劇作家のタマゴは物語のような恋を妄想する

ぽよよん

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平凡なのです

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「チョロいわ、フラン。」
「チョロって、なんでですか!?」

 放課後、演劇部の部室でロバート様のことを話したワタシに、ズビシっと扇を突きつけてラクシュエル様がのたまった。

「だって、田舎者が置き引きにあって、助けてくれた人に運命を感じるなんて、ありきたりすぎじゃない?
 劇作家としてどうなの?」
「いえ、その時は劇作家になろうなんてこれっぽっちも思ってませんでした!
 それに出会いはワタシが意図したものではないですし…。」
「だからってチョロすぎるわ。ねえ、サーシャ。」

 ラクシュエル様はソファの後ろに立っているサーシャリエ様に話を振る。

「チョロいかどうかは意見を差し控えますが、私はフランが13冊もの本を持って歩いていたことに疑問を感じますわ。」

 そう言ってサーシャリエ様は、ふるふるの唇の左下にあるホクロに指を当ててふっと息を吐く。
 色っぽい。
 
 たっぷりと蕩けるような金髪と艶やかなサファイアブルーの瞳を持つラクシュエル様は、まさに美の女神というほどお美しいけど、サーシャリエ・マッケン様も違ったタイプの美人だ。

 ダークグレーのストレートの髪と赤茶色の瞳を持つセクシー美女。制服だとわかりにくいけど、スタイルも出るとこ出て、引っ込むところは引っ込んでる、パーフェクトボディだ。

 そんな二人のそばにいるワタシは、何の取り柄もない地味な人間だ。
 顔はまあ、不美人ではないと思うけど、10人いたら、2人くらいはお世辞で可愛いと言ってくれるかな(希望)。髪もよくある茶色だし、瞳の色もエメラルドには足りない、ペリドットくらいの色だ。
 家でも4女のワタシは目立たないけど、本を読むのだけは好きだった。

「本はワタシがなけなしのお小遣いを貯めて買ったものだったので、肌身離さず持っていきたかったのです。」

 馬鹿にされるかな、なんて思ったけどラクシュエル様とサーシャリエ様は「なるほどね。」うんうんと頷いてくれました。

「それで、憧れのロバート氏と学園祭を回ったというわけね。」
「良かったじゃあないですか。」
「いいえ。回っていませんよ。」
「「え?」」
「え?ですからブーケをもらって、お礼言って、ロバート様はお帰りになったんです、って痛い痛い!!」

 なぜかラクシュエル様が扇でビシビシとワタシの膝を叩いてきます。スカートの上だけど地味に痛いんですけど!

「なんてこと!どうしてそこで帰るの?甲斐性なしにも程があってよ!」
「でも、ロバート様はワタシのことは後輩くらいにしか思ってな…」
「だったら意識させるものではなくて?もう!貴女、あんな素敵な恋愛劇を描くくせに、自分の恋愛に奥手すぎてよ!私生活が平凡すぎるわ!!」

 いや、平凡が一番です。
 心躍る恋愛は妄想だけで十分ですから。
 ーーなんて言ったら怒られそうな勢いなので、首
「」をすくめて嵐が過ぎ去るのを待った。


「ーーまあ、いいわ。」

 ワタシの意識がどこか遠くを彷徨っているのに気が付いたのか、ラクシュエル様が振り回していた扇を開いて、優雅に口元をかくすと、にっこりと微笑みました。

「今日、フランを呼んだのは次の舞台の脚本についてよ。」
「はい。」

 話が逸れたなら、それでいい。
 安心した途端、サーシャリエ様が左手をちょっと上げ、ワタシたちの話を遮った。
 そのまま、まるで猫のようにスルスルと窓まで移動すると、音を立てずに鍵を開ける。一拍置いて窓からダイアンが顔を出した。
 ここ二階ですよ。

「無作法ですのね。」
「申し訳ない、ラクシュ姫。サーシャリエ嬢。」

 ひらりと室内に入ると、ワタシの隣にどっかりと座って息を吐いた。余裕そうに見えたけど、うっすら汗が浮いてる。

「次の公演はできれば、恋愛でないものにして欲しい。」
「え~恋愛以外ですか?それだと今まで見たいな軍記物?」
「なんでもいいんだけどさ、免疫ない娘が多くてさ、俺のこと真面目に王子様とかいわれると、ほんとやりずれーったら。」

 ああ、この間の公演後みたいな状況が続いているわけね。

「ねえ、そういえばリグリーは一緒じゃないの?」
「…尊い犠牲だった。」
「ひどい…。」
 
 どうやらリグリーを生贄に逃げてきたらしい。
 
 ラクシュエル様はキュッと目を閉じて、パチンパチンと扇を開いたり閉じたりしている。
 少しの沈黙の後、ラクシュエル様が目を開くと、ワタシに指令を出した。

「軍記物は許されません。次は恋愛メインではない脚本を要望します。」

 ハードル高すぎて、飛ぶどころか、触れる気すらしません!!!
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