ビストロ・ノクターン ~記憶のない青年と不死者の洋食屋~

銀タ篇

文字の大きさ
35 / 69
第四話:ようこそ、おめでとう

4-4:誕生日パーティーの朝(2)

しおりを挟む
 ジャガイモのポタージュのお陰で元気が出た僕達は、張り切ってホールの飾りつけを始めた。
 店の外には『本日貸し切り』の札を出してある。貸し切りのお客さんがやってくるのはお昼だから、時間はまだ十分にあるはずだ。

「えっと、今日はビュッフェ形式にするから、料理を出すテーブルは壁際にくっつけて配置して、最初にケーキを置く場所はここで……」

 ヴィクターと一緒に今日の工程表を確認しながら、指差し確認する。

「ドリンクとケーキのとりわけは僕の担当、ごはんとパスタはヴィクターの担当」

「うん、あってる」

 ヴィクターが僕を見て頷いた。
 パンやケーキ類、それに料理の補充には、エミリオさんが臨時の手伝いで来てくれるらしい。
 スペクターさん達は普通の人には見えないからホールの仕事は手伝えない。こればかりは仕方ない事だろう。
 確認を一通り終えた後で、いよいよ飾りつけ作業の開始だ。

「ボクはあっちを飾りつけてくるから、きょっぴーは壁に輪飾りつけるのと、あとここを頼んでいいかな」

「分かりました、任せてください!」

 ヴィクターの言葉に、僕はガッツポーズで応えると、部屋の隅に置いておいた段ボールを引っ張り出した。中には昨日徹夜で作った飾りの数々が入っている。
 どこに何を飾るかの計画はばっちりだ。
 僕は折り紙の輪飾りを手に取った。
 大きなホールに飾り付けるために特別長く作った輪飾りだ。壁に飾り付けたらさぞ綺麗に違ない。

「よし、やるぞ……!」

 腕まくりをすると輪飾りを肩に提げ、椅子を抱えて僕は動き始めた。


  ◇  ◇  ◇  ◇


「まいど!パンのお届けや! 今日は一日お世話になるで!」

 派手な音を立てて扉が開く。
 最早扉を開ける音で誰だかわかる。
 こんなガサツな開け方するの、エミリオさんしかいない。

「エミリオさん、おはよう」

「おっ、ヴィクターはよーさんや」

 入口に近い場所にいたヴィクターがエミリオさんの持つ荷物をまじまじと見ている。カバーのかけられたその籠から、カスタードの甘い匂いがふわりと漂ってきた。

「おはようございます、すごく甘い香りがしますね!」

 僕も一旦作業の手を止めると、エミリオさんの所へと向かう。

「せやろ! 今日は子供の誕生会やからな、甘いパンぎょーさん焼くつもりなんや!」

 エミリオさんがカバーをとると、つやつやの升目みたいなパンが乗せられている。取り分けしやすそうだけど、初めて見る形のパンだ。
 ちょっとちぎりパンにも見えるかも。

「これはトプフェンブフテルっちゅーオーストリアのパンやな。『ブフテル』って『本』って意味や。それっぽいやろ?」

 僕が穴が開くほどまじまじと見つめていたからかもしれない。
 尋ねる前にエミリオさんが教えてくれた。

「ああ、言われてみれば確かに本みたいですね!」

「せやせや! ちっこいパンを並べてぎゅって焼くんやで!」

 自慢げにエミリオさんはトプフェンブフテルを見せびらかす。升目のように綺麗に繋がったパン一つ一つがふっくらして、どれを食べても美味しそうだ。

「いや、パンは確かに凄いけど一旦奥の部屋に保管するから貸してください」

 ヴィクターはそんなエミリオさんの手からトプフェンブフテルの乗ったトレーを奪い取ると、奥へと消えていった。

「あぁ~、まだ説明が途中やったのに……」

 残念そうにそれを目で追うエミリオさん。
 けれどいつまでも雑談している場合でもないから仕方ない。

「今日はどんなパンを他に用意する予定なんですか?」

 ひとまず奪われたパンの事は忘れて、僕はビュッフェに並べる他のパンについて訊ねた。

「おう、あとはなー。コロネ三種類とあんパンクリームパン。あとマフィンそれに……菓子パン以外はビュッフェのもの詰める『ピタ』やな!」

 ピタって、ピタサンドとかのあれのことだ。パーティーで色々好きな具材を詰めて食べるるのはきっと楽しいかも。

「んじゃ、ちょっくら追加のパン持ってくるわ! また後でな!」

「あっ……」

 話すだけ一方的に話して、エミリオさんはまたパン屋の方へと戻っていってしまった。まあ、どうせ戻ってくるんだけど。

「あれ、エミリオさんは?」

 空になった籠を抱えて戻ってきたヴィクターがあたりを見回している。

「追加のパン持ってくるって、また戻って行っちゃいました」

「相変わらずせわしない人だなぁ」

 呆れた声でヴィクターが言った。
 本当に、そういう所がとても犬っぽいというかなんというか。
 エミリオさんらしいなと思う。

 それから僕たちは飾りつけを終えた後、テーブルの配置を調整し、更にもう一度全体の拭き掃除などを行った。
 横に移動したテーブルに専用のテーブルクロスをかけて、料理を置くための準備を整える。
 エミリオさんが届けてくれたパンを配置して、食器類を配置。
 あとはお客さんが来たら料理を運ぶだけ。

「準備終わったね」

「はい。……なんだか一番大変なのは前日でしたね」

 準備の大半を終えたヴィクターと、目を見合わせて僕たちは笑う。
 暫くすると厨房からアインさんとジェドさんが顔をだした。

「こっちも準備が終わったよ。約束の時間まではまだかなり余裕があるから、少し皆で休憩しようか」

 その言葉に僕たちは

「はいっ!」

 と元気に返事をすると、休憩室の方へ皆で向かった。

しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい

葉方萌生
ライト文芸
淡路島で暮らす28歳の城島朝香は、友人からの情報で元恋人で俳優の天ヶ瀬翔が島に戻ってきたことを知る。 絶妙にすれ違いながら、再び近づいていく二人だったが、翔はとある秘密を抱えていた。 過去の後悔を拭いたい。 誰しもが抱える悩みにそっと寄り添える恋愛ファンタジーです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...