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第五話:嵐がやってきた
5-10:襲撃
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そんな朗らかなムードをぶち壊すように、バァンと扉が激しい音を立てて開いた。
僕達は驚いて一斉に入り口を見る。
「おのれ、ヴァンパイアめ。息子だけでなく孫までたぶらかそうとは……」
「お爺様!」
それは祖父だった。
手には拳銃のようなものが握られていて、それは僕達に向けられている。
ジェドさん、アインさんとエミリオさんが僕を庇うように立った。
ヴィクターは僕にしがみ付いている。
「神宮寺さん、どうか物騒なものは仕舞って下さいませんか」
アインさんは静かな声で祖父に向かって言った。その言葉からは多少の警戒が感じられる。
「ふん、誰が聞く耳を持つものか」
「あれ、銀の弾丸込めてるで……匂いがする」
「えっ……!」
「ヤバイな。ワイもアインも、銀の弾はあんま得意やない」
僕達だけに聞こえるくらいの大きさでエミリオさんが言った。
エミリオさんにしては珍しく、焦りが混じっているように感じる。
そういえば、祖父が仕事をしているのを見たのは随分昔だったけれど、確かに戦いの時、銃による一撃でヴァンパイアを仕留めたこともあった。
あの日、祖父が準備していた道具の中に銀の弾丸を見たような記憶がある。
どうしよう。
祖父が二人を撃ってしまったら。
そう思うと急激に体中の血が凍り付くような気がした。
「聖弘君は自分の意志でここに残りたいと言っています。どうか……」
「言うな!」
アインさんの足元に一発、銀の弾丸がめり込んだ。
「お爺様、やめてください!」
「五月蠅いぞ聖弘。お前はこいつらに騙されているだけだ。……この男の妹はその昔お前の父親をたぶらかして、結果的にお前から父を奪ったんだ!」
「違う! だって、可笑しいじゃないですか! もしもアインさんの妹さんと僕の父さんが一緒になっていなかったら……僕はこの世に居なかったんですよ!」
僕は堪らず、祖父に向かって叫ぶ。
意外にも僕の言葉に、一瞬祖父が驚いた顔をした。
「お前……」
その驚きは一体どの感情から来たものだったんだろうか。
「お爺様、ごめんなさい……。でもアインさんは、それにこのお店は、皆は。僕にとって生まれて初めての心から大切にしたいと思った、かけがえのないものです。僕は、大好きなこの場所を、大切な皆を傷つけたくないんです」
祖父が構える拳銃の銃口が、微かに震えているのが分かる。
「だからお願いです。もうやめてください」
思えば祖父と心を通わせたことなんてあっただろうか。
そうだ。
小さい頃、……物心ついて少しくらいの時に一緒にピクニックに行った。
一緒に作ったサンドイッチを、二人で笑いながら芝生の上で食べたっけ。
あの頃はまだ、祖父を怖いとは思った事はなかったかもしれない。
何時から歯車が狂ってしまったんだろう。
今になって急にそんな事を思いだしてしまった。
「神宮寺さん、どうか聖弘君の気持ち、理解してあげてください」
「ええい、五月蠅い! お前たちは皆、私から大事なものを奪って行く。それが私には我慢ならん!」
アインさんの言葉に祖父が激高した。
銃を握る手に力が込められる。
「覚悟しろ、ヴァンパイアめ!」
いけない、ダメだ。
僕は、行かせまいとするヴィクターの腕を振りほどくと、力を振り絞って飛び出した。
痛いより先に熱いって感じるんだ――。
僕の体を貫通した銃弾が棚のガラスを割ってしまった。
――ああ。棚の中の大事なお皿、割れてしまっただろうか。
後から感じる痛みに、立っていることが出来ない。
崩れ落ちながら、そんな事を考えてしまった。
そんな場合じゃないのに。
思わず可笑しくて僕は少し笑った。
「き……聖弘ッ!?」
「きょっぴー!?」
「聖弘君!」
アインさんが僕を抱き起こして呼びかけている。
傍に居る筈なのにうんと遠くにいるみたいだ。
「命を懸けてまで……、そのヴァンパイアを殺すことを邪魔しようというのか」
祖父の声が、遠くで聞こえる。
「お爺様……」
眠ってしまいそうな自分の意識を呼び止め、気力を振り絞って目を開く。
伝えなきゃ。
こんな事止めて下さいって。
「お願いです……。僕から大好きな人達を奪わないでください。居場所を奪わないでください……」
僕は必死で手を伸ばす。
大切な人達、大切な場所が傷ついてしまうのは。
自分が傷つくことよりも辛くて、恐ろしい。
「何にもできない、ダメな僕が、ようやく見つけた大切な宝物なんです……」
そこまで言って、僕の意識は急速に遠のいてゆく。
「…………そうか。私の言う事にただ怯えるだったお前が、……自分の意思でこの男を、この場所を守るというのだな」
最後に、祖父の言葉が聞こえたような気がした。
「聖弘。お前はようやく自分の居場所を見つけたというのだな……」
僕達は驚いて一斉に入り口を見る。
「おのれ、ヴァンパイアめ。息子だけでなく孫までたぶらかそうとは……」
「お爺様!」
それは祖父だった。
手には拳銃のようなものが握られていて、それは僕達に向けられている。
ジェドさん、アインさんとエミリオさんが僕を庇うように立った。
ヴィクターは僕にしがみ付いている。
「神宮寺さん、どうか物騒なものは仕舞って下さいませんか」
アインさんは静かな声で祖父に向かって言った。その言葉からは多少の警戒が感じられる。
「ふん、誰が聞く耳を持つものか」
「あれ、銀の弾丸込めてるで……匂いがする」
「えっ……!」
「ヤバイな。ワイもアインも、銀の弾はあんま得意やない」
僕達だけに聞こえるくらいの大きさでエミリオさんが言った。
エミリオさんにしては珍しく、焦りが混じっているように感じる。
そういえば、祖父が仕事をしているのを見たのは随分昔だったけれど、確かに戦いの時、銃による一撃でヴァンパイアを仕留めたこともあった。
あの日、祖父が準備していた道具の中に銀の弾丸を見たような記憶がある。
どうしよう。
祖父が二人を撃ってしまったら。
そう思うと急激に体中の血が凍り付くような気がした。
「聖弘君は自分の意志でここに残りたいと言っています。どうか……」
「言うな!」
アインさんの足元に一発、銀の弾丸がめり込んだ。
「お爺様、やめてください!」
「五月蠅いぞ聖弘。お前はこいつらに騙されているだけだ。……この男の妹はその昔お前の父親をたぶらかして、結果的にお前から父を奪ったんだ!」
「違う! だって、可笑しいじゃないですか! もしもアインさんの妹さんと僕の父さんが一緒になっていなかったら……僕はこの世に居なかったんですよ!」
僕は堪らず、祖父に向かって叫ぶ。
意外にも僕の言葉に、一瞬祖父が驚いた顔をした。
「お前……」
その驚きは一体どの感情から来たものだったんだろうか。
「お爺様、ごめんなさい……。でもアインさんは、それにこのお店は、皆は。僕にとって生まれて初めての心から大切にしたいと思った、かけがえのないものです。僕は、大好きなこの場所を、大切な皆を傷つけたくないんです」
祖父が構える拳銃の銃口が、微かに震えているのが分かる。
「だからお願いです。もうやめてください」
思えば祖父と心を通わせたことなんてあっただろうか。
そうだ。
小さい頃、……物心ついて少しくらいの時に一緒にピクニックに行った。
一緒に作ったサンドイッチを、二人で笑いながら芝生の上で食べたっけ。
あの頃はまだ、祖父を怖いとは思った事はなかったかもしれない。
何時から歯車が狂ってしまったんだろう。
今になって急にそんな事を思いだしてしまった。
「神宮寺さん、どうか聖弘君の気持ち、理解してあげてください」
「ええい、五月蠅い! お前たちは皆、私から大事なものを奪って行く。それが私には我慢ならん!」
アインさんの言葉に祖父が激高した。
銃を握る手に力が込められる。
「覚悟しろ、ヴァンパイアめ!」
いけない、ダメだ。
僕は、行かせまいとするヴィクターの腕を振りほどくと、力を振り絞って飛び出した。
痛いより先に熱いって感じるんだ――。
僕の体を貫通した銃弾が棚のガラスを割ってしまった。
――ああ。棚の中の大事なお皿、割れてしまっただろうか。
後から感じる痛みに、立っていることが出来ない。
崩れ落ちながら、そんな事を考えてしまった。
そんな場合じゃないのに。
思わず可笑しくて僕は少し笑った。
「き……聖弘ッ!?」
「きょっぴー!?」
「聖弘君!」
アインさんが僕を抱き起こして呼びかけている。
傍に居る筈なのにうんと遠くにいるみたいだ。
「命を懸けてまで……、そのヴァンパイアを殺すことを邪魔しようというのか」
祖父の声が、遠くで聞こえる。
「お爺様……」
眠ってしまいそうな自分の意識を呼び止め、気力を振り絞って目を開く。
伝えなきゃ。
こんな事止めて下さいって。
「お願いです……。僕から大好きな人達を奪わないでください。居場所を奪わないでください……」
僕は必死で手を伸ばす。
大切な人達、大切な場所が傷ついてしまうのは。
自分が傷つくことよりも辛くて、恐ろしい。
「何にもできない、ダメな僕が、ようやく見つけた大切な宝物なんです……」
そこまで言って、僕の意識は急速に遠のいてゆく。
「…………そうか。私の言う事にただ怯えるだったお前が、……自分の意思でこの男を、この場所を守るというのだな」
最後に、祖父の言葉が聞こえたような気がした。
「聖弘。お前はようやく自分の居場所を見つけたというのだな……」
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