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第四話:ようこそ、おめでとう
4-4:誕生日パーティーの朝(2)
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ジャガイモのポタージュのお陰で元気が出た僕達は、張り切ってホールの飾りつけを始めた。
店の外には『本日貸し切り』の札を出してある。貸し切りのお客さんがやってくるのはお昼だから、時間はまだ十分にあるはずだ。
「えっと、今日はビュッフェ形式にするから、料理を出すテーブルは壁際にくっつけて配置して、最初にケーキを置く場所はここで……」
ヴィクターと一緒に今日の工程表を確認しながら、指差し確認する。
「ドリンクとケーキのとりわけは僕の担当、ごはんとパスタはヴィクターの担当」
「うん、あってる」
ヴィクターが僕を見て頷いた。
パンやケーキ類、それに料理の補充には、エミリオさんが臨時の手伝いで来てくれるらしい。
スペクターさん達は普通の人には見えないからホールの仕事は手伝えない。こればかりは仕方ない事だろう。
確認を一通り終えた後で、いよいよ飾りつけ作業の開始だ。
「ボクはあっちを飾りつけてくるから、きょっぴーは壁に輪飾りつけるのと、あとここを頼んでいいかな」
「分かりました、任せてください!」
ヴィクターの言葉に、僕はガッツポーズで応えると、部屋の隅に置いておいた段ボールを引っ張り出した。中には昨日徹夜で作った飾りの数々が入っている。
どこに何を飾るかの計画はばっちりだ。
僕は折り紙の輪飾りを手に取った。
大きなホールに飾り付けるために特別長く作った輪飾りだ。壁に飾り付けたらさぞ綺麗に違ない。
「よし、やるぞ……!」
腕まくりをすると輪飾りを肩に提げ、椅子を抱えて僕は動き始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
「まいど!パンのお届けや! 今日は一日お世話になるで!」
派手な音を立てて扉が開く。
最早扉を開ける音で誰だかわかる。
こんなガサツな開け方するの、エミリオさんしかいない。
「エミリオさん、おはよう」
「おっ、ヴィクターはよーさんや」
入口に近い場所にいたヴィクターがエミリオさんの持つ荷物をまじまじと見ている。カバーのかけられたその籠から、カスタードの甘い匂いがふわりと漂ってきた。
「おはようございます、すごく甘い香りがしますね!」
僕も一旦作業の手を止めると、エミリオさんの所へと向かう。
「せやろ! 今日は子供の誕生会やからな、甘いパンぎょーさん焼くつもりなんや!」
エミリオさんがカバーをとると、つやつやの升目みたいなパンが乗せられている。取り分けしやすそうだけど、初めて見る形のパンだ。
ちょっとちぎりパンにも見えるかも。
「これはトプフェンブフテルっちゅーオーストリアのパンやな。『ブフテル』って『本』って意味や。それっぽいやろ?」
僕が穴が開くほどまじまじと見つめていたからかもしれない。
尋ねる前にエミリオさんが教えてくれた。
「ああ、言われてみれば確かに本みたいですね!」
「せやせや! ちっこいパンを並べてぎゅって焼くんやで!」
自慢げにエミリオさんはトプフェンブフテルを見せびらかす。升目のように綺麗に繋がったパン一つ一つがふっくらして、どれを食べても美味しそうだ。
「いや、パンは確かに凄いけど一旦奥の部屋に保管するから貸してください」
ヴィクターはそんなエミリオさんの手からトプフェンブフテルの乗ったトレーを奪い取ると、奥へと消えていった。
「あぁ~、まだ説明が途中やったのに……」
残念そうにそれを目で追うエミリオさん。
けれどいつまでも雑談している場合でもないから仕方ない。
「今日はどんなパンを他に用意する予定なんですか?」
ひとまず奪われたパンの事は忘れて、僕はビュッフェに並べる他のパンについて訊ねた。
「おう、あとはなー。コロネ三種類とあんパンクリームパン。あとマフィンそれに……菓子パン以外はビュッフェのもの詰める『ピタ』やな!」
ピタって、ピタサンドとかのあれのことだ。パーティーで色々好きな具材を詰めて食べるるのはきっと楽しいかも。
「んじゃ、ちょっくら追加のパン持ってくるわ! また後でな!」
「あっ……」
話すだけ一方的に話して、エミリオさんはまたパン屋の方へと戻っていってしまった。まあ、どうせ戻ってくるんだけど。
「あれ、エミリオさんは?」
空になった籠を抱えて戻ってきたヴィクターがあたりを見回している。
「追加のパン持ってくるって、また戻って行っちゃいました」
「相変わらずせわしない人だなぁ」
呆れた声でヴィクターが言った。
本当に、そういう所がとても犬っぽいというかなんというか。
エミリオさんらしいなと思う。
それから僕たちは飾りつけを終えた後、テーブルの配置を調整し、更にもう一度全体の拭き掃除などを行った。
横に移動したテーブルに専用のテーブルクロスをかけて、料理を置くための準備を整える。
エミリオさんが届けてくれたパンを配置して、食器類を配置。
あとはお客さんが来たら料理を運ぶだけ。
「準備終わったね」
「はい。……なんだか一番大変なのは前日でしたね」
準備の大半を終えたヴィクターと、目を見合わせて僕たちは笑う。
暫くすると厨房からアインさんとジェドさんが顔をだした。
「こっちも準備が終わったよ。約束の時間まではまだかなり余裕があるから、少し皆で休憩しようか」
その言葉に僕たちは
「はいっ!」
と元気に返事をすると、休憩室の方へ皆で向かった。
店の外には『本日貸し切り』の札を出してある。貸し切りのお客さんがやってくるのはお昼だから、時間はまだ十分にあるはずだ。
「えっと、今日はビュッフェ形式にするから、料理を出すテーブルは壁際にくっつけて配置して、最初にケーキを置く場所はここで……」
ヴィクターと一緒に今日の工程表を確認しながら、指差し確認する。
「ドリンクとケーキのとりわけは僕の担当、ごはんとパスタはヴィクターの担当」
「うん、あってる」
ヴィクターが僕を見て頷いた。
パンやケーキ類、それに料理の補充には、エミリオさんが臨時の手伝いで来てくれるらしい。
スペクターさん達は普通の人には見えないからホールの仕事は手伝えない。こればかりは仕方ない事だろう。
確認を一通り終えた後で、いよいよ飾りつけ作業の開始だ。
「ボクはあっちを飾りつけてくるから、きょっぴーは壁に輪飾りつけるのと、あとここを頼んでいいかな」
「分かりました、任せてください!」
ヴィクターの言葉に、僕はガッツポーズで応えると、部屋の隅に置いておいた段ボールを引っ張り出した。中には昨日徹夜で作った飾りの数々が入っている。
どこに何を飾るかの計画はばっちりだ。
僕は折り紙の輪飾りを手に取った。
大きなホールに飾り付けるために特別長く作った輪飾りだ。壁に飾り付けたらさぞ綺麗に違ない。
「よし、やるぞ……!」
腕まくりをすると輪飾りを肩に提げ、椅子を抱えて僕は動き始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
「まいど!パンのお届けや! 今日は一日お世話になるで!」
派手な音を立てて扉が開く。
最早扉を開ける音で誰だかわかる。
こんなガサツな開け方するの、エミリオさんしかいない。
「エミリオさん、おはよう」
「おっ、ヴィクターはよーさんや」
入口に近い場所にいたヴィクターがエミリオさんの持つ荷物をまじまじと見ている。カバーのかけられたその籠から、カスタードの甘い匂いがふわりと漂ってきた。
「おはようございます、すごく甘い香りがしますね!」
僕も一旦作業の手を止めると、エミリオさんの所へと向かう。
「せやろ! 今日は子供の誕生会やからな、甘いパンぎょーさん焼くつもりなんや!」
エミリオさんがカバーをとると、つやつやの升目みたいなパンが乗せられている。取り分けしやすそうだけど、初めて見る形のパンだ。
ちょっとちぎりパンにも見えるかも。
「これはトプフェンブフテルっちゅーオーストリアのパンやな。『ブフテル』って『本』って意味や。それっぽいやろ?」
僕が穴が開くほどまじまじと見つめていたからかもしれない。
尋ねる前にエミリオさんが教えてくれた。
「ああ、言われてみれば確かに本みたいですね!」
「せやせや! ちっこいパンを並べてぎゅって焼くんやで!」
自慢げにエミリオさんはトプフェンブフテルを見せびらかす。升目のように綺麗に繋がったパン一つ一つがふっくらして、どれを食べても美味しそうだ。
「いや、パンは確かに凄いけど一旦奥の部屋に保管するから貸してください」
ヴィクターはそんなエミリオさんの手からトプフェンブフテルの乗ったトレーを奪い取ると、奥へと消えていった。
「あぁ~、まだ説明が途中やったのに……」
残念そうにそれを目で追うエミリオさん。
けれどいつまでも雑談している場合でもないから仕方ない。
「今日はどんなパンを他に用意する予定なんですか?」
ひとまず奪われたパンの事は忘れて、僕はビュッフェに並べる他のパンについて訊ねた。
「おう、あとはなー。コロネ三種類とあんパンクリームパン。あとマフィンそれに……菓子パン以外はビュッフェのもの詰める『ピタ』やな!」
ピタって、ピタサンドとかのあれのことだ。パーティーで色々好きな具材を詰めて食べるるのはきっと楽しいかも。
「んじゃ、ちょっくら追加のパン持ってくるわ! また後でな!」
「あっ……」
話すだけ一方的に話して、エミリオさんはまたパン屋の方へと戻っていってしまった。まあ、どうせ戻ってくるんだけど。
「あれ、エミリオさんは?」
空になった籠を抱えて戻ってきたヴィクターがあたりを見回している。
「追加のパン持ってくるって、また戻って行っちゃいました」
「相変わらずせわしない人だなぁ」
呆れた声でヴィクターが言った。
本当に、そういう所がとても犬っぽいというかなんというか。
エミリオさんらしいなと思う。
それから僕たちは飾りつけを終えた後、テーブルの配置を調整し、更にもう一度全体の拭き掃除などを行った。
横に移動したテーブルに専用のテーブルクロスをかけて、料理を置くための準備を整える。
エミリオさんが届けてくれたパンを配置して、食器類を配置。
あとはお客さんが来たら料理を運ぶだけ。
「準備終わったね」
「はい。……なんだか一番大変なのは前日でしたね」
準備の大半を終えたヴィクターと、目を見合わせて僕たちは笑う。
暫くすると厨房からアインさんとジェドさんが顔をだした。
「こっちも準備が終わったよ。約束の時間まではまだかなり余裕があるから、少し皆で休憩しようか」
その言葉に僕たちは
「はいっ!」
と元気に返事をすると、休憩室の方へ皆で向かった。
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