悪役令嬢になりそこねた令嬢

ぽよよん

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令嬢の独白

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 それから、一度ダルジオとマシューがレスカの荘園を訪れ、一度ピクニックをして、何十通もの手紙を交わした。
 手紙の内容は些細な日常のことだ。
 季節の花や庭に来る鳥の話。
 読んだ本の感想や、ほんの少し過去の自分の話。
 そして時々マシューのたどたどしい手紙。

 レスカはベッドの上で手紙を読み返す。
 こんなに些細な手紙なのにダルジオとマシューと気持ちが通じ合っているような気がする。

 毎日会いに行っても、マクロンとは何もわかり合うことも、気持ちを伝えることもできなかったことを思う。
 きっと病気じゃなくても、マクロンの側に立つのがレスカでも、気持ちが通じることはなかったのだろう。

 つらつらと嫌なことばかり考えてしまうのは、急に冷え込んだせいで発作の回数が増えたからと、もう一つ…

「今日はマシューとダルジオが誕生日を祝ってくれるはずだったのに。」

 枕元には花束といくつかのプレゼントが置いてある。花束は成婚したばかりのラインハルト王太子とジュリア王太子妃からだ。

「相変わらず、花屋さんに丸投げしているのね。」

 去年のジュリアの誕生日は何か素敵なものを贈ることができたのだろうか。連名で贈ってきたということは、きっとそうなのだろうとレスカは願望混じりに思う。
 
 そして、花束の横にあるのは小さなテディベアだ。
 去年の誕生日には何も贈られては来なかったのに、なぜ婚約が解消されてから、婚約者でもないレスカにこんなものを送ってきたのか。





『レスカ、君との婚約は破棄する。』

 夢の続きだ。
 マクロンは決して婚約破棄などと言わない。
 もしかしたらレスカの願望なのかもしれない。
 



『これから四六時中付き纏われると思うと気が滅入るよ。』

ーー貴方が約束通り来てくれれば、つきまとったりしなかった。


『そんなことをするのは君くらいだと思ったから。』

ーーええ。誰かが噂する「私」はそうなのでしょうね。

 


本当はマクロン様に聞きたかった。
なぜ、他の女の子に優しくするの?
なぜ、私が側にいるのは迷惑なの?
あの子を問い詰めてしまいそうだった。詰ってまたマクロン様に呆れられただろう。

マクロン様に好かれたくて、ずっと側にいたから、マクロン様も私のことを好きだと思っていた。
全然私のことなんて見てくれていなかったのに。

ただ婚約者だから、私がまとわりついていたから、仕方がなく相手をしてくれていただけなの。

病気になって、ずっとマクロン様のこと考えて、私には笑ってくれない事に気がついた。私に向けた笑顔なんて思い出せない。

ラインハルト様とジュリア様が一緒にいるから笑うの。
あの子には一緒にいて優しく笑っていた。


私がねだるから誕生日プレゼントもくれた。
きっとねだればお見舞いもしてくれた。

ーーねだらないともらえないプレゼント。
ーーねだらないとしてもらえないお見舞い。

きっとねだれば、笑顔を見せてくれたのだろう。


でもどんなにねだっても私のことは好きにはならない。

ーーだって興味がないのだから。

 今まで心の中でモヤモヤと燻っていた澱んだ思いが一気に夢の中に溢れてくる。

止めたいけど止められない。
気持ち悪い私の思い。
心の中が酷く冷たくて、凍えてしまうーー



『ーーレスカ』
 
 急激に意識が浮き上がるような感覚がして、レスカの頬が暖かくなる。
 こぷりと息を吐いて水の中から浮き上がるように、レスカは目を開いた。

「レスカ。レスカ。」

 目を開いて飛び込んできたのは、今にも泣き出しそうなマシューとダルジオの顔だ。

「…マシュー……ダルジオさ、ん…」
「レーちゃん、レーちゃん。」

 左の頬に触れていたのはマシューの右手。
 右の頬に触れていたのはダルジオの左手だ。

「大丈夫かい?気分はどうだい?」
「ええ……気分は、良くないの…」

 夢現のぼんやりとした頭で、うわ言のような言葉をただ紡ぐ。

「マクロン様は…私に全く興味がないの。
 …鬱陶しいって。ラインハルト様もジュリア様も本当は私のこと邪魔だと思っているんだって。
 私が、そこにいちゃいけない…から
 邪魔しちゃいけないと思ったら、もう誰に会うのも怖くて…」

 ダルジオに言っている訳でも、理解してもらいたい訳でもない。だからダルジオはただ静かに、聴いている。それでも…

「だから病気になったの。
 自分は何の役にも立たない、何の役にも立たない人間だから、こんな醜い心を持っているから病気になったの。」
「病気はレスカのせいじゃないよ。自分が悪いから病気になるわけじゃない。」

 ダルジオはレスカの頬に添えた手で、瞬きを忘れたような瞳から溢れる涙を拭う。 

「だからたくさん吐き出して、たくさん泣いていいんだ。」
「泣く?…私、泣いてなんか……」

 開いた瞳からとめどなく流れる涙に、やっとレスカは気がついた。

「ずっと泣けなかったんだろう。お疲れ様。もう泣いていいんだよ。」
「…ふ、……うっえぇ……」

 くしゃりと顔を歪めたレスカは、子どものように泣き続けて眠ってしまうまで泣き続けた。
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