如何様陰陽師と顔のいい式神

銀タ篇

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陰陽師、招待される

05-04:鋭い男

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「あの娘、暫くのあいだ儂が引き受けてもよいぞ。訳ありのようだしな」

 切り出したのは頼央だった。

「右大将さまが!?」
「たしかに、僕達の邸よりは安全ですが……でも……」

 頼央の家には沢山の家人もいるし護衛もいる。少なくとも桜の身は安全だろう。それに沢山の女房達もいる。
 男ばかりな上、殆ど家を空けてばかりの兄弟しかいない昂明の邸とでは雲泥の差だ。何より昂明達では桜に満足な生活を約束することも叶わない。
 どうしよう、とばかりに互いの顔を見る。銀の薄鈍色の瞳も困惑しているようだ。

「勿論悪いようにはせん。責任をもって――」

 頼央がそこまで言いかけたとき。

「嫌っ!」

 叫ぶ桜の声が、庭に響く。どうやらいつの間にか女房達から離れて戻ってきていたらしい。どこまでを聞いたのかは分からないが、少なくとも「引き受けてもいい」のくだりは聞いていたのだろう。

「わたし、昂明さまや銀と一緒がいい!」
「桜、あのな……」
「ぜったい、絶対嫌!」

 言うや否や桜は昂明達に背を向けて走り出す。銀が振り返った後、慌てて桜のことを追いかけていった。

「どうやら聞かれてしまったようだな、済まぬ」
「いえ、俺達も気づきませんでしたから……申し訳ありません。右大将さまのせいではないのです」

 そう言って昂明は頼央に向かって苦笑いを返す。

「しかしああも言い切るとはな。おぬしらはあの姫に余程好かれたと見える」
「俺達、というか。多分銀ですよ」
「そうか?」
「そうですよ」

 随分謙遜をする、と頼央には笑われてしまったが桜と一緒にいる時間が長いのは圧倒的に銀だ。だから謙遜ではなく事実なのだと思っている。

「そうだ。二人きりだから丁度良い。昂明よ、おぬしに聞きたいことがあったのだ――」

 それまで悪戯をする少年のように笑っていた頼央の声色が、急に変わった。周りの様子を極端に窺いながらするりと昂明に近づいた。
 先程までの気さくな様子とは全く別の気配を纏っている。

「おぬしの連れている式神――あれは只の『人』であろう?」

 息が止まるかと思った。

 時折そのように聞かれることもままあるのだが、いつだって昂明は「いいえ、式神です」と至極当然のように言い切って押し通す。
 大概の相手はそれで納得してしまうのだが、相手が頼央ともなると流石の昂明も緊張する。

「さて、何のことやら。銀は間違いなく俺の『式神』ですよ? 考えてもみて下さい。あのように美しくそして白銀の髪を持つ『人』が、この世にいるはずも――」

 震える声を感じさせまいと必死で虚勢を張った昂明の言葉も、頼央には敵わない。

「戯れを申すな。中宮様に二人の御子がお生まれになった時、そのうちの一人が雪のような赤子であった。儂は当時から内裏に出入りしていたのでよく覚えている。あの頃おぬしの祖父である刀岐晴康は帝に――」
「いけません、右大将さま」

 なおも続けようとした頼央の言葉をやっとの思いで遮って、昂明はそう言った。

「……祖父との約束を違えることになります」

 頼央は昂明の言葉にはっとする。
 ようやく、昂明の言わんとすることを理解したらしい。
 分かっていても、口に出してはいけないこともあるのだ。その一言から呪詛のように広がり、大きな渦が巻き起こることだってある。銀の命を救うために祖父も、皆も、口を噤んだのだ。

「そのようだな、許せ。……あのように強くて美しく、そして立派な『式神』が人の子であるはずはなかったな」

 頼央は口元に笑みを浮かべて頭を振る。次に頼央が眼を開いた時には、子供を見守る親のように穏やかな顔をしていた。

「もし困ったことや相談事があれば何時でも頼って欲しい。どのようなことでも必ず力になろう」

 頼央はにこりと微笑み、そう言った。
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