉間を、もう一度撫でるとアプルの足元の紙袋を抱える。
中身はオーリーと会う前にアプルの買った日用品だ。
「オーリー、自分で持つからいいよ。」
「大丈夫。これくらい持たせてよ。結局ここも割り勘だったんだし、ちょっとくらいカッコつけさせてよ。」
「ちょっと待ちなさい!そんな庶民の女を優先するなんて、騎士としてあるまじき行為ですわ!」
それとなくその場から離れようとしたが、もちろんジョナールは激昂してアプルに掴みかかった。
「庶民のくせにわたくしの邪魔をしないで!え?」
「ご機嫌ようジョナール。」
ジョナールの手をかわすとクルリと振り向いて、右手を上げたアプルにジョナールの顔が歪む。
「アプル⁉︎なんでクレメンタイン卿とあんたが一緒にいるのよ!」
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