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そして動き出す
08-02:また輝く君、現る
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市座で買い物を終えた後は邸へと帰るのみ。魚売は妻の腰痛を診て貰った礼にと魚を余分にくれたので思いがけず得をした気分だ。
桜には随分と「蘇が食べたい」と言われたのだが、売っていないのだから仕方ない。程良く日も傾きかけているので帰る頃ろには腹も減っているだろう。
先ほどの魚売の話が忘れられないのか、桜はまだ興奮気味に銀と語らっている。
「昂明さまって案外大胆なことするのね」
「そうだな。案外というよりは昔からだな。柿の生っている公卿の邸宅によじ登ってこっそり柿を取ろうとしたり……あれは衛兵達に見つかって追いかけられるわ、父上にこっぴどく怒られるわで大変だった」
「わあ、そんなことまで!?」
そろそろ止めろと思ったのだが、銀はまだまだ語る気らしい。
「そういえばあの頃はまだ爺様が生きていた。爺様は昂明が何かやらかすたびに随分と心を砕いてお話して下さったな」
「お前、嫌なところよく覚えてるよなぁ……」
「そうか? 僕が覚えていることなんかほんの一部だけだ。……でも爺様は怒るでもなく懇々と何故それをやってはいけないのかという理由を説いて下さった。僕はそんな爺様の話が好きだったな」
「それは俺も……」
言いかけて祖父の姿を思い出し、思わず言葉を止める。
「昂明?」
「いや……。爺さん凄い人だったんだなって、今になって気づいた」
話にはある程度聞いてはいたが、実際に祖父と同じかそれ以上の官職の公卿達と話して、気づいたのだ。
帝に我が子の命運を託された祖父。
帝の手足となり、そして皆からも信頼され頼りにされる頼央。その頼央の口から語られた祖父のこと。
「そんな爺さんが俺に銀のことを託したんだから。俺も頑張らないとなって思ったんだ」
昂明の言葉に、銀が破顔する。
「頑張ってるよ――今だって」
「これから、もっとだよ」
昂明がそう言うと、銀は満面の笑みで頷く。
「おや、昂明殿と式神殿ではないですか。……それに桜の姫君もご一緒とは」
追い越しかけた牛車が突然停まった。前方から姿を現したのは『輝く君』こと近衛中将だ。
(この人、ほんと良く会うな……)
これが怪しさ満点の公卿なら『もしや何かの陰謀か』などと疑ってもかかるのだが、輝く君に至っては驚く程の人の良さや溢れ出る親切心。不思議と欠片も疑ってかかる気にはなれない。
まあ、何よりも昂明達は輝く君には世話になりっぱなしなのだが。
「近衛中将さま、清涼殿での加持祈祷の折には見事な衣まで頂き、本当に有り難う御座いました」
「なに。あなた達は私の恩人。そして叔父上も陰陽師殿と式神殿のことをとても買っておられる。当然のことです。もしや邸に戻られるところですか?」
「はい。市座からの帰りです」
「ならば好都合、丁度陰陽師殿と兄上の式部少丞殿にお話があった所。ご一緒にいかがですか」
「えっ……」
いくら人が良いとはいえ輝く君は近衛中将。おいそれと友達のようにほいほい牛車に乗り込んで良いものなのか。昂明が銀の顔色を窺うと「知るか」という顔をしている。
結局、桜の「是非乗せてください!」の一言が後押しとなって、昂明は輝く君と共に自分の邸まで帰る羽目になってしまった。
桜には随分と「蘇が食べたい」と言われたのだが、売っていないのだから仕方ない。程良く日も傾きかけているので帰る頃ろには腹も減っているだろう。
先ほどの魚売の話が忘れられないのか、桜はまだ興奮気味に銀と語らっている。
「昂明さまって案外大胆なことするのね」
「そうだな。案外というよりは昔からだな。柿の生っている公卿の邸宅によじ登ってこっそり柿を取ろうとしたり……あれは衛兵達に見つかって追いかけられるわ、父上にこっぴどく怒られるわで大変だった」
「わあ、そんなことまで!?」
そろそろ止めろと思ったのだが、銀はまだまだ語る気らしい。
「そういえばあの頃はまだ爺様が生きていた。爺様は昂明が何かやらかすたびに随分と心を砕いてお話して下さったな」
「お前、嫌なところよく覚えてるよなぁ……」
「そうか? 僕が覚えていることなんかほんの一部だけだ。……でも爺様は怒るでもなく懇々と何故それをやってはいけないのかという理由を説いて下さった。僕はそんな爺様の話が好きだったな」
「それは俺も……」
言いかけて祖父の姿を思い出し、思わず言葉を止める。
「昂明?」
「いや……。爺さん凄い人だったんだなって、今になって気づいた」
話にはある程度聞いてはいたが、実際に祖父と同じかそれ以上の官職の公卿達と話して、気づいたのだ。
帝に我が子の命運を託された祖父。
帝の手足となり、そして皆からも信頼され頼りにされる頼央。その頼央の口から語られた祖父のこと。
「そんな爺さんが俺に銀のことを託したんだから。俺も頑張らないとなって思ったんだ」
昂明の言葉に、銀が破顔する。
「頑張ってるよ――今だって」
「これから、もっとだよ」
昂明がそう言うと、銀は満面の笑みで頷く。
「おや、昂明殿と式神殿ではないですか。……それに桜の姫君もご一緒とは」
追い越しかけた牛車が突然停まった。前方から姿を現したのは『輝く君』こと近衛中将だ。
(この人、ほんと良く会うな……)
これが怪しさ満点の公卿なら『もしや何かの陰謀か』などと疑ってもかかるのだが、輝く君に至っては驚く程の人の良さや溢れ出る親切心。不思議と欠片も疑ってかかる気にはなれない。
まあ、何よりも昂明達は輝く君には世話になりっぱなしなのだが。
「近衛中将さま、清涼殿での加持祈祷の折には見事な衣まで頂き、本当に有り難う御座いました」
「なに。あなた達は私の恩人。そして叔父上も陰陽師殿と式神殿のことをとても買っておられる。当然のことです。もしや邸に戻られるところですか?」
「はい。市座からの帰りです」
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「えっ……」
いくら人が良いとはいえ輝く君は近衛中将。おいそれと友達のようにほいほい牛車に乗り込んで良いものなのか。昂明が銀の顔色を窺うと「知るか」という顔をしている。
結局、桜の「是非乗せてください!」の一言が後押しとなって、昂明は輝く君と共に自分の邸まで帰る羽目になってしまった。
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