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番ってなんぞや!

第三話

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家の前に止まった五台の馬車に、バルドゥルは頭を抱えた。


 嫁入り道具はこちらで手配すると、クリスティーン侯爵には伝えてあった。
 
 何せ、バルド王国の王都からカヒル国の首都まで最短でも10日くらいかかる。そんな距離を大型家具など積んだ馬車で移動するなど、正気の沙汰ではないだろう。

 それこそディアナには身一つで来てもらってもいいと思っていたのだが、衣装、日用品だけで馬車四台とは………貴族というものを完全に舐めていた……

 とりあえず部屋を一つ潰して荷物を入れよう。1週間後の結婚式までに荷物を片付けられるのか?
 いや、俺が女性の荷物を触れるわけがないだろう!と言うと人を雇うのか?

 頭の中でこれからの段取りを考えると、知らず目つきが鋭くなってくる。
 

 馬車を睨みつけるバルドゥルにビクビクしながら、御者がドアを開ける。

 ディアナが降りてくるものと、バルドゥルは勢い込んで扉の前に陣取ったが、扉の奥にはアナグマ、いや、まるで小動物のような少女が、キョトンとこちらを見返してきた。

「ディア」

「あ、旦那様。ちょっとどいていただけますか。」

 リルはぞんざいにバルドゥルに手を振って入り口をあけさせると、身軽に馬車から降りて、御者の置いた足台を念入りに確かめる。
 ガタガタしないのを確認して満足したのか、腰に手にやって何度も頷いた。そして徐に足台の側に立つと馬車の中に声をかけた。

「お嬢様。どうぞ。」

 象牙のようなたおやかな手が馬車の中から現れ、ディアナはリルのエスコートで馬車から降り立つ。

「………」

 言葉なくバルドゥルは固まった。


 艶やかで真っ直ぐな黒髪と白く滑らかな肌。
 長い睫毛に縁取られている、アーモンド型の切れ長の瞳は、形の良い鼻と少しぽってりとした唇と共に、小さな顔の中にバランスよく配置されている。
 神秘的な瑠璃色と言われる、ほんの少し紫がかった深い青の瞳がじっとバルドゥルを眺めている。

 
 バルドゥルが呆うっと見つめていると、ディアナがバルドゥルの側まで歩いてくる。


「タイラー閣下。これからよろしくお願いいたします。」

 全く表情を変えずに美しい礼をする。

「あ、ああ。よく来てくれた。」

 ようやく稼働したバルドゥルが、ディアナが出した右手を取る。
 そこで手にキスの一つもできれば及第点であるが、そこまで頭は回らない。



「可愛らしいお家ですのね。」
 
 エスコートされながらディアナが家を眺める。


 可愛らしい……

 可愛らしいとは、まさか家が小さすぎると言うことか?
 たしかに貴族の住む豪邸とはいわないが、この辺の家の中では充分豪邸の部類に入るんだ!ああ、しかしディアナのこの荷物の量を考えれば、家が小さすぎるのかもしれないぃ!!

「き、君には合わなかったかもしれないな。」

 
「そうですね、こんなに可愛らしいですからね。」


 明るい黄色の壁に深いグリーンの屋根のメルヘンチックな家だ。所々差し色でテラコッタ色のレンガが使われている。
 窓枠は白く塗られ、まるでケーキのデコレーションのような飾りが至るところに施されている。
 そう、どこまでもメルヘンチックで愛らしい家だ。

「タイラー閣下のご趣味ですか?」

「え?」

「すみません。タイラー閣下のご趣味は、もっと実用的な物や雄々しい物だと勝手に思っておりましたわ。」

 実は可愛い物好きだったとは。人は見た目には分からないものだと、ディアナは一人納得する。

 バルドゥルは控えめに言っても、可愛いものとは無縁な見た目だ。
 身長も高く、ガチガチの筋肉で覆われているので、余計に大きく見える。平均的な身長のディアナでも見上げるほどだ。
 薄い黄色の目は鋭く、茶色に見える金髪もツンツンと硬そうに見える。
 どこにも可愛い要素はない。

 やはり、人は自分には無いものを求めてしまうのかしら。

「微笑ましいと思います。」


 ここでバルドゥルはようやっと自分の失言に気がついた。

「いや、違う!ここは緑が多くて人気の場所なんだ。軍の施設にも近いから選んで、いや、君に喜んで貰いたくて決めたのだ。」


「ありがとうございます。閣下。」

「それと、閣下はやめて俺のことは、バルドゥルと呼んでくれ。」



**************



 御者と護衛とバルドゥルの活躍によって、荷物はクローゼットに押し込まれ、入りきらないものは、あっさりと持ち帰るよう、馬車に戻された。

「お嬢様!お部屋もとても可愛らしいですね。」

 荷物の監督をしていたリルがリビングにいるディアナの元へ戻ってきた。内装も白とテラコッタ色を基調とした、可愛らしい感じでまとめられている。

「ええ、バルドゥル様は可愛いもの好きなのですよ。」

「そこは、お嬢様のためだと思いましょうよ。」
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