劇作家のタマゴは物語のような恋を妄想する

ぽよよん

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思索に浸る

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 ーー恋愛が全面に出ない恋愛劇とは。

 ワタシは女の子たちに追いかけられて、ボロボロになったリグリーと入れ違いに部室を後にした。ラクシュエル様からの無茶振りをようく考えるためだ。

「軍記物は却下されちゃったしな~。」


 このネッツギーナ王国では、物語といえば軍記物、もしくは神話だ。

 ネッツギーナ王国はその昔、初代ネッツギーナ王がこの土地を蛮族から奪い取ったことから始まる。
 それから初代ネッツギーナ王は、周りの蛮族の地を平定し、その側近たちには蛮族から奪った土地とその娘を褒賞として与えたのだという。強く、貢献した者へ褒賞を与えるため、ネッツギーナ王国は巨大化していく。
 やがてその一帯を平定し終わると、より豊かな領地を得るために、領主同士で争いが起き始めた。
 建国当初、領地の相続権は女性にあったという。
 男はその女性を手に入れるため争い、勝った者がその地の領主となるのだ。

 まあ、そんな風に国中が争っていては、国力も下がる一方だ。
 巨大な王国も内外から崩れていく。
 そんな王国を支えたのは四代国王、あれ?五代だったかな?とりあえずその頃の国王が、争っている領主をまとめて叩きのめしたのだ。
 もちろん比喩ではないよ。
 物理的に殴りつけに行ったらしい。
 剛腕王ガルガンディス・ネッツギーナの武勇伝は吟遊詩人の唄になり、物語として本になると大人気となり、未だに各家庭に常備されているほどの人気の本だ。

 それ以外に人気なのは『ポルポンタス砦の戦い』『マドレーヌ南部戦戦記』、子ども向けに人気があるのが『狂戦士バーサーカーモレのたたかい』だ。
 物語なので友情や裏切り、もちろん恋愛の要素もないわけではないけど、とにかく戦って、戦って、戦って、戦って勝つことが至上命題。


 だからワタシの拙い物語を読んだ時のラクシュエル様の感動はすごかった。



 ワタシの実家は国境に近くて、外国から来た商人なんかも結構いる。その中の一人が、本屋を開こうと外国の本を持ち込んできた。まあ、禁書とは言わないけど、外国の思想が入るって事で警吏に睨まれちゃって、商人さんは泣く泣く帰って行ったんだけど、その時安く手に入れた本がワタシの宝物だ。

 擦り切れるほど読んで、読むだけで満足できなくて、ちまちまと書き綴っていた創作ノートを学園で落とした。
 そういえば拾ったのは同じクラスのリグリーだったな。



「あれ⁉︎ノートがない…」
 
 昼休みに図書館で物語の続きを書こうと思ってカバンを開けた時に、大切な創作ノートがないことに気付いたワタシは軽いパニックになった。「ノートがない」とカバンをガサガサと、机の周りをキョロキョロしているとリグリーが声をかけてきたのだ。

「あの、ノートってもしかして、臙脂色の表紙の?」
「そう、それ!!もしかして見た?」
「ああ、誰のノートかわからないから、事務室に持って行ったけど……」
「ええ~っ!教室に落ちてたんだから、周りに聞いてくれればよかったのに!」
「あ、そうか。ごめん。」

 パニックで捲し立てたワタシに、リグリーは困った顔で小さく謝ってくれた。
 今ならわかるけど、リグリーは結構気が小さくて、入学したてのクラスで人に聞くなんてできなかったんだよね。

「え、じゃあ事務室にあるのね。」
「うん。…たぶん。」

 事務室ってどこだっけ?
 てゆーか!中身を見られたらマズイ!!!

「えっと、貴方…」
「あ、リグリー。リグリー・トエル。」
「ワタシはフラン・ナーロよ。リグリー、悪いんだけど、事務室まで一緒に行ってくれない?ワタシまだ校内がよくわからなくて。」
「ああ、いいけど…」

 人の良いリグリーは事務室までついてきてくれそうだ。引っ張って教室を出ようとしたところで、扉のところから「きゃあっ!」という黄色い悲鳴が聞こえ、覗き込んでいる王子様ダイアンと目が合った。

「やあ、リグリー・トエル君はいるかな?」

 その王子様スマイルに、顔に熱が上がったような気がした。

「俺だけど…?」
「君が拾ったノートについて聞きたいことがあるんだ。一緒に来てくれるかい?」
「「え?」」

 顔に集まった熱が一気に血の気が引いた。

「あ、あのノートはワタシのです!彼は、リグリーは拾っただけで、外国のとか変な思想とかっ持っていませんっ!!!
 だから処罰ならワタシだけが受けます!」
「「はあ??」」

 それから大爆笑のダイアンに、ラクシュエル様の演劇部まで連れて行かれ、あれよあれよという間に、ワタシとリグリーは演劇部に所属していたのだ。
 ちなみにノートは、どうなったのかわからないが、ラクシュエル様の手元に渡っていたのだ。

 ワタシの物語を読んであんなに喜んでくれたラクシュエル様のために、恋愛だけではない、何か楽しい物語を考えなくては。







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