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そして動き出す
08-09:謀
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「で、だ。『内親王さまが言い寄られた相手』を書き出して貰った」
「でも、やはり狙われたのは東宮さまだったんだろう? 何故内親王さまの良い寄られた相手なんだ?」
「一応念のため、みたいなもんだ。拐かしの件は東宮さまが狙いだった事がはっきりした訳だから……もし拐かしが成功していた場合、残った内親王さまに取り合えず取り入っておこうって思っていた奴もいるんじゃないかと思ってさ」
「なるほど」
懐から紙を取り出すと、昂明は板間の上に広げる。そこに書かれている名前を銀は一人一人なぞるように確認していく。
「結構多いな」
「そりゃあ内親王さまだからな」
そこに書かれている名前の殆どがいわゆる殿上人。当然といえば当然だが、仮にも相手は内親王。それなりの地位でなければ内親王と結婚など到底無理筋な話なのだ。
「男の人しかいない……」
「まあ、身なりは男らしくあっても内親王さまは周りから見れば、やはり内親王さまだからな」
そっかあ、と残念がる桜だがあれだけの男らしさと逞しさを持っている内親王は大したものだ。先ほど話してみて思ったが、あれほど物言いも考えも凛々しい人物ならば女房達の間で人気があってもおかしくはないだろうな……などとつい考えてしまう。
「それから、こっちは桜が後宮を飛び出した日。内宴に列席していた主要な公卿の一覧」
もう一枚の紙を取り出すと、上下になるように並べる。
「こっちは多すぎるな」
「なにせ内宴だからな。この中で黒袍を着用――つまり、四位以上の者の中に主要な犯人はいると考えていいだろう」
「とすると……それでも多いな。……あっ!」
二つの人名を見比べていた銀が声を上げた。
「昂明、見ろよこいつ……!」
弾正大弼 大見義詮、その名には覚えがある。
「こいつ、輝く君の放火事件の時の奴じゃねえか。あの事件は使用人達が関わっていたにも関わらず暇を出した後だったと言い張って、結果的に無関係ってことになったんだよな」
輝く君が放火事件の濡れ衣を着せられた事件。その時の首謀者はこの弾正大弼で間違いはなかった。使用人たちが屋敷を出るところを昂明達が見たのだから間違いはない。
「怪しいことは怪しいが、しかしそこまでの力を持っているのだろうか? 弾正大弼は……」
それも確かに疑問ではある。
「大見弾正大弼殿の父は受領を経て莫大な富を築いたと聞く。そして兄が一人、妹が四人。いずれも内裏でかなりの官職についている。そして金の力にまかせてあくどいこともかなりやっているようだ」
「晶朝兄!」
突然明瞭な説明が添えられた、と思ったら立っていたのは上の兄である晶朝。
「それに、弾正大弼殿の一番初めに藤原の姫の牛車を襲ったのは大見の郎党達なのではないだろうか。腕っぷしは強いが気性が荒く、しょっちゅう諍いを起こしているらしい。近くに住む者も困っているようだが、大見の権威を恐れ、何も言えないのだとか」
「もしかして、兄上調べてきたんですか」
「少しでもお前たちの力になればと思ってな。……それに事態は東宮さまや内親王さまにも関わる事だ」
晶朝が言うには、恐らく内親王を拐かすように盗賊に依頼したのは弾正大弼の側近だろうということだ。足がつかぬよう細心の注意を払っていたようではあったが、盗賊が話した男の背格好と声色の特徴がよく似ていたらしい。
それとて、顔は隠していたそうなので確定的な証拠とは言い難いのだが。
「怪しい奴は出てきたが、しかしどうする? 少なくとも、東宮を拐かそうとした計画の首謀者が誰なのかという証拠を掴まなければ、僕達が逆に返り討ちにされてしまう」
珍しく慎重な声で銀が言った。銀の言う通り、今は推測ばかりで確実な証拠がどこにもない。何より昂明と銀だけでは証拠を揃える力も当然無い。
「なあ、桜。桜が後宮を飛び出した日のことで気になることはないか?」
「えっ?」
突然話を向けられて桜は驚く。暫くう~んと唸っていたものの、やはり首を振る。
「ううん、駄目。思いつかない」
「推測だが……、桜がそこまで狙われる理由は、何か決定的な事を知られたからと思っているのだと思うんだよな」
「ええっ……どうかなあ……」
もう一度桜は首をひねって考え込む。
「あ! そういえば……ひとつだけ変なこと言ってたかも」
「え?」
聞き返す昂明に、少しだけ自信のない顔で桜が頷く。
「……復帰するって」
「でも、やはり狙われたのは東宮さまだったんだろう? 何故内親王さまの良い寄られた相手なんだ?」
「一応念のため、みたいなもんだ。拐かしの件は東宮さまが狙いだった事がはっきりした訳だから……もし拐かしが成功していた場合、残った内親王さまに取り合えず取り入っておこうって思っていた奴もいるんじゃないかと思ってさ」
「なるほど」
懐から紙を取り出すと、昂明は板間の上に広げる。そこに書かれている名前を銀は一人一人なぞるように確認していく。
「結構多いな」
「そりゃあ内親王さまだからな」
そこに書かれている名前の殆どがいわゆる殿上人。当然といえば当然だが、仮にも相手は内親王。それなりの地位でなければ内親王と結婚など到底無理筋な話なのだ。
「男の人しかいない……」
「まあ、身なりは男らしくあっても内親王さまは周りから見れば、やはり内親王さまだからな」
そっかあ、と残念がる桜だがあれだけの男らしさと逞しさを持っている内親王は大したものだ。先ほど話してみて思ったが、あれほど物言いも考えも凛々しい人物ならば女房達の間で人気があってもおかしくはないだろうな……などとつい考えてしまう。
「それから、こっちは桜が後宮を飛び出した日。内宴に列席していた主要な公卿の一覧」
もう一枚の紙を取り出すと、上下になるように並べる。
「こっちは多すぎるな」
「なにせ内宴だからな。この中で黒袍を着用――つまり、四位以上の者の中に主要な犯人はいると考えていいだろう」
「とすると……それでも多いな。……あっ!」
二つの人名を見比べていた銀が声を上げた。
「昂明、見ろよこいつ……!」
弾正大弼 大見義詮、その名には覚えがある。
「こいつ、輝く君の放火事件の時の奴じゃねえか。あの事件は使用人達が関わっていたにも関わらず暇を出した後だったと言い張って、結果的に無関係ってことになったんだよな」
輝く君が放火事件の濡れ衣を着せられた事件。その時の首謀者はこの弾正大弼で間違いはなかった。使用人たちが屋敷を出るところを昂明達が見たのだから間違いはない。
「怪しいことは怪しいが、しかしそこまでの力を持っているのだろうか? 弾正大弼は……」
それも確かに疑問ではある。
「大見弾正大弼殿の父は受領を経て莫大な富を築いたと聞く。そして兄が一人、妹が四人。いずれも内裏でかなりの官職についている。そして金の力にまかせてあくどいこともかなりやっているようだ」
「晶朝兄!」
突然明瞭な説明が添えられた、と思ったら立っていたのは上の兄である晶朝。
「それに、弾正大弼殿の一番初めに藤原の姫の牛車を襲ったのは大見の郎党達なのではないだろうか。腕っぷしは強いが気性が荒く、しょっちゅう諍いを起こしているらしい。近くに住む者も困っているようだが、大見の権威を恐れ、何も言えないのだとか」
「もしかして、兄上調べてきたんですか」
「少しでもお前たちの力になればと思ってな。……それに事態は東宮さまや内親王さまにも関わる事だ」
晶朝が言うには、恐らく内親王を拐かすように盗賊に依頼したのは弾正大弼の側近だろうということだ。足がつかぬよう細心の注意を払っていたようではあったが、盗賊が話した男の背格好と声色の特徴がよく似ていたらしい。
それとて、顔は隠していたそうなので確定的な証拠とは言い難いのだが。
「怪しい奴は出てきたが、しかしどうする? 少なくとも、東宮を拐かそうとした計画の首謀者が誰なのかという証拠を掴まなければ、僕達が逆に返り討ちにされてしまう」
珍しく慎重な声で銀が言った。銀の言う通り、今は推測ばかりで確実な証拠がどこにもない。何より昂明と銀だけでは証拠を揃える力も当然無い。
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「ううん、駄目。思いつかない」
「推測だが……、桜がそこまで狙われる理由は、何か決定的な事を知られたからと思っているのだと思うんだよな」
「ええっ……どうかなあ……」
もう一度桜は首をひねって考え込む。
「あ! そういえば……ひとつだけ変なこと言ってたかも」
「え?」
聞き返す昂明に、少しだけ自信のない顔で桜が頷く。
「……復帰するって」
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