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然后鳳凰抱鳳雛(そして鳳凰は鳳雛を抱く)
168:天長地久
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煬鳳が凰黎と共に清瑞山の小屋へと帰ってきて、いくつかの季節が過ぎていった。二人が旅立った頃はまだ雪もちらつく頃であったが、気づけば季節は春を通り過ぎ、夏へと差し掛かっている。
微かに首筋が汗ばむのを感じ、煬鳳は目を開けた。
黒曜は翳冥宮を復興させるための手伝いに行っている。あのとき煬鳳の体は光の粒子となっていた。そこから体を構成する全ての要素を五行の力で再生させたことが幸いして、以前よりも二人は離れて自由に行動することができるようになった。恐らくそれは、意図的に凰黎……鸞快子がそうしてくれたのだろう。
不便な部分もあるが、それでも煬鳳にとって彼との繋がりは稀有なものだ。完全に分かたれるよりはいまの方がずっといい。
煬鳳たちも落ち着いた頃に黒炎山での協力の礼を言うために各所へ挨拶に向かいたいところだが、いまはまだ清瑞山から離れることは難しい。
天帝が煬鳳たちに送った鳳凰の卵。
清瑞山に帰ってから煬鳳たちは絶えることなく卵を温め続けた。半信半疑、そもそも鳥の卵だって人の手で孵すことは難しいもの。なのに鳳凰の卵など、果たして同じように温めて孵るのか。いつまで温め続ければいいのか、何もかもが分からなかった。
(天帝様も厄介なものをくれたもんだよなあ……)
起きているときも寝ているときも、二人で交代しながら温めるものだから、せっかく数々の苦難を乗り越えて穏やかな時間を手に入れたというのに寝ているときすら心が休まる日はない。
うっかり寝相が悪くて卵を潰してしまったら……そう思うとおちおち寝ていられないのだ。
夜明けにはまだ遠く、窓からは晧月が覗く。横になったまま鳳凰の卵を抱える凰黎の腰にそっと腕を回すと、彼がそっと目を開いて口角を上げた。
「なあ、凰黎……」
「何です?」
伸ばした彼の手は煬鳳の額から髪に、そして優しく髪を梳く。煬鳳は擽ったそうに身を捩らせると凰黎の瞳を見つめる。美しい彼の瞳は夜闇の中でさえ眸子の夜空に星が瞬いていた。
「凰黎が俺のことを好きになったのって、やっぱり初めて山であったときなのか?」
煬鳳の問いかけを、凰黎は穏やかな顔で聴いている。そうしている間も彼の手は煬鳳の髪を何度も梳いては口付けた。
「そうですね……」
目を伏せ、凰黎は何か考えているようだ。
「なあ、そろそろ教えてくれよ。当たり? どうなんだ?」
けれどやはり凰黎は笑ったまま「当たり」とも「間違っている」とも言わない。
* * *
煬鳳に問われ、凰黎はどこまで彼に伝えるべきなのかと暫し考える。
「鸞快子の魂魄は自分と一つになった」
煬鳳には軽く伝えてはあるが、彼がどこまで理解しているかは難しい。
文字通り、鸞快子――もう一人の凰黎は、凰黎と一つになった。つまりいまの彼は鸞快子の記憶と凰黎の記憶、その両方を持ち合わせていることになる。
『煬鳳の命を無事に救うことができたら、そのときは凰黎の魂魄と一つになる』
それが煬鳳を救うためにやってきた、鸞快子が提示した条件だった。
凰黎が蓬静嶺に送られたあと、彼はじきに蓬静嶺の客卿として迎え入れられそして凰黎に声をかけてきた。
ほんの一瞬だけ凰黎は突然現れた未来の自分だと名乗る人物のことを疑ってはみたが、彼の話を聞いて迷わず鸞快子の提案を飲み、彼と協力することを選んだ。
煬鳳を助けられる可能性があるのならどこに断る理由があるだろうか?
ましてや一度叶えられず、諦めずになおも煬鳳を助けるために自分が過去にやってきたのだ。
一人なら駄目でも未来の自分と力を合わせたら、きっと煬鳳を助けられる。そう信じるよりほかなかった。
原始の谷で万晶鉱に触れた瞬間に見た未来。いまでもその光景を忘れることはできない。幼い凰黎は原始の谷で万晶鉱に触れ、未来を知った。そうして万晶鉱の輝きの中で見た煬鳳に一目で心を奪われた。
蓬莱と対峙したとき、凰黎を庇って命を散らした煬鳳の姿。
自分のことを真摯に想い、大切に考え向き合ってくれた人。
散りゆく最後の瞬間まで想いを傾けてくれた人。
記憶に焼き付いた彼の最後の瞬間を想い、何度も夢に見ては苦しんだ。
その結末をどうにかしたくて、未来を変えたくて凰黎は奔走した。それでもはじめに彼を待ち受けたのは、垣間見た未来の通りの悲惨な結果だったのだ。
焼け付く肉の臭いが忘れられず、以来肉を口にすることはできなくなった。
血の涙を流し、蓬莱を憎み恨み、仙界の存在さえも恨んだ。
凰黎は長い時間をかけて力を蓄え、万晶鉱に何度も触れてできる限りの情報を引き出した。結果的に片目を失ってしまったが、両眼を失っていた蓬莱に比べればまだましな方だろう。
そして凰黎は最終的に仙界を滅ぼした。結局のところ、はじめに仙界を滅ぼし、作り替える切っ掛けを作ったのは天帝ではなく凰黎だ。
神の血を引く恒凰宮の門弟たちの中でも、凰黎は次代の神になるべく選ばれた存在であり、だからこそ原始の谷へと導かれた。つまり――蓬莱が目を付け「神に選ばれた」と称したのもあながち間違いではなかったということになる。
もっとも凰黎は神になることを断って、煬鳳の命を救うべく長い時間を奔走することになったわけだが。
定められた運命を変えることはとても難しい。
それは五仙の一人である蓬莱すらも成し得なかったことだった。
ならば未来を変えるにはどうしたらいいのか?
定められた因果を崩すためには、何をすればいいのか。
いくつかの方法のうちの一つ――それは『過去へ行く』ということ。
凰黎は万晶鉱の剣に時を遡るだけの力を蓄え、煬鳳と出会う前の頃に遡った。そうして自分の素顔を隠し蓬静嶺の客卿となったのだ。
簡単に運命を覆すことはできない。
そして大きく運命を変えようとすると、予測不可能な事態が起こって逆に悪い結果にもなりかねない。
煬鳳の頸根にある痣を治しても最終的に蓬莱の件を解決しなければ意味がないことを鸞快子としての凰黎は知っていたが、全てを伝えても逆効果になることもあるため、未来についての話を凰黎に語るのは最小限にとどめておいた。
そのかわり、万が一煬鳳に何かが起こっても、五行の力で彼の命を救えるよう、蓬静嶺の客卿から五行盟の盟主の侍書として五行盟に入り込んだ。そうして『いつかその日に力を貸して欲しい』と言いながら恩を売り歩いたのだ。もちろん、必ずや全員が協力してくれるとは思ってもいなかったが、こうしていま、煬鳳の命があるのだからそれだけで十分だといえよう。
――それでも、煬鳳を傷つけたくはなかったし、蓬莱と一人で対峙する凰黎の覚悟を尊重したいとも思った。
『なら凰黎は……俺が凰黎を見捨てるような奴でいいのか!? 恋人が死んでも自分が助かればそれでいい。……もし、そんな俺だったら、凰黎は俺のこと好きになったのか!?』
心の底から煬鳳を止めようと思った。
力ずくでも小屋から出さぬようにしようと思っていた。
けれどあのとき、小屋での煬鳳の言葉に凰黎は心が震えたのだ。
もしも彼が体を張って凰黎の命を救おうとしなかったのなら、あの未来はなかったことだろう。辛くて悲しいあの最後の光景。
形は違えど、やはり凰黎が危ないと思ったとき、彼は命を投げ出しても凰黎を助けると言い切ってくれたのだ。
焼き付いた未来の光景が消えてなくなったとしても凰黎は煬鳳を止めたかった。それでも、揺るぎなく凰黎の元へ駆け付けようとする煬鳳の決意を見て、やはり自分はこの人の燃えるような想いを好きになったのだと改めて思い知り、涙が出るほど嬉しかった。
あの日、幼い凰黎が己の未来の全てを蓬莱に奪われようとしたとき、絶望した彼に救いの光を見せてくれた人。
――この人を救いたい。絶対に死なせるものか。
万晶鉱の力で垣間見た、真っ直ぐで美しい人。
その人の姿が、絶望に折れない心を、立ち上がる力を凰黎にくれた。
喪ってなお、彼を追い求める強さを凰黎に与えてくれた人。
煬鳳にとって凰黎が世界の全てを変えてくれた人ならば、凰黎にとって煬鳳もまた彼の全てを変えてくれた、かけがえのない唯一無二のたいせつな人。
だから――。
鸞快子と一つになったいま、いつ凰黎が煬鳳のことを好きになったかという問いに答えるならば、少々ややこしいことになる。
凰黎が万晶鉱に触れたとき?
未来から戻る前の凰黎が、原始の谷で万晶鉱に触れたとき?
だから前よりも悩みながら、凰黎はこう答えるしかないのだ。
「そうですね……ずっと、ずっと前ですよ」
そうすると煬鳳は口をへの字に結んで頬を膨らます。
「なんだそれ! 前と一緒じゃないか!」
「いまは答えるのが少し難しいのです。……もう少しいい説明が浮かんだら、そのときにね?」
全てを説明したらきっと煬鳳は混乱して結局何も理解できないだろう。
そんなところもまた――可愛らしい。
「また! そんな意地悪な顔をする!」
「そうですか?」
「そう!」
不貞腐れる煬鳳を宥めながら二人の夜は終わりに近づいてゆく。
窓から漏れる黎明の光を微かに感じながら凰黎は、「そろそろ寝なさい」と煬鳳の額に口付けた。
微かに首筋が汗ばむのを感じ、煬鳳は目を開けた。
黒曜は翳冥宮を復興させるための手伝いに行っている。あのとき煬鳳の体は光の粒子となっていた。そこから体を構成する全ての要素を五行の力で再生させたことが幸いして、以前よりも二人は離れて自由に行動することができるようになった。恐らくそれは、意図的に凰黎……鸞快子がそうしてくれたのだろう。
不便な部分もあるが、それでも煬鳳にとって彼との繋がりは稀有なものだ。完全に分かたれるよりはいまの方がずっといい。
煬鳳たちも落ち着いた頃に黒炎山での協力の礼を言うために各所へ挨拶に向かいたいところだが、いまはまだ清瑞山から離れることは難しい。
天帝が煬鳳たちに送った鳳凰の卵。
清瑞山に帰ってから煬鳳たちは絶えることなく卵を温め続けた。半信半疑、そもそも鳥の卵だって人の手で孵すことは難しいもの。なのに鳳凰の卵など、果たして同じように温めて孵るのか。いつまで温め続ければいいのか、何もかもが分からなかった。
(天帝様も厄介なものをくれたもんだよなあ……)
起きているときも寝ているときも、二人で交代しながら温めるものだから、せっかく数々の苦難を乗り越えて穏やかな時間を手に入れたというのに寝ているときすら心が休まる日はない。
うっかり寝相が悪くて卵を潰してしまったら……そう思うとおちおち寝ていられないのだ。
夜明けにはまだ遠く、窓からは晧月が覗く。横になったまま鳳凰の卵を抱える凰黎の腰にそっと腕を回すと、彼がそっと目を開いて口角を上げた。
「なあ、凰黎……」
「何です?」
伸ばした彼の手は煬鳳の額から髪に、そして優しく髪を梳く。煬鳳は擽ったそうに身を捩らせると凰黎の瞳を見つめる。美しい彼の瞳は夜闇の中でさえ眸子の夜空に星が瞬いていた。
「凰黎が俺のことを好きになったのって、やっぱり初めて山であったときなのか?」
煬鳳の問いかけを、凰黎は穏やかな顔で聴いている。そうしている間も彼の手は煬鳳の髪を何度も梳いては口付けた。
「そうですね……」
目を伏せ、凰黎は何か考えているようだ。
「なあ、そろそろ教えてくれよ。当たり? どうなんだ?」
けれどやはり凰黎は笑ったまま「当たり」とも「間違っている」とも言わない。
* * *
煬鳳に問われ、凰黎はどこまで彼に伝えるべきなのかと暫し考える。
「鸞快子の魂魄は自分と一つになった」
煬鳳には軽く伝えてはあるが、彼がどこまで理解しているかは難しい。
文字通り、鸞快子――もう一人の凰黎は、凰黎と一つになった。つまりいまの彼は鸞快子の記憶と凰黎の記憶、その両方を持ち合わせていることになる。
『煬鳳の命を無事に救うことができたら、そのときは凰黎の魂魄と一つになる』
それが煬鳳を救うためにやってきた、鸞快子が提示した条件だった。
凰黎が蓬静嶺に送られたあと、彼はじきに蓬静嶺の客卿として迎え入れられそして凰黎に声をかけてきた。
ほんの一瞬だけ凰黎は突然現れた未来の自分だと名乗る人物のことを疑ってはみたが、彼の話を聞いて迷わず鸞快子の提案を飲み、彼と協力することを選んだ。
煬鳳を助けられる可能性があるのならどこに断る理由があるだろうか?
ましてや一度叶えられず、諦めずになおも煬鳳を助けるために自分が過去にやってきたのだ。
一人なら駄目でも未来の自分と力を合わせたら、きっと煬鳳を助けられる。そう信じるよりほかなかった。
原始の谷で万晶鉱に触れた瞬間に見た未来。いまでもその光景を忘れることはできない。幼い凰黎は原始の谷で万晶鉱に触れ、未来を知った。そうして万晶鉱の輝きの中で見た煬鳳に一目で心を奪われた。
蓬莱と対峙したとき、凰黎を庇って命を散らした煬鳳の姿。
自分のことを真摯に想い、大切に考え向き合ってくれた人。
散りゆく最後の瞬間まで想いを傾けてくれた人。
記憶に焼き付いた彼の最後の瞬間を想い、何度も夢に見ては苦しんだ。
その結末をどうにかしたくて、未来を変えたくて凰黎は奔走した。それでもはじめに彼を待ち受けたのは、垣間見た未来の通りの悲惨な結果だったのだ。
焼け付く肉の臭いが忘れられず、以来肉を口にすることはできなくなった。
血の涙を流し、蓬莱を憎み恨み、仙界の存在さえも恨んだ。
凰黎は長い時間をかけて力を蓄え、万晶鉱に何度も触れてできる限りの情報を引き出した。結果的に片目を失ってしまったが、両眼を失っていた蓬莱に比べればまだましな方だろう。
そして凰黎は最終的に仙界を滅ぼした。結局のところ、はじめに仙界を滅ぼし、作り替える切っ掛けを作ったのは天帝ではなく凰黎だ。
神の血を引く恒凰宮の門弟たちの中でも、凰黎は次代の神になるべく選ばれた存在であり、だからこそ原始の谷へと導かれた。つまり――蓬莱が目を付け「神に選ばれた」と称したのもあながち間違いではなかったということになる。
もっとも凰黎は神になることを断って、煬鳳の命を救うべく長い時間を奔走することになったわけだが。
定められた運命を変えることはとても難しい。
それは五仙の一人である蓬莱すらも成し得なかったことだった。
ならば未来を変えるにはどうしたらいいのか?
定められた因果を崩すためには、何をすればいいのか。
いくつかの方法のうちの一つ――それは『過去へ行く』ということ。
凰黎は万晶鉱の剣に時を遡るだけの力を蓄え、煬鳳と出会う前の頃に遡った。そうして自分の素顔を隠し蓬静嶺の客卿となったのだ。
簡単に運命を覆すことはできない。
そして大きく運命を変えようとすると、予測不可能な事態が起こって逆に悪い結果にもなりかねない。
煬鳳の頸根にある痣を治しても最終的に蓬莱の件を解決しなければ意味がないことを鸞快子としての凰黎は知っていたが、全てを伝えても逆効果になることもあるため、未来についての話を凰黎に語るのは最小限にとどめておいた。
そのかわり、万が一煬鳳に何かが起こっても、五行の力で彼の命を救えるよう、蓬静嶺の客卿から五行盟の盟主の侍書として五行盟に入り込んだ。そうして『いつかその日に力を貸して欲しい』と言いながら恩を売り歩いたのだ。もちろん、必ずや全員が協力してくれるとは思ってもいなかったが、こうしていま、煬鳳の命があるのだからそれだけで十分だといえよう。
――それでも、煬鳳を傷つけたくはなかったし、蓬莱と一人で対峙する凰黎の覚悟を尊重したいとも思った。
『なら凰黎は……俺が凰黎を見捨てるような奴でいいのか!? 恋人が死んでも自分が助かればそれでいい。……もし、そんな俺だったら、凰黎は俺のこと好きになったのか!?』
心の底から煬鳳を止めようと思った。
力ずくでも小屋から出さぬようにしようと思っていた。
けれどあのとき、小屋での煬鳳の言葉に凰黎は心が震えたのだ。
もしも彼が体を張って凰黎の命を救おうとしなかったのなら、あの未来はなかったことだろう。辛くて悲しいあの最後の光景。
形は違えど、やはり凰黎が危ないと思ったとき、彼は命を投げ出しても凰黎を助けると言い切ってくれたのだ。
焼き付いた未来の光景が消えてなくなったとしても凰黎は煬鳳を止めたかった。それでも、揺るぎなく凰黎の元へ駆け付けようとする煬鳳の決意を見て、やはり自分はこの人の燃えるような想いを好きになったのだと改めて思い知り、涙が出るほど嬉しかった。
あの日、幼い凰黎が己の未来の全てを蓬莱に奪われようとしたとき、絶望した彼に救いの光を見せてくれた人。
――この人を救いたい。絶対に死なせるものか。
万晶鉱の力で垣間見た、真っ直ぐで美しい人。
その人の姿が、絶望に折れない心を、立ち上がる力を凰黎にくれた。
喪ってなお、彼を追い求める強さを凰黎に与えてくれた人。
煬鳳にとって凰黎が世界の全てを変えてくれた人ならば、凰黎にとって煬鳳もまた彼の全てを変えてくれた、かけがえのない唯一無二のたいせつな人。
だから――。
鸞快子と一つになったいま、いつ凰黎が煬鳳のことを好きになったかという問いに答えるならば、少々ややこしいことになる。
凰黎が万晶鉱に触れたとき?
未来から戻る前の凰黎が、原始の谷で万晶鉱に触れたとき?
だから前よりも悩みながら、凰黎はこう答えるしかないのだ。
「そうですね……ずっと、ずっと前ですよ」
そうすると煬鳳は口をへの字に結んで頬を膨らます。
「なんだそれ! 前と一緒じゃないか!」
「いまは答えるのが少し難しいのです。……もう少しいい説明が浮かんだら、そのときにね?」
全てを説明したらきっと煬鳳は混乱して結局何も理解できないだろう。
そんなところもまた――可愛らしい。
「また! そんな意地悪な顔をする!」
「そうですか?」
「そう!」
不貞腐れる煬鳳を宥めながら二人の夜は終わりに近づいてゆく。
窓から漏れる黎明の光を微かに感じながら凰黎は、「そろそろ寝なさい」と煬鳳の額に口付けた。
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