8 / 11
令嬢の独白
しおりを挟む
それから、一度ダルジオとマシューがレスカの荘園を訪れ、一度ピクニックをして、何十通もの手紙を交わした。
手紙の内容は些細な日常のことだ。
季節の花や庭に来る鳥の話。
読んだ本の感想や、ほんの少し過去の自分の話。
そして時々マシューのたどたどしい手紙。
レスカはベッドの上で手紙を読み返す。
こんなに些細な手紙なのにダルジオとマシューと気持ちが通じ合っているような気がする。
毎日会いに行っても、マクロンとは何もわかり合うことも、気持ちを伝えることもできなかったことを思う。
きっと病気じゃなくても、マクロンの側に立つのがレスカでも、気持ちが通じることはなかったのだろう。
つらつらと嫌なことばかり考えてしまうのは、急に冷え込んだせいで発作の回数が増えたからと、もう一つ…
「今日はマシューとダルジオが誕生日を祝ってくれるはずだったのに。」
枕元には花束といくつかのプレゼントが置いてある。花束は成婚したばかりのラインハルト王太子とジュリア王太子妃からだ。
「相変わらず、花屋さんに丸投げしているのね。」
去年のジュリアの誕生日は何か素敵なものを贈ることができたのだろうか。連名で贈ってきたということは、きっとそうなのだろうとレスカは願望混じりに思う。
そして、花束の横にあるのは小さなテディベアだ。
去年の誕生日には何も贈られては来なかったのに、なぜ婚約が解消されてから、婚約者でもないレスカにこんなものを送ってきたのか。
『レスカ、君との婚約は破棄する。』
夢の続きだ。
マクロンは決して婚約破棄などと言わない。
もしかしたらレスカの願望なのかもしれない。
婚約破棄するほど私に興味を持って欲しい。
『これから四六時中付き纏われると思うと気が滅入るよ。』
ーー貴方が約束通り来てくれれば、つきまとったりしなかった。
『そんなことをするのは君くらいだと思ったから。』
ーーええ。誰かが噂する「私」はそうなのでしょうね。
本当はマクロン様に聞きたかった。
なぜ、他の女の子に優しくするの?
なぜ、私が側にいるのは迷惑なの?
あの子を問い詰めてしまいそうだった。詰ってまたマクロン様に呆れられただろう。
マクロン様に好かれたくて、ずっと側にいたから、マクロン様も私のことを好きだと思っていた。
全然私のことなんて見てくれていなかったのに。
ただ婚約者だから、私がまとわりついていたから、仕方がなく相手をしてくれていただけなの。
病気になって、ずっとマクロン様のこと考えて、私には笑ってくれない事に気がついた。私に向けた笑顔なんて思い出せない。
ラインハルト様とジュリア様が一緒にいるから笑うの。
あの子には一緒にいて優しく笑っていた。
私がねだるから誕生日プレゼントもくれた。
きっとねだればお見舞いもしてくれた。
ーーねだらないともらえないプレゼント。
ーーねだらないとしてもらえないお見舞い。
きっとねだれば、笑顔を見せてくれたのだろう。
でもどんなにねだっても私のことは好きにはならない。
ーーだって興味がないのだから。
今まで心の中でモヤモヤと燻っていた澱んだ思いが一気に夢の中に溢れてくる。
止めたいけど止められない。
気持ち悪い私の思い。
心の中が酷く冷たくて、凍えてしまうーー
『ーーレスカ』
急激に意識が浮き上がるような感覚がして、レスカの頬が暖かくなる。
こぷりと息を吐いて水の中から浮き上がるように、レスカは目を開いた。
「レスカ。レスカ。」
目を開いて飛び込んできたのは、今にも泣き出しそうなマシューとダルジオの顔だ。
「…マシュー……ダルジオさ、ん…」
「レーちゃん、レーちゃん。」
左の頬に触れていたのはマシューの右手。
右の頬に触れていたのはダルジオの左手だ。
「大丈夫かい?気分はどうだい?」
「ええ……気分は、良くないの…」
夢現のぼんやりとした頭で、うわ言のような言葉をただ紡ぐ。
「マクロン様は…私に全く興味がないの。
…鬱陶しいって。ラインハルト様もジュリア様も本当は私のこと邪魔だと思っているんだって。
私が、そこにいちゃいけない…から
邪魔しちゃいけないと思ったら、もう誰に会うのも怖くて…」
ダルジオに言っている訳でも、理解してもらいたい訳でもない。だからダルジオはただ静かに、聴いている。それでも…
「だから病気になったの。
自分は何の役にも立たない、何の役にも立たない人間だから、こんな醜い心を持っているから病気になったの。」
「病気はレスカのせいじゃないよ。自分が悪いから病気になるわけじゃない。」
ダルジオはレスカの頬に添えた手で、瞬きを忘れたような瞳から溢れる涙を拭う。
「だからたくさん吐き出して、たくさん泣いていいんだ。」
「泣く?…私、泣いてなんか……」
開いた瞳からとめどなく流れる涙に、やっとレスカは気がついた。
「ずっと泣けなかったんだろう。お疲れ様。もう泣いていいんだよ。」
「…ふ、……うっえぇ……」
くしゃりと顔を歪めたレスカは、子どものように泣き続けて眠ってしまうまで泣き続けた。
手紙の内容は些細な日常のことだ。
季節の花や庭に来る鳥の話。
読んだ本の感想や、ほんの少し過去の自分の話。
そして時々マシューのたどたどしい手紙。
レスカはベッドの上で手紙を読み返す。
こんなに些細な手紙なのにダルジオとマシューと気持ちが通じ合っているような気がする。
毎日会いに行っても、マクロンとは何もわかり合うことも、気持ちを伝えることもできなかったことを思う。
きっと病気じゃなくても、マクロンの側に立つのがレスカでも、気持ちが通じることはなかったのだろう。
つらつらと嫌なことばかり考えてしまうのは、急に冷え込んだせいで発作の回数が増えたからと、もう一つ…
「今日はマシューとダルジオが誕生日を祝ってくれるはずだったのに。」
枕元には花束といくつかのプレゼントが置いてある。花束は成婚したばかりのラインハルト王太子とジュリア王太子妃からだ。
「相変わらず、花屋さんに丸投げしているのね。」
去年のジュリアの誕生日は何か素敵なものを贈ることができたのだろうか。連名で贈ってきたということは、きっとそうなのだろうとレスカは願望混じりに思う。
そして、花束の横にあるのは小さなテディベアだ。
去年の誕生日には何も贈られては来なかったのに、なぜ婚約が解消されてから、婚約者でもないレスカにこんなものを送ってきたのか。
『レスカ、君との婚約は破棄する。』
夢の続きだ。
マクロンは決して婚約破棄などと言わない。
もしかしたらレスカの願望なのかもしれない。
婚約破棄するほど私に興味を持って欲しい。
『これから四六時中付き纏われると思うと気が滅入るよ。』
ーー貴方が約束通り来てくれれば、つきまとったりしなかった。
『そんなことをするのは君くらいだと思ったから。』
ーーええ。誰かが噂する「私」はそうなのでしょうね。
本当はマクロン様に聞きたかった。
なぜ、他の女の子に優しくするの?
なぜ、私が側にいるのは迷惑なの?
あの子を問い詰めてしまいそうだった。詰ってまたマクロン様に呆れられただろう。
マクロン様に好かれたくて、ずっと側にいたから、マクロン様も私のことを好きだと思っていた。
全然私のことなんて見てくれていなかったのに。
ただ婚約者だから、私がまとわりついていたから、仕方がなく相手をしてくれていただけなの。
病気になって、ずっとマクロン様のこと考えて、私には笑ってくれない事に気がついた。私に向けた笑顔なんて思い出せない。
ラインハルト様とジュリア様が一緒にいるから笑うの。
あの子には一緒にいて優しく笑っていた。
私がねだるから誕生日プレゼントもくれた。
きっとねだればお見舞いもしてくれた。
ーーねだらないともらえないプレゼント。
ーーねだらないとしてもらえないお見舞い。
きっとねだれば、笑顔を見せてくれたのだろう。
でもどんなにねだっても私のことは好きにはならない。
ーーだって興味がないのだから。
今まで心の中でモヤモヤと燻っていた澱んだ思いが一気に夢の中に溢れてくる。
止めたいけど止められない。
気持ち悪い私の思い。
心の中が酷く冷たくて、凍えてしまうーー
『ーーレスカ』
急激に意識が浮き上がるような感覚がして、レスカの頬が暖かくなる。
こぷりと息を吐いて水の中から浮き上がるように、レスカは目を開いた。
「レスカ。レスカ。」
目を開いて飛び込んできたのは、今にも泣き出しそうなマシューとダルジオの顔だ。
「…マシュー……ダルジオさ、ん…」
「レーちゃん、レーちゃん。」
左の頬に触れていたのはマシューの右手。
右の頬に触れていたのはダルジオの左手だ。
「大丈夫かい?気分はどうだい?」
「ええ……気分は、良くないの…」
夢現のぼんやりとした頭で、うわ言のような言葉をただ紡ぐ。
「マクロン様は…私に全く興味がないの。
…鬱陶しいって。ラインハルト様もジュリア様も本当は私のこと邪魔だと思っているんだって。
私が、そこにいちゃいけない…から
邪魔しちゃいけないと思ったら、もう誰に会うのも怖くて…」
ダルジオに言っている訳でも、理解してもらいたい訳でもない。だからダルジオはただ静かに、聴いている。それでも…
「だから病気になったの。
自分は何の役にも立たない、何の役にも立たない人間だから、こんな醜い心を持っているから病気になったの。」
「病気はレスカのせいじゃないよ。自分が悪いから病気になるわけじゃない。」
ダルジオはレスカの頬に添えた手で、瞬きを忘れたような瞳から溢れる涙を拭う。
「だからたくさん吐き出して、たくさん泣いていいんだ。」
「泣く?…私、泣いてなんか……」
開いた瞳からとめどなく流れる涙に、やっとレスカは気がついた。
「ずっと泣けなかったんだろう。お疲れ様。もう泣いていいんだよ。」
「…ふ、……うっえぇ……」
くしゃりと顔を歪めたレスカは、子どものように泣き続けて眠ってしまうまで泣き続けた。
32
あなたにおすすめの小説
【完結】大好きなあなたのために…?
月樹《つき》
恋愛
私には子供の頃から仲の良い大好きな幼馴染がいた。
2人でよく読んだ冒険のお話の中では、最後に魔物を倒し立派な騎士となった男の子と、それを支えてきた聖女の女の子が結ばれる。
『俺もこの物語の主人公みたいに立派な騎士になるから』と言って、真っ赤な顔で花畑で摘んだ花束をくれた彼。あの時から彼を信じて支えてきたのに…
いつの間にか彼の隣には、お姫様のように可憐な女の子がいた…。
◆平民出身令嬢、断罪で自由になります◆~ミッカン畑で待つ幼馴染のもとへ~
ささい
恋愛
「え、帰ってくんの?」
「え、帰れないの?」
前世の記憶が蘇ったニーナは気づいた。
ここは乙女ゲームの世界で、自分はピンク髪のヒロインなのだと。
男爵家に拾われ学園に通うことになったけれど、貴族社会は息苦しくて、
幼馴染のクローにも会えない。
乙女ゲームの世界を舞台に悪役令嬢が活躍して
ヒロインをざまあする世界じゃない!?
なら、いっそ追放されて自由になろう——。
追放上等!私が帰りたいのはミッカン畑です。
不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない
翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。
始めは夜会での振る舞いからだった。
それがさらに明らかになっていく。
機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。
おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。
そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?
噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される
柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。
だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。
聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。
胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。
「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」
けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」
噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情――
一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。
王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】
mako
恋愛
以前の投稿をブラッシュアップしました。
ランズ王国フリードリヒ王太子に嫁ぐはリントン王国王女クラリス。
クラリスはかつてランズ王国に留学中に品行不良の王太子を毛嫌いしていた節は
否めないが己の定めを受け、王女として変貌を遂げたクラリスにグリードリヒは
困惑しながらも再会を果たしその後王国として栄光を辿る物語です。
二度目の初恋は、穏やかな伯爵と
柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。
冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。
私も一応、後宮妃なのですが。
秦朱音|はたあかね
恋愛
女心の分からないポンコツ皇帝 × 幼馴染の後宮妃による中華後宮ラブコメ?
十二歳で後宮入りした翠蘭(すいらん)は、初恋の相手である皇帝・令賢(れいけん)の妃 兼 幼馴染。毎晩のように色んな妃の元を訪れる皇帝だったが、なぜだか翠蘭のことは愛してくれない。それどころか皇帝は、翠蘭に他の妃との恋愛相談をしてくる始末。
惨めになった翠蘭は、後宮を出て皇帝から離れようと考える。しかしそれを知らない皇帝は……!
※初々しい二人のすれ違い初恋のお話です
※10,000字程度の短編
※他サイトにも掲載予定です
※HOTランキング入りありがとうございます!(37位 2022.11.3)
好きじゃない人と結婚した「愛がなくても幸せになれると知った」プロポーズは「君は家にいるだけで何もしなくてもいい」
佐藤 美奈
恋愛
好きじゃない人と結婚した。子爵令嬢アイラは公爵家の令息ロバートと結婚した。そんなに好きじゃないけど両親に言われて会って見合いして結婚した。
「結婚してほしい。君は家にいるだけで何もしなくてもいいから」と言われてアイラは結婚を決めた。義母と義父も優しく満たされていた。アイラの生活の日常。
公爵家に嫁いだアイラに、親友の男爵令嬢クレアは羨ましがった。
そんな平穏な日常が、一変するような出来事が起こった。ロバートの幼馴染のレイラという伯爵令嬢が、家族を連れて公爵家に怒鳴り込んできたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる