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第〇話:真夜中の迷子
0-3:ここは不死者の洋食屋
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ひとしきりのけ反るほどに驚いた僕がアインさんから聞かされたのは、にわかには信じ難いような話だった。
「不死者……ですか?」
小机の前に座らされた僕は、アインさんの言葉を聞き返す。
だって、「ここは不死のあやかし達が集まって営業している洋食屋なんだよ」なんて、あまりにも浮世離れしている。
聞き返した僕の言葉に、アインさんは気さくな笑顔で大きく頷いて肯定した。
「そう。私はヴァンパイア。永遠の時を生きる不死の王、なんて言われたりもするね」
……今のは流石にちょっと盛った表現のような気がする。
とはいえ人智を超えた美しさ、同じ人間とは全く思えない。
正直、そう思ってはいたけれど。
それでもまさか、ヴァンパイアだなんてまだ信じられないと思ってしまう。
「それからジェドはミイラ男。同じく永遠の時を生きる不死の者」
いや、待って欲しい。
ジェドさんにミイラっぽさや包帯などはどこにもなかったと思う。それなのにまさかミイラ男なんて……。
「高温多湿の日本の環境で、すっかりしっとり肌になりまして。……でも乾燥しやすいんでスキンケアは欠かせないんですよ」
傍で見ていたジェドさんは、僕の疑問に答えるかのように間髪入れずに言った。
そういえばいつの間にか頬にはキュウリが貼ってある。
たぶん、キュウリパックってやつだ。
「さっきはその、ゴメン」
暫く席を外していたヴィクターさんが申し訳なさそうに入ってきた。
ガラガラと音がしたのでなんだろうと思ったら、ワゴンを運んできたらしい。その上には何かが乗っている。
ワゴンに乗せたそれを小机の上に置くと、コトリと小気味いい音が響く。
見ればそれは、スープのようだった。
「いいえ、さっきは突然だったからびっくりしてしまって……僕の方こそ、御免なさい」
ヴィクターさんはまだ俯いている。きっと相当気にしているに違いない。
きっと繊細な心の持ち主なんだろう。なんだか僕まで申し訳ない気持ちになってきた。
「実は彼は19世紀初頭に作られた人造人間なんだ。腕が少し取れやすくなっていてね、油断すると時々落ちる」
「じ、人造人間!?」
さらりとアインさんが言った言葉に僕はもう一度驚く。人造人間なんていうものが、この世に本当に存在していたなんて。
「アンデッドとは違うけれど……広義的には不死の者ってことで」
軽いウィンクを飛ばしたアインさんを、僕は茫然と見る。
「あーでも、不死といっても無敵な訳じゃあない。……ヴァンパイアハンターなんかに杭を打ち込まれたら死んでしまうし、酷い怪我をしたら普通に死ぬ。なんとなく長く生きてるってくらいだよ」
さらっと凄い事を言ったアインさんにまたもや僕は驚いてしまう。
なんだかんださっきから驚きの連続だ。これって本当に本当なんだろうか?
実は、夢でも見ているんじゃないだろうか。
思わずそんな考えが過ぎってしまった。
「驚いたかい?」
くすりとアインさんが笑う。
いちいち一つ一つの仕草が絵になるものだから、目の前にいるこちらとしてはどうしたらいいのかと戸惑ってしまう。
「そりゃあ……驚きました。いきなり腕が落ちるんですもん」
僕はおずおずと、躊躇いがちに言葉を選ぶ。色々驚いたことは多かったけど、腕が落ちたことだけは心の底から絶叫してしまった。
「腕以外は? 怖くなかったのかい?」
僕の言葉に、少し意外そうな顔でアインさんが訊ねる。
「まあ、最初はかなり驚きましたけど……」
そう言いながら俯くと視線をスープに落とした。
「店に転がり込んだ僕を助けてくださって、その上こんなに親切にして頂いてますから……感謝こそすれ怖がるなんて……」
あのまま放り出されていたら、雨に打たれ冷たくなってしまっていたかもしれない。命の恩人といっても過言ではないだろう。
恩人の事を怖がるようなことは、できない。
「不死者……ですか?」
小机の前に座らされた僕は、アインさんの言葉を聞き返す。
だって、「ここは不死のあやかし達が集まって営業している洋食屋なんだよ」なんて、あまりにも浮世離れしている。
聞き返した僕の言葉に、アインさんは気さくな笑顔で大きく頷いて肯定した。
「そう。私はヴァンパイア。永遠の時を生きる不死の王、なんて言われたりもするね」
……今のは流石にちょっと盛った表現のような気がする。
とはいえ人智を超えた美しさ、同じ人間とは全く思えない。
正直、そう思ってはいたけれど。
それでもまさか、ヴァンパイアだなんてまだ信じられないと思ってしまう。
「それからジェドはミイラ男。同じく永遠の時を生きる不死の者」
いや、待って欲しい。
ジェドさんにミイラっぽさや包帯などはどこにもなかったと思う。それなのにまさかミイラ男なんて……。
「高温多湿の日本の環境で、すっかりしっとり肌になりまして。……でも乾燥しやすいんでスキンケアは欠かせないんですよ」
傍で見ていたジェドさんは、僕の疑問に答えるかのように間髪入れずに言った。
そういえばいつの間にか頬にはキュウリが貼ってある。
たぶん、キュウリパックってやつだ。
「さっきはその、ゴメン」
暫く席を外していたヴィクターさんが申し訳なさそうに入ってきた。
ガラガラと音がしたのでなんだろうと思ったら、ワゴンを運んできたらしい。その上には何かが乗っている。
ワゴンに乗せたそれを小机の上に置くと、コトリと小気味いい音が響く。
見ればそれは、スープのようだった。
「いいえ、さっきは突然だったからびっくりしてしまって……僕の方こそ、御免なさい」
ヴィクターさんはまだ俯いている。きっと相当気にしているに違いない。
きっと繊細な心の持ち主なんだろう。なんだか僕まで申し訳ない気持ちになってきた。
「実は彼は19世紀初頭に作られた人造人間なんだ。腕が少し取れやすくなっていてね、油断すると時々落ちる」
「じ、人造人間!?」
さらりとアインさんが言った言葉に僕はもう一度驚く。人造人間なんていうものが、この世に本当に存在していたなんて。
「アンデッドとは違うけれど……広義的には不死の者ってことで」
軽いウィンクを飛ばしたアインさんを、僕は茫然と見る。
「あーでも、不死といっても無敵な訳じゃあない。……ヴァンパイアハンターなんかに杭を打ち込まれたら死んでしまうし、酷い怪我をしたら普通に死ぬ。なんとなく長く生きてるってくらいだよ」
さらっと凄い事を言ったアインさんにまたもや僕は驚いてしまう。
なんだかんださっきから驚きの連続だ。これって本当に本当なんだろうか?
実は、夢でも見ているんじゃないだろうか。
思わずそんな考えが過ぎってしまった。
「驚いたかい?」
くすりとアインさんが笑う。
いちいち一つ一つの仕草が絵になるものだから、目の前にいるこちらとしてはどうしたらいいのかと戸惑ってしまう。
「そりゃあ……驚きました。いきなり腕が落ちるんですもん」
僕はおずおずと、躊躇いがちに言葉を選ぶ。色々驚いたことは多かったけど、腕が落ちたことだけは心の底から絶叫してしまった。
「腕以外は? 怖くなかったのかい?」
僕の言葉に、少し意外そうな顔でアインさんが訊ねる。
「まあ、最初はかなり驚きましたけど……」
そう言いながら俯くと視線をスープに落とした。
「店に転がり込んだ僕を助けてくださって、その上こんなに親切にして頂いてますから……感謝こそすれ怖がるなんて……」
あのまま放り出されていたら、雨に打たれ冷たくなってしまっていたかもしれない。命の恩人といっても過言ではないだろう。
恩人の事を怖がるようなことは、できない。
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