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第2話 はじめてのバグ
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俺が考え事をしている間に、オークの群れは全てユフィーアに斬り捨てられていた。
ユフィーアがボーっとしている俺に手を差し伸べて言う。
「少年、怪我はありませんか?」
俺は我に返って答える。
「あっはい、おかげさまで」
「魔物の駆除は我々王国騎士団が行います。冒険者だか何だか知りませんが、民間人の出る幕ではありません」
勇者ユフィーアは冒険者嫌いな事で有名だ。
民を守るのが騎士の役目というポリシーを掲げており、民間の組織である冒険者ギルドの事も守るべき対象、徒党を組んだ弱者としか見ていない。
その性格はゲームと同じだ。
冒険者が主役のファンタシー・オブ・ザ・ウィンドの世界では、最も仲間にするのが難しいキャラと評価されている。
俺も彼女を仲間にするのには苦労をしたものだ。
それはともかく、俺はユフィーアのおかげで命拾いをした。
俺は彼女の差し出した手を取りお礼を言おうとした時、我が目を疑った。
ユフィーアの背後で、頭部を失ったオークチーフが立ちあがり棍棒を振り上げているのが見えたからだ。
「危ない!」
俺は咄嗟にユフィーアを突き飛ばす。
オークチーフの棍棒は俺の肩を掠めた。
「くっ!」
幸い直撃は避けられたのでダメージはなかったが、その衝撃で俺の鎧の肩当ては弾け飛んだ。
「馬鹿な、首を斬り落とされても生きているオークなど聞いた事がありません。まさか、アンデッドですか!? ならば……ッ」
ユフィーアは一瞬たじろいだがすぐに頭を切り替えてアンデッドを浄化する呪文を詠唱する。
しかし、頭部のないオークチーフには全く効果が見られない。
「浄化されないですって!? じゃあこいつは一体……」
違う。あのオークはアンデッドじゃない。
まだ生きている。
首を刎ねられて死んだ事をこの世界が認識していないんだ。
とどのつまり……バグだ。
これは原作でも発生した現象だ。
一瞬の内に多数のモンスターを撃破した時にごく偶にそれは発生する。
剣による斬撃では一度に一匹のモンスターしか倒せない。
しかし、素早さの値が高いキャラクターは、1ターンで連続攻撃をして多数のモンスターを同時に屠る事ができる。
その数が64を超えた時、最初に倒したモンスターは死亡したというフラグが立たず、HP0のままで行動を続けるというバグだ。
「あのゲーム、バグが多すぎるんだよな……そもそもこんなところにオークチーフが出てくるのもおかしいし」
俺は大きくため息をついて呟いた。
ユフィーアは頭部のないオークチーフに更に斬撃を加えるが、一向に効いている気配はない。
当然だ、あのオーガチーフは既にHP0だ。これ以上何をしてもHPは減らないし死ぬ事はない。
「くっ、私はオークなんかに負けたりはしない!」
ユフィーアはそれでも攻め手を休めないが、さすがに疲れが見えてきた。
このままではやがて限界が来る。
彼女を見殺しにはできない。
奴を倒す方法は……これだ!
「ヒール!」
俺がなけなしの魔力を振りしぼって回復の呪文を唱えると、地に落ちていたオークチーフの首が不自然に浮かび上がり、元通り胴体にくっついた。
「あ、あなた一体何をやっているの!?」
状況が理解できずに困惑するユフィーアを横目に、おれはオークチーフに斬りかかる。
俺が回復魔法をかけた事でオークチーフのHPは0から1に回復しているはずだ。
ならばダメージが通る。
1ポイントでもダメージを与えられれば充分だ。
「GUAAAAAAAAAHH」
俺の一撃をその身に受けたオークチーフは膝をつき、そのまま前のめりに倒れた。
「やった……か?」
ユフィーアがフラグの様なセリフを吐いてオークチーフに近寄る。
しかしそのフラグは完全に折れている。
再度HPが1から0になった事で、今度こそ正常にオークチーフの死亡判定が行われた。
ユフィーアは地面に横たわるオークチーフの身体を調べ、完全に死んでいる事を確認する。
「死んでる……。あなた、今何をやったのですか?」
戸惑うユフィーアが俺に問いかけるが、この世界の人間にバグというものが理解できるとは思えない。
俺は少し考え、あれはアンデッドとは異なり、屍が何者かに操られている状態、いわば魔族が使う呪術のようなものであると説明した。
「呪術の元を断ちましたので、もう二度と起き上がる事はないでしょう」
「そういうものがあるのですか。私もまだまだ勉強不足でした」
ユフィーアは感心した目で俺を見つめる。
とりあえず信じてくれたようだ。
それにしても疲れた。
頭がフラフラする。
俺はここで緊張の糸が途切れたのか、地面に倒れ込む。
「大丈夫ですか。少し村で休んでいきましょう」
ユフィーアは両手で俺を軽々と持ち上げ、お姫様抱っこをして村へ運ぶ。
(普通逆だよなあ……ま、いっか。それよりも……)
俺はユフィーアに身を預けたまま既に別の事を考えていた。
まだ頭の中が混乱している。
この世界でのマールとしての記憶と、前世の記憶がごっちゃになっているからだ。
俺は村に戻ると、村人に手配してもらった柔らかいベッドの上に横たわり、時系列を整理する事にした。
ユフィーアがボーっとしている俺に手を差し伸べて言う。
「少年、怪我はありませんか?」
俺は我に返って答える。
「あっはい、おかげさまで」
「魔物の駆除は我々王国騎士団が行います。冒険者だか何だか知りませんが、民間人の出る幕ではありません」
勇者ユフィーアは冒険者嫌いな事で有名だ。
民を守るのが騎士の役目というポリシーを掲げており、民間の組織である冒険者ギルドの事も守るべき対象、徒党を組んだ弱者としか見ていない。
その性格はゲームと同じだ。
冒険者が主役のファンタシー・オブ・ザ・ウィンドの世界では、最も仲間にするのが難しいキャラと評価されている。
俺も彼女を仲間にするのには苦労をしたものだ。
それはともかく、俺はユフィーアのおかげで命拾いをした。
俺は彼女の差し出した手を取りお礼を言おうとした時、我が目を疑った。
ユフィーアの背後で、頭部を失ったオークチーフが立ちあがり棍棒を振り上げているのが見えたからだ。
「危ない!」
俺は咄嗟にユフィーアを突き飛ばす。
オークチーフの棍棒は俺の肩を掠めた。
「くっ!」
幸い直撃は避けられたのでダメージはなかったが、その衝撃で俺の鎧の肩当ては弾け飛んだ。
「馬鹿な、首を斬り落とされても生きているオークなど聞いた事がありません。まさか、アンデッドですか!? ならば……ッ」
ユフィーアは一瞬たじろいだがすぐに頭を切り替えてアンデッドを浄化する呪文を詠唱する。
しかし、頭部のないオークチーフには全く効果が見られない。
「浄化されないですって!? じゃあこいつは一体……」
違う。あのオークはアンデッドじゃない。
まだ生きている。
首を刎ねられて死んだ事をこの世界が認識していないんだ。
とどのつまり……バグだ。
これは原作でも発生した現象だ。
一瞬の内に多数のモンスターを撃破した時にごく偶にそれは発生する。
剣による斬撃では一度に一匹のモンスターしか倒せない。
しかし、素早さの値が高いキャラクターは、1ターンで連続攻撃をして多数のモンスターを同時に屠る事ができる。
その数が64を超えた時、最初に倒したモンスターは死亡したというフラグが立たず、HP0のままで行動を続けるというバグだ。
「あのゲーム、バグが多すぎるんだよな……そもそもこんなところにオークチーフが出てくるのもおかしいし」
俺は大きくため息をついて呟いた。
ユフィーアは頭部のないオークチーフに更に斬撃を加えるが、一向に効いている気配はない。
当然だ、あのオーガチーフは既にHP0だ。これ以上何をしてもHPは減らないし死ぬ事はない。
「くっ、私はオークなんかに負けたりはしない!」
ユフィーアはそれでも攻め手を休めないが、さすがに疲れが見えてきた。
このままではやがて限界が来る。
彼女を見殺しにはできない。
奴を倒す方法は……これだ!
「ヒール!」
俺がなけなしの魔力を振りしぼって回復の呪文を唱えると、地に落ちていたオークチーフの首が不自然に浮かび上がり、元通り胴体にくっついた。
「あ、あなた一体何をやっているの!?」
状況が理解できずに困惑するユフィーアを横目に、おれはオークチーフに斬りかかる。
俺が回復魔法をかけた事でオークチーフのHPは0から1に回復しているはずだ。
ならばダメージが通る。
1ポイントでもダメージを与えられれば充分だ。
「GUAAAAAAAAAHH」
俺の一撃をその身に受けたオークチーフは膝をつき、そのまま前のめりに倒れた。
「やった……か?」
ユフィーアがフラグの様なセリフを吐いてオークチーフに近寄る。
しかしそのフラグは完全に折れている。
再度HPが1から0になった事で、今度こそ正常にオークチーフの死亡判定が行われた。
ユフィーアは地面に横たわるオークチーフの身体を調べ、完全に死んでいる事を確認する。
「死んでる……。あなた、今何をやったのですか?」
戸惑うユフィーアが俺に問いかけるが、この世界の人間にバグというものが理解できるとは思えない。
俺は少し考え、あれはアンデッドとは異なり、屍が何者かに操られている状態、いわば魔族が使う呪術のようなものであると説明した。
「呪術の元を断ちましたので、もう二度と起き上がる事はないでしょう」
「そういうものがあるのですか。私もまだまだ勉強不足でした」
ユフィーアは感心した目で俺を見つめる。
とりあえず信じてくれたようだ。
それにしても疲れた。
頭がフラフラする。
俺はここで緊張の糸が途切れたのか、地面に倒れ込む。
「大丈夫ですか。少し村で休んでいきましょう」
ユフィーアは両手で俺を軽々と持ち上げ、お姫様抱っこをして村へ運ぶ。
(普通逆だよなあ……ま、いっか。それよりも……)
俺はユフィーアに身を預けたまま既に別の事を考えていた。
まだ頭の中が混乱している。
この世界でのマールとしての記憶と、前世の記憶がごっちゃになっているからだ。
俺は村に戻ると、村人に手配してもらった柔らかいベッドの上に横たわり、時系列を整理する事にした。
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