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第〇話:真夜中の迷子
0-2:記憶がない!
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長身の男性は『アインハルト・フォン・ヴェルシュタイン』と名乗った。「アインで構わない」と言われたけれど、正直いきなりそれは馴れ馴れしいんじゃないかとも思う。
「いやあ……しかし、参ったね。まさか記憶喪失なんて」
頭を掻きながらアインさんは困った顔で苦笑いする。記憶喪失というのは勿論僕のことだ。
「すみません……」
あの後何度も思い出そうとしたのだけれど、頭にもやがかかったように何一つ思い出すことが出来なかった。
アインさん曰く、怪我もしているようだったから何かトラブルに巻き込まれた拍子に記憶を失ったんじゃないかと言っていた。
それに抜けているのは自分が何者かという所だけで日常生活に必要な基本的知識はちゃんと残っているようだから、今のところは生活に支障はなさそうだとも。
「あー……ただね?」
アインさんは胸ポケットから銀色のペンダントを取り出すと僕に見せる。
ペンダントヘッドのプレート部分には、何やら文字が彫ってあるようだ。
「ずぶ濡れだったから君の服は洗濯中なんだけれどね。これは君が首から提げていたペンダントだ。『聖弘』と彫ってあったから、多分それが君の名前なのではないかな」
「聖弘……」
もう一度心の中で復唱する。……けれども残念ながら「これこそが自分の名前だ」という確証的な自信は持てなかった。
「全然実感はないですけど……」
素直な気持ちを吐露すると、アインさんは「記憶喪失なんてそんなものだよ」と軽く笑う。
「確かに確証はないけれど、名無しのままだと呼びづらいだろう? だから一旦『聖弘』君と呼んでも構わないだろうか?」
確かに名無しのままでは僕自身も困ってしまう。それならアインさんの言う通り、とりあえず『聖弘』を名乗るのが良さそうだ。
「わかりました。聖弘でお願いします」
僕はアインさんに向かってお辞儀をした。
「じゃあ、『きょっぴー』ですね」
「きょっ……!?」
突然あらぬ方向から飛んできたみょうちきりんな名前に僕は仰天する。慌てて声の主を探すと、二人ばかり、少し小柄な少年と金髪の青年が興味津々の顔をして部屋の入口からこちらの様子を窺っていた。
「お目覚めになったのなら、小腹が空いてるんじゃないかと思いまして」
金髪の青年が一歩進み出て会釈した。
「ああ、ありがとう。ジェド」
アインさんがジェドと呼んだ人に片手をあげる。僕がそれを目で追っていたのに気付くと、アインさんはジェドさんを親指で指した。
「うちの、副料理長」
「ジェドです。どうぞよろしく、きょっぴー」
小麦色の肌に金髪のジェドさんは僕に向かって軽く会釈をした。何故だか分からないけれど、それだけなのにどこか気品と威厳を感じられた。
といっても、最後の「きょっぴー」で気品も威厳も台無しだけど。
「よろしくお願いします。……あの、なんで『きょっぴー』なんですか」
「聖弘、だからですよ」
僕の問かけの答えになってないような答えを返して、満足そうにジェドさんは微笑んだ。笑うとなんだかどこかの王子様みたいな感じにも見える。
それより、もうきょっぴーで確定なんだろうか。そのネーミングセンスはどうなんだろうかと正直思うのだけれど。
肝心のジェドさんは、全く訂正する気はないという顔をしている。
その顔を見た瞬間に、僕は反論するのを止めた。
「それから、こっちがホールスタッフのヴィクター」
アインさんはもう一人のやや小柄の少年の方に歩み寄るとその背中を軽く叩く。少し照れ屋なのか、伸びた前髪で片目を隠しがちなヴィクターさんはおずおずと前に進み出た。
「よろしく……きょっぴー」
もう、きょっぴーは確定らしい。
ヴィクターさんは少しぎこちなく僕に右手を差し出す。
「あっ、よろしくお願いします。ヴィクターさん」
僕は差し出されたその手を取って握手をした……瞬間に僕の手からぼろり腕が落ちた。
ヴィクターさんの、腕が。
「うぇっ、ヴええええええええええええ!?」
僕の叫び声が、部屋中に響き渡った。
「いやあ……しかし、参ったね。まさか記憶喪失なんて」
頭を掻きながらアインさんは困った顔で苦笑いする。記憶喪失というのは勿論僕のことだ。
「すみません……」
あの後何度も思い出そうとしたのだけれど、頭にもやがかかったように何一つ思い出すことが出来なかった。
アインさん曰く、怪我もしているようだったから何かトラブルに巻き込まれた拍子に記憶を失ったんじゃないかと言っていた。
それに抜けているのは自分が何者かという所だけで日常生活に必要な基本的知識はちゃんと残っているようだから、今のところは生活に支障はなさそうだとも。
「あー……ただね?」
アインさんは胸ポケットから銀色のペンダントを取り出すと僕に見せる。
ペンダントヘッドのプレート部分には、何やら文字が彫ってあるようだ。
「ずぶ濡れだったから君の服は洗濯中なんだけれどね。これは君が首から提げていたペンダントだ。『聖弘』と彫ってあったから、多分それが君の名前なのではないかな」
「聖弘……」
もう一度心の中で復唱する。……けれども残念ながら「これこそが自分の名前だ」という確証的な自信は持てなかった。
「全然実感はないですけど……」
素直な気持ちを吐露すると、アインさんは「記憶喪失なんてそんなものだよ」と軽く笑う。
「確かに確証はないけれど、名無しのままだと呼びづらいだろう? だから一旦『聖弘』君と呼んでも構わないだろうか?」
確かに名無しのままでは僕自身も困ってしまう。それならアインさんの言う通り、とりあえず『聖弘』を名乗るのが良さそうだ。
「わかりました。聖弘でお願いします」
僕はアインさんに向かってお辞儀をした。
「じゃあ、『きょっぴー』ですね」
「きょっ……!?」
突然あらぬ方向から飛んできたみょうちきりんな名前に僕は仰天する。慌てて声の主を探すと、二人ばかり、少し小柄な少年と金髪の青年が興味津々の顔をして部屋の入口からこちらの様子を窺っていた。
「お目覚めになったのなら、小腹が空いてるんじゃないかと思いまして」
金髪の青年が一歩進み出て会釈した。
「ああ、ありがとう。ジェド」
アインさんがジェドと呼んだ人に片手をあげる。僕がそれを目で追っていたのに気付くと、アインさんはジェドさんを親指で指した。
「うちの、副料理長」
「ジェドです。どうぞよろしく、きょっぴー」
小麦色の肌に金髪のジェドさんは僕に向かって軽く会釈をした。何故だか分からないけれど、それだけなのにどこか気品と威厳を感じられた。
といっても、最後の「きょっぴー」で気品も威厳も台無しだけど。
「よろしくお願いします。……あの、なんで『きょっぴー』なんですか」
「聖弘、だからですよ」
僕の問かけの答えになってないような答えを返して、満足そうにジェドさんは微笑んだ。笑うとなんだかどこかの王子様みたいな感じにも見える。
それより、もうきょっぴーで確定なんだろうか。そのネーミングセンスはどうなんだろうかと正直思うのだけれど。
肝心のジェドさんは、全く訂正する気はないという顔をしている。
その顔を見た瞬間に、僕は反論するのを止めた。
「それから、こっちがホールスタッフのヴィクター」
アインさんはもう一人のやや小柄の少年の方に歩み寄るとその背中を軽く叩く。少し照れ屋なのか、伸びた前髪で片目を隠しがちなヴィクターさんはおずおずと前に進み出た。
「よろしく……きょっぴー」
もう、きょっぴーは確定らしい。
ヴィクターさんは少しぎこちなく僕に右手を差し出す。
「あっ、よろしくお願いします。ヴィクターさん」
僕は差し出されたその手を取って握手をした……瞬間に僕の手からぼろり腕が落ちた。
ヴィクターさんの、腕が。
「うぇっ、ヴええええええええええええ!?」
僕の叫び声が、部屋中に響き渡った。
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