25 / 178
千山万水五行盟(旅の始まり)
024:鸞翔鳳集(二)
しおりを挟む
凰黎と鸞快子の二人は煬鳳を差し置いて何ごとか相談をしたあと、「それではいずれまた」と言い残し鸞快子は去って行った。
店の主人に尋ねたところ、一泊分の料金は五行盟より支払われているということだったので、煬鳳たちは遠慮なく今晩はここに泊まることに決め込んだ。辺りが暗くなってからは通りの燈籠に灯がともり、歩く人々のにぎやかな声が漏れ聞こえてくる。夜市を見て回ろうか、などと凰黎と話していると、給仕が夕餉を持ってやってきた。
「さすが大きな都ともなると、食事も手が込んでるな!」
煬鳳は凰黎の作る料理が一番好きだが、共に外出した時に二人で食べる食事も好きなのだ。卓子[*1]……の上に並べられた料理の数々は、田舎とはやはり異なっていて洒落た趣がある。鴨肉の蒸し焼きや羊肉の煮込み料理、果ては季節の食材をふんだんに詰め込んだ様々な点心まで揃っている。屋台でも売ってはいるが、不思議と普段よりも良いものに思えてしまう。
なかでも煬鳳が最も嬉しかったのは、果物の砂糖煮まで添えられていること。
煬鳳がまじまじと砂糖煮を見つめていると、凰黎が気を利かせて煬鳳の傍に器を置いてくれた。どうやら『全部食べても良いですよ』ということらしい。
「俺一人じゃ勿体ないよ、食べるなら凰黎も一緒だよ」
「本当に?」
「もちろん」
言ってからしまったと煬鳳は気づく。何故なら……凰黎が不敵な微笑みを浮かべていたからだ。明らかに良からぬことを考えている、無駄に爽やかな笑顔。
(なにか企んでる……)
そうは思ったが何か企んでいる凰黎を相手にして、煬鳳が敵うわけがない。
「それより! せっかくの料理なんだ、冷める前に早く食べよう!」
慌てて話を逸らそうと煬鳳は箸を取った。
別に嫌とかそういうことではなく、単に旅先では少し恥ずかしいだけ。清瑞山の小屋の中なら別に気にすることもないのだが、やはり旅先でいちゃつきすぎるのは気が引ける。
「そうですね。まずは砂糖漬け以外を食べてから、考えましょうか」
笑顔で鴨肉を口に運びぶ凰黎の顔を見て、この凰黎が絶対に今の話を忘れる訳がないと悟った煬鳳だった。
二人で箸を進めながら、煬鳳は今日あった出来事を凰黎と語り合う。
「犀安は本当に賑やかだ。俺は大きな街といったら酔香鎮くらいしか知らなかったけど、ここはその何十倍も人が多くて賑やかだな」
「気に入りましたか?」
「まずまず。賑やかだけど煩すぎる。……俺は確かにガサツな性格だけど、ここで暮らす人みたいに夜な夜な夜市にくり出して飲み歩くほどの根性はないな」
煬鳳の言葉に凰黎は眉を跳ね上げる。
「意外ですね。以前の貴方なら、そのような生活は日常茶飯事なのかと思っていましたが」
「あのなぁ。いくら俺が昔は好き放題暴れてたからといって、毎晩飲み歩いてはいなかったんだぞ。昼間全力を出し切るから、案外夜はしっかり寝てたんだ」
「ふふふ、そうでしたか」
「全然本気にしてないだろ」
「そんなことはありませんよ? 私は基本的に煬鳳が話すことは全て信じていますから」
嘘だ。
煬鳳は心の中で思った。
信じてはいるが、嘘を見抜く力はずば抜けていて、基本的に煬鳳が言葉を濁したり誤魔化したときは、ほぼほぼ全て言い当てられてしまうのだ。つまり、凰黎には嘘をついてもつかなくても結果は変わらないということ。
もちろん、煬鳳は凰黎に嘘をつきたいとは思っていない。だから基本的に誤魔化すことはあっても嘘はつかないと決めている。どうしても、やむを得ないときだけだ。
……それらも全て凰黎に言い当てられてしまうのだから、理不尽極まりない。
「五行盟はどうでしたか?」
「一刻を争う状況のときにあんな茶番をやってるようじゃ、まだまだだな。……これで玄烏門のことはその他大勢なんてさ。悪い奴らじゃないけど、お高く留まってる割には全然頼りなくて、人のことなんか言えた義理じゃないな。夜真たちの方が絶対有能だ」
「ふふ、手厳しいですね」
思い切りぶちまけたあと、そういえば目の前にいる凰黎が所属する門派も、五行盟だったのだと思い出す。
「あっ、いや……ごめん。なんだか俺、あいつらに下に見られたように思えて、無性に腹が立ったんだ」
慌てて頭を下げると、そっと凰黎がその頭を支えた。顔を上げれば綺麗な凰黎の顔が、煬鳳を見つめている。
「煬鳳の感じたことは正しいと思いますよ。五行盟は確かに重要な役目を担っていますが、だからと言って他より上であるとは思いません。なのに……一部の五行盟の者たちは五行盟であることが地位であることと勘違いしているようですね。しかし強さで言うなら貴方を含め玄烏門の門弟たちは皆強い。五行盟の一つである霆雷門の雷閃候すら敵わなかったのですから」
「だろ?」
「但し」
凰黎は言葉を切った。おそらく――煬鳳によく聞けと言っているようだ。
「ひとつだけ、玄烏門と五行盟とで大きな違いがあります。それは、『責任』です」
「責任?」
そう、と凰黎は頷く。
「確かに五行盟は偉そうですが、今回の地震などのように、何かあったときは真っ先に対応しなければならない義務と責任が付いて回るのです。対して玄烏門は、地震があって何かが起きたとしても、必ず助けに行く必要はありません。もちろん、貴方や門弟が助けたい、と思うのも自由です」
なんとなくだが、凰黎の言わんとすることが煬鳳にも分かった。五行盟が煬鳳たちを下に見る権利はないが、彼らには玄烏門にはない――他の者より上に立つべき理由があるということ。つまり玄烏門には何かが起きても選択する権利がある。しかし五行盟には、有事の際に選択する権利はない、という話なのだ。
もちろん、馬鹿にするのと上に立つのでは天と地ほどに意味合いが違ってくるのだが。
「ですが、貴方は五行盟と同等にまで玄烏門を大きくした。そういう意味では、玄烏門の前掌門は実力もさることながら素晴らしい審美眼の持ち主ですね」
「師匠……」
不意に幼い頃の日々が蘇る。孤児としてあてもなく彷徨っていたある日、たまたま玄烏門の掌門に見出された。彼は煬鳳に眠る強大な力を一目で見抜いたのだ。
それからというもの玄烏門にやってきた煬鳳は掌門の指導のもと、周囲も驚くほどの速度で上達し頭角を現していった。彼が玄烏門の頂点に昇り詰めるまで十年。煬鳳は掌門の期待に応え、見事にその実力を発揮したのだ。
その掌門もかなりの実力者であったが加齢による衰えは隠すことは出来ず、玄烏門の信条である『強さが全て』に則って掌門の座を煬鳳に譲り、自らは一歩引いた立場に収まった。
「長老様は今はどちらに?」
そういえば、と煬鳳は思い出す。
つねづね凰黎は、煬鳳の師であり育ての親でもある前掌門に、二人のことで挨拶をしたいと言っていた。煬鳳が師の話をしたので思い出したのだろう。
「なんか、今は人生謳歌してるっていうか……、温泉巡りの旅に行っちまったよ」
「私も幼い頃に何度かご挨拶したことがありますが、あの強面の老人が温泉を楽しみにされていると思うと、なんだか少し暖かい気持ちになりますね」
どうやら凰黎の頭の中ではかなりのどかな光景が浮かんでいるらしい。煬鳳は『そんなわけはないだろう』と思っているが、せっかくの凰黎の想像を壊すのは止めておく事にした。
「そうかなぁ? たまに驚くような効能の温泉にもめぐり合えるらしくてさ。宝さがしみたいで楽しいんだってさ」
「良いではないですか。今度我々も温泉に行きましょう」
「やだよ、俺あんまり広い所は落ち着かなくて苦手なんだ」
これは本当だ。
幼い頃は力もなくひ弱で、敵に狙われやすかった。だから広い場所のような狙われやすいところでは必要以上に神経を張り詰めなければならず、全く心が休まらなかったのだ。
「湖には一人で入ろうとしたじゃないですか」
「うっ……! あ、あれはやむを得ずだよ!」
忘れかけていた痛い出来事を指摘されて煬鳳は泣きたくなった。
――そのことは頼むから忘れてくれ!
しかし当分の間はネタにされそうな気がしてならないのだ。
困り果てた煬鳳の顔を、凰黎は穏やかな目で見つめている。
なんだか恥ずかしくなって、煬鳳は慌てて視線を逸らす。苦し紛れに果物の砂糖漬けの器に手を伸ばした瞬間、凰黎の手が器を掻っ攫う。
「!?」
何故、を問うより早く凰黎が砂糖漬けの果物を一粒つまみあげ、少し意地悪な微笑みを浮かべた。
「はい、口を開けて?」
「――っ!」
凰黎は何をするつもりなのか。すぐさま彼の意図を煬鳳は理解する。
(だって、いきなり給仕の人が入ってくるかもしれないし……。そんな時に万が一見られたら……)
小屋の中で二人きりのときは好きなだけ甘える癖に、外に出ると途端に意気地が無くなってしまうのだ。自分でもヘタレだと思っているが、どうにも気恥ずかしさのほうが上回ってしまう。
「いや、じ、自分で食べるよ!」
どぎまぎしながら煬鳳は凰黎から視線を逸らし、別の食べ物に手を付けるべく箸をのばそうとしたが――。その手は凰黎によって引っ張られ、あれよという間に煬鳳は彼の膝の上に乗せられてしまった。
驚く煬鳳に凰黎は満面の笑みを見せる。
「給仕が来ることを心配していますか? 大丈夫。誰も扉を開けることができないように、扉を封じておきましたから」
言われて部屋の入口に目を向けてみれば、ちゃっかりと封じの呪札が戸先部分に貼り付けられている。
(いつの間に……)
凰黎が膝上の恋人を逃がすわけはなかったのだった。
――――――
[*1]卓子……テーブル
店の主人に尋ねたところ、一泊分の料金は五行盟より支払われているということだったので、煬鳳たちは遠慮なく今晩はここに泊まることに決め込んだ。辺りが暗くなってからは通りの燈籠に灯がともり、歩く人々のにぎやかな声が漏れ聞こえてくる。夜市を見て回ろうか、などと凰黎と話していると、給仕が夕餉を持ってやってきた。
「さすが大きな都ともなると、食事も手が込んでるな!」
煬鳳は凰黎の作る料理が一番好きだが、共に外出した時に二人で食べる食事も好きなのだ。卓子[*1]……の上に並べられた料理の数々は、田舎とはやはり異なっていて洒落た趣がある。鴨肉の蒸し焼きや羊肉の煮込み料理、果ては季節の食材をふんだんに詰め込んだ様々な点心まで揃っている。屋台でも売ってはいるが、不思議と普段よりも良いものに思えてしまう。
なかでも煬鳳が最も嬉しかったのは、果物の砂糖煮まで添えられていること。
煬鳳がまじまじと砂糖煮を見つめていると、凰黎が気を利かせて煬鳳の傍に器を置いてくれた。どうやら『全部食べても良いですよ』ということらしい。
「俺一人じゃ勿体ないよ、食べるなら凰黎も一緒だよ」
「本当に?」
「もちろん」
言ってからしまったと煬鳳は気づく。何故なら……凰黎が不敵な微笑みを浮かべていたからだ。明らかに良からぬことを考えている、無駄に爽やかな笑顔。
(なにか企んでる……)
そうは思ったが何か企んでいる凰黎を相手にして、煬鳳が敵うわけがない。
「それより! せっかくの料理なんだ、冷める前に早く食べよう!」
慌てて話を逸らそうと煬鳳は箸を取った。
別に嫌とかそういうことではなく、単に旅先では少し恥ずかしいだけ。清瑞山の小屋の中なら別に気にすることもないのだが、やはり旅先でいちゃつきすぎるのは気が引ける。
「そうですね。まずは砂糖漬け以外を食べてから、考えましょうか」
笑顔で鴨肉を口に運びぶ凰黎の顔を見て、この凰黎が絶対に今の話を忘れる訳がないと悟った煬鳳だった。
二人で箸を進めながら、煬鳳は今日あった出来事を凰黎と語り合う。
「犀安は本当に賑やかだ。俺は大きな街といったら酔香鎮くらいしか知らなかったけど、ここはその何十倍も人が多くて賑やかだな」
「気に入りましたか?」
「まずまず。賑やかだけど煩すぎる。……俺は確かにガサツな性格だけど、ここで暮らす人みたいに夜な夜な夜市にくり出して飲み歩くほどの根性はないな」
煬鳳の言葉に凰黎は眉を跳ね上げる。
「意外ですね。以前の貴方なら、そのような生活は日常茶飯事なのかと思っていましたが」
「あのなぁ。いくら俺が昔は好き放題暴れてたからといって、毎晩飲み歩いてはいなかったんだぞ。昼間全力を出し切るから、案外夜はしっかり寝てたんだ」
「ふふふ、そうでしたか」
「全然本気にしてないだろ」
「そんなことはありませんよ? 私は基本的に煬鳳が話すことは全て信じていますから」
嘘だ。
煬鳳は心の中で思った。
信じてはいるが、嘘を見抜く力はずば抜けていて、基本的に煬鳳が言葉を濁したり誤魔化したときは、ほぼほぼ全て言い当てられてしまうのだ。つまり、凰黎には嘘をついてもつかなくても結果は変わらないということ。
もちろん、煬鳳は凰黎に嘘をつきたいとは思っていない。だから基本的に誤魔化すことはあっても嘘はつかないと決めている。どうしても、やむを得ないときだけだ。
……それらも全て凰黎に言い当てられてしまうのだから、理不尽極まりない。
「五行盟はどうでしたか?」
「一刻を争う状況のときにあんな茶番をやってるようじゃ、まだまだだな。……これで玄烏門のことはその他大勢なんてさ。悪い奴らじゃないけど、お高く留まってる割には全然頼りなくて、人のことなんか言えた義理じゃないな。夜真たちの方が絶対有能だ」
「ふふ、手厳しいですね」
思い切りぶちまけたあと、そういえば目の前にいる凰黎が所属する門派も、五行盟だったのだと思い出す。
「あっ、いや……ごめん。なんだか俺、あいつらに下に見られたように思えて、無性に腹が立ったんだ」
慌てて頭を下げると、そっと凰黎がその頭を支えた。顔を上げれば綺麗な凰黎の顔が、煬鳳を見つめている。
「煬鳳の感じたことは正しいと思いますよ。五行盟は確かに重要な役目を担っていますが、だからと言って他より上であるとは思いません。なのに……一部の五行盟の者たちは五行盟であることが地位であることと勘違いしているようですね。しかし強さで言うなら貴方を含め玄烏門の門弟たちは皆強い。五行盟の一つである霆雷門の雷閃候すら敵わなかったのですから」
「だろ?」
「但し」
凰黎は言葉を切った。おそらく――煬鳳によく聞けと言っているようだ。
「ひとつだけ、玄烏門と五行盟とで大きな違いがあります。それは、『責任』です」
「責任?」
そう、と凰黎は頷く。
「確かに五行盟は偉そうですが、今回の地震などのように、何かあったときは真っ先に対応しなければならない義務と責任が付いて回るのです。対して玄烏門は、地震があって何かが起きたとしても、必ず助けに行く必要はありません。もちろん、貴方や門弟が助けたい、と思うのも自由です」
なんとなくだが、凰黎の言わんとすることが煬鳳にも分かった。五行盟が煬鳳たちを下に見る権利はないが、彼らには玄烏門にはない――他の者より上に立つべき理由があるということ。つまり玄烏門には何かが起きても選択する権利がある。しかし五行盟には、有事の際に選択する権利はない、という話なのだ。
もちろん、馬鹿にするのと上に立つのでは天と地ほどに意味合いが違ってくるのだが。
「ですが、貴方は五行盟と同等にまで玄烏門を大きくした。そういう意味では、玄烏門の前掌門は実力もさることながら素晴らしい審美眼の持ち主ですね」
「師匠……」
不意に幼い頃の日々が蘇る。孤児としてあてもなく彷徨っていたある日、たまたま玄烏門の掌門に見出された。彼は煬鳳に眠る強大な力を一目で見抜いたのだ。
それからというもの玄烏門にやってきた煬鳳は掌門の指導のもと、周囲も驚くほどの速度で上達し頭角を現していった。彼が玄烏門の頂点に昇り詰めるまで十年。煬鳳は掌門の期待に応え、見事にその実力を発揮したのだ。
その掌門もかなりの実力者であったが加齢による衰えは隠すことは出来ず、玄烏門の信条である『強さが全て』に則って掌門の座を煬鳳に譲り、自らは一歩引いた立場に収まった。
「長老様は今はどちらに?」
そういえば、と煬鳳は思い出す。
つねづね凰黎は、煬鳳の師であり育ての親でもある前掌門に、二人のことで挨拶をしたいと言っていた。煬鳳が師の話をしたので思い出したのだろう。
「なんか、今は人生謳歌してるっていうか……、温泉巡りの旅に行っちまったよ」
「私も幼い頃に何度かご挨拶したことがありますが、あの強面の老人が温泉を楽しみにされていると思うと、なんだか少し暖かい気持ちになりますね」
どうやら凰黎の頭の中ではかなりのどかな光景が浮かんでいるらしい。煬鳳は『そんなわけはないだろう』と思っているが、せっかくの凰黎の想像を壊すのは止めておく事にした。
「そうかなぁ? たまに驚くような効能の温泉にもめぐり合えるらしくてさ。宝さがしみたいで楽しいんだってさ」
「良いではないですか。今度我々も温泉に行きましょう」
「やだよ、俺あんまり広い所は落ち着かなくて苦手なんだ」
これは本当だ。
幼い頃は力もなくひ弱で、敵に狙われやすかった。だから広い場所のような狙われやすいところでは必要以上に神経を張り詰めなければならず、全く心が休まらなかったのだ。
「湖には一人で入ろうとしたじゃないですか」
「うっ……! あ、あれはやむを得ずだよ!」
忘れかけていた痛い出来事を指摘されて煬鳳は泣きたくなった。
――そのことは頼むから忘れてくれ!
しかし当分の間はネタにされそうな気がしてならないのだ。
困り果てた煬鳳の顔を、凰黎は穏やかな目で見つめている。
なんだか恥ずかしくなって、煬鳳は慌てて視線を逸らす。苦し紛れに果物の砂糖漬けの器に手を伸ばした瞬間、凰黎の手が器を掻っ攫う。
「!?」
何故、を問うより早く凰黎が砂糖漬けの果物を一粒つまみあげ、少し意地悪な微笑みを浮かべた。
「はい、口を開けて?」
「――っ!」
凰黎は何をするつもりなのか。すぐさま彼の意図を煬鳳は理解する。
(だって、いきなり給仕の人が入ってくるかもしれないし……。そんな時に万が一見られたら……)
小屋の中で二人きりのときは好きなだけ甘える癖に、外に出ると途端に意気地が無くなってしまうのだ。自分でもヘタレだと思っているが、どうにも気恥ずかしさのほうが上回ってしまう。
「いや、じ、自分で食べるよ!」
どぎまぎしながら煬鳳は凰黎から視線を逸らし、別の食べ物に手を付けるべく箸をのばそうとしたが――。その手は凰黎によって引っ張られ、あれよという間に煬鳳は彼の膝の上に乗せられてしまった。
驚く煬鳳に凰黎は満面の笑みを見せる。
「給仕が来ることを心配していますか? 大丈夫。誰も扉を開けることができないように、扉を封じておきましたから」
言われて部屋の入口に目を向けてみれば、ちゃっかりと封じの呪札が戸先部分に貼り付けられている。
(いつの間に……)
凰黎が膝上の恋人を逃がすわけはなかったのだった。
――――――
[*1]卓子……テーブル
0
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる