猛虎閣下は番を溺愛したいけど方法が分からない!

ぽよよん

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夫婦ってなんぞや

第十話

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 シャワーを終えたディアナの着替えをリルが手伝う。入浴は一人でできるようになったが、着替えはリルの手を借りないと難しいのである。


「お嬢…奥様!」

「ねえ、リル。無理に奥様などと呼ばなくていいのよ。」

「でも、お嬢様と呼ぶわけにはいかないですよね。」

「ディアナでいいじゃない。それで、何かしら?」

 いくつも並ぶブラウスのボタンを止めながら、リルがキラキラした瞳で続ける。

「これからディアナ様はデートじゃないですか?」

「いいえ、散歩よ。」

「デートですよぅ。それでお出かけの間、私もちょっと外出してもいいですか?」

「…構わないけど、一人で平気なの?一緒に行きましょうか?」

「大丈夫です!テリアさんが街を案内してくれるって言ってくれたので。」

 にこにこしながら、スカートを整える。
 バルド王国の今の流行りはパニエで大きくスカートを広げるものだが、どうやらカヒル国では違うらしい。
 文化の違いというより、おしゃれに興味のあるリルは、流行りのファッションをこの目で見てみたいのだと楽しそうに話す。

 ちなみにテリアとはこの家の通いのハウスキーパーで、掃除、洗濯、料理を担当している。

 カヒル国では、住み込みの使用人は王宮か、よほどの高位貴族やお金持ちしか雇わない。

 バルドゥルは高位武官ではあるが元々貴族では無いので、家に使用人入れるという考えはなかった。
 しかし生粋の貴族であるディアナに家事ができるわけがない。と言う事でハウスキーパーを雇ったのであるが、同い年ということもあり、リルとは気が合うようである。



「いってらっしゃいませ~。」

 リルの明るい声に見送られ、バルドゥルとディアナは歩き出す。

「バルドゥル様、わたくし馬車を使わず街を歩くのは初めてですの。」

「え?あ、そうだよな。じゃあ辻馬車を止めよう。」

「いいえ。」

 辻馬車を止めるため今にも走り出しそうなバルドゥルの腕に触れる。

「公園に行くのでしょう?馬車を探しているうちに着いてしまいますわ。
 それに、わたくしこうして街歩きをして見たかったのです。」

(街歩きをして見たかったなんて、やっぱりお姫さまなんだな。)

 ゆっくり歩きながら、街ゆく人々や店先に目を向けるディアナの表情はいつもと変わらない。

「初めての街歩きの感想はどうだ?」

「はい、興味深いです。」

「興味深い…か。
 ディアナ、もしかして楽しいのか?」

「そう見えませんか?」

 かっきり、はっきり、いつもの通りにしか見えないが、そう言われると少し楽しそうに見えてくる。

 そんなディアナがじっと見つめる先に視線をやると、女の子たちが店先に集まっている。どうやら女の子向けの雑貨屋のようだ。

「興味があるなら覗いていくか?」

 入り口や窓はレースやリボンで飾られ、いかにも女の子が好みそうに見える。

「バルドゥル様はご覧になりたいですか?」

「?いや。俺は興味ないが?」

「ああ!」

 ディアナがなにか納得したようにポンと手を叩く。

「恥ずかしいことはないですよ。男性でも可愛らしいものがお好きな方はいらっしゃいますし、わたくし、そういった偏見はございません。」

「いや、どうしてそうなるんだ?女性は可愛いものが好きだろう?
 だからディアナも興味があるかと思ったのだが。」

 思わず二人とも顔を見合わせる。

「わたくしもあまり興味はございません。
 わたくし、バルドゥル様は可愛いものがお好きなのかと思っていましたわ。お家もたいへん可愛らしいですし。」

「俺は、女性は可愛いものが好きだから、ディアナも好きかと思ってあのようなインテリアにしたのだが。」


「「……」」


 小さな勘違いや思い込みだけで、お互いに相手の好みすら知らなかったことに気がついた。

「すまなかった。先走らないで、キチンと確認すれば良かったのだな。これからはディアナの好みを聞いてからにしよう。」

 まさか自分の趣味と思われていたとは…。
 先走ってしまったが、これからディアナの好みに変えていけばいい。二人で家を創っていく楽しみができたと思えばいいだろう。
 なんて、乙女な事を思って、少し照れてしまう。

 しかし、ディアナは真面目な顔で考え込むと、生真面目に答えた。

「バルドゥル様。わたくし、好みというものはございません。」

 自分の好みで物を選んだことはない。
 自分の着る服ですら、相手の好みを探り、交渉のための道具であった。


「好みが無いか……」

「…あ、でもバルドゥル様のお好みに合わせます。」

 そう言ってディアナが笑う。

「ディアナ、無理に笑わなくていい。」

「無理に笑っているように見えますか?笑顔は交流の基本だから、常に笑顔でいるように、と言われてますわ。」

作り笑いアルカイックスマイルをしなくてもディアナが楽しいと思う事を教えてくれれば良い。
 お互いに理解し合おうと決めただろう。」

「……」

 ディアナのびっくりしたような、戸惑ったような顔が可愛い。
 抱きしめて、キスしたい衝動を抑えて、手を繋ぐ。


「とりあえず、もうすぐ昼飯だから、ディアナの食べたい物を教えてくれ。」

「食べたい物ですか?
 …辛い物とか。」
 
「辛いものか……」

「苦手ですか?」

「甘いものほどではないが、辛い食べ物はあまり食べたことはない。」

「じゃあ、甘いものにしましょう。」

「え!昼飯に甘いものはちょっと…」

「わたくしも甘いものはちょっと苦手です。お互いに苦手な物なら、どちらも我慢するので平等ですわ。」

 ディアナの瑠璃色の瞳が一瞬金色に瞬く。
 
「ディアナ、もしかして楽しんでるのか?」

「わかりますか?」

 繋いだ手をキュッと握り返すディアナが可愛い。
 可愛すぎてツライ。

(俺は、もうディアナを怯えさせないと誓ったのだ!だがこの可愛らしい番にどうやってこの愛を伝えたらいいんだ!!!)



「タイラー閣下と奥様~!!」
「あー!ホントだ!!」
「こんにちわ~!!」

 公園の入り口から軍服姿の女性たちがバルドゥルとディアナに向かって手を振っている。

「あ、結婚式の時の方たちですよね。」

 結婚式の時、気軽に声をかけてきた女性たちだと思い出す。

「な、なんだお前たち!!仕事中だろう!」

「ランチの買い出しでーす!」
「お二人もランチですか?よかったらご一緒しませんか?」

 近づいてきた女性たちにバルドゥルは渋面を向けるが、全く気にしないで口々にディアナを誘う。
 
「いいじゃないですか~。軍の食堂ならゆっくりできますよ。」

「そうそう。奥様、軍の施設に興味ないですか?」

「あります。」

 ディアナの即答に、バルドゥルは頭を抱えたくなったが、諦めて公園を通り抜けた先へと歩き出した。


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