如何様陰陽師と顔のいい式神

銀タ篇

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陰陽師と式神、しびとの姫を拾う

01-04:しびとの姫

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「ところでだ、桜姫様」
「なあに?」

 今度は昂明達が彼女に質問をする番なのだ。昂明は殊更人のよさそうな顔を作ると桜に向き直る。

「桜姫様。あなた様は崖から落ちて気を失っていたらしいんだけどな」
「崖!?」

 昂明の言葉に桜は酷く驚いたらしい。咄嗟に起き上がろうとしたのだが、すぐに苦悶の表情を浮かべる。
 やはり体は痛むのだろう。慌てて銀が彼女の背に手を回し、桜の背を撫でてやった。
 それにしても、気になるのは彼女の今の反応だ。驚いていたのは間違いはない。

「なんだ、知らなかったのか?」
「ううん、その、あまりに暗くて、どこを走っていたのか全然分からなかったの……」
「どうしてあんな山の中を、供の者もつけずに、子供一人で走っていたのか。話してはくれないか?」

 そうは言ったが冷静に考えれば、もしかしたら供の者はいたのかもしれない。途中ではぐれた、そんな可能性もあるな、と話しながら昂明は考える。

 しかし、結論を言えばその質問に対する答えは返ってこなかった。
 桜は昂明達が諦めるまで、ずっと黙ったまま俯いていたのだ。
 どこから来たのか、どこの家のものなのか。質問をしてもどうしても答えない。

 それで察した。
 恐らく……『桜』というのも嘘の名前だろう。
 そして極めつけが「今頃両親が心配しているのではないか」という言葉に対する彼女の言葉だ。昂明の言葉に辿々しい口調で桜は、


「わ、わたし、その……死人しびとなの……」


 と言ったのだ。
 なんということを言うのかと驚いたが努めて平静を装う。

「本当に桜が死人なら、治療に苦労はしなかったんだけどな。その怪我の手当ては誰がしてくれたのかな?」
「ご、ごめんなさい。わたし……」

 つい反射的に意地悪な言葉を返してしまったのだが、言い返すでもなく謝る彼女の姿に罪悪感を覚える。

「子供がそんなに謝るもんじゃない」
「は、はい……」

 言うに事欠いて、子供の身で「死んだ」などとは一体どういうことか。彼女はどうして何も言わず、死人だなどと言ったのか。貴族の娘であるのだろうに、威張ったふうもなく、どこか遠慮を感じる。
 昂明は直感した。

 ――この娘は訳ありだ。

 結局その日の結論はお預けになった。

「きっとどこかの姫様なんだろうが……『死人』とは恐れ入ったな」

 再び眠りについた桜を見て、銀が言う。今は二人きり、火桶で暖を取りながら外の景色を眺めている。庭の手入れをする者も久しくいないため、草は伸び放題、木々も気まぐれに枝を伸ばし続け、かつての姿は見る影もない。
 栄華を誇るかの土御門や東三条などの邸宅と比べれば、やはり『落ちぶれた』などと言われるのは仕方ないだろう。

 父はといえば、暫く懇ろな女の元に滞在するとか何とかで、ここ数日顔を見ることすら出来ていない。桜のことを相談しようと思っていたのだが、それもお預けになってしまった。

「死人だななんて言うからには、生きていると知られたくない事情があるんだろう。自分の身分を明かさないのも、山での出来事を話さないのもそういう事情があるのかもしれないな」
「この娘をどうするつもりだ? 昂明」

 火桶の向こうから、銀が昂明を見る。きっと彼女のことを心配しているのだろう。それはやはり、己の事情を彼女に重ねているからに違いない。
 昂明はそんなことを考える。
 初めて銀がやって来た日のことを、亡き爺様より何度も聞かされた。

 ――どうやら面倒事を引き受けるのは刀岐氏の伝統らしい。

 因果なものだと、少し可笑しく思う。

「暫くはうちで面倒見るしかないだろうさ」

 銀がほっと息を吐いたのが分かった。
 ようやく安心したのか、銀は廂に腰を下ろすと笛を口元に寄せる。静まり返った庭に竜笛の透き通るような音色が響く。
 その旋律はいつもながら美しく、悲しく、そして儚い。

 目の前にいる『顔のいい式神』は、実に笛を吹く姿が良く似合う。難儀な生い立ちを抱えてさえいなければ、数多の姫達が見惚れていたのではないか。
 目を閉じ、笛の音を聞きながら今日の出来事を思い出す。

「陰陽師に式神に死人の姫……か」

 思わず口をついて出た言葉だったが、我ながら上手いことを言ったものだと、昂明は一人笑った。
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